芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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サイアーライン

4月13日

 

皐月賞まであと1週間。

学園での練習にも力が入り、沖野トレーナーはストップウォッチを止める。

 

「た、タイムは」

「2:03.1だ。」

「…中々この3秒は大きいですね…」

「まああのホープフルでの2分台は状況が特殊だからな、そこまで意識することはないが…

ただ先日の弥生賞は2分2秒代だったからな。あと1秒は縮めたい。」

「わかりました…もう1本いきます!」

「いやその前に休憩だ。アイシングもしっかりな。」

 

トレーナーから冷却剤を渡される。

 

「焦らずとも力は付いてきている。あと少しだ。」

 

そう落ち着いた笑みを見せ、資料を取りに部室へ向かって行った。

 

(ううむ…)

腑に落ちない顔をしながらコース脇のベンチに座る。

 

「あっ!アスランお疲れー!はいドリンク!」

「ありがとうございますテイオーさん。」

 

スマホでさっきの走りを録画していたテイオーがドリンク片手に声をかける。

スポドリを飲みながら一緒に映像を見て振り返る。

 

「うーん、やっぱりコーナーでの足の抜き方がまだぎこちないかな。

スピードが出ている分スムーズに足を運ばないと…

あ、ほら、遠心力で少し外に出てる」

「確かに…」

 

さすがは皐月賞馬でもあるテイオーだ。

パッと見ただけで問題点を洗い出して明確にしてくれる。

 

「アスラン、この動画どうする?もう一回見る?」

「あー、練習後に振り返りたいので自分のスマホに送って下さい。」

 

そう言ってベンチ横のバックからスマホを取り出すと

 

「…うん?メッセージが来てる」

 

メッセージが届いていたのでロックを解除してアプリを開く。

 

「…そっか、今日だったか…」

「ん?どうしたの?」

「ああ、親からバースデーメッセージが届いていたんです。

…うれしいことです。」

「え!?アスラン…今日誕生日なの!?」

「ええ、まあ自分もすっかり忘れてましたが…」

「なんで言ってくれないのさー!そうだと知ってたらプレゼント用意したのに!」

「いやまあ…今の今まで忘れてましたし…」

「ワケワカンナイヨー!」

 

いやだって…ねえ?

前世はともかく今世は転生だもの。

しかも去年は絶賛スピカに拉致られ中でそれどころじゃなかったし。

 

すると後ろから「その話…本当か…?」と声がしたので振り向く。

 

「アスラン…今日が誕生日なのか…?どうして言ってくれなかったんだ…

私はそんなに信用がないのか…」

「い、いやルドルフさん、単に忘れていただけでその、

い、今にも泣きそうな顔しないでくださいよ、悪かったですから!」

 

2人揃って耳を前に垂らして悲しい顔されたらこっちが悪者みたいじゃないか!?

 

「ねえカイチョー、何かアスランにプレゼントしたいんだけど…何か良いアイディアないー?」

「ううむ急だからな、どうしたものか…」

 

そして2人揃ってうんうん考え始める。

ふとルドルフがあることをひらめく。

 

「テイオー。良い案を思いついたぞ。

我々2人にしか出来ないプレゼントがな。」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

…30分後

 

「待たせたねアスラン。」

「よーし、アスランにもカイチョーにも負けないもんニ!」

 

練習コースの上には体操服に着替えたルドルフとテイオーの姿があった…

 

「君は来週皐月賞に出走する身…そして私とテイオーは皐月賞バだ。

とすれば、先輩として皐月の走りを君に走りながら見せるのがこの上ない贈り物だと考えてな。」

「大丈夫だよアスラン。ボクもカイチョーも当時のタイムで走るようにするからさ!」

 

つまるところプレゼントとは、

『皇帝と帝王による模擬レース』というわけだ。

どうしてこうなった。

 

「では早速行おう。

シリウス。スターターを頼む。」

「…来るんじゃなかった…」

 

ちなみにスターター兼タイム計測はルドルフ同様俺の様子を見に来たシリウスが巻き込まれた。

心底面倒な顔をしながら旗を持つ。

 

「用意…はじめ!」

 

合図と共にサクラアスラン・トウカイテイオー・シンボリルドルフが駆け出す。

同時にシリウスはストップウォッチをスタートさせる。

 

 

「ふぅん…」

3人の走りを見ながら声が漏れる。

 

(ルドルフのやつあえてアスランの前に行ったな。

自分の走りをアスランの目に焼き付けさせるのが狙いか…

…まったく、皇帝サマらしい。)

 

2コーナーを過ぎて向こう正面に入り、テイオー・ルドルフ・アスランの順でレースは進む。

 

(…確かに速いが追いつけないってわけではない…

ラップも12秒ぐらいか…?)

 

走りながらそんなことを思う。

自分の前を行く2人の優駿を見る。

 

(体重移動の仕方、姿勢、足の運び。

その全てが参考になる。

ルドルフに至っては教科書の様な走りだ。

滅多にない機会、十二分に学ばせてもらう…!)

 

そして4コーナーに入り直線に向かう。

ルドルフの走りをできる限りトレースしながらカーブを曲がる。

 

(…!この感じか…!

さっきよりも楽に曲がれている!

 

あとは…

お2人に感謝をこめて、

胸を借りるのみ!)

 

直線に入り、タイミングを合わせてギアを変える。

先頭のテイオーとは3馬身ほど、

追いついてみせ

 

(…フッ)

 

一瞬、ルドルフがこちらを見て少し笑った。

その途端、ルドルフからオーラのような何かが見えた気がした。

 

(…!カイチョーの空気が変わった!凄い勢いで追いついてくる!

 

…負けない。

模擬レースでも、

カイチョーには負けない!)

 

ルドルフの気配を感じ取ったテイオーもギアを上げる。

 

「負けるもんかぁぁぁぁ!!!」

「見事だテイオー!

だが、私も負けん!!!」

 

そして、わずかにルドルフが差しきり、ゴール板(代わりのシリウスの)前を駆け抜けた。

 

 

「良い走りだったぞテイオー。

君の成長を肌で感じる事が出来嬉しい限りだ。」

「やっぱカイチョーは速いなぁ…

よーし、もう一回勝負だ!」

「相碁井目。いいだろう、受けて立つ!」

 

「そこまでだ。いい加減にしろバカ共」

 

アツく盛り上がっていた2人にシリウスがデコピンをかます。

 

「なにが『当時のタイムで走る』だ。残り1ハロンなんて本気(ガチ)だったじゃねぇか。

そんなもんにつきあわされるアスランの身にもなれ。」

 

シリウスが親指でクイッと指さす。

指した先には両手両足を地面に着いて息も絶え絶えなアスランの姿が…

 

「!す、すまないアスラン!

少し熱くなりすぎた!」

「アスラン大丈夫!?怪我してない!?」

「だ、大丈夫、です」

 

深呼吸して呼吸を整える。

「さ、さすがにお2人に付いていくのは大変でした…」

「…あれに付いていけるだけでも大したもんだ。」

 

そう言いながらシリウスがストップウォッチを見せる。

 

「お望みの結果かな?」

 

タイムを凝視する。

 

「…はい!

先輩方ありがとうございました!勉強になりました!」

 

頭を下げ感謝を伝える。

 

「誕生日で思い出しましたが…テイオーさんは来週が誕生日ですよね。」

「う、うん」

「テイオーさんへのプレゼントは…

今日の模擬レースの成果、でどうでしょう。」

少しにやりと笑う。

 

「へえ、中々粋なプレゼントだな。」

「大胆不敵。さすがはアスランだ。」

シンボリコンビが腕組みをして満足そうな顔をする。

 

「…分かった!今年の誕生日は過去最高の誕生日になりそうだよ!

皐月賞一緒に頑張ろうね!」

「はいっ!!」

 

師弟は満面の笑みを交わす。

 

さあ、クラシックの開幕だ!!!




的中はしたが…

大事なければいいが。
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