話は4月初旬にさかのぼる。
感冒から回復し、保科トレーナーの計らいで盛岡トレセン学園へと帰還したレスキューホープは
「「「おかえりホープ!!!」」」
1階の教室でクラスメイトから歓迎を受けていた。
「共同通信杯見たよ!もう凄くってさー!」
「弥生は残念だったけどまたチャンスあるって」
「中央どうだった?走りやすいってホント!?」
「あはは…みんなありがとう。」
ホープは頭を掻きながら礼を言う。
「流石は『岩手のオグリキャップ』だね!」
「最近じゃ『メイセイオペラの再来』だなんて言われてるし」
「いやいや、『ユキノビジン2世』だべ?」
「ちょっと休んだらまた中央行くの?」
「それは…その…」
どことなく複雑な顔をしながら苦笑いをする。
「おう、大盛況だべな。」
そこへ窓の外から声をかける鹿毛のウマ娘が現れる。
「ぐ、グレートホープ会長!」
「おらは嬉しいぞレスの字、直属の後輩が中央で大活躍!
スイフトのやつも「敵を取ってくれた!」って泣いて喜んでたべさ。」
グレートホープは感慨深そうな顔で後輩の偉業を労う。
「中央での経験は必ず糧になる。大事にするんだよ。」
「は、はい!」
「会長、そろそろ」
「おっと」
リヤカーを引いた生徒会の面々に呼び止められたグレートホープは窓から離れ、自分もリヤカーを引く。
「実はおめの凱旋パーティーの準備の途中だったのだ。では!」
そう言って会長達リヤカー軍団は軽快な音を立てながら買い出しに行った。
「そうそうホープちゃん今日寮でパーティーやるから!」
「寮長のスイフトセイダイ先輩が気合い入れて準備してるよ」
「おーい2年ー、そのスイフト先輩がパーティーの飾り付け手伝ってほしいってー」
「あっ!今行きまーす」
「じゃあホープまたあとで!」
「パーティーだパーティーだ!」
クラスメイト達はドドドと教室から出て行った。
「…」
「…」
しかし、教室にはまだ一部のクラスメイトが残っている。
彼女たちはホープを迎える輪には入らず、遠巻きに見ていた子達だ。
そしてその全員が、苦虫を噛み潰したような顔や、敵意むき出しの表情をしている。
全てのクラスメイトが、漏れなくレスキューホープを好ましく思っていた訳ではない。
「…」
残っていたクラスメイトも教室から出て行く。
「…そのまま中央に行っちまえば良かったのに」
ポツリとそんな言葉が漏れた。
「…っ!」
その言葉はホープの耳と心にダイレクトに突き刺さった。
…
レスキューホープはそのまま教室で一人黄昏れていた。
昼間の賑やかな空気は失せ、夕日が山並に隠れた薄暮の空にはうっすらと星が見える。
「…主役さんはこちらかな?」
「…ヴィノロッソ先輩…」
教室にもう一人の鹿毛のウマ娘が入ってくる。
「パーティーの準備は出来ているよ、みんな今か今かと待ちわびて」
「…」
「…ホープ?」
レスキューホープの様子に陰りを感じ取ったヴィノロッソは相対するように机の上に腰掛ける。
「何かあった?」
「…」
何かを話したい表情を見せるが、押し黙ってしまう。
ヴィノロッソが口を開く。
「…3人」
「…え?」
「君が岩手に帰ってくると聞いて、盛岡トレセンを辞めた君の同期の人数だ。」
「どう、して」
「『中央レベルの実力者が
これが何をもたらすか、分からない鈍感ちゃんじゃないでしょ?」
実力に応じて区分され、勝てば昇級、負けが続けば降格という現実がある。
そこに明らかにレベルの違う者が最上位に居座り続けるとなったら、なにが起るか。
「君は岩手の同期からすれば諸刃の剣なの。
誇りや栄誉の象徴であり、恨みや嫉妬の対象となる。
良くも悪くも、あなたは強すぎるの。」
諭すように、優しくも直球で今の岩手やホープの現状を語る。
「…僕は岩手にいてはいけないのでしょうか…」
「いちゃいけないとは言わない。
けれども、このまま岩手のレースに出続けるようなら、風当たりはさらに強くなる。」
ヴィノロッソはホープの目を見る。
ホープはうつむき、下を見る。
「…それとも…中央で何かひどい目にあったの?
まさかいじめ…」
「い、いえ!そんなことはありません!
むしろ中央の生徒さんや職員さんには良くしてもらって。
…でも…」
「でも?」
「…なんだか、慣れなかったんです。馴染まなきゃって思うと、ずっと気を張って、お話して。
…でも、気を張りすぎて空回りしてしまって。トレーナーも忙しそうだったから相談出来なくて。
体調を崩しても、心配掛けさせまいと思って、それで…」
「…弥生賞で13着の惨敗ってわけか…」
ぽつりぽつりと話すホープにヴィノロッソは相槌を打ち、得心のいったような顔を見せる。
「…あたしもそうだったなぁ…」
「え?」
「転校ってさ、元からあるコミュニティに入って行かなきゃならないから、友達や信用をつくるのって大変なんだよね。
しかもいくら馴染んでも生え抜きの子とはどことなく隔たりや壁を感じるし…」
「先輩も…?」
くたびれた顔でやれやれといった顔をするヴィノロッソを見て、ホープは少し笑う。
そしてヴィノロッソは再度真剣な顔つきでホープを正面から見る。
「でも…なればこそ。
酷なことを言うようだけれども。
岩手に居座って同期から嫉みの視線を受けるよりも、
中央に挑戦して、憧憬の視線を受ける方が全然良い。
ホープは間違いなく中央で活躍できる。
何が『岩手のオグリキャップ』か。
向こうを『笠松のレスキューホープ』って呼ばせるぐらい、
地方生え抜きの力を見せてきなさい!」
「…はいっ!!!」
ホープはヴィノロッソに身体を預け、涙を流す。
ヴィノロッソはそんなホープを優しく撫でる。
新月のため月明かりはない。
その分、澄んだ夜空に無数の星々が一層光り輝いていた。
盛岡トレセン学園
生徒会長 グレートホープ
寮長 スイフトセイダイ
(『SG対決』として黄金期の岩手競馬を支えた両雄)
ホープの同室 ヴィノロッソ
(スペシャルウィークと同じ新馬戦にてデビュー。
中央→上山→盛岡と転籍。
アニメ1期では『カルベネ』の名で登場)