芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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シブヤトレーニング 三人称視点

リギルの東条トレーナーはその日、トレーナー室にてレース映像を見ていた。

 

『―クランベリーレイ!今ゴールイン!

ティアラ初戦の桜花賞を制したのはクランベリーレイです!

 

2着にネイビーポイント3着はナナイロタマゴ。

阪神女王のタイキスチームは5着に終わりました―』

 

先日の桜花賞にて有力視されていたタイキスチームの敗北の原因を探るため、東条トレーナーは何度も映像を見返す。

 

「…」

 

タブレットに図やメモを書き込み、タイムも付け加える。

 

「…やはり、か」

 

得心のいった顔をしたタイミングでスピカの沖野トレーナーが無遠慮にトレーナー室に入ってくる。

 

「おハナさーん。コーヒーメーカー使わせてくれー」

「…あなたね、ノックぐらいしたらどうなの」

「一応したぜ?」

「…まったく…」

 

そう言いながら沖野トレーナーはコーヒーの入ったポットを手にし、紙コップに注ぐ。

 

「テイオーのやつがコーヒーメーカー処分しちまったんだよ。

『アスランに悪影響でしょ!』って。

悪影響ってなんだよ悪影響って」

 

くたびれた顔しながらドリップコーヒーの香りを楽しむ。

 

「…ところで覚えているかしら」

「うん?」

 

東条トレーナーが口を開く。

 

「以前スペシャルウィークとウチのタイキシャトルの模擬レースをしたときに言ったこと。『次はウチが得するように』って。」

「えっ、こ、コーヒー代は払うから」

「それじゃないわよ!

 

あんたのとこのウマ娘、1人借りるわよ。」

「???」

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「と、言うわけで臨時コーチになったウオッカだ。よろしくな!」

「よ、よろしくお願いします!」

 

ウオッカとタイキスチームはトレーナーに許可を得て、2人でとある場所に来ていた。

 

「いやー後輩の指導役にオレを選ぶとは。

リギルのトレーナー見る目あるぜ!」

 

鼻高々といった感じに得意げな顔をするウオッカ。

 

「あの…指導は嬉しいのですが…どうして()()へ?」

「おまえの弱点克服には学園よりもこういったところでの荒療治が一番だからな」

 

ウオッカがスチームを正面から見る。

 

「トレーナーから聞いてるぜ、桜花賞でのこと。」

スチームの耳がピンと張る。

 

 

タイキスチームは主に逃げウマだが、逃げにも種類がある。

 

1つはサイレンススズカのように、ひたすら自分のペースを刻み続ける

『タイムトライアル』型。

 

または、ダイワスカーレットのようにひたすらハナを取りに行く

『先頭バクシン』型。

 

そしてもうひとつが

 

「桜花賞で逃げていたら馬群にのまれて混乱、ペースを乱して5着…だったな。」

「はい…」

 

カブラヤオーやツインターボのように、馬群が苦手だから逃げる

『文字通りの逃げ』型だ。

 

馬群や人混みが苦手なスチームはここに分類される。

 

 

「人混みが苦手なら慣れるしかない

ってことでやって来たのがここだ!」

 

ウオッカが手を開いて目の前の景色をスチームに見せる。

 

「…ひゃぁ…」

 

 

 

『渋谷スクランブル交差点』こと渋谷駅前交差点。

 

旧大山街道・神宮通り・渋谷センター街がクロスする五叉路であり、

1度の青信号で1000人以上が横断する、

世界屈指の混雑を誇る交差点。

 

そんな混みすぎて観光名所にすらなっている場所に来ていた。

 

「や、やっぱり無理ですって!」

「大丈夫だよ、とりあえず最初はオレの後ろ付いてくるだけでいいから。

ほら、信号変わったからいくぞ」

「ひぃぃぃ」

 

スチームはウオッカのジャケットの裾をつかみながら後を付いていく。

 

(ま、前からも後ろからも横からも人が向かってくる!

こ、こんなの無理無理!)

 

大パニックになっているスチームをよそに、ウオッカは慣れたように人混みをすり抜け、ハチ公口からセンター街入り口まで渡ってみせた。

 

「し、死ぬかと思った…」

「大げさだなあ」

 

息も絶え絶えなスチームを見てウオッカはクスリと笑う。

 

「で、でも先輩凄いですね…誰にもぶつからないでスルスルって…」

「なーに、ちょっとしたコツがあるんだ。

そうだなぁ…」

 

ウオッカは信号待ちしている人達をじっと見る。

 

「…あの眼鏡のおっさんはハチ公口だな。」

「え?」

「あっちの学生は宮益坂、こっちのサラリーマンは道玄坂、ヘッドホン付けてるやつは銀座線方面だな。」

「え?え?え?」

「まあ見てな…」

 

信号が青に変わり、一斉に渡り出す。

 

「…な?言った通りになったろ?」

「…凄い」

 

スチームが驚愕の視線をウオッカにぶつける。

 

「オレ達ウマや人は歩いたり走ったりするとき必ず行きたい方向を見るだろ?

相手の進む方向を理解して、自分のスピードを遅くしたり早くしたりすれば、人混みなんて怖くないさ。

 

それはレースの馬群も同じ。

 

他の奴がどこを突こうとしているのか、早めるか緩めるか。

相手がどうしたいかが分かれば、あとはこっちのもんだ。

 

わずかな隙間でも、オレからすれば形勢逆転の糸口になる。

 

それがレースの、馬群をさばく醍醐味ってやつさ。」

 

少し照れながら笑うウオッカを、スチームは光悦とした表情で見る。

 

(今、私に指導してくれているのは、間違いなく『常識破りの女帝』

ダービーウマ娘のウオッカ先輩なんだ…!)

 

かつてテレビで見た先輩から型破りなトレーニングを受けているという事実に、心躍らせた。

 

「さ!次はスチームの番だな。

もう一回ハチ公口へ渡るぞ!」

「い、いきなりですか!?」

「大丈夫だって。オレが後ろについているから。

よし、青になったな。行くぞ!」

「は、はい!」

 

スチームはおっかなびっくりしながらも交差点中心部へ歩く。

 

「落ち着け!目線と相手のつま先に集中するんだ!」

(あの人は右…こっちは左…あの学生は急いでるからこっちが緩めて…)

 

思考と観察力をフル回転させながら人混みをさばき、渡りきることができた。

 

「で、出来ました!ウオッカ先輩!」

「おおー!やったな!」

 

2人で飛び跳ねながら喜ぶ。

 

「意外に頭使うだろ?怖がっている暇なんてなかったと思うぜ?」

「確かに…!先輩のおかげです!」

「へへっ、そうか?やっぱそうだよな!」

 

ウオッカはスカーレットがいたなら全力でいじりそうなほどのどや顔を見せる。

 

「じゃー後何回かやったら終わりにしよう。

折角渋谷に来たんだから楽しみたいだろ?つきあうぜ」

「ホントですか!?ありがとうございます!

行ってみたいところが沢山―」

「…あのーすみません。」

 

「「?」」

 

はしゃぐ2人のところへとある人物が声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

後日 とあるお昼のワイドショーにて

 

ナレーター『大好評企画 EKKOの渋谷女子ファッションチェック!

取材を進めているとリポーターがとある人物を発見!』

 

リポーター「あのーすみません。」

ウオッカ「?はい?」

リポーター「もしかしてウオッカさん…ですか?」

ウオッカ「あっ、はい」

EKKO「あらやだウオッカちゃんじゃない!ワタシ大ファンなのよ!」

ウオッカ「ホントか!?サンキューな!」

 

ナレーター『なんと取材中、あのダービーウマ娘ウオッカさんに遭遇!

これにはEKKOもテンション爆アゲ~!』

 

リポーター「突然すみません。Nテレビの『EKKOの渋谷女子ファッションチェック!』なのですが、今お時間よろしいですか?」

ウオッカ「オレはいいけど…スチームは?」

スチーム「え!?テレビ!?」

スタッフ「おお!阪神JFを制したG1バのタイキスチームさん!桜花賞入着おめでとうございます」

スチーム「あ、ありがとうございます!」

 

ナレーター『さらにクラシック戦線にて活躍するタイキスチームさんにも遭遇!

するとEKKOの目が光る!』

 

EKKO「あらあなた…今日の服装は自分でコーディネートしたの?」

スチーム「は、はい」

EKKO「色味は悪くないのだけれども…全体的に野暮ったい印象を受けてしまうわ」

スチーム「うぅ、実は田舎出身で流行りのファッションとかには疎くて…興味はあるんですけど…」

EKKO「なるほどなるほど。気持ちはよく分かるわ。

…もしお時間よろしければワタシ好みにコーディネートしてもいいかしら?

ファッションは難しいものではないわ、一緒に楽しみましょう!」

 

 

 

…その後スチームはEKKOとウオッカの着せ替え人形と化すも、とても楽しい時間を過ごし、

番組自体は瞬間最高視聴率を記録。

 

そしてしばらくの間、放送を見たトレセン生の間でEKKOの人気がうなぎ登りとなり、

トレセン学園でプチファッションブームが起きた。




シチー「もしもしマネジ?しばらくファッション関係の仕事増やして欲しいんだけど…
はぁ?なんでかって?決まってるでしょ!EKKOさんにファッションリーダーの座を奪われかけているのよ!私はレースもファッションも手を抜きたくないの!」

ユキノ(シチーさんEKKOさんに対抗意識◎だべ…)
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