地下通路の出口にて少し深呼吸する。
1枠1番である俺から順に出るため、自分の後ろにはこれからダービーにてしのぎを削り合う17人の同期達が枠順に並ぶ。
「…」
背中越しでも分かる、刺すような視線だ。
恐らくほとんどの子が多かれ少なかれ俺を意識しているのだろう。
後ろを向いて一瞥し、2番のパームポートが少し頷く。
「…よし」
地下通路から一歩踏み出す。
青空と歓声に、導かれるように。
…
生涯一度の頂点
一瞬なれど
一生の輝きを
『アドマイヤベガ!輝く一等星に!』
焦がれ続けた夢を
現実にするとき
『ウイニングチケット!これが念願のダービー制覇!』
夢に魅せられ
夢を想い続けた
そしてまた 新たな誇りが刻まれる
G1 東京優駿 日本ダービー
『ようこそ。レースの祭典日本ダービーへ。
東京第11R 東京優駿 日本ダービーG1
いよいよ決戦の時を迎えます!
ここに集いし18人は紛れもなく世代を代表する精鋭達。
その精鋭達が夢の頂点、ダービーの冠をかけて走ります!』
煽りVとファンファーレが終わり、場内の熱気は最高潮に達する。
今までスタンドから見るだけだったあの舞台に、自分がいる。
しかも、その多くの歓声を受けているのは他ならない自分だ。
胸にこみ上げてくるものがある。
(…感慨にふけるのは後だな。)
息を吸って気持ちを入れ直し、ゲートに向かう。
『枠入りは順調に進んでおります。
最後にゲートに向かうは18番レスキューホープ。
地方勢初のダービー奪取に夢を見るところ!
間もなく出走となります。ゲートが開くその瞬間まではどうかお静かに!』
ザッと遠くの木立が風に揺れる音すら聞こえる程に静まり返る。
『さあ、君だけのヒーローを見つけ出せ!
東京優駿日本ダービー!
スタートしました!』
ゲートが開いた瞬間、雷雨のような歓声が響き渡る。
(ああ、これこそダービーだ)
『全バ横一線キレイなスタートを切りました。
注目のポジション争いで誰が抜け出すか。
積極策をとったのは5番カモミールバル。4番リトルウィングが追従し8番リブラソニックはその後ろ。
外から14番アイスナンバーが先頭争いに加わり10番アラビカカフェも先行集団へ。
1番サクラアスランは先行集団後方、前から5・6番目といったところか。』
今回の作戦は『先行』だ。
最内枠のため差しで行くと外枠勢から覆い被され、馬群のなかで何も出来なくなる可能性がある。
また、ダービーはCコース…荒れた内側を避けるように内ラチが少し外に設置されている。
内側でも馬場が大して荒れていないため、これなら先行で行っても消耗は少ない。
それに…メインとなる脚質が2つあるというのは、それだけで攪乱になる。
〈サクラアスランが前に行くか後ろで控えるか〉
ここに山を張って作戦を組み立てた子も少なくないだろう。
『先行』で行くなら控えてマークの対象にし、
『差し』なら前に行って進路とチャンスを塞ぐ、
といった具合だ。
先行する子達が全員『差しのアスラン』を実感した皐月賞組なのも偶然じゃないだろう。
『さあ大ケヤキを通過し4コーナーを回ってくる18人の精鋭達!
大歓声の中最後の直線!
府中がほこる525mの直線へ向いてきた!』
先行勢を避けるように外へ持ち出し、誰もいない芝の進路が開ける。
(…今こそ先陣に立つ時!)
足に力を入れ、ギアを変える。
そして…皐月同様、メフテルの笛の音が聞こえてくる。
「―親子3代の夢を、叶える時!」
もはや追いつくものはいない
『満を持してサクラアスラン!サクラアスランが先頭に躍り出た!
世代を導く若獅子が、2冠目を取りに行く!』
…はずだった。
『そして内側から!内側から凄い勢いで上がるウマ娘がいるぞ!』
強烈な殺気を感じ、後ろを振り返る。
緑のターフに映える、朱色の羽織。
『―レスキューホープだ!18番レスキューホープがやって来た!!!』
恐怖の200mが始まった。