油断してたわけではない…と思う。
ダービーは確かに選りすぐりの精鋭揃いが集うレースだ。
しかし、その全てが上位争い、
所謂『勝ち負け』に入れるわけではない。
個人の予想としては、ガーランドをはじめとした皐月上位組と、良枠に入った青葉賞組が勝ち負けに食い込むと読んでいた。
そのほかの子…とりわけ18番の子に関しては、出馬表に地方所属を示す
(おお…カク地か!珍しい。コスモバルクみたいなやつだな…!)
これぐらいにしか思っていなかった。
レースが終わったら少し話をしてみたいな。とはなんとなく考えていた。
ただ競馬民の予想目線で言えば、不利な大外8枠、いまだ勝ち馬がいないプリンシパルからの勝ち上がり勢、そして前々走が13着。
これらの点から『勝ち負けには加わらない。1桁着ならあるいは』と判断し、印は付けなかった。
…それがなんだこの状況は
『さあレスキューホープが!東北が生んだ『岩手のオグリキャップ』が弾丸のごとく駆け上がる!』
なぜその地方の子が
大外の子が
内を突いて上がって来るんだ!?
「まずい!アスランが!」
「頑張れ!諦めんな!」
「あとちょっとです!けっぱれっ!」
スタンド最前列で応援するスピカメンバーは全員手に汗握りながら声援を送る。
「踏ん張れ!ゴールだけ見ろ!」
沖野トレーナーも声を上げる。
そしてテイオーと、上階のルドルフは
((最悪のタイミングだ…!))
真っ青な顔をして事の行く末を見守るほか無かった。
『最悪のタイミング』とは、ホープがスパートを掛けたときの状況。
すなわち、『アスランの『領域』が終わった瞬間に追い上げてきた』ということ。
領域を終え、加速し切った惰性走行のタイミングという最も無防備な瞬間にアスランは狙われた。
もっとも、ホープがそれを狙ってやったのかは不明だが、
大事なのは、
勝負の行方はそれのみだ。
『サクラアスラン粘る!アスランが粘る!ホープフルステークスとは逆の展開となった!
レスキューホープ猛追!凄まじい末脚で食らいつく!
残り200を切った!栄光まで残り200!』
(…引き離せない!それどころか距離が狭まって…!)
思わず歯ぎしりをする。
左斜め後ろからの気配が1秒ごとに大きくなる。
脳裏をよぎるのは2021年のダービー。
エフフォーリアがシャフリヤールに差されたあのダービーだ。
枠順やら状況やらが恐ろしいまでに類似している。
坂はとうに上り終えた。
最後のハロン棒も通り過ぎた。
もう100は切っている。
なのに
なのに
目の前の
手が届きそうな近さのゴール板が
異様に遠く感じる。
あれだけ軽やかだった足が、
今となっては鉛の様に重く感じる。
(っぎ…!)
そしてついに視界の端に
俺の真横に
あの朱色が見える。
…ゴールは
ゴールはまだか
まだなのか!?
「早く来てくれゴールっ!!!」
『ついに横一線並んだ!併せウマで上がっていく!
譲らない譲らない譲れない!
両者全く譲らない!
無敗の2冠か!地方バ初の快挙か!
内レスキューホープ外サクラアスラン!
内か外か内か外か!
『中央の獅子』か!?
『地方の侍』か!?
どっちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』