芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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まだ英雄ではない英雄 三人称視点

6月17日 水沢レース場

 

岩手レースにおけるクラシック世代の頂上決戦『東北優駿』

岩手ダービーとも呼ばれ、全ての岩手所属バが目指す頂点である。

 

 

『放送席ー放送席ー!

こちらウィナーズサークルです!

 

先ほど東北優駿にて見事1着に輝いたレスキューホープさんにお越し頂きました!

 

優勝おめでとうございます!』

「ありがとうございます。」

 

その東北優駿を圧勝したレスキューホープはウィナーズサークルにてインタビューを受けていた。

 

 

「ホープ!!!」

「おめでとー!!!」

「岩手の英雄だ!」

「メイセイオペラの再来だ!!」

 

スタンドの観客から大歓声が上がる。

ホープは気恥ずかしく思いながらも頭を下げる。

 

『まず率直な感想をお聞かせ下さい!』

「そうですね、まずは勝ってよかったと思っています。

それから―」

 

若干たどたどしいところもありつつもインタビューは続く。

 

元々取材に慣れていないホープだったが、いつまでも書面で解答しているわけにはいかないと、保科トレーナーと想定問答集を作って練習していた。

その保科トレーナーは、カメラマンの後ろで冷や汗をかきながら

 

(…落ち着けー、落ち着くんだべー、ホープ!)

 

…ある意味レース本番よりも緊張していた。

 

 

 

「…いやぁ、さっすがはレスの字だべ!

おらの見立てに狂いはなかった!」

「…そだなぁ…デビュー戦で掲示板外になってべそかいてたのが遠い昔のように思えるべさ…」

 

スタンド上階のバルコニーでは、

後輩の活躍に満足げな盛岡トレセン学園生徒会長のグレートホープと、

同じく後方先輩面する盛岡トレセン学園寮長のスイフトセイダイのコンビが

お互いうんうんと頷き合ってた。

 

「なんにせよこれで次期会長はもう決まったようなもんだべ!

これで盛岡も安泰だべさ!」

「…いや、それは気が早すぎるべ。

第一ホープが岩手にとどまると決まったわけでは」

「こうしちゃおれん!早速祝勝会の準備だ!」

 

とグレートホープはスキップしながら階段を降りていった。

 

「…またリヤカー引いて買い出しだべか?

まったく…いつからウチの会長はばんえいの子になったんだが…」

 

スイフトはため息をつく。

 

「噂に名高い中央のルドルフ会長みたいにちょっとは落ち着いてく―

 

…ん?」

 

スイフトの視界の端にある光景が入る。

先ほどの東北優駿で2着だった子が会場の外へと出て行ったのだ。

 

(…?)

 

気になったスイフトはその子の後を追うべくスタンドを後にした。

 

 

水沢レース場の裏手には北上川が流れている。

 

芝が広がる河川敷の一角に、その2着の子はいた。

吐息は荒く、まだ熱を帯びた足を叩き、

ざりと地面を踏みつけて、走ろうとしていた。

 

「ストップ!ストップ!

何してんだべ!?」

 

走り出す寸前でスイフトが止めに入る。

 

「スイフト寮長…

…すみません、練習したいので、失礼します」

「練習!?とぼげた(バカな)こと言うんでねぇ!

レース終わってすぐに練習なんて出来るわけねえべ!」

「でも、練習しないと」

「無茶して足壊したらどうするつもり!?

おめのトレーナーから許可出てないっしょ!?

んな無茶やってたら勝てるレースも勝てないべさ!」

「…無茶しなきゃアイツ(ホープ)に追いつけないんだっ!!!」

 

河川敷に怒号が響く。

 

「ああそうですよ!アイツは凄い奴ですよ!

地方の重賞連勝して、全日本も勝って、共同通信杯も勝って!

あげく日本ダービーで2着になって!

『岩手のオグリキャップ』!?『メイセイオペラの再来』!?

みんながみんな『岩手の英傑』だって褒め称える!

今日だってみんなホープが勝つところを見に来たようなもんだ!

 

でも…でも!アイツは雲の上の存在じゃない!

中央のサクラアスランみたいな、『無敗の天才』なんかじゃない!

アイツだって普通に負けているんだ!

私が勝てる時だってあるはずなんだ!

 

私は…私は!

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1度はあいつに勝っているんだ!

 

手が届かない存在じゃないなら!努力すれば追いつけるはずなんだ!

私はっ!…アイツの『経験値』なんかじゃ終われない!!!」

 

今までため込んでいた本音をすべてさらけ出す。

 

和光同塵の天才を知ってしまった、普通の者の苦心でもあった。

 

「…気持ちは分かった。

だが、練習はダメだ。」

「でも…でもっ…!」

「いい加減に―!」

 

 

「…いいんじゃないですか?」

 

横から声がしたため顔を向けると、鹿毛のウマ娘がいた。

 

「…ヴィノロッソ…おめいつからいた。」

「割と最初から…かな」

「いや、いたんなら一緒に止めてくんろ…」

「すみません。

でも…こういうのは止めても無駄だと思いますよ?」

 

そしてヴィノロッソは「ホントにヤバそうだったら止めるんだよ」と2着の子に話す。

 

「…ありがとうございます。ヴィノロッソ先輩。」

 

2着の子は頭を下げると、そのまま泣き叫びながら河川敷を走っていった。

 

「時には感情むき出しで発散させたほうがいい時もありますから」

「…まあ、おめに免じて何も見なかったことにするべ」

 

スイフトは頭を掻き、ヴィノロッソは少し微笑む。

 

「まだ英雄ではない英雄に出会ってしまった苦しみは、分かってるつもりですから」

「それは…おめのことだべか?」

「そう聞こえました?」

 

 

 

 

一方その頃 水沢レース場の控え室

 

「改めてホープ、優勝おめでとう。」

「ありがとうございます!トレーナーさん!」

 

賛辞を送る保科トレーナーに、レスキューホープは頬を赤らめながら頭を下げる。

 

「インタビューも無事に終わって何よりだべ。

これからは少しずつ取材も受けていく方針にするべさ。」

「あの、トレーナーさん。そのインタビューで、色んな記者さんから今後の予定や次走を聞かれたんですが…

もちろん、練習通り『今後はトレーナーと相談して決める』って言いましたが…」

「ううむ、それなんだがな…

 

 

 

 

 

 

ホープ、北海道へ遠征しにいくべ。」

「ふぇ?」

 

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