アスラン「作者よ…いくら去年の映像を見ても、今年の勝者はプログノーシスなんだ…」
作者「なんでや宝塚の儲け消し飛んだやないかい!!!」
*馬券はほどほどに
「すげぇ!すげぇぜホープ!」
「まさに地方の希望だ!」
「大湊から来たかいあったな!」
「いやまじか…」
「化け物かよ…」
その日、札幌レース場は熱気と戦慄に包まれた。
『精鋭ぞろいのG2札幌記念!
制したのは盛岡所属レスキューホープ!
4馬身差の圧勝です!』
東北優駿を優勝したレスキューホープ陣営はジャパンダートダービーではなく、夏の北海道レースへの遠征を決めた。
これは、菊花賞への挑戦を視野に、中央レースでの経験値(獲得賞金)稼ぎを目的とした保科トレーナーの作戦であった。
夏は多くの有力バが合宿に重きを置くため、その隙を狙う中堅の子が主に出走する。
ホープも対抗であるサクラアスランがいない内に場数を踏む絶好の機会でもあった。
その結果
G3 函館記念 2着
OP 札幌日経オープン 5着
そして、夏屈指の名レースが展開されるスーパーG2札幌記念では、
並み居るシニア勢を差し切り、まさかの1着という大戦果をあげ、
北海道遠征は大成功に終わった。
…
『―荒れた内馬場を突っ切ってのレース運びでしたが自信はありましたか?』
「確信はなかったですが、ダートよりは走りやすかったので、いけると思いました。」
ウィナーズサークルではホープへのインタビューが続く。
『それでは、以上をもちまして優勝バレスキューホープ選手へのインタビューを―』
「すみません、最後に!
秋の大目標は菊花賞ですか?」
終了間際に藤井記者が質問する。
ざわついていた場内がシンと静まり返る。
「そうですね…
アスランが菊花賞に出るのなら、僕も菊花賞を目指します。」
凜とした目でそう言い切った。
「こ、これは…」
「事実上の宣戦布告…!」
「ダービー以来の頂上決戦か!?」
記者だけでなく聴衆からもざわめきが起る。
(これは菊花賞とんでもないことになるで…!)
藤井記者は息を呑んだ。
…
ウィニングライブを終えたホープは保科トレーナーの待つ控室へ向かう。
(菊花賞はこの前の札幌日経よりも長いのか…頑張らないと)
そう思いながら控室のドアノブに手を掛ける。
『―待って下さい!ホープを潰す気ですか!?』
部屋から保科トレーナーの怒号が漏れる。
音を立てないよう静かにドアを開ける。
「はい…はい…
ええ、それはもちろんですが…
…なんとかしろ!?そう言われましても!
あっ、ちょ、もしもし?もしもし!?
…切れちまったべ…」
乱雑にスマホを机の上に置く。
「…あのートレーナーさん?」
「うおっ!?
…な、なんだホープか、お疲れ。
汗かいたべ、今ドリンクを」
「あの、トレーナーさん、さっきの電話は…」
「あー、いや、その」
「僕の名前が出ていたので気になって…」
「…聞かれてたべか…」
大きくため息をついた後、ホープを見る。
「…実はな、おめに…
…南部杯への出走要請がかかっているんだべ。」
マイルチャンピオンシップ南部杯
岩手シリーズで行われる唯一のG1であり、
ダートマイル王者を決める、岩手で最も格式高いレースである。
「去年の全日本以来のダートG1ですね。
分かりました、それに向けての練習を…」
「…」
「…トレーナーさん?」
今まで見たことないような苦い顔をする保科トレーナー。
「…おめ…意味分かって言ってるべさ?」
「え?」
「南部杯に出るなら…菊花賞は諦めてもらうぞ。」
「どうして、ですか」
ウマ娘レース界にはある不文律がある。
それは
『連闘は2回まで』というものである。
半月を1シーズンと換算し、連続出走は2シーズンまで。
すなわち『3シーズン以上の連続出走は避けるべき』というものだ。
これは、3連闘以上となると怪我や故障、不調のリスクが大幅に高まるというスポーツ医学に基づいた提言であり、
中央はもちろん、昔かたぎな地方シリーズでも定着しつつある。
「地方所属のホープが10月後半の菊花賞に出るには、9月後半に行われる神戸新聞杯かセントライト記念のトライアルレースに出る必要がある。
そして南部杯は10月前半…
確実に3連闘になる。」
「で、でもそれぐらい…」
「いやダメだ。菊花賞は今までで一番長い3000mだ。
レースの疲労が残った状態で出す訳にはいかんべさ。」
「それは…」
そして、保科トレーナーにはもう一つ懸念があった。
(…もし南部杯で1着なぞ獲ろうものなら、確実にJBCへの出走を要請される。)
南部杯は『Road to JBC』の副題からも分かるように、JBC競走へのトライアルレースに指定されており、1着バにはJBCスプリントまたはJBCクラシックへの優先出走権が与えられる。
今年のJBCは11月前半に盛岡で開催だ。
もし全部出るとなると、4シーズン連続出走となり、影響は計り知れない。
誤解のないよう明記しておくと、
盛岡トレセン学園をはじめ、大半の人達は
「レスキューホープを菊花賞へ!」
と考えている。
その一方で
「地方バに長距離は無理だ」
「無謀な挑戦を続けて故障したらどうするのか」
「これ以上中央を刺激しないでほしい」
「いつまでオグリキャップの幻影を追い続ける気なのか」
「地方の子なのだから地方で大成させるべき」
といった『保守派』の声も決して小さくはない。
海外に行ったプロ選手を日本でも見たいとファンが思うように、
地元の英雄を地元で見たいと思う層が出るのは当然の理でもあった。
「で、でも。あくまで『要請』なんですよね。
断ることだってできますよね。」
これはホープの言う通りである。
しかし…
「…大人の世界はそう単純じゃないんだべ…」
保科トレーナーの気怠げな声が全てを物語っていた。
実際、先ほどの電話の主は『保守派』の重鎮とも言える岩手シリーズのある幹部からの電話だった。
「すまんホープ…私に力がないばかりに…」
力なく保科トレーナーは頭を下げた。
現状、レスキューホープに突きつけられた選択肢は主に2つ。
当初の予定通り菊花賞を目指す『中央ローテ』か
要請に応え、南部杯とJBCを狙う『地方ローテ』か
…または…
「なあホープ。
おめは…どうしたい?」
『地方の希望』レスキューホープ
膨らみすぎた期待と、大人の思惑が複雑に絡み合った選択肢が、
彼女に襲いかかった。
ここまで現実(ファンの声)に気付いていない保守派はいないとは思いますが…そこはフィクションということで。
ただまあシングレを読んでると大人の事情とかダイレクトに出てきたりしているので、実際にホープみたいな逸材が出てきたらこうなるかなと。
(なお見切り発車の模様)
*この話はフィクションであり、実際の岩手競馬や関係者を貶める意図は一切ありません。