芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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今日はスプリンターズステークスめでたいな!


ステイヤー教室

9月後半の夜

 

「アスランちゃんまだ起きてる?電気消していい?」

「ああごめんスチーム。このレースだけ見たら終えるから」

 

アスラン・スチーム部屋にて、アスランは机の上のタブレットでひたすらレース映像を見ている。

アスランの後ろからスチームが眠い目をこすりながら映像を見る。

 

「これって今日の神戸新聞杯の映像じゃん。どうしたの?」

「どうした…って、ライバルたちの走りを見るのは当然じゃん?ただでさえ自分今回出走してないんだし。」

「そういえば、アスランちゃんはセントライト記念にも出てなかったよね?ステップレースはいいの?」

 

今回、俺は菊花賞のトライアルレースであるセントライト記念や神戸新聞杯には出なかった。

三冠バを含む歴代の菊花賞バはほぼ全員トライアルを経験してから勝っているため、スチームのような疑問は、記者たちやファンからも聞かれた。

 

「まあダービー勝っているから菊花賞への優先出走権は確保しているし絶対でなきゃいけないってわけじゃないのと…あとは足だね」

 

菊花賞は初の長距離かつ高低差が激しいコースのため、脚部への負担が大きい。

左足に不安を抱えている以上、あまり消耗するわけにもいかない。

 

とはいえ、基本的にトライアルレースに出るのはメリットが大きいからでもある。

菊花賞前に実戦で身体を慣らす、ライバルを観察する、自身の状態を見極めるなど…

 

(だがそれは相手も同じこと)

 

ガーランドをはじめとした同期達からマークされ、かつ()()レスキューホープと再戦することを考えると、実戦よりも準備に時間を掛けたほうがいい。

差が出るとすればここだろう。

 

「それにトレーナーも元々トライアルレースは考えてなかったっぽいよ。

『中距離の経験は十分だから、それを下地に身体を長距離に慣らす時だ』って」

「なるほど…長距離ってそんなに大変なんだ…」

 

ティアラ路線のスチームが驚いた顔で頷く。

 

「それで明日からの練習に備えようってこと?」

「そ、明日からステイヤーの先輩方と練習するからね。」

 

 

 

 

 

 

 

次の日 スピカの部室

 

「―というわけでよろしくお願いします!

マックイーンさん!ゴルシさん!」

 

早速スピカのステイヤーコンビに頭を下げて教えを請う。

 

「そうかしこまらなくて結構ですわ。最後の1冠かつステイヤーへの入り口…必ずや勝利を掴みましょう!」

「おっ!このゴルシさまを選ぶとは…見る目あるな!」

 

芦毛コンビも快諾する。

 

正直長距離はリギルよりもスピカのほうが分があると思う。

 

最強ステイヤーの1角であるメジロマックイーンと、(こんなんでも)2冠バのゴールドシップ。

おまけでスペシャルウィークがくるぐらいには豪華な面子である。

 

「うっし!じゃあ早速()()やるか!」

「ええ。()()ですわね。」

 

ゴルマクコンビがお互いににやりと笑い、練習場所へと連れて行く。

 

 

 

 

 

 

 

室内プール

 

「なるほど、プールで遠泳ですか」

「ええ、去年の夏合宿でも行いましたが、やはり足への負担軽減を加味してスイミングが最適ですわ」

「スタミナがないとまず勝負にならないからな!」

 

水着に着替えてプールサイドに立つ。

 

「長距離は総合戦とよく言われます。スピードやパワー、ポジショニング…正に『強い』ウマ娘にしかできないレースです。

中でも、スタミナは根幹とも言うべきものですわ。

スタミナが無ければ付いていくのも精一杯ですし、逆にスタミナが多ければとれる戦術の幅も広がるというものです。」

 

マックイーンの話を聞きながらプールに入り、身体を慣らす。

 

「準備終わりました。」

「分かりました。では早速始めましょう。

 

では…最初はとりあえず1()6()フリー(クロール)から」

「了解で…」

 

自分の耳を疑う。

 

「…あの、一つ確認なんですが。

『16』って160mのことですよね?」

「このプールは50mプールなのですからそんな中途半端な距離泳げませんわよ?」

安田記念(1600m)を泳げと!?」

 

(*水泳では1=100mで換算します)

(*プロ選手でも20分近くかかります)

 

「あ、アタシが後ろから追いかけるから追いついたら最初からな!」

「あと折角ですからバタフライにして腕の力も一緒に鍛えてしまいましょう。」

 

「お、鬼!悪魔!!芦毛!!!」

 

 

 

 

 

「なるほど…それでこんなにふやけちゃって…」

「まあ泳ぐのは好きですから」

 

芦毛コンビによる地獄のスイミング教室から解放された後、練習コース横で水分を摂っているとローレルが現れ、そのまま会話が弾む。

 

「私は菊花賞含めてクラシックレースには届かなかったけど…アスランちゃんが真正面から挑む姿を見るとワクワクするの!」

「恐縮です」

「皐月賞から咲き続けているアスランちゃんの桜、菊花賞で満開になるといいね!」

 

ローレルが屈託のない笑顔を見せる。

 

ふとローレルの言葉で、ある競走馬を思い出した。

 

(菊の季節に桜か…)

 

サクラ冠名で唯一の菊花賞馬『サクラスターオー』

その最期は悲劇として知られているが、そのスターオーの意思を引き継いだのがローレルでもある。

淀の桜は2度にわたり咲き誇った。

 

「分かりました!淀に3冠の桜を咲かせて見せましょう!」

「うんうん!アスランちゃんなら出来るよ。」

「ローレルさん、お時間よろしければ併走お願いしても?」

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

「―てな感じで過ごしたので一日が長いというか、盛りだくさんというか」

「は、ハードな一日だね…」

 

そして夕方、日課と化したライスシャワーとのランニングにつきあう。

 

「レースに出てない分身体や脳みそを動かさないとじっとしてられなくて…ライスお姉様もいつもすみません」

「ううん、ライスはいいのだけど…」

 

赤信号で止まったタイミングでライスがこちらを見る。

 

「…むしろアスランちゃんは自分よりも、まわりの子に注意した方がいいかも…」

「と、いうと」

「その、今のアスランちゃんは、その…」

 

言いよどむ姿を見て、なんとなく言いたいことが伝わってきた。

 

「…今の自分はミホノブルボンだから、ですか?」

 

ライスがこくりと頷いた。

 

無敗2冠バの菊花賞挑戦。

今までの比じゃないマークに襲われるだろう。

 

そして真に警戒すべきは

 

「だからアスランちゃん。()()()()()()に気をつけてね。」

 

狙いをしぼってやってくる『伏兵』の存在だ。

一応トライアルレースの結果から目星は付けているが…

 

「…ありがとうございます。

必ず、勝ってみせます。」

 

伏兵すら跳ね返せねば、あの『朱色の侍』には勝てない。

 

 

淀の舞台は刻一刻と迫っている。




水泳の長距離種目では泳者が距離を誤認しないよう、ラスト1往復で鐘が鳴ります

カランカランカランカラン!
マックイーン「ラストー!そーれーっ!」


カンカンカンカン!
ミラクル(お、同じ金属音なのに意味が全然ちがう…)
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