10月16日
京都府伏見
菊花賞前夜
アスラン達スピカは明日の菊花賞に備え、京都レース場が近い伏見に前乗りした。
いつぞやの合宿とは違い、今回は全員にホテルの個室が与えられている。
「…」
明日の菊花賞に向け気持ちを高める。
「アスラン。緊張する?」
「どうでしょう、正直実感はまだ…」
寝る前にテイオーが部屋にやって来たので軽く歓談する。
こうして話すと自然と心が安らぐ思いだ。
「今日は早く寝て明日に備えよう。
夜更かししちゃダメだよ!」
そう言ってテイオーは自室に戻った。
(寝るか…)
電気を消してベットに入る。
10分後
(寝れねぇ…!)
目を閉じたまでは良かったが、コースやらメンバーやら、
そしてホープのことを考え出したらすっかり目がさえてしまった。
ダービーのときでさえこうはならなかったというのに。
これが3冠の重圧だというのか…
(…しょうがない、頭冷やしてくるか。)
パジャマからジャージに着替え、ホテルから出た。
すっかり寝静まった伏見の街を走る。
戦国期から続く酒蔵の町並みと堀のせせらぎが、京都中心部とは違った空気を醸しだし、それを感じながら北へ進む。
「やっぱ
伏見稲荷大社
全国にある『稲荷神社』の総本宮であり、
古くは五穀豊穣、
そこから派生し商売繁盛・諸願成就の御利益がある。
特に夜は観光客が少ない上、千本鳥居がライトアップされるため、静かかつ荘厳な雰囲気を感じられる。
千本鳥居が建ち並ぶ参道を上り、奥の院へ着く。
小銭を入れて2礼2拍し祈りを捧げる。
(明日の菊花賞、何卒お見守り下さい…)
…カシャーン
カシャーン…
(……?)
祈りを捧げていると、社殿の奥からかすかではあるが、
金属をすり合わせるような音が聞こえる。
夜中だから宮司さんとかはいないし、観光客もいない。
(…よく分からんが、ポジティブに考えよう。
シチュエーション的には熱田神宮の逸話そっくりじゃないか!)
戦国の時代、
今川軍の侵攻を受けた織田信長公は、軍勢を熱田神宮に集め、戦勝を祈願した。
すると社殿の奥から、轡(鎧)をこすり合わせる音が鳴り響いた。
これを信長公は「吉兆の現れ」と兵達を鼓舞し、軍勢の士気は上昇。
そして田楽狭間(桶狭間)にて今川軍を破り、天下にその名をとどろかせた…
俺もまた、天下に名を知らしめよと神の思し召しだろうか。
「…人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり…」
不意に信長公が好んだとされる『敦盛』の一節が口に出る。
人の一生など天界の神々から見れば、夢や幻のように短く、儚い。
それがアスリートともなれば、現役として前線に立っていられる時間など、
その短い人生の、ほんの一瞬でしかない。
現世の競走馬だって引退してからの余生のほうが長いのだ。
生まれながらのアスリートたるウマ娘も、同じだろう。
「
生きとし生けるものはいつか滅ぶ。
終わりが定められている短い人生の間に、
恐れおののいている時間などない!
「必ず、勝つ!」
同時刻
京都府八幡
(…ここが関西の八幡様…)
アスラン達同様、
菊花賞へ出走すべく京都レース場に近い八幡市に前乗りしていたレスキューホープは、
やはりアスランと同じく妙に寝られず、近所の石清水八幡宮に来ていた。
源氏の氏神にして武の神である八幡大神を祀る石清水八幡宮は、
その経緯から心願成就・武運長久の御利益がある。
ホープは静まり返った社殿に頭を下げ、眉間にしわを寄せ祈りを捧げる。
「南無八幡大菩薩…明日の菊花賞、どうか勝たせて下さい…
お願いします…
…お願いします…っ!」
八百万の神々といえど、相反する願いは叶えられない。
獅子か侍か
決戦の菊の舞台は
秋晴れと共にやってくる。
各寺社は夜遅いと閉まってたりするんで参拝時はお気をつけを。
私の夢はソールオリエンスです。
アスラン「なお作者は日曜日急な出張でお空の上だよ!」
作者「なんでやーっ!?」