芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

88 / 126
今日は天皇賞めでたいな!(現地観戦!)


菊花賞 京都 芝 3000m 中編

向こう正面のスタートまで歓声が響くなか、ゲートが開く。

 

ゲートが開いて真っ先に目の前に飛び込んでくるのが、

高低差4.3m『淀の坂』だ。

 

『先頭ハナを取ったのは2番リブラソニック、13番リトルウィングはすぐ後ろ。

2馬身離れて先行グループ、4番ゴールデンバウム、12番ブライトンミラクル、6番アイスナンバー、1番グランダリア。

1馬身離れた中団グループ、9番サクラアスランはこの位置、虎視眈々と前を見つめます―』

 

 

最初の坂を下ったあたりで観客の誰かが気付く。

 

「…遅くねぇか…?」

 

菊花賞はクラシック最終戦かつ、最初の長距離戦。

 

長距離適性を見極めるためのレースでもあり、最初は全員探り探りで走る。

結果、レースを通して派手な展開やデッドヒートは起りにくく、勝負は3コーナーから4コーナーの下り坂、及び最終直線。

 

ライスシャワー曰く「直線入ってよーいドン」の状態が起りやすい。

 

『さあ各ウマ娘最初のホームストレッチを通過、大きな歓声が選手達を後押しします!

最初の1000m通過タイムは63.9。かなりのスローペースとなりました。』

『各ウマ娘が互いを牽制しあっている様子ですね。どこかで勝負を仕掛けたいところですが。』

 

1コーナーを通過し、2コーナーに入った残り1600mのタイミングで、

軽いざわめきが起った。

 

『さあ2コーナーの地点で後方集団にいた11番エイトガーランドが動きました。

内側からスルスルと位置を押し上げていきます。

最後尾地方の夢を背負う3番レスキューホープは動きません。』

 

後方のガーランドがこのタイミングでスパートをかけ出したのだ。

 

(…以前の弥生賞では動かないレスキューホープに気を取られて大幅にロスした…

同じ轍は踏まない。

マークをホープからアスランに切り替える…!)

 

ガーランドの作戦変更による捲り。

 

この行動に誰よりも驚いたのが、アスランだった。

 

(…!?もう動くのか!?)

 

 

常よりライスシャワーから指摘されていた『伏兵』の存在。

もしそれを上げるとすればただ一人。

 

ジュニア期を含め、全ての重賞戦で掲示板入りを果たし、

俺とホープを除くと最も出走成績が良く、

そして、先日の神戸新聞杯で圧勝した善戦マン。

 

エイトガーランドしかいなかったからだ。

 

(ただの掛かりか…?

いや、外ではなく内を突いている以上考えなしの捲りではない。

 

…俺が内に入るのを阻止するのが目的か…)

 

ちらりと周囲を観察する。

 

向こう正面で残り1200mになろうかという地点だ。

 

(想定より早いが…やむを得ん。

 

出る!)

 

 

 

『アスランです!残り1200mを切ったところでサクラアスランが動きました!

先頭めがけて速度を上げています!』

 

今度は大きなざわめきが起った。

 

この行動に驚いたのは観客だけではない。

 

(アスランが動いた!?)

(早すぎる!)

(何か考えが…!?)

(どうする…私も続くか…?)

(直線一気は嫌だ!前に出る!)

 

他の選手達もアスランの行動に苦慮する。

付いていくもの、控えるもの、先へ行くもの。

 

スローペースだった前半とは打って変わり、馬群が慌ただしく展開する。

 

 

均衡は破られた。

 

 

『そして各ウマ娘京都外周コース、4.3mの淀の坂に挑みます!』

 

坂において注意すべきは上りではない、

()()だ。

 

府中のような直線の坂ではなく、右に大きくカーブしながら駆け下りるコースでは、軸足への負担が段違いとなる。

 

…テンポイントを始め、決して少なくない名馬達が、この下り坂に呑まれている。

 

「ゆっくり上り、ゆっくり下る」というかつての鉄則は、こうした背景から生まれた。

 

(向こう正面で仕掛けた以上下りでスパートかけるわけにはいかない!

ゆっくり、かつ確実に速度を上げる!)

 

 

『さあ4コーナーから直線コースに向いてきた!

無敗の3冠の夢を背負い!サクラアスランが前に出る!』

 

(あと400m!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―僕とアスランの距離が離れていく。

 

 

 

 

このまま最後尾(ここ)にいていいのか?

 

 

 

 

―いやだ

 

 

 

 

何のために僕は、

南部杯ではなく、菊花賞を、

アスランと戦うことを選んだのか。

 

 

 

 

 

 

『―あくまで菊花賞を選ぶ、か…

…分かった!()も腹くくるべ!』

 

 

保科トレーナーは、僕のわがままを受け入れてくれた。

 

 

 

『―そっか、菊花賞へ…

…やっぱりホープは私が見込んだ主役さんだね!』

 

 

ヴィノロッソ先輩は、寂しげに笑いつつも背中を押してくれた。

 

 

 

『―南部杯ではなく菊花賞にでる!?おめは何を言っているべさ!

オラを…岩手を裏切る気か!!!』

 

 

グレートホープ会長とは、初めてケンカした。

 

 

 

 

 

会長…僕は証明してみせます。

 

菊花賞を、中央を選んだ意義を。

 

 

負けるわけにはいかない。

 

誰にも文句は言わせない。

 

僕がこの世代で

 

いや

 

 

 

 

この世で一番強いウマ娘だってことを!!!

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

 

レスキューホープの視界が白黒に反転した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。