芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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「勝ちたい」と「負けたくない」

「アスランだ…

アスランがやりおったぁぁぁ!!!」

 

アスランファン達イェニチェリを中心に、特大の歓声が淀にとどろく。

 

雄叫びを上げるもの、涙を流すもの、思わず隣の人と抱き合うもの。

 

そんな光景がレース場のあちらこちらで見られた。

 

 

「負けた…か」

「胸張れホープ!」

「よく頑張った!恥じ入ることはない!」

 

一方ホープファン達浪士組は、悔しい顔をしつつもアスランに拍手を送り、

レスキューホープに感謝と賞賛の声を上げる。

 

 

ホープは、顔を上げられなかった。

 

 

 

「アスランの優勝だ!」

「ついにスピカから3冠ウマ娘が…!」

「ただの3冠じゃないわ!無敗の3冠よ!」

「すげぇぜ…!」

「おめでとうございまーす!アスランさーん!」

 

スタンド最前列で応援していたスピカメンバー達も歓喜に満ちあふれる。

 

「…ふーっ…」

 

沖野トレーナーは大きく息を吐く。

 

(こちらとしても、肩の荷が下りる思いだ。)

 

テイオーの時とはまた違う、3冠バ候補生を指導するという重圧から解放された瞬間だった。

 

「おめでとう、アスラン。」

 

そして、すぐ隣にいるテイオーの頭をポンポンとなでる。

 

「どうだテイオー。直属の後輩が夢を継いだ感想は。」

「うん…。うん…!」

 

涙と鼻水でべショベショになった顔を拭い、前を見る。

 

「今…今、あそこで笑顔で手を振っているのが、

ボクの自慢の後輩なんだ…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスランはスタンドに手を振り続ける。

 

180°広がる全ての視界が、ダイレクトに脳に伝わる。

 

 

(これが…3冠の景色…!)

 

惜しみない拍手と歓声に、胸の奥がこみ上げて来る。

 

 

ふと、視界を外にそらす。

 

そこには、両手両膝を地面に付けたライバルの姿があった。

 

「ホープ」

 

ホープの近くに寄り、手を差し出す。

 

「…た」

「うん?」

 

「…負けたく、なかった…

僕は…僕は、負けるわけ、に、は、いかな、かった、のに…!」

 

大粒の汗と涙が、淀の芝生にしみこんでいく。

 

それを見た俺は、思わず手を引っ込めた。

 

(…重い…)

 

勝ち続けるとは、誰かの勝利を奪うということ。

その意味を痛感する。

 

しかも、ホープは中央ではなく地方所属だ。

 

今日までの苦労や、背負ってきた期待を考えれば、

無敗の3冠がかかっていた俺とはベクトルの違う重圧があったことは、

この姿から伝わってくる。

 

「…なあホープ。」

 

しかしながら、

いや、

 

だからこそ、

 

「一つ聞いていいか」

 

違和感を持たずにはいられない。

 

 

「君はこのレース、

 

『勝ちたかった』のか?

それとも

『負けたくなかった』のか?」

 

真っ直ぐに、ホープを見つめる。

 

「…?」

 

ホープは顔を上げるも、ハテナマークを浮かべる。

 

 

―もったいない。

 

 

のどの先まで出てきた言葉を飲み込む。

 

 

「…また戦える日を、楽しみにしている。」

 

そう言い残し、踵を返してスタンドに向かう。

 

 

そして、

 

 

天高く、3本の指を掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―見事だ、アスラン。」

 

スタンド上階の指定席から観戦していたルドルフは、純粋にアスランの栄誉をたたえた。

 

「…ダービーでは接戦だったにも関わらず、菊花賞にて覚醒か…

…ドリームトロフィーにて戦う日が楽しみだ。」

 

一緒に付いてきたナリタブライアンは猛禽の如き鋭い視線をアスランに送る。

 

「すごいねルドルフ。

君に追いつく子が生まれたね。」

 

いつの間にか来ていたミスターシービーは、そうルドルフに声を掛ける。

 

シービーの言葉を聞いたルドルフは少し笑う。

 

「それはどうだか。」

 

「会長。感傷に浸っているところすみません。」

「どうした、エアグルーヴ。」

「記者達が今回の菊花賞の結果を受け、会長にコメントを伺いたいと。」

「分かった、すぐに向かう。」

 

シンボリルドルフ以来2例目となる無敗の3冠ウマ娘の誕生。

 

ともなれば、初代無敗の3冠ウマ娘たるルドルフに注目が集まるのは自明の理であった。

 

(私と肩を並べるには、まだまだだ)

 

そう思いつつも、自然と口角は上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…あーあー、

柄にもないほど頬が緩みきっちゃってまぁ)

 

取材を受けるルドルフを遠くから見ているシリウスシンボリは、くくっとほくそ笑んだ。

 

そして人気のいない階段に移動すると、スマホを操作しどこかへ電話する。

 

「―おう、アタシだ。菊花賞見ていたか?

 

…ハッ!関係ない、か。お前らしいな。

 

もうすぐ皇帝サマ肝いりの3冠バが挑んでくる。

 

…ああ、そうだ。

 

遠慮はいらない、

 

ねじ伏せてやれ。」

 

通話を切り、階段の物陰から再度ルドルフを見る。

 

(悪いなアスラン。

アタシはテイオーやルドルフほど甘くはないぜ?)

 

「勝負しようぜルドルフ。

 

お前の孫弟子と、アタシの弟子。

 

どっちが上か。」

 

シリウスのつぶやきは、指定席エリアの雑踏にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

テイオーの夢を叶え、名実ともに王者になったサクラアスラン。

 

 

激闘が続いた『双璧世代』のクラシックレースは終わりを迎え、

 

様々な思いが交錯する、シニア戦線へと駒を進める。




目標達成!

菊花賞にて3着以内

次の目標

ジャパンカップに出走する
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