『各バ揃って良いスタートを切りました!
注目の先頭争いですが…
4番サイラと12番センパーパーパスがハナを主張、そのすぐ後ろに14番スイートソティスが続きます―』
「やあやあマドモアゼルハンバーガー。調子はいかが?」
「英語で話せカエルやろう!」
サイラとセンパーパーパスがどつきあい漫才みたいな鎬を削りつつ先頭を譲ろうとしない。
当然の如くペースはどんどん上がり、後方との差が広がり始める。
2馬身離れた位置にいるスイートソティスはしきりに前後の間隔を確認し首を振る。
(どうする…ついていくか?いや、あんなハイスピードの削り合いに絡んだらあっという間にスタミナがなくなる。
とはいえ…)
スイートソティスが再度後ろを見る。
『向こう正面に入って中段グループが形成されます。
内に入ったのは3番カジミェーシュ、その隣にアイルランドのダルシン。
9番クライムハーツは外に出て先頭から5、6番手といったところ。
アスコットのレコードホルダーハーツオブオークは後方集団、3冠ウマ娘サクラアスランもこの位置。
フランスの至宝15番ヴェニュスパークはさらに後ろからのレースとなっております。』
有力バ達が軒並み後方からのレースを選んでいる。
スタミナ無視の逃げを敢行する2人の代わりに、3番手につくスイートソティスが『真の』ペースメーカー扱いとなっていた。
心の中で舌打ちする。
(カジミェーシュやサクラアスラン、ヴェニュスパークといった直線自慢が後方にいる…
末脚を温存しないと確実に差されて終わりね。
あの先頭に引っ張られないようにしないと…!)
3コーナーにかかり次第に歓声が耳に入り始める。
縦長だった隊列は次第に短くなっていく。
末脚自慢達が前をとらえにかかった。
『4コーナーを通過!先頭2人の足色はいまだ衰えない!
後方集団怒涛の追い上げ!ヴェニュスパークは外に持ち出した!
さあ最後の府中の直線にさしかかった!栄光まで500m!』
(あのハイペースで垂れない!?ペース配分を意識しすぎたか!)
スイートソティスが歯嚙みし、温存した脚を使おうと片足に力を入れたそのすぐ隣を
『さあハーツオブオークが先頭をとらえにかかった!サクラアスランも後に続く!』
樫と桜の優駿が駆け抜けていった。
(サイラとセンパーパーパスはスタミナですりつぶすタイプの逃げウマ娘…)
(欧州の重馬場で鍛えられた2人は、日本の高速馬場じゃ垂れない!)
「「その走り見切った!」」
オークとアスランは2人同時に同じことを考え、同じタイミングでスパートをかけた。
オークは過去のレースでの対戦経験から、アスランはその過去レース映像の研究から、
それぞれ先頭の逃げ勢への対応をイメージ済みだった。
『真ん中からハーツオブオーク!サクラアスランも並ぶ!スイートソティスも懸命に粘る!』
だが
『そして外から鹿毛のウマ娘がやってきたぞ!』
真の実力者は、経験も知識も自力も、すべて飲み込んでいく。
『フランスのヴェニュスパークだーっ!』
(La tactique est de donner toute la puissance à un point.)
大外の不利をものともせず、豪快になで斬りにかかった。
「
『先頭ヴェニュスパークに変わった!すぐ後ろにハーツオブオークが食らいつく!』
「来たかヴェニュスパーク!凱旋門の借りを返してもらう!」
オークが含み笑いを見せ再度加速する。
(こんな豪胆に大外一気でくるとは…これが凱旋門賞バか!)
背中に汗が垂れるも自然と笑みが出てくる。
数段上の実力者との鍔迫り合い。
心が高揚し、闘争心は頂点に達していた。
(こっちだって無策じゃない。
まだ眠らせている領域を使えば俺も…!)
そして足に目いっぱい力を加える。
カクン
(…あれ…?)
『ヴェニュスパーク完全に先頭だ!2番手ハーツオブオーク猛追!
サクラアスラン伸びが苦しいか!』
おかしい
普段なら、力がこみあげてくるのに
まったく視界が変わらない。
(なんで?なぜ追いつけない!?
なんで領域が出てこない!?)
領域が出ない現実を理解した瞬間、
アドレナリンが一気に失せ、水の中を走っているかのような抵抗と息苦しさを自覚する。
疲労以外の汗がとめどなくあふれてくる。
待ってくれ
待ってくれ!
こんな
こんなはずでは
いくらなんでも…!
『ヴェニュスパーク単騎先頭!
これが!
欧州最強バの走り!
ヴェニュスパークッ!!!』
「La tactique est de donner toute la puissance à un point.」
『戦術とは、一点に全ての力をふるうことである。』
ナポレオン・ボナパルト