佐為サイド
『ヒカル今までありがとう。私は今まで自分で神の一手を極めるつもりでいました。
そのために千年もの間存在し続けていると考えていました。
でも、塔矢行洋との一局を通して成長するヒカルを見て私は貴方の成長の手助けをする存在だと自覚しました。私はただのきっかけでヒカルの糧となれたのです。
今は、まだ私の方が強いですが、ヒカルならすぐに超えていけるはずです。
ありがとう。』
ヒカルに挨拶をした私は、視界が暗転するのを感じた。
目の前にはたくさんの行列があり、大きな体で机に座っている人?と話をした後に進んでいく。進んでいく道は複数には別れておらず、扉は一つ。すぐに進んでいく人もいれば、その場に留まっている人もいる。
ヒカルとの最後の対局の続きを妄想しながら私の順番が来るのを待っていたら、すぐに私の順番がやってきた。
「ここは死後の世界です。道は1つで輪廻転生するのみです。地獄もなければ天国もありません。ただ、今世に未練がある方たちはこの場にとどまり、天から下界を見ることもできます。期限は特にありませんので、好きなだけ下界を覗き満足しましたら、扉へお進みください。」
私はヒカルの将来が楽しみであったため、少し留まって、ヒカルを見ることにしました。
ヒカルは私と別れてしまい、とても混乱してしまったようでした。私を探すために色々な場所を巡りました。最後に私の過去の対局を見て、落ち込んでいました。でも私はヒカルならすぐに立ち直り、塔矢アキラとともに高みへ進んでいくことを疑っていませんでした。
ですが、いつまで経ってもヒカルは囲碁に向き合ってくれません。アキラや和谷はヒカルを立ち直らせようとしてくれているようでしたが、ダメでした。
私は歯痒くて仕方がありませんでした。あれほど光輝いていたヒカルの未来が暗く澱んでいくように見えたからです。私は願いました。もし可能であれば、ヒカルと出会った時期に戻りたい。そして今度こそ、間違えることなくヒカルを導きたい。
アキラサイド
僕は生涯競い合い、高め合っていくことができるライバルをようやく見つけることができた。最初に出会った時には、そのヨミの深さに衝撃を受け、中学の囲碁大会の際には一度失望させられた。それでもプロになって僕の前に現れた彼を見て確信していた。2人でより高みへ至れると。
そんなライバルと認めた彼が囲碁から離れて行ってしまった。君はいつでも僕を追いかけてきたから、僕は君が追いかけてくることを信じて碁の道を進んでいく。
10年が過ぎすでに僕は7冠となり全ての棋戦で君を迎え撃つことができる準備ができているというのに、君は何をしているのだろうか?最近は2浪して入った大学生をしていると聞く。待てどやってこない彼に僕はやるせなくなる。
どこで僕らの道は離れていってしまったのだろうか?
もし、願いが叶うなら、君と高め会うことができる道を模索したい。2人でより高みへ至れたはずの未来を掴みたいのに。
そんなことを考えながら、アキラは眠りにつくのだった。
今日も変わらず、朝5時には目を覚まし、起き上がる。
見慣れた天井ではあるが、少し違和感を覚える。なんだか天井のしみが少なくなったように感じる。目がぼやけているのかと目を擦ろうとしたとき、目に映る自分の手を見て驚いた
小さく縮んでいるのだ。台所から音がするので、母を見てみようと覗いてみると記憶よりも若い母の姿があり、自身が過去にきたことを認識した。唖然としていると母が僕に気がついた。
「アキラさん珍しいわね。いつもなら行洋さんとの対局の後にくるのに、今日は対局は良いの?朝ごはんにしますか?」
「いえ、少しお水をいただきにきたところです。すぐにお父さんとの対局に行きますよ。」
僕は水を一杯飲むと父である行洋の部屋へと進んでいった。
「おはようございます。お父さん。対局の後に少し話をさせていただきたいです。それと今日は互戦でお願いしたいです。」
「おはよう、アキラ。対局の後の話は良いが、先日3子に置き石が減ったところだろう。
それを急に互戦に変えたいとはどういうことかな?毎朝の対局でアキラの成長は感じられるが、まだ、互戦は早いのではないかね?」
父は不審に思ったのか互戦をやんわり断ってきた。
「お父さんの言いたいことは分かります。理由は対局後お話ししますので互戦でお願いします。」
僕は父が変に感じていることを分かりながらも互戦を要求した。
(互戦で僕の棋力が高いことを見せて、そして説明すれば父ならわかってくれるはずだ)
「わかった。だが、つまらない対局にはしないようにな。」
「そんな対局にはならないことをお約束します。本気でお願いします。」
僕は碁笥を取って握る。僕が黒石になる。
「私は碁に対してはいつも本気だよ。それは指導碁の時でもね。」
父からの圧力がいつも以上になることを感じて、僕は集中していく。いつもよりも碁石を持ちにくく感じながらも全力を尽くした。
朝ということもあり、時間がなくかなりの早碁となった。未来の世界での父は日本でプロを辞めた後、海外を主戦場としその実力は僕と拮抗していた。ただ10年先までの定石を知り、さらに父を超える七冠をとった僕の今の実力は今時点での父を凌駕している。
これからの僕の計画を進めていくためには父の協力が必要になると考えた僕は実力を隠すことなく、対局した。
父は驚いた顔を隠すこともできていなかった。
「ここまでだな」
と父の声が聞こえ、対局は僕の中押し勝ちとなった。
僕は父に、自分が過去に戻ってきたことをありのまま話をした。父は碁の強さを見て信じてくれたようだ。全力を出した甲斐があった。ただ、未来の定石を見せてほしいと懇願してくる父を見て父もまた碁が全ての人なのだと改めて認識させられた。少しは息子の心配をしてほしいものだ…
僕の計画は進藤ヒカルを囲碁の世界に引き込み離れさせないようにすることだ。
進藤の家族は囲碁の世界に疎いため、やめることに何の抵抗もしていないようだった。だが今回は進藤の周りも巻き込んで進藤が囲碁から離れないように外堀を埋めてやろうと考えたのだ。テレビにも出演し世間一般でも知名度の高い父の影響力を使えば可能性は高いと思っている。
進藤との接触は確か僕が囲碁サロンにいるだけで向こうからやってくるはずだ。その時まで僕はただ待てば良い。それに、今度は前回のように簡単には負けてやるものかと内心思いながら、進藤を待ち続けた。記憶によれば、子供囲碁大会の数週間前にきたはずだ。あと少し待てば進藤と再び打てるのを楽しみに今日も囲碁サロンに入り浸る。友達とも遊ばず今までにも増して碁会所に顔を出す僕を市川さんは心配そうに見ているが、気にしている余裕は今の僕にはない。
だが、記憶の中の時期を過ぎても一向にやってこない進藤にイライラがつのってくる。まさか、進藤も過去に戻ってきているのではないか?そして、囲碁を始めない人生を選んだのではないか?と不安になってきたある日のこと、父のもとに一つの碁盤が届いた。本因坊秀策が使っていた碁盤だというそれを見た時僕は碁盤の上にしみがあることに気がついた。
「お父さん、碁盤に染みがあるように見えるのですが、気になりませんか?」
「いや、私にはそんな染みは見えないが、どこに見える?」
『貴方には見えるのですか?』
「ですから、ここに見えると言っているではありませんか?」
『過去に戻りヒカルに明るい囲碁人生を送ってもらうつもりでしたが、まさか、憑依するのが塔矢アキラになろうとはこれは前途多難が待ち受けていそうですね。』
僕は昔の格好をした何かを見て、声を聞いて意識を失った。
目が覚めた時には、天井が真っ白な病院だった。
「アキラさん急に倒れられて、心配したのよ。先生を呼んできますね。行洋さんも心配していましが、お弟子さんがこられるので病院にはこられなかったの。合わせてアキラさんが目を覚ましたこと電話してくるわね。目を覚ましてすぐに1人は心ぼそいかもしれないけれどすぐに戻ってきますからね。待っててね。」
僕は病室にもう1人いるという言葉を飲み込んだ。母にはどうやら見えていないようだ。母がいなくなってから幽霊は語り出した。
『塔矢アキラ私の話を聞いてください。私はあの碁盤に取り憑き囲碁を続けてきた藤原佐為です。私は進藤ヒカルという少年を囲碁へ導いていきたいのです。貴方は進藤ヒカルと出会ったことはないかもしれませんが、貴方と同じかそれ以上に囲碁に愛された少年なのです。手伝っていただけないでしょうか?』
『まず、なぜ僕の名前を知っているのか?そして進藤を導きたいとはどういうことだ?教えてくれ。』
『私は1度この時代で進藤ヒカルと出会い、そしてヒカルに囲碁を教えました。その過程の中であなたとも幾度となく出会っています。なので、あなたのことも知っています。信じられないかもしれませんがね。』
僕は藤原佐為の話と自分の記憶を照らし合わせることで、足りていなかったピースが揃い謎が解けた。最初に僕と打ったのはこの幽霊だったのだ。それなら、進藤が中学の大会でへぼな手を打っていたのも納得できる。あれは本当に進藤が打っていたのだろう。僕は一度深呼吸をしてから、佐為へ返事をした。
『僕からもお願いするよ。進藤は僕のライバルになる男だ。でも、この時代では僕はまだ進藤に会うことすらできていない。僕も一度この時代を生きている。そして、未来で進藤が碁から離れてしまったことが悔しくて、願っていたんだ、進藤と高め合うことのできる選択があるのであればやり直したいと。佐為さん僕もあなたのことを知っている。僕と進藤が出会った時に打ったのがあなただ。』
佐為は驚いた様子でオロオロしていた。こっちこそ幽霊に取り憑かれて気が気ではないのだが…
『アキラ、あなたも過去に戻ってきたのですね。私のことは佐為と呼び捨てで呼んでください。私もあなたのことをアキラと呼びます。これから、私たちで進藤ヒカルを導きましょう!!』
母が戻ってくるまでの間で、僕と佐為は自己紹介を済ませた。その後、簡単に検査を受け問題なしと判定をもらった僕は母ともう1人僕にしか見えない佐為とともに帰宅するのだった。
その晩、自室で佐為と対局をしつつこの幽霊についても父に話そうと考えた。父の心臓発作が起きないかが心配だ…
とはいえ、あの囲碁人間の父に佐為のことを話さないと後から恨まれる可能性もあるので話さない選択はあり得ないのだが(笑)
話を整理している中で、進藤がなぜ囲碁を始めたのかがわかった。進藤は佐為が取り憑くことがきっかけで碁を始めたようだ。だが、この時代では佐為は僕に取り憑いており、進藤が碁を始めるきっかけを失ってしまったようだ。進藤の祖父だけが囲碁のことを知っていることから、そこをきっかけにして囲碁を始めてもらうのが最も良い気がする。佐為はヒカルは負けず嫌いだから、塔矢が悪役を演じてコテンパンにしてやれば自然と囲碁を始めるはずと言っているが、それだと、普通の成長にしかならない。前回はこの囲碁お化けが進藤と毎日打つことで成長したが、この時代だと囲碁の勉強をする方法がない。ここは父にも協力してもらう必要がありそうだ。
ちなみに佐為は毎日、僕と父と打てているので満足しているようだ。だが、進藤を鍛える方法で佐為をどうやって協力させるかはネット碁のSAIを使いたいとは考えているが、進藤にどうやってネット碁をさせるかが課題だなと佐為と悩んでいる。
肝心の進藤とどのように接触するかだがすでに準備はできている。
碁盤をくれた繋がりから、進藤の祖父とは繋がりができているからだ。そのお礼として、父が指導碁に行き仲良くなったのち、僕が進藤祖父宅に出入りしている。進藤がきたところで、僕と自分の祖父が楽しそうに囲碁を打っているのを見て進藤も囲碁に興味を持ってくれた。
「じいちゃん遊びにきたぜ!!ってその子供だれ?」
「ヒカルまずはあいさつじゃろが。アキラ君これはうちの孫のヒカルじゃ。アキラ君と同じ小学6年生じゃ。ヒカル、この子は囲碁の塔矢行洋先生のご子息でアキラ君じゃ。」
「初めまして、ヒカルくん。ヒカルくんも囲碁やるの?」
佐為は久しぶりの進藤を見て、頭をなでなでしている。笑いそうになるからやめてほしいものだ。一方僕は散々待たされた怒りから、怒鳴りそうになるのを我慢するので精一杯だった。そんなことを知らない進藤は変わらない調子で笑っている。
「いや、俺は囲碁やんないよ。年寄りのやるものだと思ってたし。でも、同じくらいの子供が楽しそうにやってたから興味が出たかな。それと俺のことはヒカルか進藤の呼び捨てでいいぜ!!友達もみんなそう呼ぶし。」
「わかった、ならヒカルって呼ぶよ。進藤だと、進藤さんと被ってしまうし。囲碁は子供でもやっている人たちはたくさんいるよ。子供の囲碁大会もあるし。それにとっても面白いんだよ。僕と一緒にちょっとやってみようよ。」
「それなら、わしはヒカルとアキラくんのためにケーキでも買ってこようかのう。ヒカル、アキラくんに失礼がないようにするんじゃぞ。悪さしたら、ケーキやらんからの。」
「わかってるよ。一緒にちょっと囲碁やるだけなんだから、大丈夫だって。さっさとケーキ買ってきてよ!!俺いちごが乗ったやつね」
「アキラ君わしへの指導碁は今日はここまでにして、孫に囲碁を教えてやってくれ。こんなことアキラ君にお願いするのは申し訳ないが、孫と一緒に囲碁を打つのはわしの夢の一つだったのじゃ。是非とも囲碁の面白さを教えてやっとくれ」
「わかりました。1人でも多くの人が囲碁をやってくれるのは僕たち棋士の願いでもあります。囲碁が忘れられないくらい面白さを精一杯伝えようと思います。」
進藤さんは嬉しそうに財布を持って出かけて行った。ただ、僕は今日、進藤に優しく囲碁を教えるつもりなど毛頭ないのだが…
僕はまず、進藤に簡単なルールを始めたあと、対局を開始した。もちろん、今回は指導碁どころではない。進藤に強烈な印象を残すために、ボロクソに負かせる。佐為も協力して進藤が怒るような手を一緒に考える。
「くっそ。俺の石がどんどん取られていく。手加減しろよ。俺初心者だぞ!!」
「今でも手加減しているよ。小学生低学年でももう少しマシな手を考えてくるけど、君は普段ちゃんと脳みそ使っているのか?」
「お前、ほんとムカつくな。今日は初心者の俺をなぶってさぞや楽しかっただろうな。だが、お前の得意な碁で絶対にギャフンと言わせてやる。1ヶ月後に再戦だ!!それまで、首を洗って待ってやがれ。」
『アキラ上手くいきましたね。まずはヒカルが囲碁を始めるきっかけができました』
『いや、まだ、甘い。もっと煽っておかないと』
佐為はニコニコしているし僕も内心では計画が今のところ上手く行っていることを喜んでいながら、進藤のことをさらに煽る。
「1ヶ月で足りるのか?ヒカル、キミ諦めた方がいいよ。僕は強いんだから。」
「初心者から1ヶ月の俺に負けて泣きべそを浮かべるお前の顔が目に浮かぶぜ。」
そういうと進藤は帰って行った。ケーキを買って戻ってきた進藤さんにヒカルは怒って帰ってしまったこと、才能を感じたとを伝え、僕も帰ることにした。進藤が一ヶ月後どのように成長しているのか楽しだ。
その晩、佐為と打ちながら今日のことを話していた。
『まずは上々の滑り出しだね。進藤はこれから一ヶ月猛勉強するはずだ』
『そうですね。アキラの悪役っぷりは本当に上手でしたね。案外、あなたの本性はそっちなのでは?』
『佐為のアドバイスがあったからだよ。僕だけだとうまくいかなかったし。そもそも佐為がいなかったら、僕はずっと囲碁サロンで待ちぼうけだったよ。』
『私もヒカルが囲碁の染みが見えなくなっていた時は本当にどうしようかと思いましたがアキラに出会えてよかった。それに囲碁の相手として不足はありませんしね。』
『佐為との対局は父との対局にも負けないくらい楽しいよ。でも、僕の方が勝率低いってキミは本当に碁が強いな…。僕これでも七冠だったんだけど…』
『ヒカルは一ヶ月でどれだけ強くなるのでしょうか?』
『わからないが、囲碁は自分で勉強するだけじゃ強くはなれない。どれだけ棋力の高い人と多く対局ができるかが重要だと僕は思っている。だから、一ヶ月後の対局では進藤を軽く捻りつつ、才能を感じたからと院生のことやネット碁について教えてあげようと思うよ。』
『そうですね。ですが、ヒカルのセンスは侮らない方が良いですよ。初心者のころから私でもハッとするような手をたまに打っていましたから。ただ、その手を活かせてはいませんでしたが… 研究会には誘わないのですか?』
『流石に今の進藤を研究会に誘うのは早すぎだ。せめて院生にはなってもらわないと。』
『そうですね。院生で鍛えつつ。ネット碁を使って私が直接ヒカルを導いていきたいです』
『もちろん僕も進藤の成長を手助けするつもりだよ。ネット碁も協力するしね』
『アキラ、ありがとうございます。2人で、進藤ヒカルを最強の棋士に育てましょう!!』
『僕のライバルに育てるが、最強の棋士は僕がなるよ。進藤には僕の糧になってもらう。そこだけは譲れないな』
どちらが最強の棋士になるにせよ、それは直接対決で決めれるような状況にしようとそこは共通認識として合致している。口論しながらも2人は楽しそうに遅くまで打ち合うのだった。