ヒカルサイド
じいちゃんちに遊びに行ったら、俺と同じくらいの歳の子供がじいちゃんと楽しそうに遊んでいるのが目に入った。囲碁をしているらしい。
誘ってくれるから、ちょっとやってみようと思ったが、あいつ俺のことを馬鹿にしやがって絶対に後悔させてやると心に決めた。
一ヶ月後の再戦に向けて囲碁の勉強をしなくちゃだ。
放課後毎日じいちゃん家に行って碁を教えてもらおう。
「じいちゃん、囲碁俺に教えてくれよ。どうしてもアキラに負けるのが嫌なんだ。あいつをギャフンと言わせるのに協力してくれ!!」
「ヒカル、この前も言ったがアキラ君は名人のご子息で今でも相当強いのだぞ。わしなんかではわからんが、噂ではすでにプロ試験を合格する実力があるそうじゃ」
「それでも、負けられない戦いがあるんだ。あいつ俺のことめちゃくちゃばかにしたんだぞ。このまま引き下がったら男じゃねーよ。」
「わしは、毎日ヒカルの顔が見れて嬉しいから、構わんが、相当厳しいと思うぞ。まずは、囲碁を楽しめるのが目標じゃな。毎日わしと打つことと、帰ってからは、詰碁で勉強するのが良いと思うぞ。」
「囲碁楽しむから、足付きの碁盤買ってくれよ。あれ、インテリアにしたらシブカッケーからさ。俺、道具から入るタイプだしさ!!」
「折りたたみのやつを買ってやったろーが!!。わしに一回でも勝てたら買ってやる。まーわしは隣町のクツワさんに勝ったことがあるくらい強いから、流石に一ヶ月やそこらじゃ負ける気はせんな。精進することじゃな」
そうして、1週間が過ぎた頃にじいちゃんに初めて勝った。
「じいちゃん、約束のものよろしくね!!。石を碁盤に並べるのって、宇宙に星が並んでるみたいに綺麗なんだよね。囲碁の面白さもわかってきたわ。俺が並べてるの見てあかりも興味持ってたし、あかりに囲碁教えてたら、俺も理解が進むわ」
「まさか、一週間で負けるとは…。約束した通り、足付きの碁盤は買ってやる。流石に孫の才能に驚きを隠せんぞ。まーまだ一回わしに勝っただけで、まだまだおぼつかない部分は多々あるし、わしが安定して勝っているがのこれなら、プロになれたりしてな。流石にそれは孫贔屓がすぎるか。新しい碁盤でさらに成長するのだぞ。」
「やったぜ!!後三週間もあるんだぜ。このペースなら塔矢をギャフンと言わせれるかな?」
「いや流石にそれは無理じゃと思うぞ」
2週間が過ぎた頃、じいちゃんとの勝負でも五分五分になった。
「ヒカル、お前相当才能あるぞ。もう、わしと互角になっとるじゃないか。後2週間もあれば、もしかしたらがあるかもしれんぞ!!」
「まだ、じいちゃんと互角な時点でまだまだじゃねーかよ。もっと強くなりてーよ。確実にアキラに勝ちてーんだから!!」
「それならわしに置石で確実に勝たないとな。流石の流石にそこまでは行かんと思うがの!!」
「じーちゃんそれもうフラグたってる。来週には置き石置かせてボッコボコにしてやるから楽しみに待っとけよ」
3週間が過ぎるころにはじいちゃんには確実に勝てるようになっていた。
じいちゃんから碁の才能があると褒められるが、そんなことよりもアキラをギャフンと言わせるために足りているかどうかだけが気になる。
自分的にはだいぶ実力がついてきたと思う。この前もじいちゃんとの対局を検討するために前日に打った碁を並べ直していたらじいちゃんが驚いていた。普通は一局まるまる暗記できるものじゃないらしい。俺は今まで打った碁全部記憶してるけどというと、じいちゃんは口から心臓が飛び出るのではないかと思うくらい驚いていた。
この一ヶ月で囲碁も面白いなと思い始めてはいたが、アキラを負かしたあと囲碁なんて簡単だな。やめてやるよ。と言ってやろうと思っている。あいつの綺麗で澄ました顔がどうなるのか今から楽しみすぎる。
そして、再戦の日がきた。さーお前は本当に口から心臓を飛び出させてやるぜ!!
アキラサイド
再戦の日がきた。僕は進藤さんのお宅に行くと玄関の前に仁王立ちする進藤の姿が見えた。
「ヒカル、少しはマシになったのか?今なら、囲碁を教えてくださいアキラさんと言うのであれば指導碁をしてあげるよ」
「マシどころか、今度はお前に勝つくらい強くなったぜ。じいちゃんにはもう負けなしになったしな。俺がお前に指導碁打ってやろうか」
「進藤さんに勝てるようになるとはなかなかじゃないか。だが、上には上がいることを教えてやろう!!」
「相変わらずの口ぶりだな。今まで、同年代で自分に敵う人はいなかったと言っていたが、それも今日までだぜ。よく俺の顔を拝んでおけよ。」
「それは楽しみだ、早速打とうか!!」
まさか、一ヶ月の間に進藤さんに勝つくらいまで成長しているとは驚きだ。やはり進藤の才能はそこが知れないな。それでこそ僕のライバルだ。
『ヒカルがお祖父さんに勝てるようになったのは確か院生になる前でした。今回、アキラに刺激されて相当頑張ったのですね。』
『進藤が真面目に囲碁に取り組めば成長スピードがすごいことを改めて感じたよ。確かに佐為が進藤のために存在していたと言われても納得するかもしれない。だがここでさらに凹ませて、爆発的に成長させてやろう』
『そうですね。ヒカルの成長を見るのは本当に楽しいですから。』
進藤とお互いに挨拶を済ませて対局を開始する。今回は進藤さんも横で見学するようだ。
「お願いします」
進藤の先番で始まった対局は序盤から進藤はガンガンで攻めてくる。僕はいなしながら、成長速度の凄まじさを直に感じていた。本当にすごい。進藤さんに勝つどころではないな。これは予想以上だ。だが、まだまだ僕には及ばない。早く駆け上がってこい!!
「ヒカル、君すごいね。一ヶ月でここまで成長するなんて。驚きだよ。でもまだ僕には及ばない。ここまでだね。」
「くそ、まだ、お前は余裕そうだな。むかつくぜ。」
「ヒカルがアキラ君に勝つのはやはり無理じゃったか。わしに置き石置いて余裕で勝てるようになっとったから、もしかしたらとおもっとったが。じゃが、わしはこの対局を生で見れて涙が出そうじゃ。囲碁雑誌に掲載されても恥ずかしくない出来で、碁を始めて一ヶ月の者が打ったとは到底信じられん。」
「今の僕はすでに高段者と遜色がないと言われるくらいには棋力を高めている。そんな僕に喰らい付いてきただけでもすごいよ。」
「お前そんなに強かったのかよ。騙されたぜ…プロ合格どころじゃねーじゃねーか。そりゃ同年代で負けなしなわけだぜ…」
「いや、でも僕が今の君くらい打てるようになるのにどれだけ時間がかかったと思っているんだ、一ヶ月でここまで成長するのは、倉田さんを上回る才能だよ。僕のライバルになりえるかもしれない」
「くそ、くそ、俺の負けだ…。本気で努力してきたのによ。」
「ヒカル、君はきっと囲碁が強くなるよ。僕のライバルになれるくらいにね。だから、まずは院生になりなよ。あとは色々な人と打つためにもネット碁も勉強になると思う。」
「なってやるぜ。その院生ってのによ。そして一年でお前に勝つ!!一年後再戦だ。」
「僕は来年プロ試験を受けるよ。だから、再戦はプロ試験予選でかな。ただ、君がどうしてもって言うなら、僕が碁を教えてあげてもいいよ。」
「誰が、お前なんかに教えを乞うかよ。ライバルに教えてもらう奴がどこにいるんだよ。お前がプロになるってなら、俺だってなってやる。いつまでも俺の前を歩いていられると思うなよ。」
「そうか、来年のプロ試験を楽しみにしているよ。ただ、ネット碁も本当に勉強になるからやれる環境は整えた方がいい。僕もよくネット碁を活用している。相手の棋力がわからない状態で始め、石の流れから棋力を推測し、指導碁に切り替える。この勉強はネットでしかできないからね。それに最近は日本のプロ棋士だけでなく韓国や中国のプロもやっている人もいるらしいから、本気で対局もできることもある。」
「ヒカル、わしは感動したぞ。わしがヒカルの最初のスポンサーになってやる。院生もネット環境も整えちゃる。絶対にプロになれよ!!」
「進藤さん、申し訳ないですが、進藤さんへの指導碁も今日で終わりにさせていただきます。ここに顔を出すとヒカルが来にくくなってしまうと思いますので。でも、進藤と本当の意味でライバルになれた時、また、ご挨拶に伺います。今日はこれで失礼させていただきます」
「アキラ君ありがとう。ヒカルがアキラ君のライバルになれる日が来るようにわしは全力でサポートしていく気じゃ。名人にもよろしく伝えておいてくれ。」
僕はしっかりと進藤に院生とネット碁を刷り込んで帰宅した。
進藤の成長速度はわかった。僕もさらに精進し君の前を歩き続ける。
まずは、プロ試験までの間でどうやって進藤のネット碁のアカウントを見つけようか?
『佐為、ネット碁を進藤もやってくれそうだね。そろそろSAIもアップしはじめなくちゃだね。』
『そうですね。正直なところ、アキラや行洋殿と毎日打てる環境ではそこまでネット碁に入れ込みはありませんが、ヒカルを直接指導する場としては重要ですので、これから、少しづつ対局を開始しましょう。』
『進藤がつけそうなアカウント名とかわかりそうか?』
『ヒカルは単純ですからね。なんのひねりもなくHIKARUを探せば良いと思います』
『そうだね。一年後まで僕が直接対局できないのは残念打けれど、SAIとの対局を繰り返せば実力自体はわかるし問題ないね。あとは彼がいつ僕をヒヤリとさせることができるまで成長できるかの時期だけが気になっているよ』
『アキラの実力自体すでに、トップレベルですからね。ですが、ヒカルが成長速度からすれば5年ほどで、アキラとごぶごぶまで来るかもしれませんね』
次の日の朝、父に進藤との接触が上手くいっていることとやはり、僕のライバルになる存在であることを伝えると、父も気にかけてくれるようだった。
自宅にノートパソコンを設置し、インターネット回線も繋いでもらった僕は、早速ネット碁を開始する。進藤がいつから始めるかわからないが、早いに越したことはない。
『佐為、準備はいいか?一日に一回ログインしてまずはHIKARUを探す。いなければ1局から2局打ってログアウトする。これを毎日やっていくからね』
『問題ありません。相手が誰であれ、負ける気はありません。早くヒカルと私も打ちたいです』
僕はSAIのアカウントでワールド囲碁ネットにログインして、HIKARUを探すが流石に昨日の今日では始められないのであろう。アカウント一覧にはHIKARUを見つけることはできなかった。なので、適当な相手に対局を申し込んで、その日はログアウトする。
それから、1週間繰り返した頃。ついにHIKARUを見つけることができた。
HIKARUは対局がちょうど終わる頃だったので、終わったタイミングで対局を申し込む。進藤は相手を選ばないようで、すぐに対局が開始される。
『佐為、これからヒカルと毎日打つことになるんだ。ちゃんと心を鷲掴みしないとだよ』
『わかっていますよ。ヒカルがどうすれば成長するかは私は心得ていますよ。前回は私があまりにもヒカルに近過ぎたために、ヒカルが囲碁をやめてしまいました。今回は適度に距離感を保ちつつ自慢の弟子にして見せます。』
『期待しているよ。そして、僕も佐為とヒカルの対局を通して、更なる高みに至れるように精進するよ。自分で打たない碁でも佐為の石の流れが感じられてとても新鮮だってことがわかったからね。』
『えー。期待していただいて結構ですよ。そして、アキラあなたの成長も望むところです。』
『では、一手目、右上コスミ!!』
進藤と佐為の対局の後、僕はすぐにチャットを進藤に送る。
「今はまだ実力は高くありませんが、私はあなたの才能に惚れました。これから毎日私と打ちませんか?」
なかなか、返信が来ないことに焦りを感じる。
『ヒカルは以前もパソコンが苦手で、チャットができないと言っていましたから、今も悪戦苦闘しているところだと思いますよ』
『そうだと願いたいね。ちゃんとチャットができるようになってくれないと、検討もできないし早く入力できるようになってもらわないとだね。』
『そうですね。チャットでの検討ですとやりにくいところはありますが、チャットがちゃんとできれば、問題はないはずですし。』
『もう一回、こっちから追撃してみようか』
「私はネットでしか碁が打てず、後継者を探していました。あなたなら私の後継者に相応しい。お願いします。私にあなたが強くなる手助けをさせてください」
「おねがいします」
返事はきたが、ごく短く、変換すらされていない。遅過ぎて、チャットで検討ができるレベルになるのはいつになるのやら…
『アキラ、やりました。これでヒカルと毎日打てます。最初は検討ができなくても私と打つだけでもヒカルなら成長してくれると思います。』
『そうだね。計画通りで嬉しい限りだよ』
「毎日、同じ時間に打ちましょう。それと、検討もしたいので、入力の練習もしておいてください。最初は打つだけでも良いですが、チャットもどんどんしていきたいです。」
「はい」
僕と佐為は満足して、ログアウトするのだった。まだ、SAIもHIKARUも対局数は多くないため、毎日同じ時間に打っていたとしても話題になったりはしないだろうとは思っている。だが、ネットは何が話題になるかわからないので、多少気掛かりではある。アキラは佐為の嬉しそうな顔を見て、その引っ掛かりを心の隅に追いやった。アキラは気がついていなかったが、HIKARUとSAIの対局観戦者の欄にはたったの1人ではあったが名前が残っていた。
OGATAと。