Welcome hit man:ようこそ、暗殺者
イタリア郊外にある廃墟の建物内を一人の男が全力で走っていた。
「はぁ、はぁ…っ!!」
息も絶え絶えで汗も酷いが、脚を止めることだけはしない。
男はとある闇組織の幹部でこの廃墟で重要な取引を行う予定だった。
(なにが、なにが起こってる…!?)
しかし、廃墟についた彼とその部下が目にしたのは、取引相手の無惨な死体。更には連れてきた部下達まで殺られてしまった。
これでも裏の世界で生きてきた男にとって、人の生死は見慣れたものだ。
だが、それはあくまで自分の理解出来る死因であれば、だ。
(何故急に剃刀が口から出たり、鋏が喉から出てきたりするっ!?)
目の前で部下達が有り得ない死に方をして、男はすぐさま取引の物が入っているアタッシュケースを持ちその場から逃走した。
途中まで着いてきた部下もいたが、今は一人となってしまった。
「…あがっ!?」
突如脚に激痛が走り、転倒する。
一体何がと思い男が脚に目をやると、脚に深々と刺さるメスが目に映る。
「な、何故この廃墟にメスが…」
男が疑問に思った直後、自分が来た方向を見て絶句した。
そこには大量のメスが男に狙いを定めて宙に浮いていたのだから。
瞬間、男を大量のメスが襲った。
「うぁぁぁぁ!!」
男の身体にメスが突き刺さる。
だが運良く致命傷には至っていない様でまだ何とか動くことが出来る。
転倒時に落としたアタッシュケースに目もくれず、我が身大事さに必死に這って逃れようとする。
ーーーしかし、
「……あぇ?」
突如男の視界が赤く染まる、と同時に頭からゾロゾロと肉を削り斬る音が響き激痛が走った。
「あがぁぁぁぁ!!?」
余りの激痛に男は絶叫し、その場でのたうち回る。
激痛を取り除こうと手を頭に持っていこうとしてーーー
男が最後に目にしたのは、大量のメスが己に向けて迫ってくる光景だった。
◆
『依頼した物の確認が取れた。今回も良い仕事だ、流石だな』
「依頼は完璧にこなすだけだ。それからーーー」
『わかっているとも。報酬なら既に振り込んでいる。ではな【メタリカ】』
そうして電話が切れる。
電話はその場で処分し、暫く歩いて充分距離が離れてから誰にも見られていない事を確認し、裏路地で能力を解除する。
黒色の頭巾のような物を被り、上半身は黒一色の長袖、ズボンは黒と白のボーダー。
かつてイタリア最大のギャング組織【パッショーネ】にて【暗殺チーム】のリーダーであった男ーーーリゾット・ネエロ。
長年冷遇されたことで組織のボスに反旗を翻し、ボスの正体に辿り着きながらも、最後に敗れた哀しき暗殺者である。
(この世界に来て2年、か…)
死んだと思えば何故か2歳ほど若返って生きており、組織は無くスタンド使いすら確認出来ず、自らの戸籍がなかった事からリゾットは此処が自分の生きていた世界とは違う事に気付いていた。
復讐する相手であるボスも、信頼する仲間もいない今、自分はただ生きるためだけに暗殺を行っていた。
皮肉にも、この世界の裏社会は羽振りがよく、リゾットの懐は【パッショーネ】に居たときよりも随分暖かくなっている。
(さて、これからどうするか…)
仕事を片付け暇になったリゾットは裏路地から大通りに出て、今後の予定を考えていた。
そんな時にカフェに備え付けてあるテレビからニュースが流れてくる。
『あの痛ましい事故から10年、今や平和と安寧の象徴となった旧電波塔に代わり、新たに建造された【延空木】が遂に完成時の634mに達し、その姿が見えてきました』
どうやら日本のニュースらしく、テレビ画面には『犯罪とは無縁の笑顔溢れる国、犯罪0で治安8年連続世界一』と出ていた。
(……興味が湧くな)
治安が良いのはわかるが、犯罪0など不可能ではないか。仮にそれが可能だとするならかなり高度な情報操作か、或いはーーー
「……次は、この国にするか」
こうしてイタリアを拠点に活動していた暗殺者【メタリカ】ーーーリゾット・ネエロは日本へ向けて出発した。