リコリス・メタリカ   作:nightマンサー

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Thin ice peace:薄氷の平和


Thin ice peace

 

 

 

 

 

 

 

ーーー日本のとある場所。

独立治安維持組織【Direct Attack】。

通称DAと呼ばれ、警察・公安とは異なり政府と協力体制にありながら指揮下に置かれず強い特権を有する機関である。

その司令官である楠木は現在、危険人物の資料に目を通していた。

 

「……やはり、此奴が今一番危険だな」

 

楠木の手にしている資料は、他の資料より記載されている情報が圧倒的に少ない。

名前の欄は【メタリカ】と記載されており、それ以外の情報が殆ど無いに等しい。だが、最も頭を悩ませているのはその暗殺方法にある。ターゲットは刃物による大量出血、或いは酸素欠乏症で死亡しているという点だ。

得手が刃物である事は予測出来るが、酸素欠乏症はどうやって引き起こしているのか全く検討がつかない為、暗殺方法が不明の記載となっている。

そして何より、彼の姿を見たものは誰一人としていない。写真や映像は勿論、雇用主でさえ見たことがないという。

イタリアを中心に活動しているが、イタリア以外の国でも出没しており、幸いまだ日本で活動していない様ではあるが、いつ【メタリカ】による暗殺がこの国で起こっても不思議ではない状況だ。

 

「【ラジアータ】の件もあるというのに、厄介事ばかりだな」

 

今後の苦労を考え、楠木は大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……buono」

 

日本に来て数日、恐ろしき暗殺者【メタリカ】ことリゾット・ネエロは現在ーーー寿司を食べていた。

日本に来たからには美食で名高い日本食を食べてみたくなり、観光ガイドに載っていた寿司屋へと足を運んだのだ。

結果はつい母国語が出てしまった時点で察せるだろう。

 

「実に美味しかった」

 

会計後に亭主に一言料理の感想を伝え、店を後にする。

後ろから「ありがとうございました」の言葉と共に見送られながら、この日本という国について考える。

 

(確かに平和そのもの……逆にだからこそ、異常だ)

 

数日滞在していたが、確かにこの国は平和そのものだ。だが、犯罪がないわけではない。

この国に何かあると感じていたリゾットは日本に来てから夜中、自身のスタンド【メタリカ】を使用し姿を消して散策していた。

その時、はっきりと銃撃音が聞こえたのである。

音の発生源へと向かったが、距離があって時間がかかってしまい、着いた時にそこには誰も居なかった。

 

(次の日の新聞やニュースに、銃撃に関するものは一つも無かった。つまり、揉み消されている可能性が高い)

 

更に言うと、銃撃を聴いたのはその日だけではない。

早朝や昼間にも注意深く聞けば、雑踏に紛れているが微かに聞こえる。

最初は気の所為かとも思ったが、とある存在によってそれは確信に変わった。

 

(学生服を来た少女。銃撃音が聞こえた場所には必ず同じこの服を来た少女がいる)

 

茶色の鞄を背負い、学校の制服と思われる服装の少女。

リゾットが観光も兼ねて街を散策している時、この服装の少女をほぼ確実に目にしている。

そう、学生であるにも関わらず様々な場所、しかも授業があっているであろう平日の昼間に、だ。

 

(あの少女達が関わっているのだろうが、使用しているのは通常の拳銃……スタンド使いではないな)

 

恐らく最初に予想した高度な情報操作が出来る特殊機関の者なのだろうと当たりをつける。

 

(そうとわかれば、もうどうでもいい)

 

スタンド使いが絡んでいるのではと少しだけ興味が湧いてこの国に来たが、当てが外れたようだ。

 

(……残りの滞在も全て休暇にするか。羽根を伸ばすとしよう)

 

そう決めたリゾットの目にカフェが映る。

休憩するには丁度いいと、リゾットはカフェに寄ることにした。

 

「いらっしゃいませ、【喫茶リコリコ】へようこそ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【喫茶リコリコ】に来てから暫く経ったある日。

私ーーー井ノ上たきなは入ってきたお客さんを見て、無意識に息を呑んだ。

180を超える身長、黒のロングコートに黒い頭巾とという奇抜といえるファッション。しかし何より、男から感じられる独特な雰囲気に、私は萎縮してしまっていた。

 

「いらっしゃいませ、こちらメニューになります!」

 

そんな私とは対照的に、千束は意気揚々と接客していた。

 

「……ブレンドコーヒーと、おはぎセットを頼む」

 

「かしこまりました!」

 

注文をとってから千束がミカさんにオーダーを伝える。男は店内を一通り見渡して、私を見て動きを止めた。

 

「あの…何か?」

 

「……いや、その服は確か着物という物だったか?」

 

「あ、はい、そうです」

 

どうやら単純に着物が珍しかったようだ。見た限り外国人のようだし、観光で日本に来ているのだろう。

 

「お待たせしました。ブレンドコーヒーとおはぎセットになります!」

 

そうこうしているうちに千束がお客さんの前に注文の品を置いた。

その後は特に何事もなく、というよりむしろ静かにおはぎとコーヒーを食し、お礼を言う良いお客さんだった。

 

「たきな、どしたの?」

 

「……千束はさっきのお客さん、どう思いましたか?」

 

「え?なに、たきな……もしかしてあぁいう人がタイ「違います」おぉう食い気味の否定」

 

私の言いたいことは分かってたみたいで、次の瞬間に千束は真面目な顔になった。

 

「まぁあのお客さん、かなり特殊というか独特だったし。でも、何かあったわけじゃないでしょ?むしろ滅茶苦茶礼儀正しい良い人だった」

 

「それは、そうですが……「えいっ!」ふぎゅ!?」

 

腑に落ちない私の鼻を、千束はいきなり摘んできた。

 

「たきなは考えすぎ!ほら、気分転換にお店の買い出し行こっ!」

 

「おいこらぁ!ナチュラルに私一人にホール押し付けるなぁ!」

 

「クルミがいるでしょ、ちょっとだけだから!」

 

ミズキさんの声を背に、手を引かれ私は千束と共に店を出た。

 




時系列は4話(パンツ回)の数日前辺りです。
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