ifウマ娘個別ストーリー(駿川たづな) 作:愉快な笛吹きさん
『だからね、僕ちょっとびしーっと言うてやったんですよ。家畜に神はいないっ!!て。そしたらもう周り全員し〜んなって。それまで味方やった奴らまでめっちゃ白い目で見てくるんですよ。もうほんま最悪や〜思てえ』
11月上旬。昼下がりを迎えたトレーナー室に、TVから流れる再放送のトーク番組の音声が響き渡る。妙に気になる内容ではあったものの、今はPCとにらめっこを続ける方が優先だ。
と、
「どうぞ、トレーナーさん」
暇な時間ができた、とここに転がりこんできたたづなさんが両手にコーヒーカップを携え、うち一つをPCの横に置いた。
ありがとうと礼を述べて口を付ける。エアコンを控え目にしているので、少々冷えてきた身体に丁度良い。
「何か悩みごとですか?」
空いた椅子を引っ張ってきたたづなさんが自分の隣に腰掛けながら訊ねた。
「うん、たづなさんの次走をどうしようかと思ってさ」
「特に選り好みはないですし、トレーナーさんの好きにしていただいて構いませんよ?」
「それはありがたいんだがなあ……」
呟きながらキーボードを押して、モニターの画面を開催予定レース一覧に切り替える。
通常GⅠなどの大きなレースに出場する場合、規定に記されたファン数を稼がなけれはならない。
そういうと何も知らない人は『ファン数なんて曖昧なものをどうやって判定するんだ』という疑問が飛んでくるわけだが、そこは一定のルールがあり、会場の総入場者数をレースの着順である程度振り分けられる仕組みになっている。
例えば一万人が詰めかけたレースであれば、一着は5000人、二着は2500人、三着は1000人……といった具合だ。
正直、ファン数じゃなく素直にポイントと言えばいいんじゃないかとも思うが、そこはエンタメ性を重視しているのだろう。
「近年の傾向だと皐月賞の出場にはOPなら三勝、GⅢ、GⅡなら二勝、GⅠだと一勝以上が大体のラインなんだけど……」
「何か問題でも?」
「ああ、デビュー戦のときもそうだったけど今年はとにかくウマ娘の数が多くてな。年内の狙っていたOPやGⅢレースがことごとく埋まってしまってるんだ」
「ならGⅡかGⅠに出場すればいいのでは?」
「それだと好成績を上げたらほぼ確実にマークされるからなあ。できれば回避したい」
「そうなんですね……」
たづなさんが口を閉ざしたタイミングで出走受付の画面に切り替える。サイトの更新をかけてみるものの、どのレースも満席だの抽選だのの文字ばかりだ。
一応、年明け以降なら余裕があるのだが、その時期には他陣営からのチェックも入りだしてくる。
トレーナーとしては少しでも楽に勝たせるべく、どうにか手の内を晒さずに出場条件を満たしたいところだ。
と――
「あ、このレース、まだ空きがありますよ」
それまでディスプレイをぼんやりと見ていたたづなさんが突然声を上げた。差し示された指先を見てみれば『ハリボテ記念』と書かれている。
ふるふると、首を振った。
「これはだめだな。一応レースではあるんだがレースじゃない。えーとあれだ。コンセプトとしては『はじめてのお使い』に近いかもしれない」
「よくわかりませんが……」
「大丈夫だ。俺も一回だけ見に行ったがあれだけは未だによくわからん。ただスプーン曲げを試したときと同じくらい曲がれ曲がれとは祈っていたな」
そう説明するも、たづなさんの表情は更に困惑しきりだ。
埒が開かないため、とりあえず出場してもファン数は増えないことを伝えると、ようやく納得する。
「なら、このレースはどうですか?」
混沌より戻ってきたところで、またもやたづなさんが声を上げた。
もしかして『ジャパンワールドカップ』か?
おそるおそる示された画面に目を通せば『全日本ジュニア優駿』と書かれていた。
「これも駄目だな」
「どうしてですか?」
「ダートだからだよ。GⅠなのに関係者からの注目度は低いからうってつけではあるんだけど、たづなさんが走れないんじゃな」
「走れますよ?」
「だろ? だから別のプランをどうにか―――何だって?」
「走れますよ私。ダートも」
「……マジで?」
「マジです。レースに出て勝ったこともありますし」
「ええ……」
さらりとそんなことを言ってのけるたづなさんに開いた口が塞がらない。芝もダートもいけるうえに距離適正も殆どが対応できるとかちょっとチートが過ぎるだろう。
考えれば考えるほど、この凄まじい才能を使い潰した元トレーナーが腹立たしく思えてくる。とはいえそのおかげで今こうして彼女を担当しているのだから複雑な気分だ。
だが今はそこに心を砕く場面でもない。何にせよたづなさんの申告は渡りに船だった。
カップを手に取りぐいと飲み干すと、彼女に告げる。
「わかった。なら放課後にダートコースで計測してみよう。通用しそうなタイムならこのレースに出場する。それでいいか?」
「わかりました。ところでトレーナーさん」
「うん? 何か質問か?」
「いえ、そうではなく……今飲み干したカップ、私のですよ」
「え?」
言われて手の中のカップに視線を向けてみれば、紛れもなくたづなさんのものだった。
どうやら無意識に取ってしまったらしい。ついでに言えば彼女はカップに口を付けてもいたわけで。
状況を把握した瞬間、たちまち頬が熱くなる。
「す、すみません」
「あ、いえお構いなく。代わりにこちらをいただきますから」
「え?」
そう言うとたづなさんの手が残ったカップの方に伸びた。おそらく自分が口をつけたと思わしき箇所に彼女の唇が触れる。
こくん、と微かに喉が動いた後、余韻を味わうようにゆっくりと口が離れていった。
「ふう。やっぱりこの時期は温かいのに限りますね」
「ええ……そうかも」
学生かよ!と心でつっこみつつも、それでもどきどきしてしまう自分の単純さに呆れてしまう。秋だけに。今度ルドルフに使ってみるか。
「よーし、着いたな」
時は流れて12月中旬――夕方の川崎競馬場。
コースの内側――内バ場に設けられている駐車場にワンボックスカーを停めると、ボタンを押して後部のスライドドアを開放する。
全日本ジュニア優駿――その名の通りジュニア級のウマ娘だけで行われる1600m、左回りのダートGⅠレースだ。
大きな特徴としては中央トレセン所属のウマ娘だけでなく地方のウマ娘も出場する、いわゆる交流戦の形をとっており、参加した各地方からのウマ娘の多くは『中央がなんぼのもんじゃい』と毎年激しい闘志を燃やしている。
そのため個々人のレースというよりは中央VS地方みたいな雰囲気があって、見ている分にはかなり面白い。個人的にはもっともっと知名度が上がってほしいと思う。ただし来年以降にな。
「皆さん降りられるときは車内に忘れものが無いか確認して下さいね」
助手席のたづなさんが後部座席を振り返りながら声を上げると、はーいと返事が戻ってきた。
ごそごそとまさぐるような音がした後に、まずはスマートファルコンことファル子が、次いでコパノリッキーが外に降り立つ。出走予定表で二人ともレースに出場することが判明したので敵情視察を兼ねた挨拶にいったところ、何故か一緒に送迎する羽目になったのだ。
やがて三列目のシートで窮屈そうにしていた寺本と、ファル子を担当している新米トレーナーの小崎が降りていく。
「ではトランクを開けますね。荷物は向かって右からファル子さん、コパノリッキーさん、私の順番になってますのでお間違えのないように。控室とパドックは内バ場通路を使って一旦コースの外に出たあと、スタンド席が見えるあの建物の裏手になります。一般の方も多く通られますから移動の際には注意して下さいね」
先に降りていたたづなさんがこれからの動きを説明すると、寺本を除いた面子がこくこくと頷いた。
「なんか……こういうのにすごく場馴れしてるっぽくない? ラベルさんって」
「うん、デキる大人の女性って感じだね。すごい」
ほわ〜っと憧れの混じった視線を送る二人のウマ娘を、たづなさんが苦笑しながら受け流す。
実際に大人の女性なのだから何も言えないのだろうが。
「うう……すみません。本来なら新人である僕が率先して動く必要があるのに」
「いえいえ、たまたま時間のある時に調べただけですから。そういう苦い思いをするのも新人トレーナーさんのお仕事だと思いますよ」
「……は、はいっ! ありがとうございます」
「敬語になっちゃってるし……」
「力関係決まっちゃった……」
何だか見てはいけないものを見てしまった表情の二人に、たづなさんが手を叩いて促した。
慌てて荷物を出し始める彼女たちを見つめながら、隣にきていた寺本がぼそり呟く。
「家族旅行に来た母親みたいな構図だな」
「まあトレセン学園の母みたいな人だからなあ。そういやお前のところの長女は今日はどうしたんだよ?」
通常、チームメイトのレースは全員で見にいくものだが寺本さんちのマンハッタンカフェは欠席になっていた。
相変わらずの鉄面皮を貼り付けた友人が、ああ、と声を上げる。
「最近寝不足気味のようだったからな。今日はオフにして寝かせておいた」
「そうか……けどちゃんと構ってやらないと寂しがるんじゃないか?」
「夜はしっかり構っているがな…………霊関係の方だぞ」
「ちょこちょこ言葉が足りないよな、お前」
いつか事案にならないことを祈るうちに準備も終わったらしい。たづなさんがトランクを閉めたのを合図にリモコンキーで車を施錠する。
荷物の方は一旦地面に降ろされていた。その中から着替えだけをたづなさんに預けると、あとは自分がまとめて持つ。
「何かお持ちましょうか?」
デビュー戦の時も交わしたやりとりに、今度もまた首を振る。ちらりと前を見れば寺本も小崎も揃って同じようにしていた。
「『本バ場に姿を現すまで担当ウマ娘を可能な限りサポートすること』全部貴女が教えてくれたことですよ、たづなさん」
「……そうでしたね」
自身が学園で説明した教えがきちんと息づいている。そのことを目の当たりにしたからだろう。
先に歩き始めた彼女の顔は何だか嬉しそうに見えた。
「じゃーん! どうかなトレーナーさん、ファル子の初勝負服だよっ☆」
「い、いいよ! 最高だ! ブラボー! ブラーボオー!!」
男三人、外で時間を潰していると控室からファル子が飛び出してきた。きゃるん☆ とアイドルポーズを取る彼女に、小崎がオタとどこかのサッカー選手を混ぜこんだかのような感想を叫ぶ。
早速ウマスタに、と撮影会を始めだした二人をよそに、ファル子と同じ汎用勝負服を着たリッキーとたづなさんも出てきた。
それぞれの担当の前にやってくると口を開く。
「どうトレーナー? 似合ってるかな」
「勿論だ。レース時は様々な事態に直面するだろうからな。白で感情を整え、紫で直感を強めるその色合いはお前の風水によく合うだろう」
「そういう意味じゃないんだけど……あ、でも風水のことをちゃんと勉強してくれているのは素直に嬉しいな。ありがとう」
満更でも無さそうな寺本リッキーペアを視界から外すと、たづなさんを見やる。
顔を赤らめながらもじもじとお腹を押さえる仕草が何とも官能的だ。
「似合ってるし、そんなに隠さなくても良くないか?」
「で、でもお腹が……おへそが丸見えなので……恥ずかしいです」
体操服のときとはまた違った羞恥を感じているたづなさん。正直ちょっと興奮するものの、流石にレース前はさっさと立ち直ってもらわなければならない。
ため息を吐きだす。できればこれだけは使いたくは無かったが……と思いつつ、胸ポケットから秘密兵器を取り出した。
「ところで、俺の携帯を見てくれ。こいつをどう思う?」
「え?」
そう反応したたづなさんが携帯の画面を見た瞬間、ぶふっと吹き出す。表示されているのは引退したベテラントレーナーの送別会の写真。先輩方の無茶振りに応え、汎用勝負服を着た自分と他数名のトレーナーがうまぴょい伝説を踊っているところを激写された一枚だ。
時間にしておよそ数秒。彼女にしっかりと確認してもらったあと、無言で携帯を引っ込める。
「いけるよな?」
「はい。ナマ言ってすみませんでした」
おへそから手をどけ、しゃきっと背筋を伸ばすたづなさん。撮られたときには同期に殺意を抱いたものだが、まさかこうして有効活用できる日が来るとは思わなかった。
(さてと……)
問題も解決し、撮影会をしていたファル子たちも戻ってきた。そろそろパドックの方に移動する頃合いかと思ったそのとき、珍走団のような衣装を身に着けた三人組のウマ娘たちがこちらにやってきた。
全員見たことのない顔のため、この子らが地方から来たウマ娘なのだろう。
「くくっ、中央のエリート様がどんな顔をしてらっしゃるのかちょいと見にきたんだけどね。どいつもこいつも腑抜けたツラしてんのな」
先頭にいるリーダーと思わしき黒髪長髪のウマ娘が開口一番に喧嘩を売ってきた。
あらかじめ示し合わせていたのだろう。後ろの二人がほぼ同時に下品な笑い声を上げる。
「えっと、地方から来たウマ娘さんだよね? 私はスマートファルコン。ウマ娘のアイドルになるため頑張ってるんだ☆ 良かったらファル子って――きゃっ」
「ファル子っ!?」
煽りに構わず、いつものように自己紹介をしたファル子が握手をしようと先頭のウマ娘に手を伸ばした瞬間、ぱん、と払い除けられた。
呆然とした表情のファル子にすぐさま駆け寄った小崎トレーナーが相手を睨み付ける。
「いきなり何をするんだ! 始まる前から失格になりたいのか?」
「悪い悪い。アイドルになりたいとか、あんまりにもウザいこと語るもんだからちょっと気が立っちまってね。ていうか、こんなんであっさりビビっちまうなんて、根性が足りてない証拠じゃない?」
「むうっ……風水を用いなくたってわかるよ。貴方たちとは相剋なんだって! とにかく今すぐファル子さんに謝って!」
人を逆撫でするような態度に、温厚なリッキーまでもが声を荒げた。耳を後ろに倒した怒りの様子で三人に詰め寄る。
ふん、と先頭のウマ娘が鼻で笑った。またもや振り払われようとしたその腕が直前でがっしりと捕まえられる。
たづなさんだった。
「どうやら足りないのは貴方たちの知性のようですね?」
「何だって?」
「こんなことをせずともレースで決着をつければ良いのでは? それすらわからないほどの方々なら残念ですが――」
たづなさんがこちらに首を向けるのに合わせて、寺本と二人、手にした携帯をひらひらと振る。
別に撮ってはいないのだが、あいつらの頭を冷まさせるには十分だろう。
予想通り、わかりやすい舌打ちをすると腕をその場に下ろした。
「……アンタらの名前、何て言うんだっけか?」
「グリーンラベルです」
「コパノリッキーだよ」
「スマートファルコン。長いからファル子って呼んでね」
「そうかい。あたいはハートシーザー。レースになればアンタらまとめて置き去りにしてやるから覚悟しとくんだね……行くよ」
はい姐さん、と後ろの二人が応えたのを最後に、7〜80年代の空気を漂わせた三人がこの場を立ち去っていく。
こういう修羅場は初めてだったのだろう。寺本とたづなさんを除いた面々が、へたりとその場に座りこむ。
「い、一体何だったんですか彼女たちは……まるでどこかの成人式かと思いました」
「九州とか沖縄とかで発生するやつだよな。まあ、一種の地方流の挨拶だよ。昔は中央でもあれくらいバチバチだったらしいけどな」
そう呟くとうんうんとたづなさんが頷く。
さっき腕を掴んだ時の迫力からして確実に体験したことがあるクチだろう。
「大丈夫? ファル子さん」
「あ、うん。そんなに強い力じゃなかったから……けど何だろう。私はそこまで悪い娘じゃない感じがするんだけどなあ」
「例えそうでも喧嘩を売られたのは事実だからな。ああいうのはさっさと鼻っ柱をへし折って煎じて飲ませる方がいい」
「猟奇的過ぎるだろそれ」
寺本の言葉にちょっと引きつつ、時計を見やる。間もなくパドックでのお披露目が始まる頃だ。
とりあえず移動しようかと皆に告げたあと、やや慌ただしくこの場を離れた。
『6番ハートシーザー、3番人気です』
アナウンスと共にパドックに出てきたハートシーザーさんが、短ランの特攻服っぽい上着をばっと脱ぎ捨てた。
サラシだけを巻いた引き締まった上半身を露わにしながら、豪快に声を上げる。
「さあ注目しな! 今年はこのハートシーザーが中央の奴らを蹴散らしてやるからね。楽しみに待ってるんだよ!」
派手にタンカを切った瞬間、会場がどっと活気づいた。どうやら場の盛り上げ方をしっかり心得ているらしい。
次に出る予定のコパノリッキーさんがうわあ、といった顔をする。
「ど、どうしよう……せっかく風水のことをアピールしようと思ってたのに」
「気にしない気にしない☆ いつもみたいに明るく可愛くいっちゃえば大丈夫だよ」
「風水のアピールならレースで好成績を収めた後の方が効果的だと思いますよ。今はまず地方よりになりつつある観客の空気を取り戻すのが良いと思います」
「う、うんわかった。じゃあ行ってくるね!」
そう告げて、門扉を潜ったコパノリッキーさんが、スタンド側に姿を現した。
ファル子さんと固唾を飲んで見守るなか、いよいよ紹介アナウンスが流れる。
『7番コパノリッキー、2番人気です』
「あわわ……ええっとその……コ、コパ」
「コパ?」
「コパ……コーッパッパッパッパ!! ここが地方ウマ娘たちの墓場でリッキー!!」
内心かなりテンパっていたのだろう。大きなバンザイポーズをとりながら、コパノリッキーさんがキャラを忘れたかのような言葉で高らかに勝利宣言をした。
「……」
「……」
我に返ったらしい彼女の身体がぷるぷると震えるなか、スタンドがしんと静まりかえる。
そして――
「ぷっ」
誰かが漏らしたその声をきっかけに、場内が大きな笑いと歓声に包まれた。ぶっつけ本番でやった一発芸は見事受け入れられたらしい。
「面白かったぞー! リッキーちゃーん!」
「いいぞー! その調子でやったれよリッキー!」
「そうだそうだ! 最近は負けがこんでたけどな、今年こそ地方の奴らを墓場に送ってやってくれー!」
「ていうかコーッパッパッパって何? チョー受けんだけどw」
「汎用性高そうだよな。コーッパッパッパッパ!! ここがきのこ派たちの墓場でリッキー!! なんつってw」
「あ? テメエたけのこ派? 喧嘩売ってんのか?」
大小様々な声がスタンドから飛び交うさまに、ふふっ、と微笑む。まだレース前だが、どうやらパドックでの最優秀賞は彼女で決まりらしい。
とはいえ本来のキャラと全くかけ離れた言動のため、当の彼女は真っ赤になっていたのだが。
『8番スマートファルコン、1番人気です』
「みんなー! 今日は来てくれてありがとう! スマートファルコンは長いから、ファル子ってよんでね☆」
『11番グリーンラベル、5番人気です』
「今日は足を運んで下さってありがとうございます。恥じないレースをするのでよろしくお願いいたしますね」
それなりの拍手をもらって舞台を降りると、ファル子さんと話しているコパノリッキーさんにすぐさま駆け寄った。
「ありがとうございましたコパノリッキーさん。おかげで多くの観客の方が応援して下さるみたいですよ」
「あ、ありがとう……でも、ううっ……あんなこと言うつもりじゃなかったのに。全然私のキャラじゃないよお〜!」
「でもでもっ、さっきのでリッキーちゃんを知ってもらえるいいきっかけにはなったよ☆ ほら、あそこを見て」
ファル子さんが示した方を向けば、いつの間にか大勢のちびっ子が柵越しに詰めかけていた。その目が全てコパノリッキーさんの方に向けられていることから、何を期待しているのかは明白だ。
「ほらほらリッキーちゃん。風水系ウマドルを目指すならドサ回りだって必要だよ。頑張ってね☆」
「え、いやファル子さん、私ウマドルやるなんて言ってな」
「おね〜ちゃ〜〜ん! さっきの面白いやつもう一回やってほしいな〜!」
「う、うう〜〜」
そう言ってきらきらした目で見つめてくる子供たちに頭を抱えて葛藤するコパノリッキーさん。
だが、やはり小さい子供の世話をするのが特技だと車の中で語っていたように、最終的に腹を括った様子で子供たちの前に立つと、バンザイポーズをとる。
「コーーッパッパッパッパ!! よくぞ来た、ここがキミたちの墓場でリッキー!!」
「出たー」
「きゃー」
「逃げろー」
笑いながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく子供たちに、スタンドから微笑ましい空気が流れる。
ぷるぷると、またも恥ずかしさに震えているコパノリッキーさんに近付いたファル子さんが、ぽんと肩を叩いた。
「多分この先ずっとやることになると思うから、しっかり練習しといた方がいいと思うよ☆」
「……はい」
もう後戻りはできないことを感じたコパノリッキーさんががくりと項垂れる。
後日、彼女の振る舞いがSNSでバズり、多くのファンを集める結果となるのだが、今はまあいいだろう。
不意に耳に入ってきた舌打ちを横目で見れば、スケバンウマ娘のハートシーザーさんが面白くなさそうにこちらを睨んでいる。
とりあえず、前哨戦はこちらの勝利のようだった。