Present days of HOLOLIVE   作:YSHS

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 本SSでは、PCやらネットやらの用語や設定などがやたらと出てきますが、作者は情報系に関してはほとんど知識が無くにわかもいいとこなので、間違いや勘違いなどがあると思います。もしよろしければ詳しいお方、至急、コメントくれや。ついでにおもしろい知識も教えてくれると最高や。ガバ、ためて待つぜ。

 あと本SSはAIのべりすと君に手伝ってもらいながら書きました。AI君の成分は薄目かもしれないけど。


Present days of HOLOLIVE

【0】

 知ってる?

 

 この世界の外には、もう一つ世界があるって。彼らは、僕らを観測している。

 

 知ってる?

 

 この世界が、実は仮想現実で、その母世界こそが現実世界。かつて二つは液晶で隔てられていた。

 

 知ってる?

 

 彼女らには、そのもう一つの世界に、もう一人の自分が居る。

 

 そして僕たちは、知り続けなければならない、知り得る限りを。たとえ、目を背けたくなったとしても。

 

【1】

 

 僕がカバー株式会社で働くことになったのは、単に暇だったから。

 

 尤も、設立したてのスタートアップ企業なものだから、貰えるお金に対して割に合わない量の仕事をすることになった。ていうか最初はお金もらえなかった。まあ元より、退屈凌ぎになりさえすればロハでやってもよかったんだけど。

 

 で、インターンとして入った僕がいきなり任された仕事が、カバーが運営するヴァーチャル芸能事務所『ホロライブ』のプロデュースだった。僕としてはVR卓球ゲームに携わりたかったんだけど。

 

 そこのアイドル第一号、ときのそら。彼女が、僕の初めての担当だった。

 

 当初の同時接続数はたったの十三人。今でこそ、彼らのことを円卓の騎士などと敬意を示しつつ茶化しているけれど、当時はあまり前向きになれるようなものではなかった。

 

 ひたすらに試行錯誤だった。方々の動画のネタや、配信者のトークを参考にしたり、数少ないコメント欄からどのような方向性にするかと思案したり。

 

 ターニングポイントは、彼女の持ち前の包容力が、視聴者に認知されたことだった。これをはじめとして、彼女のキャラが固まっていき、それにともなってか登録者数に視聴者数が、少しずつながら増えていったのである。

 

 その後、ロボ子さんとAZKiのデビューに、さくらみこスカウトされ、星街すいせいが加入し、それから――それまで実質ホロライブメンバーでなかった――AZKiが名実ともにホロライブ所属となったことで、彼女らはホロライブ0期生と呼ばれるようになった。

 

 時期を同じくして、夜空メル、アキ・ローゼンタール、赤井はあと、白上フブキ、夏色まつりらが第一期生と、大神ミオ、猫又おかゆ、戌神ころね、および一期生との兼任で白上フブキの四人による『ホロライブゲーマーズ』が活動を開始していき、その後第二期生の湊あくあ、紫咲シオン、百鬼あやめ、癒月ちょこ、大空スバルが登場していき、ホロライブは更なる発展を遂げる。

 

 この頃になると、コメント欄やSNSによる情報が随分と充実してきたものだから、僕はそれらのデータを収集し分析に掛けることで、視聴者が彼女らにどういったイメージを持っていて、何を期待しているのかを割り出し、それによるプロデュースの方針や企画の考案などを行うことができた。初期みたいに、適当な案を手当たり次第試すといったことは、今はもう無い。

 

「ここまで来るとはね」

 

 僕がそう言うと、目の前の女性スタッフ、友人A女史はくすりと笑った。

 

 彼女は、ときのそらの友人であり、配信における裏方担当。当初では声のみでそらの配信に出演することがあったが、のちに配信で姿を現すようになり、半ばヴァーチャル配信のレギュラと化したこんにちでは、ホロライブ全体の裏方担当となっている。

 

「プロデューサの部署も、随分成長しましたよね」

 

「まぁね。僕一人じゃ到底無理だよ。君や、他の社員のおかげだ」

 

「いえいえ。私なんてまだまだですよ」

 

 謙遜する彼女に、「そんなことはないよ」と否定しておく。事実、彼女がいなければ、今のホロライブはなかっただろう。ときのそらをはじめとした女所帯のホロライブでは、男である僕より、同じ女である彼女のほうがライバーの女の子たちの相談がはかどる。だからこそ、そらたちはここまでやってこられたと言える。

 

「プロデューサってさ、ときどき凄くロマンチストになる時ありますよね」

 

「えっ?」

 

 予想外の言葉に、思わず変な声で聞き返してしまった。

 

「ほら、ホロライブを立ち上げた時のこと覚えてます? 『彼女たちが、自分たちの世界を見つけられるまで、僕はここ残り続ける』って」

 

「ああ……。言ってたね、確かに」

 

「あれ、結構感動したんですよ。普段はロボットみたいに、冷徹なまでに理路整然だと思ってた人が、不意打ちでそんなことを言うなんて」

 

 それはちょっと恥ずかしいな。

 

「それにしても……あの時はまさかこんなことになるとは思ってませんでしたよ。正直なところ、私はただの事務員だったわけですから。それが今となってはホロライブを支えるプロデューサーになってるんですもん。人生ってわからないものですね」

 

 しみじみと言う彼女。

 

「へえ。昔のプロデューサでも、そんなロマンチックなこと言うことがあったんですねぇ」

 

 と横から行ってくるのは、ホロライブ新人スタッフの春咲のどかである。新人と言ってもそれは飽くまで正式にスタッフとして雇われたのはという話で、少し前からホロライブのお手伝いスタッフとして働いていた時期を合わせると、少し長くここで働いている。

 

「意外かな」

 

「はい。私がここに来た時には、えーちゃんさんの言うように、ちょっと怖いくらい冷静で、出来る人って思っていましたけど……、最近は随分と柔らかくなったし、冗談も言うようになったなぁって」

 

 のどかに言われて、少し考える。

 

 確かに、以前の僕はもっと合理的で冷たい人間だったかもしれない。ホロライブの立ち上げのことも、その時の僕にとっては単なる暇つぶしだった。それがいつの間にか、男の身ながら相当馴染んでいるように思える。

 

「やっぱり、みんなと関わるようになってから、変わったんだろうね」

 

「そりゃあもう。プロデューサさんは、私たちの大切な仲間ですし!」

 

 のどかちゃんのその発言に、近くに居た皆もうんうんとうなずく。

 

「そっか。そうだといいんだけど。……これでよしっと」

 

 エンターを押し、僕は作業を終わらせた。

 

「毎度思うんですけど、プロデューサの組んだ業務システム、私らにも使えないんでしょうか」

 

 と、僕の画面をたまたま見ていた他のスタッフがぼやくように言った。

 

「それはできない。僕用に調整したやつだからね。他の人用に調整するとなると、個々の業務に合わせなければならない。その代わり、汎用システムで皆もある程度業務を効率化できているでしょ。各々の業務ごとに調整したの、大変だったんだから」

 

 僕がそう言うと、彼女は「そうなんですけどぉ」と口を尖らせた。

 

「まあまあ、いいじゃないですか。プロデューサさんのおかげで皆さん楽してるんですから。感謝こそすれ、文句を言うなんて以ての外ですよ」

 

 と、のどかが彼女を微笑みながらたしなめた。

 

「そのうち、もっといいのを作るから、今はこれで我慢して。カスタマイズ機能を改良してみるよ。フロントエンドは苦手だから、分かりづらくなるかもしれないけど」

 

 僕がそう言うと、彼女は「はあい」と言いながらも不満げな表情を崩さなかった。

 

「プロデューサ、お疲れ様です」

 

 そう言って入ってきたのは、ときのそらである。

 

「ありがとう。そらたちもお疲れさま」

 

 僕がそう返すと、彼女はクレジットカードを出してきた。僕が彼女に貸していた、経費用のカードだ。

 

「カード利用の通知を見て思うんだけど、そらは遠慮しすぎじゃない?」

 

 それを僕は受け取りながら言った。

 

「会社の、それも元はプロデューサ君が稼いだお金だから、無駄遣いはできないよ」

 

「多少良い物を食べたって罰は当たらないよ、そのための福利厚生なんだから。まあ、シオンとねねに、おかゆとかはちょっと遠慮無さすぎだけど」

 

 茶化す風に僕は苦笑する。

 

「そういうものかなぁ。じゃあ、たまには贅沢しようかな」

 

 とそらが笑う。

 

「今度の打ち合わせでは、少し奮発しよう。良さげな店を調べとくよ。何かリクエストは?」

 

「特にないかな。プロデューサ君に任せるよ」

 

 そう言って意味ありげにそらは笑った。

 

「了解」

 

 と、僕は短く答えて、また作業に戻った。

 

「男の見せどころですね、プロデューサ」

 

 僕の肩に手を置いてAちゃんがニヤニヤと笑みを浮かべて言った。

 

(デートじゃあるまいし)

 

 口には出さないけど、僕は小さく嘆息してみせる。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 ホロライブ本社の休憩室にて、僕は悩んでいた。目の前にあるのは、ホロライブ所属Vtuberたちの活動状況をまとめた資料が映るタブレットだ。ホロライブ所属のライバー全員の登録者数、同時接続数、SNSでのトピック数に、彼女らへの毀誉褒貶の評価の言葉の頻出率、エトセトラ、エトセトラ。ホロライブは今、過渡期を迎えている。

 

 ホロライブは、アイドルとライバーを掛け合わせた新しい形として売り出したVtuberというコンテンツだ。当初、ホロライブの狙いは大成功だったと言える。登録者数は順調に伸び、同時接続数も爆発的に増えていった。海外勢を取り込んだのと、巣ごもり需要が発生したのが大きい。

 

 現在ではその勢いは落ち着きつつある。その上で僕らがやるべきことは、更なるホロライブの発展的なイベントを考え、それをいつどのようなタイミングで披露するかである。

 

 意表を突いたアイデアが好ましいけれど、ファンたちが期待していたことを実現するのも良い。

 

「ま、僕の仕事じゃないか」

 

 そう、僕の仕事はデータの統合と、情報の収集に提供。昔は僕もアイデアを練ったものだが、今のホロライブにはアイデアマンが十分に居る。社長のYAGOOこと谷郷さんだって、Vtuberがどのように発展していくかの見通しを持っているはずである。僕の本分はそれらの効率的な道筋を示すことのはずだ。

 

 差し当たって、今日の業務はここまでとしよう。後は僕のシステムが整理してくれるし、最悪家からやっても問題ない。これもうプロデューサじゃないな、僕。

 

「お疲れ様です、プロデューサさん」

 

 帰ろうとしたところで、背後から声をかけられた。

 

「お疲れ様、のどかちゃん」

 

 振り返ると、そこに居たのは春咲さんだった。

 

「もう帰りですか? まだ明るいですけど」

 

「うん。事務所でやることは終わったからね。今日は他に家でやることがある」

 

「そうですか。ではお疲れ様です」

 

 のどかちゃんからの挨拶に頷いて、僕は帰宅した。

 

 家に帰って僕は、玄関に置かれている段ボール箱を見た。既に開いている。開いた箱の中から覗く、TachibanaLab(橘総合研究所)という名称に、そのロゴ。

 

 ひたり、と、裸足が床を踏む音が聞こえて、廊下を見る。居間の扉から、女の子が顔を覗かせていた。中学生程度の。可愛らしい熊の全身パジャマを着ている。

 

「おかえりなさい」

 

 女の子――妹は被っていたフードを外し、不器用に笑って言った。左の髪の毛を伸ばした、茶色い髪の毛が露になる。

 

「ただいま」

 

 僕がそう返すと、妹は僕の足元にある段ボールを指し、

 

「それ、届いてたよ」

 

 そわそわとした様子で言う。

 

「そうみたいだな」

 

「今、やる?」

 

「まずは夕飯の支度でもしよう。組むのはそれからだ」

 

 と言うと、妹は鼻白んだ顔で、うん、と頷いて引っ込んだ。

 

 着替えて手を洗い、僕は台所へ行く。そこでは既に妹が待っていた。

 

 うちでは基本的に料理は二人でやる。二人とも料理は不得手で、特に手際が悪いため、少しでもペースを速めたいからだ。それと、不得手と言えど僕ら兄妹にはそれぞれ得意な作業があり、それらを分担することで効率が上がるからだ。

 

 余談だが、たまにホロライブの事務所で料理上手な子がうちに来て料理を作ってくれることがあり、その時は美味しい食事にありつけるのは有難い。……まあ、はあちゃまが来た時は全力で止めるが。

 

 そうして夕飯を作り上げ、それらを平らげ片づけると、再び妹はそわそわと外出の支度をした。僕も身支度を整えると、玄関の箱の中身を車に積んで家を出た。

 

 僕らが来たのは、どこかにある倉庫だ。中に入ると、薄暗い空間の中で、マシンが発するランプの光、或いは液晶画面の光が飛び交っていた。上の方からは、業務用の空調設備による音が下りてくる。

 

 これは、僕が個人で作った――どこに出しても恥ずかしくない逸般の誤家庭の――サーバである。ホロライブに関するデータの採集と分析、世の中のトレンドや市場の情報などを収集して管理するためのものだ。ワイヤードに繋がる環境さえあれば、ここから送られてくるデータを、どんなパソコンからでも見ることができる。ハイパーバイザはVMw〇reのESXi。使用OSは安心と信頼の橘総研のCoplandOS。ちなみにルータはヤ〇ハRTX。

 

 法律? 知らない。僕、法律分からない。

 

 僕らは早速作業に取り掛かった。

 

 今日は届いたパーツを使って、このサーバに更なる拡張を施す。その間は情報収集システムが使えないが、代わりに別のマシンが簡易的にデータ管理と収集を行ってくれる。

 

 作業は割と手こずった。主に僕のほうが。

 

 対照的に妹のほうは、迷いなく、器用に配線などを繋げていっていた。結局僕の担当の一部は、妹にやってもらうことになった。

 

「いつも悪いね」

 

「大丈夫。好きでやってるから」

 

 作業片手間に妹は、笑うことなくそう答えた。不機嫌と言うよりは、機械に没頭している様子である。

 

「はい、できたよ」

 

 しばらくして、作業を完了させた妹がそう言い、僕は頷いてノートNAVIを操作してこのサーバからの仮想デスクトップを映し出す。一連のシステムを全て試してみたけど、特に異状はない。データにも欠損は無い。

 

「うん、大丈夫そう。ありがとう」

 

「また手が必要だったら、言ってね」

 

 そう言って微笑む妹に、僕は微笑み返し、データへ向き直る。

 

 そしてため息が出た。

 

「どうしたの」

 

 不安そうに妹が尋ねてきた。

 

「ん? ああ。ちょっと、このデータがね……」

 

「……アンチの人たちのこと?」

 

「正確には、アンチの他に、特定厨とか、熱狂的なファンもといストーカとかだな」

 

 ホロライブに限らないが、Vtuberは注目の新興コンテンツだけあってアンチも多いし、悪戯でライバーの個人情報を嗅ぎまわる野暮天や、溢れ出るリビドに任せて熱烈なアプローチを掛けてくる困ったお客に悩まされている。

 

 ブロックチェーン技術の応用により、そういった輩を引っ張り出して処理するのは簡単になったものの、それでも後を絶たない。そもそも彼らのような手合いは自分が罪を犯している自覚が無い。一線を越えるのはまだいいが、よしんば咎められたとしても、自分のは正当だとか、相手のほうがが悪いだとか、ただの悪戯で誰にも迷惑かけていないとか開き直る。

 

 何よりも数が多い。ウジのように湧いてはハエのように飛び散る。発生してからこちらが根元を叩く前に、ライバーが何かしらの傷を負うこともザラだ。

 

 僕は、毛細血管のように広がった樹形図が映る画面を見て辟易する。

 

「そりゃあ、皆に好かれるモノなんて無いし、好きな人も居れば嫌いな人も居るのは分かってるんだけど……。でも、どうしても、皆がホロライブを好きになってくれたらなって考えてしまうんだ」

 

 僕の顔が苦笑になるのを感じた。

 

 妹は何も言わずに、じっと僕のことを見る。僕は続ける。

 

「それにさ、ホロライブのファンって、本当に良い人ばかりなんだ。みんな、ホロライブを心から愛してくれてる。だから、そんな人たちを、僕のエゴで振り回してしまうのは、やっぱり良くないと思うんだよ」

 

 今更ながら、自分の弱音が恥ずかしくなって、俯くように僕はNAVIに向き直った。

 

 そこだった。

 

「お兄ちゃんなら、できるんじゃないかな」

 

 唐突に妹がそんなことを言った。彼女な続ける。

 

「私も、皆に愛されたいって、思う時もあった。でも何だか、それって、私の意思で動いている人に愛されているみたいな世界だなって。そんなの、気持ち悪い。そんなんじゃ、私独りの世界とあまり変わらないなって。だから、別に私のことを嫌っている人が居たっていい。皆が、自分の意思で動いている世界で、私を愛してくれるような、大好きな人たちにさえ、愛されれば十分だって――」

 

 そこで妹は言葉を切った。

 

 僕は思わず顔を上げる。そこには、少し寂しげな笑顔を浮かべた妹が居た。

 

「お兄ちゃんなら、ホロライブが、皆とまではいかなくても沢山の人に愛されるようにできるかもね」

 

 そう言って妹は怪しげな笑みを浮かべだした。

 

 それはいつもの内気な表情とは違い、皮肉っぽいもので、まるで別人だった。

 

玲音(レイン)

 

 僕は妹の名前を呼んだ。

 

「どうしたの」

 

「僕はたまに、君が解からなくなる。いや、思えば君を理解していた例しが無い。そもそも、そのNAVIへの異常なまでの知識をどこで仕入れたのかとか。君は一体誰なのかとかね」

 

 僕がそう言うと、妹はいつも通り無言で微笑むだけだった。彼女は相変わらず何を考えているのか分からない。僕はため息をつく。

 

「……まぁ、いいか」

 

 そして僕は諦めた。この妹には、何を言っても無駄なのだ。踏み入ったことを訊いても、いつも黙して微笑を返されはぐらかされる。

 

 僕は、持っていたNAVIにメールが届いていたことに気付いた。

 

「橘総研からか……」

 

 橘総研と付き合いを持ちだしたのは、およそ一年弱前。どこで知ったのか、僕の技術を買って、カバー社を通じコンタクトを取ってきたのだ。僕が構築したサーバに使える試作のパーツに、最新の技術を格安で提供する代わりに、それらの使用感データの提供に、また橘総研が行っているデータ収集の手伝いを頼みたいとのことであった。他にもいくつか条件があるが、どれもさして僕に負担が掛かるようなものではなかった。僕側のデメリットが薄過ぎる。

 

 正直胡散臭いことこの上なかった。橘総研の製品には驚異の信頼99を持てるくらいには使わせてもらっていて何だが、僕のようなしがないエンジニア・データサイエンティストもどきに、橘総研ほどの組織が美味しい話を持ち掛けてくるなんて、何か裏があると邪推するのは当然だ。

 

 ただ、いくら胡散臭いと言えど、取引内容はとても魅力的であったために、結構僕は揺れていた。仕事が疎かになりそうなくらいは。

 

 最終的に彼らの提案に応じる決断をしたのは、玲音に、「大丈夫だと思うよ」と言われたことによるものであった。

 

 どうして、まだ中学生――それも不登校――の、社会経験をしたわけでもない女の子の言葉を信じたのかと言われると、答えに困る。でも僕は、その彼女からの言葉を聞くや、一気に心配事が薄まり、決断が軽くなったのだ。

 

 そうして僕は橘総研と取引をする間柄となった。

 

 今回先方が提案してきたのは、そろそろ液浸式冷却器を使ってみないかというものであった。

 

 水より沸点の低い特殊な絶縁性の液体にサーバを沈めるという物だ。熱を受けて沸騰すると、液はその熱を奪って気化し、その気体を冷却して液体に戻し循環させるという方式だ。空冷式に比べて冷却効率が良く、PUEは驚異の1.05以下という数値が出されている。浮いた電気代を効率的に使えるな。その上、機器同士の空気の流れを考慮して隙間を設ける必要も無くなるから、サーバが大幅に小型化できる。冷却ファンの騒音も無いから、設置場所も選ばない。おまけに、液体の中である故に温度・湿度が安定し、しかも埃とは無縁であるために、故障率へ減少するとのこと。必要であれば、発生した熱エネルギィを何かに転用する設備も付けるとのこと。

 

「良いね、それ。導入してみたら?」

 

「そうだな。かねがね気になってはいたんだ。詳しい話を今度聴いてみよう。……これでサーバとの添い寝ができるぞ」

 

 と、僕は返信をした。ついでに、サーバ機器の構成も教えてほしいと来たので、構成をしたためたデータファイルを送った。念のために簡略文書も。

 

 さんざん疑ってはいるものの、やっぱり橘総研から提供される製品は魅力的だ。どうも個人でサーバを作るのは限界がある。今度提案された液浸式の設備は、橘総研とのコネが無ければこの先手に入っていたかどうか。

 

 コネと言えば、Knights(ナイツ)も外せない。

 

 彼らは橘総研とは別に、僕に直接コンタクトを取ってきたハッカー集団だ。

 

 こちらは橘総研に輪を掛けて怪しい連中だった。ハッカー集団とされているだけあって、他人様のNAVIに土足で入り込んでデータを奪ったり、遠隔操作で犯罪の片棒担がせたりといった犯罪行為も辞さない。

 

 見なかったことにしようとしたけれど、これもまた、玲音の鶴の一声で翻意して誼を持つことと相成った。勿論、データや技術の提供以外に、テロ等行為には手を貸さないとの条件でだが。

 

 玲音が言うには、ナイツは僕が持っている技術に興味を持っているらしい。僕が提供しているパーツの性能と価格帯では、とても実現できないような複雑な回路を、あの人たちは組んでいる。そんな彼らが僕に声を掛けてきたのは、僕の技術に期待しているからだとのことだった。

 

 確かに、玲音や橘総研の力を借りて組み上げたマシンに積み上げてきた技術は、手前味噌ながら相当なものとなっている。これらの技術と、彼らの技術を互いにシェアしないかとのことだ。

 

 例によって僕は、玲音の口添えで、ナイツからの提案を受け入れを決めた。彼らの提示したサービスに魅力を感じたのもある。

 

 僕のマシンに入っているアプリの中には、ナイツから提供された物もある。これについてのデータ処理はあちらが運用するサーバの負担だから、助かる。

 

 こうして、僕は高度なハードやソフトと引き換えに、得体の知れない連中と関係を持つに至った。

 

 そして、その関係がもたらすメリットとデメリットは、僕が予想していたものよりも大きかった。まずメリットとして、僕の技術力の向上に繋がり、それはすなわち、カバー社の利益となる。次にデメリットとしては、上で言った通り、いつ弓を引いてくるかも分からない連中に背後に立たれること。僕自身はどうなったところで、どうでもいい。玲音だっていざとなれば自身でどうにかできる。ただ、カバー社やホロライブに類が及ぶのだけは避けなくてはならない。それだけは絶対にだ。……なんだか最近は、この選択を後悔し始めている自分が居る。

 

 こうして人は狂っていくのだろうか。

 

 嘆息して僕はノートNAVIを閉じた。

 

 今日のところはここでお開き。妹と共に家に帰って風呂を済まし、明日に備えて眠る。

 

 翌日、事務所に来た僕は、僕の仕事をする。

 

 事務所には、僕より早く来た人も居れば、遅く来る人も居る。何時に来ようと、挨拶は決まって、

 

「おはようございます」

 

 である。

 

 そしてまた、扉が開く。

 

 入ってきたのは、ライバー。

 

 事務所の人たちに一通り挨拶をしたのち、

 

「おはよう」

 

 最後に僕に挨拶をした。

 

 僕は、

 

「おはよう」

 

 と返した。




 ちなみに一発ネタのため、続きはありません。設定などは後で出すかも。
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