ダックスフンドの首輪 作:転音
1942年 1月
車から降りたとたん二つの敬礼に迎えられ、動揺しながらも答礼。いや~ビビった。年上の人は自分より階級が上なのが普通だったので、相手が先に敬礼してくるという状況はなかなか新鮮だ。
「臨時補充員として、カールスラントから派遣されましたメラニー・G・クライン、階級は少佐です」
「第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズ司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケといいます。階級は少佐、隣にいるのは・・・」
「戦闘隊長を務めている。坂本美緒、同じく少佐だ」
・・・と思ったら階級は同じだった。というか、司令と戦闘隊長・・・つまり隊の中では彼女たちのほうが上だった。なんだ?上では私をビビらせるのが流行ってるのか?
「これから宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそです。宜しくお願いします」
「当初聞いていたよりずいぶん早い配属ですが、何かあったのですか?」
「ああ・・・いや、うちのエーリカがご迷惑をおかけしているようですので・・・早い方がいいかなと」
「なるほど・・・」
私の発言に苦笑いするヴィルケ少佐。どうやら私が手に入れた情報はちゃんと正確なものだったようである。フェイクであってほしかった。いつまでも門の前で立ち話していてもしょうがないので歩いて基地の中へ、食堂に隊員を集めてあるとのこと。
ミーナ少佐と横並びに歩き、共通の知り合いであるエーリカやバルクホルンについて話しつつ食堂へ。坂本少佐は道中割と無口だった。眼帯・・・はまあ魔眼だろうけど、分かってても怖い。なんか背中に圧力を感じる気がする。ミーナ少佐とは会話のネタがあるけど・・・なんか友達の友達感があってなんとなく接しずらい。
そんな感じでメラニーがコミュ障を発動しつつ、食堂へ着いた。ゆっくり中を覗き込むと・・・いた。都合のいいことに入り口側に背中を向けて、机に座って・・・なんで机に座ってるのかは知らないが、バルクホルンと話してるらしい。
戦場で鍛え上げた隠密スキルをフルに発揮し、そろりそろりと近づいて・・・
「だーれだぁぁぁぁぁぁ!?」
「メラニぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
すさまじい勢いで私を押し倒してくるエーリカを受け止められず、後頭部を床にしたたかに打ち付け痛みに悶絶する私。そんな私に乗っかる形で抱き着いて動かなくなったエーリカ。呆然とするバルクホルン他隊員。冷静に眺めている坂本少佐に顔をそらして笑いをこらえるミーナ少佐。
う~ん。カオス。
「やっと、やっと会えた・・・ホントに生きてる・・・」
「生きてる。生きてるから一回離れ・・・って、エーリカ?」
「よかった。ほ、ほんとによが、よかったぁ・・・!」
「・・・約束したからね」
ようやく引っ付いていたエーリカが顔を上げて、私と目が合った。
「久しぶり、メラニー」
「うん、久しぶり。フラウ」
泣いてるような笑ってるような・・・こんなに近くで顔を合わせているのにぐちゃぐちゃになってよく見えない。
「・・・変なの。泣きながら笑ってるじゃん」
「エーリカこそ、普段の余裕たっぷりな感じはどうしたのよ」
「私はいつも通りだし」
「私もいつも通りだよ」
「・・・ふふふ」
「・・・にしし」
ああ、本当に。生きててよかったぁ。
*****
「改めて、501に臨時補充員として来てくれたメラニー・G・クライン少佐よ」
「宜しくお願いします」
「積もる話もあるでしょうから、バルクホルンとエーリカはクライン少佐を案内してあげて」
しばらく再会を喜んだ後他の隊員たちとも挨拶をちゃんとして。二人と会話しながら基地を案内してもらう。
「私がいなかった間、ずいぶんたくさん問題を起こしてたみたいだね?エーリカ」
「ん~そうだったっけ?」
「そうだったっけ?じゃない!・・・撤退作戦中のエーリカはひどかったぞ。あの頃は問題起こす余裕もなかったから騒ぎになるようなことはしてないが・・・危なっかしくて見てられなかったな」
「へ~。あの何考えてんのかわかんないエーリカがね・・・」
「何が言いたいのさ」
「ベっつに~」
そんな感じで、珍しく私とバルクホルンがエーリカをからかいながらの楽しい時間だった。
さて、501に来ると1つ問題になる事がある。それが私の階級。少佐というのは平の隊員にしておくにはちょっと高いのだ。指揮系統も、私が来たことで面倒くさいことになる可能性がある。
その辺の問題をミーナ司令と話し合った結果、私は夜勤をすることになった。理由としては、夜目が利き夜戦の経験があり、通信魔法を使ってナイトウィッチと連携すれば夜でも十分戦力になるからだ。夜間戦闘隊長といったところだろうか。
ミーナ司令は私に書類仕事を押し付けようとしてきた。できれば『臨時なんで、正式な隊員じゃないんで』と断りたいところだが、メリットもあるので多少は引き受けておいた。・・・憂鬱だ。書類戦争のやり方なんて忘れたし、思い出したくもないのだ。
それから戦力不足について。
「何か当てはあるか?今年の6月までに4人もウィッチが抜けるんだ」
「何があったらそんなことになるんです?」
大まかな事情としては、ブリタニアがいちゃもんをつけ自国のウィッチを転属、ブリタニアと同盟関係にある扶桑が顔を立てるため同調、カールスラントはそれに反発して・・・という感じらしい。つまり政治的な事情である。
面倒くさいなぁ。この分だとミーナ司令も上からいろいろ言われていそうだ。やっぱ書類触りたくないなあ。
「と、言うわけなのでできればその3カ国以外のウィッチがいいんだが・・・」
「う~ん・・・東部戦線にいたことがあるので、一応オラーシャとスオムスには掛け合ってみます。オラーシャは厳しいと思いますが、スオムスは義勇軍の借りがありますし、自国領が前線じゃなくなったのでウィッチを出してくれるかもしれません」
「本当か!いや~助かる!」
「いえいえ。スオムスにはとんでもないウィッチがいるので、楽しみにしていてください」
1941年6月から始まったバルバロッサ作戦、並びにタイフーン作戦により押されっぱなしだった東部戦線ではペテルブルグやツァーリツィンなどを奪還することに成功。これにより侵攻を受けていたスオムスは最前線でなくなったために戦力に余裕が出来ていた。
オラーシャのほうは前線を維持するための戦力の大部分を担っているためそれほど余裕がない。それでも人口がやたら多く、それに比例してウィッチの数も比較的多いオラーシャなら突っつき続ければいつか派遣してくれるだろう。
一通りの連絡事項や話し合いがまとまり、ミーナ(仕事以外で敬語はなしにしようと決めた)から明日と明後日はしっかり休んで疲れを抜くように言われた。
「3日後にエーリカと演習をしてほしいの。実力がどのくらいなのか、一度確かめておきたいから」
「いいけど・・・」
「どうかしたの?」
「いやぁ・・・人が相手の演習だと、私の力は測れないんじゃないかなあ」
「どういうことだ?」
「まあ、説明しても納得できないと思うから、一度見てから判断して」
「・・・分かったわ。演習以外の試験も出来るから大丈夫よ」
「おっ流石に設備は充実してるんだね。りょーかい」
エーリカか。これまでは一度も私が勝ったことなかったけど・・・う~ん。勝てるかなあ。私は相当強くなった自信があるけど、一対一だと微妙かもしれない。
一度くらい勝ってみたいなぁ・・・
「誰に勝ってみたいの?」
「うひゃあ!?・・・エーリカ、急に話しかけるのやめてくれない?」
「べつに、ぼーっとしてるのが悪いんじゃない」
「・・・はぁ。それで、どうしたの?」
「ちょっとお願いがあるんだけど・・・飛ぶの、やめてほしいんだ」
「・・・は?」
*****
「極力飛ばさないように・・・」
「なんだ?それは」
「カールスラントからの「お願い」よ」
「・・・なるほど。クラインがうちに来た理由はこれか」
「そうみたいね。ただでさえ人が足りてないのに、無茶言わないでほしいわ」
「さしずめ、私たちは護衛役か・・・」
「プロパガンダに利用した手前、万が一のことがあれば国全体に影響が出てしまう・・・それを防ぎたいのね」
「気のせいか?」
「何がかしら」
「なるべく戦果を挙げさせるように、とも書いてる気がするんだが」
「・・・それもプロパガンダのためでしょうね」
「出撃はさせるな。だが戦果は挙げさせろ・・・ここまで矛盾した命令もそうお目にかかれるものじゃないな」
「あくまでお願いよ」
「変わらないだろう。・・・どうする?」
「どうもこうも無いわね・・・ひとまず試験結果を待ちましょう」
*****
3日後
「2人とも、準備はいいかしら?」
「大丈夫です」
「こっちも、だいじょうぶ」
カールスラント、いや、人類が誇るスーパーエース。同じ黒い悪魔の異名を持つ2人の対決にはウィッチもそうでない整備員などももちろん興味があり、多くの人が観戦しようとしていた。
そんな期待感が伝わってくるなか空へ飛び立った2人は・・・なぜか普段と違ってやる気満々。というか、ひたすらに真剣な様子のハルトマンと、それに負けず劣らず威圧感ある剣呑な雰囲気のクライン。何かあったのだろうか?そう全員が訝しむ程度にはらしくない。
ハルトマンは言わずもがな、普段は自堕落人間であるし出撃中もリラックスした自然体であるのが普通。演習ともなるとやる気を出すことは滅多に、いや全くないといっていいくらいだ。
クラインの方も、小柄な体格も相まって新聞で見るような英雄ではなく、割と普通のかわいらしい女の子である。わずか数日の付き合いではあるが、それくらいは501の面々もわかっている。
ミーナは不安を感じつつ、スタートの指示を出した。
そして一瞬で勝負が決まった。これには一同そうずっこけ。一体どんな歴史に残る勝負が繰り広げられるのかと期待してみれば瞬殺である。
負けたのはクライン。本人曰く
「万全の状態で飛ぶのが久しぶりすぎて感覚の違いからうまく飛べなかった」
とのこと。ベルリンでは劣悪な環境だったかもしれないが、東部戦線にいたこともあるだろうと聞いてみると、東部は補給がただでさえ悪い上に各部隊があの手この手で物資を奪い合っていて、ろくな整備も出来てなかったらしい。
エーリカが東部方面の総司令部に殴り込み掛けようとするのを何とか抑え、数時間の飛行練習の上で再戦となった。
仕切り直して、再びピリピリした雰囲気が戻る2人。人類最高峰の戦いが始まった。
まず仕掛けたのはエーリカ。生まれ持ってのセンスに努力に経験に、固有魔法のシュトゥルム。ネウロイもかくやと言わんばかりのとんでもない変則機動でメラニーを翻弄。その周囲を回るように飛び続け、ひたすら攻撃を加える。
対するクラインも負けていない。最小限の動きでエーリカの攻撃をかわし続け、全く当たらない射撃を、しかし確実にエーリカに近づけている。常に圧倒的多数に囲まれるような状況で戦ってきたのだ。その回避技術は神業の域に達していた。
双方ともに有効打がない互角に思える状況がしばらく続き、またしても動いたのはエーリカだった。
最小限の動きしかしていないクラインより、大きく動いているうえ固有魔法も使っているエーリカのほうが魔力消費が大きい。このままいけばジリ貧になってしまうのだ。
シュトゥルムをまとい、シールドも使って強引にクラインに接近するエーリカ。さすがにそれではクラインも動かざるを得ず、一か所にとどまっていた先ほどまでとは一転、空というフィールドを大きく使っての鬼ごっこが始まった。
・・・が、またしても分があったのはクライン。ネウロイもかくや、とはいえクラインはネウロイと鬼ごっこをした経験がある。そのうえネウロイと違ってエーリカの考えていることならクラインには読めるのだ。
少し疑問に思わないだろうか?士官教育を受けているとはいえ、たった12、3歳の少女が部隊を適切に指揮し、撤退戦を成功させた。ウィッチだけならともかく、畑違いの陸軍まで率いてだ。
その秘密は固有魔法の精神感応である。この魔法を使えば相手の考えていること、感じていること・・・すべてが筒抜けだ。疲労も、不満も、不安も・・・人心掌握という点において最強の魔法といってもいい。なにせ、クラインはしなかったがいざとなったら洗脳までできるのだから。
撤退戦も東部戦線でバルバロッサ作戦に参加した際も、クラインはこの魔法を駆使することで部隊の指揮をより盤石なものとした。・・・つまり、それだけたくさんの人の心を読んできた。知り尽くしているのだ。
今はまだ、存在しないカールスラント四強の呼び名。
撃墜数最多。対ネウロイ、空戦最強のウィッチがエーリカ・ハルトマンなら
対人戦最強のウィッチはメラニー・クラインだった。
勝負はついた。
*****
「私の勝ち」
「・・・・・」
「ね、フラウ。私はフラウの気持ちもわかる。私も心配だったから。飛んでほしくないと思ったこともあるし」
「・・・じゃあ」
「でもね。飛ばないわけにはいかないんだ・・・だからさ、約束しようよ」
「約束?」
「そう。私が出撃するときは、必ずフラウと魔法をつないでからにする・・・どう?」
「・・・分かった」
「絶対・・・絶対守る。もう二度と、離れさせない」
エーリカの元ネタであるエーリヒ・ハルトマンは実はエーリヒ・アルフレッド・ハルトマンというのがフルネームです。つまりエーリカはアルフレッドの部分を省いている。
いちいちメラニー・G・クラインとするとテンポが悪いかなと感じたので、真ん中のGは省いたりする感じでやっていきます。ミスじゃないよ!ってことです。ご承知おきください。
エーリカが主人公にくそデカ感情抱えてますが・・・仲間思いなエーリカならこうなってもまあおかしくないだろうと。エーリヒの方も、奥さんのこと大好きだし、僚機を一度も落とされなかったことを撃墜数世界一位より誇ってるくらいですからね・・・
メラニーはエーリカにとって最初にできた大親友ですし、訓練学校とかではエーリカが先生役になって教えたりもしてたので、庇護欲みたいなのもあります。積もりに積もって大爆発してるわけですね。
エーリカはお姉ちゃんでもあるので、そういうとこあるんじゃないかと。解釈違いだったら申し訳ねえ・・・
あと、評価バーがついに赤で染まりました。本当にありがとうございます。・・・観想いただけると嬉しいです。(強欲の壺)
2022/9/26 16:39 誤字修正