ダックスフンドの首輪   作:転音

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第十七話 英雄の素質③

 

 走り始めよりずいぶんのろく、足もほとんど地面すれすれに動かしながら走る宮藤とリーネ。当然そんな様子を美緒が見逃さず。

 

「なんだ情けない!根性が足りん根性が!あと三本!」

「「は、はいぃ」」

「二本にしといたら?ここ、コンクリートだし走らせすぎも良くないよ」

「そうか?クラインがそういうならそうするか。あと二本!」

「・・・戻って来てから言ったら減ってないよ」

 

「それにしても、魔法の才能と運動能力は全く別物だねえ」

「全くだ。クラインはさすがだな」

「そりゃあまあ、訓練始めて半年もたってないような新人に負けるわけにはいかないよ」

「そうか。・・・目の前でへばっているコイツにもその気概があるといいんだが」

「うへぇ~」

 

 演習の翌日、いつも美緒が指導している訓練に私とエーリカも加わって参加している。

 

 たびたび美緒が、体力がないとか根性が足りんとかボヤいているのを聞いていたが、まあ確かに合格からは程遠い。魔法が出来るからと言って運動ができるわけではない。当たり前のことだが、ウィッチとして前線で戦うためには肉体的、精神的なタフさというのは必要不可欠である。

 

 今やっているのは走り込み。基地から海に向かって突き出した滑走路を何度も何度も往復している。これだけではなくて、腕立てや上体起こしなどの筋トレとか、素振りをやることもあるとのこと。

 

 こういう訓練を見ていると養成所の頃を思い出す。走り込みばっかりだった時期もあるのだ。筋トレは・・・そんなに激しくなかった気がするけど。魔法を使えば力も強くなるので重視されてなかったのかもしれない。

 

 あの頃はまさに今の宮藤とリーネみたくへとへとになりながら走っていたが、もうウィッチになって5年。宮藤たちと同じ訓練をしているが、昔より体力もついてこれくらいは問題なくこなせるようになっている。・・・はずなのに、今私の目の前には地面に横たわってわざとらしくゼーハゼーハー呼吸をしている金髪のウルトラエースがいる。

 

「はぁ・・・さっさと走れあほ!」

「いやだぁ」

 

 結局、私がエーリカの尻を叩きながら無駄に多く走る羽目になった。宮藤とリーネもなんだかんだ走り切って今は地面に沈んでいる。エーリカも一緒になって寝そべってるが、あいつはまじめにやれば走れるに決まってるので、別に疲れてるわけじゃないだろう。その証拠にさっきと違って呼吸が荒かったりはしない。さっきまではさぼりたかったから適当に演技してたんだろうな。

 

「辛そうだね、リーネ、宮藤」

「ハァ・・・ハァ・・・」

「く、クライン少佐は大丈夫なんですね・・・流石です」

「タフなのが取り柄だからね。きついのはよくわかるけど、いざという時体力はあって困らないから、頑張って」

 

 まあ、体力が必要になるような状況になったらほとんど助からないが。あって困らないのは事実だし嘘は言っていない。私の応援に対して、リーネ以上に消耗していた宮藤が言う。

 

「体力つけるのは、良いんですけど、走ってばっかりなのは、何とかなりませんか・・・?」

「う、うん。宮藤、無理はしないようにね・・・?」

「ありがと、ございます」

「にしても走る以外で体力か。よし、私が美緒に掛け合ってみよう」

「何とかなるんですか?」

「任せなさい!」

 

「普段出撃するの海上ばっかりだし、少しでも泳ぐのがうまい方がいいでしょ?水泳でも体力つくし、肺活量も増えるし。ほら、少しでも温かいうちにしかできない事でもあるしさ」

「なるほど。一理あるな」

 

 説得完了。宮藤もリーネも喜んでるし、私も水泳できないからサボれて嬉しいし、ついでに宮藤との関係も少しは良くなるだろうし、一石三鳥。ところでエーリカも喜びそうなもんだが・・・こ、こいつ寝てやがる。起きろ。

 

 エーリカの脇腹に蹴りを入れてから、私は新米二人の元へ向かった。訓練を通じて出来るだけ仲良くなりたいからね。

 

 

 訓練が終わり、おやつを食べてから、私はピアノが置いてある部屋に向かった。椅子に座って少し姿勢を整えて、一呼吸おいてからゆっくり優しく指を動かす。

 

 夜勤ばかりだと時間がなくてあまり弾けなかったりもするが、ピアノを弾くのは結構好きだ。歌もそうだが、どうやら私は音楽が好きらしい。とくべつ音楽にふれる機会があったりしたわけではないのに好きなのは、多分「記憶」の影響が大きいだろう。

 

 何故か忘れない「記憶」のおかげで、メロディーも歌詞も、いつでも鮮明に思い出せる。残念ながら今の時代のブリタニアには現代日本で聞いていたような曲はほとんど存在しないが、たまの休日にはラジオでクラシックを聴いたりすることもある。

 

 一曲弾き終えると背後で拍手が響いた。驚いて振り返ると、宮藤がキラキラした目でこっちを見ながら手を叩いていた。

 

「クラインさんもピアノが弾けるんですね。きれいでした!」

「ありがとう。全く気付かなかったよ、いつから聞いてたの?」

「あっはは、食堂から歩いてたらたまたま音が聞こえてきて・・・今弾いてた曲はなんて言う曲なんですか?」

 

 せっかく興味をもって聞いてくれたところ申し訳ないが・・・

 

「さあ?」

「分からないんですか?」

「故郷で近所のおばあさんが歌っていた民謡なんだけどね。音だけは何となく覚えてるんだけど、曲名も歌詞も、もう分からないんだ」

 

「そうなんですか・・・でも、そのおばあさんならわかるんですね」

「もう死んじゃったよ」

「え?」

「ネウロイの攻撃でね。私の故郷もめちゃくちゃになって。農村だったから、土地を離れない人が多くてさ。おばあさん以外もみんな・・・」

「す、すみません」

 

 下を向いて、暗い顔をする宮藤。

 

「気にしないでいいよ。もう昔のことだし。それよりさ、最初から聴いていかない?」

「いいんですか?」

「もう誰も知らない曲だから。少しでも多くの人に知ってほしいんだよ」

「・・・分かりました。頑張ります!」

「あっはは。頑張らなくていいよ、リラックスして聴いて」

 

 ♪~♪~♪~

 

「ピアノはサーニャに教えてもらったんだ。最初の頃は友達がいなくて寂しそうだったからね」

「この間のピアノ、サーニャちゃんすごく上手だったです」

「サーニャはウィーンで音楽を習ってたから。いろんな曲を弾けるし、今度お願いしてみるといいよ」

「へ~扶桑の曲も弾けるかなぁ」

「う~ん。どうだろうね?楽譜を取り寄せてみるのもいいんじゃないかな。ミーナに頼んでみるよ」

「ありがとうございます」

 

 ♪~♪~♪~

 

 ピアノを弾きながら、宮藤としゃべりながら。楽しい時間になった。

 

 

 最初微妙だった宮藤との関係は、訓練を通じて結構良くなっていた。

 

 いろんな事情を抜きにしても、普段から一緒に過ごす同僚と微妙な関係というのは良くない。特に彼女はまだ慣れないことも多いだろうし、ストレスの元にならないように最低限の関係を作れるように頑張った。

 

 そのために美緒に頼んで訓練の量を減らしたり、水分補給を増やしたりマッサージをしたりタオルを用意したり・・・途中から運動部のマネージャーみたいな気分だった。

 

 もちろん当たり前だが、やみくもに楽をさせたりはしてない。それじゃあ彼女たちのためにならないし、少しでも早く力をつけた方がいいのは間違いないからだ。美緒の厳しい指導も、私は納得しているし当然だと思っている。

 

 ただそうはいっても時代柄というか、美緒の気質というか。現代日本の「記憶」を持つ私には考えられないようなトレーニング法があったり、根性論的なところがあったり、オーバーワークだったりしたので、そういうところを改善はした。効率は前より上がってるんじゃないだろうか。

 

 これらのおかげでずいぶん宮藤とも仲良くなれたのだ。普通に会話もしてくれるし、話していても不信感みたいなのがなくなったように思う。・・・本当に素直というか、悪い人に騙されないように教育したほうがいいんじゃなかろうか。心配になる。

 

*****

 

 訓練中は新米二人のサポート、それ以外はミーナのサポートをする日常を送っていたある日のこと。

 

「・・・するな!!」

 

「?エーリカの声・・・?」

 

 廊下を歩いていたら、遠くからエーリカが大声で怒鳴っている声が聞こえてきた。滅多に怒鳴ったりしないエーリカがこんな声を出すなんていったい何があったのか。ただ事じゃないと思った私は、急いで声の聞こえた方へ行くと、そこにはこちらに背中を向けたエーリカと・・・

 

「・・・宮藤?ちょ、ちょっと!エーリカ何してるの!」

「あっ」

「く、クラインさん」

 

 エーリカは気まずそう。宮藤は・・・少しおびえてる?

 

 いったい何があったのか。宮藤は他人を怒らせるようなことはしないし、エーリカはそうそう怒らない。この二人で揉め事が起きるとは思えないのだが・・・首をひねりながらも、ひとまず二人の間に入って話を聞く。

 

「何があったの?」

「べ、別にそんな大したことは」

「ふ~ん。私相手に嘘をつくのエーリカ。普段の、私に迷惑がかかる嘘は許すけど、他の人に迷惑がかかる嘘は見逃さないよ」

 

 ごまかそうとする以上エーリカが何かしたのか。そう思った私は、今度は宮藤に聞いてみるが・・・何とこちらも「えーとうーと」と要領を得ない。よっぽどプライベートなことだったりするのだろうか?と思って聞いてみたら、そういうわけでもなさそう。

 

 私の能力があればそれこそ質問攻めにすればいつか答えにたどり着けるが・・・すべての可能性について一つ一つ質問するのは手間だし時間がかかるし不可能だ。それに人が隠したがってることを無理やり暴くのは今後の関係に響く。どうしたものかと考えていたら、エーリカが怒りそうなことで宮藤もかかわっていることの候補が一つ思いついた。私である。

 

 実は以前、書類を運ぶために廊下を歩いていて、ちょうど曲がり角に差し掛かったあたりで宮藤とリーネが話しながら歩いているところに遭遇したことがあった。内容はたしか

 

 

「・・・いい人だと思うけど」

「うん。私も最近は悪い人じゃないのかなって思ってるんだけど・・・」

「だけど?」

「あの人、サーニャちゃんを見捨てようとしたんだ」

「クライン少佐が、サーニャちゃんを?でも、クライン少佐とサーニャちゃんってとっても仲がよさそうだけど・・・」

「うん。友達だって」

「仲間思いのクライン少佐がそんなことするのかなぁ。ほんとにクライン少佐がそうやって決めたの?」

「うん・・・」

「そっか・・・」

 

 少し間が空いて、恐らく考えていたのだろう宮藤が再び口を開いた。

 

「私、みんなにクラインさんのこと聞いてみるよ。どんな人なのか、分かるかもしれない」

 

 

 こんな感じで。考えることに集中していた二人は角の私に気が付かないでそのまま通り過ぎて行った。

 

 宮藤が私について、エーリカに何か質問して、それがたまたまエーリカの琴線に触れるものだった。・・・ありうるというか、状況的にもはやそれしか考えられないのでは?いままで直接的にあの件に触れることを避けてきたツケが回ってきたということか。

 

「はぁ、なんとなくわかったよ。とりあえずエーリカは部屋に戻っといて。あとでお説教だよ」

「・・・は~い」

 

「ごめんね宮藤。何があったかはともかく、怖がらせちゃったみたいだし」

「い、いえ!私は全然大丈夫です」

「ありがとう。・・・それから何か予定があれば、今夜ハンガーにある私の執務室に来てほしいんだけど良い?」

「はい。いいですけど、どうしてですか?」

 

 私は周囲に人がいないことを確認してから、宮藤の耳元で囁いた。

 

「私のこと、知りたいでしょ?」

「!!?」

 

 全力で逃げられた。・・・怖がらせてしまったみたいだ。

 

*****

 

 仕事で少し遅くなり、急いで部屋に入ってみるとすでに宮藤がいた。どうやら棚の上に並んでいた勲章を見ていたようだった。

 

「一番左からブリタニア、ガリア、バルトランド、オラーシャ、スオムス。そこから右はカールスラントの騎士鉄十字章が四つ。」

「へぇーこんなにたくさんすごいですね!」

「・・・そうでもないよ」

 

 私は普段書類をさばいている机の後ろに置かれた椅子に腰かける。

 

「わざわざ来てくれてありがとね」

「あ、はい。その、なんでわかったんですか?私がクラインさんのこと調べてるって」

「私は人が考えていることが大体わかるんだよ」

「・・・え?」

「魔法じゃない。ちょっとした特技。私の固有魔法の通信魔法は、慣れてない人に使うとその人が考えていることが私に筒抜けになってしまうんだ。いろんな人の頭の中を覗いてるうちにだれがどんなことを考えているか、分かるようになったんだよ」

「へぇ~すごいですね・・・」

 

「ありがとう。さて、本題に入ろうか」

 

「宮藤は私が英雄と呼ばれていることは知ってると思うけど、どうして英雄なのかは知ってるかな?」

「はい。えっと、何か月もネウロイに囲まれたベルリンで部隊の隊長として戦い続けて生きて帰ったから、ってリーネちゃんが言ってました」

「まあ大体あってる。じゃあ次に質問。なんで英雄になれたと思う?」

 

「えっと、すごく強かったからとか」

「違う」

「じゃあ頭がよかったとか」

「違う」

「う~ん。分かりません」

「切り捨てることが出来たからなんだ」

「・・・・・え?」

 

「最初ベルリンに取り残された兵士とウィッチは合わせて約200人いた。けど、生きて帰ってこられたのは20人しかいない」

「っ!」

 

 サッと、宮藤の顔色が変わる。大きく目を見開いて、声にならない驚きが顔に張り付いていた。私はそれを気にせず話を続ける。

 

「つまり十分の一の人数しか生き残らなかったわけだけど、兵士とウィッチでは、ウィッチのほうが死んだ割合が少なかった。なんでだとおもう?」

「ウィッチはシールドも使えますし、ネウロイを倒せるから・・・」

「ん~ちょっと惜しい。それも理由ではあるけど、正解は兵士たちにウィッチを守らせたからだ」

「ど、どういうことですか・・・?」

「そのままの意味だよ。ウィッチの犠牲を減らすために、兵士を盾にしたり、囮にしたり、けが人を見捨てたりしたんだ」

「!?ど、どうして!」

「別に、自分だけ助かればいいとか、自分の部下のウィッチたちだけ助けようとか。そんな風に思っていたわけじゃない。必要なら私は、親友のウィッチだって撃ち殺した」

「・・・」

 

 宮藤はもはや言葉も出ないようで、口を半開きにしたまま呆然とこちらを見ている。

 

「兵士たちを殺したのも、親友を殺したのも、必要だったからそうしたんだ」

「・・・どんな理由でも、人殺しはダメです」

「君が一般人なら、その考えでも構わない。けど君はウィッチだ。ウィッチは軍人だ。もっと合理的に考えれば、私が言っていることもよくわかるはずだ」

 

「考えてみろ。ウィッチが兵士を守って死んでしまったら、私たちはどうやってネウロイに抵抗するんだ?兵士は百人集まってもネウロイを一体も倒せない。だがウィッチは1人で数十体、数百体のネウロイを倒せることもある」

「いいか、よく考えるんだ。薬がない。医者もいない。だから怪我も病気も治せない。怪我人(足手まとい)を連れていけるほど余裕はなかった。もし見捨てずに最後まで連れて行ったなら、きっと私たちは全滅していた」

「そんなの、分からないじゃないですか!もしかしたら!」

 

「もしかしたらに!!全員生きるか、それとも全滅か。そんな賭けをする訳にはいかないんだ!いいか宮藤、あの時も言ったけど・・・全員は守れない」

 

 宮藤は黙っている。爪が食い込むんじゃないかと思うほどに手を握り締めて、歯を食いしばってただまっすく、怒りに満ちた目で私をにらんでいる。

 

「これは戦争なんだ。どうやっても死ぬしかない状況がある。私はそれを知っていた。誰よりも知っている。それが出来たから仲間も守って、生きて帰ることが出来たのだから。だから私は必要なら仲間を見捨てる。囮にもする。・・・撃ち殺しもする」

「・・・そんなのおかしいです」

「おかしくないんだ。だから勲章をもらって英雄と呼ばれて認められている」

「・・・・・」

 

「友達でも、ですか。サーニャちゃんやエイラさんでも見捨てるんですか」

「ああ」

「バルクホルンさんを囮にできるんですか」

「出来る」

「ハルトマンさんを、殺せるんですか・・・!」

「必要なら、もちろんそうする」

 

「そ、う、ですか」

 

「納得できない?」

「当たり前です」

「ウィッチを続けるなら、いつか納得しないといけなくなる」

「したくなんてありません」

 

 まあ、そうだろうな。昔の・・・ウィッチになったばっかりの私だって、そうだろう。だがだめだ。すべてを守ろうとするのはかえってみんなを危険にさらすことになりかねない。

 

「納得できないなら、ウィッチをやめてほしい」

「!!いやです!」

「この間はたまたま皆助かった。次そうなるとは限らない。命令違反で仲間を危険にさらすようなウィッチは部隊にいない方がいい」

「クラインさんのほうがよっぽど仲間を危険にさらしてます!」

「悪いことは言わないから、ウィッチをやめて。君は恩人なんだ。できれば――――

 

 私は拳銃を取り出して、宮藤に向ける。

 

――――撃ちたくない」

 

「やめると言え。治癒魔法が使えるなら、ウィッチとしてじゃなくても人助けはできる。私は君に死んでほしくないんだよ」

「死んでほしくないのに銃を向けるんですか」

「さっきも言った通り、より多くを守るために多少の犠牲は仕方がない」

 

「さあやめると言ってくれ」

「やめません」

「お願いだ。やめると言って」

「私はみんなを守りたいんです!」

「私だって守りたい!私が死ねば戦争が終わるなら、みんなが助かるならそうする!!けどそうじゃないんだ!個人の勝手な感情で動いたって、余計に人が死ぬだけだ!」

「私は守ります!!!」

「っ!?この頑固者!現実を見ろ!」

「ウィッチもやめません!」

「なら撃つ!」

 

「クラインさんは撃ちません」

「!?」

 

 宮藤は堂々と私に背中を向け扉へと歩いていく。

 

 私は銃を向け続け、宮藤が部屋から出て扉が閉まるその瞬間に引き金を引いた。

 

 

 ――――弾は出なかった。

 

*****

 

 部屋に戻って、服を脱いでタオルで体をふいて下着を変えて。寝る前の準備を整えてから、私は窓の外を眺めながらさっきのことを考えていた。するとノックの音が響く。振り返るとエーリカだった。

 

「・・・どうしたの?」

「ちょっと話したくて」

「そう?」

 

 普段なら適当な話題を振ったりするところだが、今日はそういう気分じゃない。私から何か言うでもなく、また窓の外に目をやった。静かで、月も星も雲に隠れた暗い夜。まるであの夜のような夜だった。

 

 私は間違っているとは思っていない。だが後悔はあるし、罪悪感も抵抗感もある。守れるなら守りたい。守れないから仕方がない。宮藤のように、すべてを守ると言い出すには、私は少し失いすぎた。

 

「宮藤と話した」

「ふーん」

「ウィッチをやめさせることはできなかった」

「そっか」

 

 私の手は血まみれだ。間違っているか・・・そうかもしれない。正しくはないのだろう。普通の人から見れば・・・

 

「メラニーはきれいだよ」

「私の体を見てそういうのはフラウだけだよ」

「そうかなぁ?・・・心もきれいだよ」

「そう、だといいな。けど、きっとそうじゃないよ」

「何があったの・・・?」

 

 何かはあった。ただ現実を知らないだけの小娘じゃないと思った。そういえばあの子の家は医者だったか。なら、人の死に立ち会うこともあったのかもしれない。死ぬことを知っていて、なお守ると強く言い続けるその意志の強さ。銃を突きつけられても揺るがない覚悟。

 

「宮藤は、相変わらず軍人には向いてない。けど・・・」

「けど?」

「私みたいな偽物でなくて。真に英雄と呼ばれる人間は、ああいう人なのかもしれないと思った」

 





2022/10/20 7:57 誤字修正
2023/2/26 9:13 加筆修正
2023/3/10 13:4 誤字修正
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