ダックスフンドの首輪 作:転音
再び宮藤との関係が微妙になってしまい、それを改善することもできないまま、そろそろあると思われる次の襲撃に備え夜間の警戒を強化するため、私は夜勤に戻ることとなった。そしてそのためにシフトを変えたまさにその日に、ネウロイは襲来した。
エイラとサーニャ、ミーナと私を除くメンバーが出撃、なぜかペリーヌとともに予定にない訓練飛行をしていた宮藤がミーナの命令を無視して先行したと報告があった。
「宮藤さんがネウロイと接触したのは間違いないわ。でもそこから先はサーニャさんにも分からないって」
「すみません・・・」
「あいつ、まさか捕まったんじゃ」
「レーダーもダメだね。どこにいるのか全く見えない」
「どういうことだ・・・離れるように言えないのか?こっちから呼びかけているが、通じないんだ」
「こちらもダメ。ネウロイが何かジャミングのようなものを仕掛けているのかも」
残った私たち4人は基地で状況を把握しようとするが、レーダーもサーニャの魔法もダメでは打つ手が無い。
「まだ追いつかないのか、ミーナ!」
「それが、ネウロイはガリア方面に引き返しているわ。巣に戻るつもりじゃ」
そう。奇怪なのはネウロイ自体はどこにいるか分かっていること。宮藤だけが行方不明なのだ。一体どうなっているんだ・・・私が頭を抱えていると、さっきからさらに一段と焦った様子の美緒の声が響いた。
「何をしてる!宮藤!」
「撃てー!撃つんだ宮藤!!」
「違うんです!このネウロイは!」
「何してる!良いから撃て!!」
「ダメです!待ってください!」
「惑わされるな!そいつは人じゃない!」
「違うんです!そんなことじゃ」
「撃たぬならどけ!」
その言葉から一拍空いて射撃音。おそらく外したのだろう。おのれ、という言葉の後にネウロイのビームの音、そして爆発音、美緒の悲鳴と宮藤の声。
「坂本さーん!」
「少佐!」
「どうしたの!何があったの!」
宮藤とペリーヌの美緒を呼ぶ声。ミーナは報告を求める。嫌な予感、というよりもはやほぼ確定している最悪をリーネが教えてくれる。
「坂本少佐が、ネウロイに撃たれて」
「っ!?」
「シールドは張ったのに・・・っ!?まさかっ!」
「バルクホルン大尉・・・ネウロイを追いなさい」
「しかし、少佐が・・・」
「追って!!命れ」
ミーナを横から殴る。
「ミーナ?どうしたんだミーナ!」
「私が代わりに指揮を取る。バルクホルン大尉、坂本少佐の護衛につけ」
それだけ言って、通信を切る。そして頬を押さえて地面にへたり込み、放心状態のミーナの襟元を掴んで司令部の壁に叩きつける。
「メラニー!」
「静かにしろ、ユーティライネン少尉。・・・ミーナ中佐」
「・・・」
「感情的になるな。ネウロイを追いかけたところで辿り着く先はガリアの巣。どうしようもない」
「けど・・・」
「坂本少佐の出撃はお前と少佐で決めたことだ。もう一度言う、指揮官が感情的になるな。判断を悔やむのは後にしろ、仲間を殺したくなければ」
*****
帰ってきた美緒は重傷だった。宮藤は片時もそばを離れずに治癒魔法をかけ続けていたようだが、それでも状態は良くならず。治療を行なった医者は私たちを安心させてはくれなかった。
「独断専行、命令違反、その結果上官を負傷させてしかも敵を取り逃すとは重罪だな」
「え!もしかして軍法会議でバーン?」
「そこまでは言ってない!」
「そうだよねーだったら私なんて何回も死んでるよねー」
宮藤の処分をどうするのか。ミーナの部屋に集まった私とエーリカとバルクホルン。2人は銃殺刑にはならないと言っているが・・・
「そうだと良いけどね」
「?何かあるの?メラニー」
「今回の件は見方によっては敵前逃亡にもなるからね。戦闘能力があるのに目の前の敵を攻撃しなかったんだから」
「!!それは・・・そうなったら」
「軍法会議どころかその場で射殺されても文句を言えないくらいの重罪。・・・どうするの、ミーナ」
「・・・判断は、坂本少佐が目覚めてからにします」
美緒が目を覚ましたのはその翌日。宮藤はミーナによって自室禁錮10日となった・・・らしい。
らしいというのは、私はその場には居なくて輸送機で移動中に知ったからだ。どこに行くんだって?西部方面統合軍総司令部・・・マロニー大将のところだ。
ノックをして、失礼しますと言って部屋に入る。簡単な挨拶とともに、今回の件についての報告をする。私が大将の元へ来ることになったのは一応軍紀違反についての報告のためとなっているが・・・さて、実際何を考えているのか。一通り報告が終わった後、大将は一つうなずいてから口を開いた。
「わざわざ遠くまでご苦労だった。クライン少佐」
「お気遣いいただきありがとうございます。閣下」
「さて、君はつい先日501はまだ件のネウロイX-9について、情報を手に入れることが出来ていないと報告したな」
「はい」
「しかしおかしなことに、501に潜入している私の部下は、501は重要な手がかりを手に入れたと報告した。これはどういうことかね?」
どういうことだ。と言われても初耳だ。あの日のように大胆に隅から隅までひっくり返して探せることは滅多にないとはいえ、最近は毎日一緒に書類仕事をしているのに、そんなはずは・・・まさか、私が休みをもらったあの日に!私が口を開こうとするのを、大将は手で制していった。
「言い訳は必要ない。彼女たちが情報を手にしたその日、君は休暇だったらしいな。100歩譲って、休暇だからと情報をつかみ損ねたことは許そう。だが翌日以降も一向にそれに気づくことが無かったのはなぜだ?」
「ミーナ中佐、坂本少佐両名とは可能な限り一緒に行動するように努めましたが、そのようなそぶりは全く・・・」
「君はその二人と強い信頼関係を構築していたんじゃなかったかね。ネウロイに関する情報を共有されることも全くなかったと?」
「・・・はい」
・・・本当に、どうしてだ?考えられるのは純粋に私に相談してもどうにもならないと判断したのか、それとも情報が漏れることを危惧したのか。わざわざ話すほどのことでもなかったのか。
大将は一つ、あきれたようにため息をついて言葉を続ける。
「だが君は運がいい。流石包囲下のベルリンから生きて帰っただけのことはある」
「どういうことでしょうか」
「今回の件、宮藤芳佳はヒト型のネウロイと接触したといったな?」
「・・・はい。報告ではそうなっていますが」
「人型のネウロイについて、私は教えたことがあると思うが、覚えているかね」
「4年前のカウハバ基地に現れた、あのネウロイですか?」
「そうだ。どんなネウロイだったか言ってみたまえ」
「形だけでなく、洗脳などを用いて得た情報をもとに、人の行動をまねることが出来たと」
「その通りだ。・・・今回現れたネウロイにも、同じような能力がある可能性は非常に高い」
なるほど。・・・それのどこが運がいいんだ。洗脳なんてされたら味方同士で争う必要が出てくるし、そうならなくてネウロイがウィッチの情報を得るだけだとしても、それも非常に厄介極まりない。
情報は武器だ。これまでの経験から私はそれを痛いほどよく知っている。これまではネウロイにそんなことをする能力も、知性もない個体ばかりだった。つまり対ネウロイを考えて情報を漏れないように・・・なんて全然気を使ってない。
大規模作戦の情報が漏れたりしたら万単位で犠牲が・・・それどころか国がいくつか滅んだりしてもおかしくないのだ。そこまでいかなくても、例えば補給路を護衛しているウィッチが洗脳されたら前線へ全く物資が届かなくなったりとか・・・いくらでも最悪は思いつく。
それを運がいい?
「宮藤芳佳が洗脳されていれば、行動を起こすはずだ。それこそ、軍紀違反も気にせずやるだろう」
「・・・何をなさるおつもりですか」
「その時になれば・・・」
マロニー大将の言葉をさえぎって、執務机の上の電話がけたたましくなった。大将は電話をとり、一言二言私に聞こえないように会話をすると、今度はむしろわざとらしく聞こえるように話し出した。
「私だ。宮藤軍曹が脱走したそうだな。度重なる命令違反、見過ごせん」
脱走!?なんてことをしてくれる。驚愕した私だが、次の大将の言葉にさらに驚く事になる。
「命令だ。宮藤芳佳を撃墜せよ」
げ、撃墜!?ウィッチは貴重だその上少女だ。たとえ脱走兵でも早々殺したりするものではない。一体、何をどうするつもりなんだ。
「君も従わないのかね?」
最後に脅しのようなことを言って、大将は電話を切った。
「どういうことですか!今の電話は一体なんですか!説明してください!」
「最初は彼女への対応も君に任せるつもりだったが、5ヶ月経っても進展がない上、先のミスだ。君に任せるのは危険だと判断した」
「だとしても撃墜は・・・!」
「ミーナ中佐が素直に従うとは思っとらん。だが従わなければ命令違反だ。・・・一緒についてきなさい、これから501の基地へ行く」
「501を、どうするつもりですか・・・!」
「君が望む世界に近づく第一歩を踏み出す。その為にあの部隊は邪魔だ」
「そうは言っても代替戦力が・・・まさかウォーロックを!?ダメです!万全を期すべきです!」
「元はと言えば君のミスだ。それに、技術者でもない君に何がわかるのかね。安心したまえ、失敗はありえん」
*****
501基地 バンカー
暗闇の中で、少女2人が何かをしている。
「うまく入りますか?」
「もうちょっと奥まで・・・そう。そんな感じだ」
瞬間、バンカー内が強い光に照らされた。
「きゃ!」
「!始まったか・・・っ!?貴方は・・・!?」
私を見て、目を見開く美緒。私は努めて冷静に兵士たちに指示を出し、2人に銃を向けて言った。
「皆さん手筈通りにお願いします。・・・坂本少佐、クロステルマン中尉。大人しく言うことを聞いてください」
*****
「ご苦労だった。ミーナ中佐」
そう声をかけるマロニー大将の後ろに、ウォーロックが降り立った。
基地へ戻ってきたミーナ、エーリカ、バルクホルン、シャーリー、ルッキーニそして宮藤の6人を兵士が取り囲み、銃を向ける。
それに対して身構えようとした5人の動きを制するべく、大将の後ろにいた私は前に出て、大将を庇いながら銃を向けた。
「メラニー!?」
「クライン・・・!」
「・・・!」
驚いて声を上げるバルクホルンとエーリカ。無言のまま一瞬目を見開いたミーナ。
「全員その場に武器を置け。妙な動きをすれば・・・撃つ」
地面に置かれた武器を回収するとき、みんなに言われた。何故?どうして?と。私は答えなかったが、宮藤に言われた時は我慢がならなかった。
「なんで・・・」
「なんで、か。私も聞きたい。命令違反、独断専行に続いて無許可離隊まで。どれも重罪だ。なんでこんな事をした」
「クラインさんの話を聞いて、戦争でたくさんの人が死んでしまう事を改めて知りました。だから私は、戦争を終わらせようと思ったんです!」
「・・・そうか」
相変わらず、理想を追いすぎている宮藤の答え。だがもはやそれに対して否定する必要すらない。501は終わるのだから。問答を終える頃には、基地に残っていた美緒、ペリーヌ、エイラ、サーニャ、リーネの5人も合流した。皆顔は暗く、固い。
「何故、こんな事を?」
「命令に基づく正式な配置転換だよミーナ中佐、この基地はこれより私の配下である第一特殊強襲部隊、通称ウォーロックが引き継ぐ事になる」
「ウォーロック・・・」
「さて、ウィッチーズ全員集合かね?・・・改めて確認するが、宮藤軍曹、君が脱走したウィッチだな」
「え、と・・・ぁっその後ろの」
「ウォーロックのことかね?」
「私、見ました!それがネウロイと同じ部屋で、実験室のような部屋で・・・」
「なっ、何を言い出すんだ!君は!」
見た?そんなことはありえない。どれだけ厳重に守られていると思ってるんだ。
「でも私、見たんです!」
「質問に答えたまえ、君は脱走をした、そうだな」
「はい。でも・・・」
「中佐、私は脱走者は撃墜するように命じたはずだ」
「はい。ですが・・・」
「隊員は脱走を企てる。それを追うべき上官も司令部からの命令を守らない。全く残念だ、ミーナ中佐、そしてウィッチーズの諸君」
これがマロニー大将のシナリオか。まず実行しないだろう命令を下し、想定通り実行しなかったミーナを責めたて、そして・・・
「本日ただいまを持って、第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズは解散する」
「「「!?」」」
「各隊員は可及的速やかに各国の原隊に復帰せよ。以上。分かったかねミーナ中佐」
「・・・了解しました」
いよいよラストに入ります。今月中には完結するでしょう。最後まで応援よろしくお願いします。
前話についてなんですが、そのうち改訂するかもしれません。入れたい描写とかが後から思いついてしまって・・・完結とどっちを優先するかはわかりませんが、改訂したら活動報告や後書きでご報告いたします。
2022/10/24 誤字修正