ダックスフンドの首輪   作:転音

22 / 32
第二十二話 ストライクウィッチーズ③

 

「私の固有魔法、精神感応を使えば、人が死ぬその最後の最期まで見届けることが出来る。その人の感情が、人生が私にも伝わってくる。それがどれだけつらいことか・・・」

「分からないでしょ?」

 

 エーリカは顔をゆがめて何も言わずに、いや、言うことが出来ずにメラニーを見る。言葉をかけたいが、何と言っていいのか分からないようだった。

 

 しかし何も言わないわけにはいかない。ここが最後の分かれ目だと分かっていたから。だからなんとか言葉を捻り出す。

 

「め、メラニーの辛さを!私も一緒に背負「それでいいよ」!?」

 

 が、間違えた。

 

「分かってほしくない。知ってほしくない。こんな気持ち」

 

「だからウォーロックを作ることにしたんだ。人が戦うから、人が死ぬ。最初から人が戦わなくていいようにすればいい。そうすればだれも死なない」

「・・・言ってくれれば、私、いや皆もきっと協力した!もっと上手くいったかもしれない!」

「正しいやり方であれを作ろうとしていたらもっと時間がかかってたからさ。1分1秒でも早く作りたかった。面倒で時間がかかる手順を全部すっ飛ばして作っても、5年もかかったけどね」

 

 しかも全部無駄になった、と。自嘲するように言うメラニー。

 

「無駄じゃない!諦めなくても、次はみんなで協力して「本気で言ってる?」っ!」

「ネウロイを利用した兵器、それも過去に一度暴走した物をもう一度作る?もしそうするとしてもじっくりじっくり無駄に時間をかけて安全かどうか確かめて、議論して・・・その間に何人死ぬの?」

 

 敵であり、未だ不明なことも数多くあるネウロイを利用した、一度暴走事故を起こした兵器。確かに危険視され、その安全性を確かめるのには時間が費やされることになるだろう。

 

 技術的に問題が無くなったとしても、ネウロイを利用しているというその一点でウォーロックを敵視し、認めない人々も数多く現れるだろう。国を、人類を二つに割るような、大きな問題になる可能性すらある。そんな人々との議論も必要だ。

 

 どう考えても時間がかかる。そしてその時間のために多くの人が犠牲になる事実。

 

「私はもう耐えられない。ついこの間も、サーニャが死にかけた。いつだれが死んでもおかしくないのに、これ以上待てない・・・!」

「だから殺す。・・・本当に、それでいいの?」

 

「死ぬよりもつらいことがあるって知っちゃったから。安心してよ。何百人の人生を見てきた私が保証してあげる。こんな世界で生きるくらいなら・・・」

 

「死んだほうがましだ!」

 

 メラニーは再び銃を向ける。その目には確固たる決意の光が宿っていた。決して明るいとは言えない、暗い光が。

 

「だから、私に殺されて」

 

 そして拳銃は火を噴き、言葉の通り八方から、8発の銃弾がエーリカに襲い掛かった。正面からも合わせれば10発。並のウィッチなら回避もシールドで防ぐのも追いつかずに絶体絶命の危機だ。

 

 しかしエーリカはシュトゥルムによる驚異的な機動力で銃弾の間をすり抜け、難なく躱してしまう。もっとも銃弾は軽くて小さいがゆえに魔法で制御しやすく、いったん凌いでもすぐに追撃が来る。エーリカは次の攻撃までのわずかな時間で言葉を紡ぐ。

 

「私はつらい!」

 

 すぐに2発の弾丸が交差しながらエーリカに迫る。それを高度を上げることで躱すと、今度は上斜め前から2発迫る。転がるようにして右に動けば、今度は後ろ側から追い立てるように隙間なく8発の銃弾が迫る。方向転換も追いつかず、やむなくシュトゥルムで回避()()()()、メラニーの右足のストライカーユニットの先端・・・飛行術式を発生させている装置だけをきれいに撃ち抜いた。

 

 シュトゥルムは大気を操作する攻撃系魔法である。暴風を起こして直接相手に打撃を与えたり、あるいは自身の機動を変化させたりすることができる。そして射撃において風というのは重要な要素の一つである。当たり前のことだが、無風状態の時と暴風が吹き荒れているときとでは、射撃難易度は雲泥の差となる。

 

 それだけでなく、回避機動中という全く安定していない姿勢で射撃を行うのも、普通困難を極める。さらにその上、彼女が撃ち抜いたのはストライカーの先端部、およそ十センチ程度の大きさの装置である。

 

 先ほどエーリカが強引に近づいてから二人の距離は通常の空戦時に比べれば近く、またメラニーが静止していることも加味しても、驚異的な射撃能力だ。が、エーリカはその当然の結果には何の反応も示さずに叫んだ。

 

「私は悲しい!」

 

 一方のメラニーもメラニーで、驚くことも冷静さを欠くこともなくエーリカを追撃する。射撃を脅威には思ったのだろう。攻撃方向は主にエーリカの前方からで、メラニー自身もエーリカからは目を離さぬよう、ゆっくりではあるが後退している。距離を取りたいという思惑が透けて見えるようだった。

 

 だからエーリカは距離を詰める。

 

 ローリングと同時にシュトゥルムによる暴風の盾とシールドを自身の前方に展開、思いっきりメラニーの方へ突っ込んだのだ。

 

 その結果、エーリカは右肩に一発もらうことになった。

 

 先ほどからエーリカが躱してばかりでシールドで受けたり、シュトゥルムで弾いたりしなかったのは、メラニーがそれらに対する対策を必ずしているという確信があったからで・・・それはその通りだった。

 

 だが、負傷と引き換えにエーリカはメラニーの眼前で自身の思いを訴えることが出来る機会を手に入れた。

 

「メラニーが死のうとしたから!!」

 

 メラニーは目を見開いた。

 

「メラニーは私たちが死ぬのが怖いんでしょ?友達や家族が死んだとき、たくさん苦しい思いをしてきて・・・そんな思いを私たちにさせたくないんだよね?」

「そう、だよ。そう言って」

「じゃあなんで」

 

「なんで、死のうとした」

 

 エーリカはらしくない、冷たい声で、そう詰問した。メラニーは答えられない。

 

「メラニーが死んでも私が悲しまないと思った?」

「ちがう」

「自分が死ななくてよかったって」

「ちがう」

「笑顔でお礼を言うと思った?」

 

「ちがう!」

 

「そ、そんなこと」

「ないよね。大丈夫。メラニーは私のこと分かってるよね。じゃあ、なんで死のうとしたの?」

 

「み、みんなを助けるために・・・ウォーロックを作って・・・そのために」

「メラニーはさ。生きるよりも、友達や仲間が死ぬ方がつらいって、そう言ったよね?」

「・・・・・」

 

「ならさ。私たちを命がけで助けるんじゃなくて、みんな一緒に死んだほうがよかったんじゃないの?」

 

 だって、大切な人が死ぬのって、自分が死ぬよりつらいんでしょ?と、エーリカは言う。メラニーは何も言わない。何も言えない。

 

「それともメラニーは、私たちを苦しめたかったの?」

「そんなこと・・・なんで・・・?うっ!」

「っ!メラニー!?」

「ううぅぅぅぅぅ!!」

 

 呆然とした様子で下を向いていたメラニーが、突如として頭を抱えて悶えだした。その様子を見たエーリカはあわててインカムでミーナと連絡を取る。

 

「ミーナ!ウォーロックまだ落とせないの!?」

「エーリカ!?ええ、動きは鈍ったのだけど、火力が足りなくてすぐには・・・」

「急いで!メラニーの様子がおかしいの!」

「クラインさんの!?」

 

「ぐぅ、あぐ、ぎぁ・・・」

「メラニー!」

 

 エーリカが近づき、手を伸ばし・・・その手が振り払われた。

 

「わか、らない・・・いやわかる」

「そう・・・みんなのため・・・守れないなら」

「殺す」

 

 エーリカは全力でその場から飛びのいた。瞬間、15発の銃弾がさっきまでエーリカのいた場所をハチの巣にした。

 

「やっぱり、エーリカが一番危ない・・・」

 

 先ほどまで以上に、攻撃が苛烈になった。

 

「最初から全力で殺すべきだった・・・!ほか3人と同時になんて、するべきじゃなかった」

 

 玉の数は15発、つまり今メラニーが操作しているすべて。

 

「死ね!死ね!こっちには時間がないんだ!ウォーロックがやられたら、全部おしまいなんだよ!!」

 

 数だけではなく、はやさも凄まじい。まさに鉄の嵐と言うべき猛攻だ。なのに。

 

「なんで!なんで当たらないんだ!!」

 

 エーリカは怪我をしている。当然機動力はこれまでよりも下がっている。そのうえこちらの攻撃は激しさを増している。

 

「なのに!!なんで!!」

 

 攻撃は当たらない。

 

「この・・・死ね!死んでよ!はやくしんで!」

 

 エーリカはまともにシュトゥルムを使うことも出来ていない。

 

「死んでよ!!なんでだよ!私の・・・」

 

「私のために死んでよ!!」

 

 メラニーは見た。エーリカの口元を。

 笑っていた。

 

 メラニーは見た。ウォーロックの視界を。

 リーネが放った弾丸が、正確にコアを撃ち抜く様子を。

 

「まずっ!!がっ!?」

 

 思わずウォーロックの方を振り返った瞬間、すさまじい頭痛が襲った。そして、メラニーの視界は真っ暗になった。

 

*****

 

「う・・・あ、れ・・・?」

「メラニー!!」

「エーリカ?」

 

 目が覚めたら砂浜で、エーリカに顔が目の前にあった。

 

「なにがあったの・・・え!?なんで裸なの!?」

 

 支えられながら体を起こすと、かけられていた上着がするりと落ちて・・・そこで自分が裸なことに気が付いた。戸惑う私に、ミーナが答えてくれる。

 

「気を失って、海に落ちたのよ。体温が下がるといけないから服は脱がせたわ。・・・その、ごめんなさいね。勝手に見てしまって」

「ああ・・・そういうこと・・・全然、むしろありがとう。あんなことしたのに、助けてくれて・・・」

 

 ミーナはなるべく私の体を見ないようにして謝罪する。確かに、この傷だらけの体はあまり見られたくはないが・・・命には代えられない。それにそんなことよりも重要なことがある。

 

「ウォーロックは、撃墜された。よね」

「ええ。今頃は海底にあるわ」

「そっか・・・そっかぁ~~~~~」

 

 未練はめちゃくちゃあるけど、この期に及んで何か言ったりするつもりはない。仕方がないことだ。それよりも私がするべきは。

 

「ごめん」

「・・・・・」

「ごめんね。謝って許されるようなことじゃないけど、私、結局はみんなの足を引っ張って、危険にさらして・・・最後にはころ、殺そうと」

 

「どうでもいいよ」

「・・・え?」

 

 私の謝罪をさえぎったのは・・・エーリカ。

 

「それよりも、洗脳されてた時のこと覚えてる?」

「え、と。うん、覚えてるけど・・・あ」

 

 思い出した。確かエーリカと戦ってた時、肩に一発攻撃が当たったことを。

 

「エーリカ怪我!!大丈夫なの!?」

「おお落ち着いて・・・大丈夫だよ。宮藤が治してくれて」

 

 見れば確かに出血は止まっている様子。とはいえ大怪我であるし、早くちゃんとした処置をするべきだろう。

 

「ほんとに!よかった~ありがとね宮藤」

「は、はい。でもその、完治したわけじゃなくて出血が止まっただけなので・・・後で弾も取り出さないと「そんなことより聞きたいことが」」

「そんなことって・・・肩から血を流しながらずっと空を飛んでたんだよ!?もっと自分を大事にしないと!」

「っ!メラニーがそれを言うの!?」

「え・・・」

「宮藤に預けたこれ」

「そ、れは」

 

 エーリカが取り出したのはあの時宮藤に預けた・・・形見のネックレス。

 

「これを渡したってことは・・・あの時、死ぬ気だったでしょ」

「・・・」

 

「大切な友達や家族や、仲間が死ぬのは自分が死ぬよりも苦しいし辛いって。私もそれは分かる。メラニーがベルリンで戦っているとき、私もすごく不安で、苦しくて、辛かったから」

「だから許す」

「!!」

「けどその代わり、私も命がけでメラニーを守る」

「・・・え?」

「メラニーが私たちに苦しい思いをしてほしくないのと同じように、私たちもメラニーに苦しんでほしくないから」

「メラニーが苦しいときは、私もそれを背負う。一生幸せにする」

 

「生きててよかったって、言わせて見せる」

 

 いや言い方・・・とか。私別に自殺志願者じゃないし。とか。言いたいことはあるけれど、あまりに真剣なエーリカの顔を見て、何も言うことが出来ず。ただうなずくばかりだった。

 

「・・・勝手だね」

「メラニーこそ。私のために死んで!って」

「うわぁぁぁぁぁ!!?」

 

 言ったかそんなこと!?言ったわ!言った記憶あるわ。我ながら自己中が過ぎるというかドン引き発言で笑えない。ガチ反省する私に、しかしエーリカは優しく言葉をつづけた。

 

「まあ、仲間ってさ。もともとそういうものだよ。お互いにお互いのことを命がけで守る」

「結局何の解決にもならないよ。それじゃあ」

「そうかもしれないけど、ちょっとは安心していいよ」

 

「私の仲間は誰も死んでないからさ」

 

*****

1944年12月 ノイエ・カールスラント ブエノスアイレス カールスラント航空参謀本部にて

 

 一人の女性が紙をめくる音だけが響く静かな部屋に唐突にノックが響いた。女性は驚く様子もなく、どうぞ、と招き入れた。

 

 失礼します。の挨拶とともに入ってきたのは、黒髪黒目で童顔の、幼く見える見た目に似合わない堅苦しい軍服に勲章をぶら下げた少女だった。

 

 少女の物腰が丁寧なのは扉が閉まるまで。その後はずかずかと机の前に進む様子から、2人が地位の差のわりに気の置けない中であることがうかがえる。

 

「忙しい中悪いね。呼び出しちゃって」

「確かに忙しいですね。すごく忙しいです。さっさと要件をお願いします」

「はいはい。・・・こき使われてるね?」

「もとはと言えば私が悪いんだけどさ・・・こんだけ働かされると、愚痴の一つくらいは言いたくなるよ」

「そんな君に朗報がある」

「どんな?私は今月後半から不自然に仕事が無くなることに嫌な予感を感じてるんだけど」

「なに、そこに関しては観光みたいなものだよ・・・そろそろノイエ・カールスラント以外の景色も見たいだろ?」

「観光?」

「プレゼントにホワイトクリスマスをね。ロマンティックでしよ?」

「・・・よく上層部を説得できたね。あの爺たちが私を手元から離すとは思えないんだけど」

「もっと偉い人に頼んだ」

「軍務大臣?」

「いいや?」

「宰相とか」

「もっと」

「えぇ・・・」

「細かいことはこれ読んで。必要があれば補足する」

 

「・・・・・はぁ、なるほど。確かに私が適任ではありますけど」

「だろ?」

「だろ?じゃない。あの事件の罰としてこれ以上の昇進はなくなったはずなのに」

「なくなったねえ」

「大佐、って見えるんですけど?」

「戦場任官、実際はほとんど変わんないよ」

「だとしても、です。恩義があるから従いますが、火遊びはほどほどにしてください。主に私の胃のために。

 

――――アドルフィーネ・ガラント中将」

 

「心配しなくてもその辺は上手くやるよ」

「左様で。で?ホワイトクリスマスがなんだって?」

「観光だって。君は作戦成功率100%の英雄だよ?いるだけで意味がある」

「にしてもね・・・ロマーニャに行くのにスオムス経由とは・・・」

「いいじゃないか。たまにはゆっくりしてこい」

「・・・・・」

「なんだ、その目は」

「信用できない」

 




ひとまず本編完結。あとは番外をいくつか投じて終了です。ここまで見てくださってありがとうございます。

 最終話投稿時点で総UA数50,000、お気に入り登録1,000、総合評価2,400にまで達しており、まさかここまで多くの方に読んでいただけて感想や評価をいただけるとは思いもよりませんでした。本当にありがとうございます。

 最後の最後になってこんな展開で大丈夫だろうか・・・と思いつつ、あとがきを書く手が震えつつ・・・ご期待に添えれば幸いでございます。添えなかったら申し訳ない。

 一応ストライクウィッチーズっぽく、あんまりひねらない王道で、不穏な要素はなくして大団円な感じになるように努力しました。(実は当初の予定だと主人公死んでたんですけどね・・・内緒にしとこ)

 本作はストライクウィッチーズを知らない人置いてけぼりになりそうだな―と思いながらも、そこまで気を付けて書いてたらエタるという確信がありました。

 なので原作知らない人を振り落とすの承知で書いたのですけど、実際見てくれてる方の割合ってどんなものなのかと興味がありまして。

 アンケートに投票いただけると嬉しいです。感想や評価も欲しいです。それでは。

2022/12/18 20:45 誤字修正

あなたは・・・

  • 原作を知っているし、内容も理解できた。
  • 原作を知っているけど、内容は理解できない
  • 原作を知らないけど、内容は理解できた。
  • 原作を知らないし、内容も理解できなかった
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。