ダックスフンドの首輪 作:転音
アニメ2期編からは宣言通り新しい別の小説として投稿しますので、ご了承ください。
第二十三話 英雄再結集
1944年11月下旬
天気は快晴、波風も穏やかなバルトランド北方のバレンツ海を、カールスラントの装甲艦リュッツォウ*1を中心とした小規模な輸送艦隊が航行している。
暖流のおかげで北極圏の割には比較的温かいが、そうはいっても平均気温も最高気温も当然氷点下。にもかかわらず、甲板に出て海を眺めているウィッチがいた。
そう、私である。
「はぁ……」
ブリタニアで501が解散してからの約3か月間、ノイエ・カールスラント中心にあっちこっちでプロパガンダに引きずり回されていた私だが、アドルフィーネ・ガラント中将の
なんでだよ!飛行機飛ばしてくれよ!なんで私が動くときは頑なに船なんだよ。バルバロッサの後の移動も、501配属の時の移動も、ブリタニアから帰る時の移動も全部船なのおかしいだろ。船旅辛いんだよ長いし。最初は軍艦に乗れてちょっと興奮したけどもう飽きたよ。
「いやまあ冬のスオムスに飛行機で向かわせるのは危ないんだろうけどさ」
しょうがないんだろうけど……しょうがないんだよね?上層部の嫌がらせだったりしない?
移動手段への不満はともかく、何のためにスオムスへ行くのかというと、まず一つは新しい
現在は第501から第506までがあるので、スオムスのカウハバ基地に7個目が出来るわけだ。新しく部隊が出来るといってもこれまでのJFWとは違い、既存の部隊をスオムス空軍の管轄から北部方面統合軍総司令部へと移管されることでできる部隊である。なので私がその部隊に参加するわけではない。
私が……いや、私たちがカウハバ基地に向かう理由は、その部隊が私たち『フリューゲル』の異名の一つである『サイレントウィッチーズ』の名前を受け継ぐからだ。私たち、ということは当然他もメンバーもカウハバに集まることになっている。久しぶりにみんなと会える貴重な機会でもあるので、楽しみでしょうがない。
「みんな元気かな?早く会いたいなぁ」
みんなはヨーロッパ各地でバラバラに戦っているため、この船には乗っておらず、ムルマン*2で合流する予定になっている。その後列車や車で2,3日ほどかけてカウハバに移動するのだ。
もう一つの理由はこの冬に実施される予定のフレイアー作戦のためのプロパガンダだ。フレイアー作戦とは、バレンツ海に新たに出現したネウロイの巣「グレゴーリ」の破壊を目的とした大規模作戦のことであり、フレイアーとは北欧神話に登場する豊穣の女神の名前だ。宗教というものが大方吹き飛んでいるこの世界においても、苦しい時の神頼みは健在のようである。
常勝無敗の指揮官がいる。となればそりゃあ士気は上がるだろう。上がるだろうが、私はヴェネツィアで予定されている「トラヤヌス作戦」の指揮を執る予定なので、実際のところ適当にプロパガンダを終えたら作戦自体には参加せずに帰るのだが。
「あおるだけあおって帰るの、ちょっと申し訳ないんだけどな」
まあ、知らぬが仏というやつだろう。
「おや、そんな恰好で大丈夫ですか?」
「ティーレ大佐」
ブツブツと独り言をつぶやいていた私に話しかけてきたのは、この船団の司令官のアウグスト・ティーレ大佐だ。
「ウィッチですから。体調を崩したりはしませんよ」
「もちろん頭では分かりますけどね。相変わらずみなさんの服装は見てるだけで寒そうで……」
「あはは……まあ、少しは寒いですけど、この先しばらくはスオムスにいるわけですし慣らしておかないと」
ヴェネツィアへの移動も考えると、私が東部戦線にいるのは一か月ほどだろう。天候次第でもあるがそのほとんどは移動時間だろうし、仕事場である前線付近は住民が避難してしまっているので観光どころではない。ガラント中将には文句を言わなければ。
「いい心がけです。私の部下にも見習わせたいところですな」
「そうですか?みなさん、真面目にお仕事されてますよ?私の訓練にも付き合ってくれますし」
「救国の英雄殿の前でいい恰好しようとしているだけですよ。普段は全く……」
嘆かわしい、と言わんばかりの口調だが、雰囲気は楽しげだ。どうやらなかなかいい関係のようである。
「カタパルトの練習は今日も?」
「そうですね。やらせていただきたいです。なかなかない機会ですし」
「熱心なのはいいですがしっかり休息も取ってくださいよ?ただでさえ長い船旅でお疲れでしょうし。幸いこの海域は安全―――」
大佐がそこまで言った時だった。ネウロイの接近を知らせるブザーが、海上に鳴り響いた。
「な、馬鹿な!なぜここに」
「絶対安全、とは言えないようですね」
「……そのようです。出撃準備を」
「
この辺りにはネウロイの巣どころか、勢力圏にも接していないのだが……なぜネウロイが?新しくできた巣も同じバレンツ海ではあるものの、距離的には800km以上離れているはず。理由は不明だが、一つ言えるのは、私は運が悪い。
格納庫、という名の倉庫からストライカーユニットをだして装着。
この船、ポケット戦艦というあだ名の通りそんなに大きくないし、作られたのも昔なのでもともとストライカーを載せること自体を想定しておらず、一応飛ばせないことはないが準備が結構大変なのだ。
本来であれば護衛のウィッチをつけたり、ちゃんとウィッチを飛ばせる船と一緒に行動したりするのだが、まさかこの航路でネウロイに襲われるとは想定していなかったので、戦えるのは私しかいない。
「クライン、出撃準備完了しました」
「了解。ネウロイは現在、7時の方向から接近中。数は1、中型と思われる。艦隊はホニングヴォ―クへ向かって回避しているが、およそ10分で接敵する」
「了解。救援はどうでしょうか?」
「要請したが最寄りのバナク空軍基地からも25分程度はかかる。15分は何とかしてくれ」
「……了解。出撃します」
う~んこれはちょっとまずい。接敵まで10分とはいうものの、艦隊とネウロイが接敵したら間違いなく守り切れない。となればむしろ、艦隊から離れたところで迎撃したほうがいいか。交戦時間は伸びるし、艦隊からの援護も受けられなくなるが、より被害を減らせるはずだ。
「大佐、私は艦隊を離れて迎撃します。みなさんはできるだけ遠くに逃げてください」
「ダメだ。危険すぎる。1人でどうするというんだ」
「時間稼ぎはできます」
「君に死なれたら困る。上空で待機だ」
「それはプロパガンダのためですか?どのみち仲間を見捨てて生き延びた英雄なんて死んだも同然です。どうせ死ぬなら戦って死にます」
「ま、まて――」
勝手に通信を切って、ネウロイの方へと飛ぶ。
数分も飛べば、空の向こうに平べったい黒い物体が飛んでいるのが見えてきた。
「見えた!こいつ……相変わらずふざけた形だ!さっさとおちろ!」
上を通り過ぎながら乱射。丸くてパンケーキのような形で、まるで的のようだ。が、
「か、硬い。攻撃が通らな―――うわっ!」
視界を埋め尽くすほどの凄まじいビームの嵐。間一髪、逃げ道が消える前に回避することが出来たが…
「ビームの量も多い。あの数は受け止めきれないっ!時間を稼ぐにしてもどうやって……くぅ!」
策を講じる暇もなく、束のようになって次々と飛んでくるビーム。
「攻撃は無理だ。ひとまず回避に専念して……いやでもそれだと足を止められないし……」
魔法力にも弾薬にも限界がある以上、無駄うちは避けたい私。一方そんな制限なんて一切なくいくらでもビームを打ってくるネウロイ。ヒイヒイ言いながら回避し続けること(体感)数時間。
「隊長殿のお呼びとあらば!!」
「なっさけないなー!なまっちまったんじゃないか!?」
思わず上げた悲鳴に、返された声。待ちわびた救援はなんと、見覚えのある顔だった。
「ヨハナ!ヴィルマ!なんでここに!?」
「ムルマンスクに向かう途中、バナクで休憩してたんだ。ネウロイが出たって聞いたときは冷や汗掻いたが、元気そうで何よりだ」
「……基地の航空隊は?」
「最初はちゃんと一緒に行くつもりだったんですが、あの人たちとんでもないノロマです。練度も低いし、装備もダメダメ。あんまり遅いので置いてきました」
「そういうことだ。あの様子だともう10分くらいかかんじゃねえか?」
「えぇ……?ま、まあとにかく助かったよ」
ハイタッチして魔法をつなぎ、ビームを回避しつつ上昇して距離を取り、急降下しつつ3人分の火力を一か所に集中させ硬い装甲を突破、したはいいが。
「再生が早い」
「これじゃあ止めは刺せないんじゃ」
「ほかにできることがあるわけでもない。とにかくやってみよう」
ネウロイだってダメージを与えれば飛行速度が落ちたり攻撃が弱まったり影響は受ける。上から下から、何度目かの攻撃ではついに。
「!!」
「あった!」
「けどやっぱり再生が……!」
いくらかは撃ち込めどコアを破壊するには至らず。もう一度、と体勢を整えたその時。突如としてネウロイの体が爆発。全体が白くなり、破片となって散った。
「だ、誰!?こんどこそ飛行隊が!?」
「いえ、隊長。あれは……」
「お久しぶりです。メラニー隊長」
「おっひさー」
「アンネ!フリーデ!2人もバナクから?」
「いえ、私たちはムルマンからです。間に合ってよかった……」
「エンジンぶっ壊れるくらい飛ばして来たんだぜ~感謝しろよ~」
「ほんと助かったよ……三人集まっても火力不足だったからさ……」
改めてみんなの顔を眺めてみても、心身ともに元気そうである。ヨハナは変わりなく、ハックルは昔に比べて堂々としている気がする。
ヴィルマ=ウータ・エッテルはもともとフリューゲルにいなかった、原隊からはぐれた3人のうちの唯一の生き残りである。昔はもっと礼儀正しかった気がするが……ちょっと毒舌になっている。
フリーデリンデ=カーリー・ミュラーは相変わらずカールスラント軍人には珍しいタイプだ。ヒスパニアに行ってからこうなったらしいが、やっぱり幼い時に受けた影響というのは成長しても残るものらしい。
「それにしても、こんなところで全員そろってしまいましたね」
「ああ、そっか。もうみんなしかいないのか」
「もうあれから結構経ったしな~上がりを迎えて引退したやつもいるし」
「もう一度集まれてよかったです!」
「せっかくだしタイチョー。かっこよく決めてみたらどうだ?」
「い、いいよ恥ずかしいし……」
「私はお願いしたいです!」
「俺も」
目を輝かせるヴィルマとニヤニヤしているヨハナに後押しされ、一度コホン、と咳払いをしてから私は宣言した。
「ここに第一特別戦闘航空大隊フリューゲルを再結成します!」
――――――
艦隊の護衛や周辺の哨戒をバナク基地のウィッチたちに引き継ぎ、私たちはそのまま空を飛んでムルマンへ。少し休憩してから車に乗り込む。しばらく会っていなかったこともあって、休憩や移動中の話題はもっぱら、各々がどこで何をしていたかの土産話となった。
「私がブリタニアの501にいたことは多分みんな知ってるだろうけど、みんなはあの後どうしてたの?」
「私はオラーシャをあちこち転々と……」
「まあ、お前はもともと寒いとこで戦ってたもんな」
うんうんと納得するヨハナに対し、出来れば温かいところが……と苦笑するアンネ。
「そういうヨハナさんは?」
「俺はバルトランド南部でネウロイと戦ってた。海挟んでるもんだから全然攻めてこなくてよ。暇でしょうがなかったぜ」
不満がでかでかと顔に現れた表情でそう愚痴るヨハナ。
「ま、私らが暇ってことはいいことだ」
「世界中が平和ならいいけどよ、戦場があんのに戦わせてもらえねえのはなぁ」
フリーデが窘めても納得いかない様子で、空気を換えるべく今度はヴィルマが話し始めた。
「私はもともと下士官でしたので。士官教育を受けてからバルトランドに配属されました」
「そうか。確かもともとの階級は……」
「伍長です。訓練学校には進まずにウィッチになったので、尉官に昇進できなくて」
いくら偉業を成し遂げたとは言っても、指揮官になる事もある尉官への昇進は士官教育なしには行えない。もともと訓練学校に進まなかったということは、士官を目指していなかったのだろうが心変わりがあったのだろうか?私が脳裏に浮かんだ疑問を口に出す前に、ヨハナが叫んだ。
「バルトランドにいたのか!全く気が付かなかった……」
「私とヨハナさんは配属先も違いますし、バルトランドは広いですから、気にしないでください」
「そうか?じゃ今度遊びいくか!」
「ぜひお願いします」
なお、2人の所属する基地間の距離は車で半日以上もかかることが判明した。
「フリーデは?」
「私はオラーシャ。本国が教官やってくれってうるさいからさ」
「それとオラーシャがどうつながるんだ?」
「天下の東部戦線においては命令が正しく伝わる事のほうが少ないのさ」
飄々ととんでもないことを抜かすフリーデ。コイツさては命令無視……考えないでおこう。
私は些細な不安を覚えながら、カウハバへと向かうのだった。
「ブレイブウィッチーズPrequil3 オラーシャの幻影」ゲットだぜ。これでスオムスいらん子中隊というか第507統合戦闘航空団について書くことが出来る!ということで本編更新です。大変お待たせいたしました。次の話はもっと早く投稿したい(希望)
感想、評価、お気に入りなど!切実にお願いいたします……と普段なら言うところなのですが、今回はちょっとそんなこと言ってらんないかもしれない事件が。
端的に言えば作品崩壊の危機デス。たぶん、きっとこれまで誰にも指摘されなかったということは平気だと思いたいのですが、ワンちゃんやばいかもしれないので情報提供を求めます。詳細は活動報告にて。
あなたは・・・
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原作を知っているし、内容も理解できた。
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原作を知っているけど、内容は理解できない
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原作を知らないけど、内容は理解できた。
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原作を知らないし、内容も理解できなかった