ダックスフンドの首輪   作:転音

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 大変長らくお待たせいたしました。いらん子中隊はこれで最後ですかね。つなぎですので、扱いが雑でファンの皆様には申し訳ない。


第二十五話 第三次生贄作戦

翌日 ブリーフィングルーム

 

「今日から訓練を行いますが、より良い訓練を行うためにはまず、お互いの実力を把握しておく必要があります。ということで、今日は訓練自体は少なく、能力テストと明日以降の方針を決める日にします」

 

 はい!と元気に手が上がった。挙げたのはプロイ曹長だ。

 

「テストってどうやるの?この基地にそんな設備無いのに」

「それは大丈夫です。訓練のため、と理由をつけていろいろ持ってきたので。機材もちゃんと持ってきましたし、食料も山ほどあります。ご褒美もあるので頑張ってください。」

 

 そういうとみんなから歓声が上がった。

 

 東部戦線全域、特にスオムスは物資が乏しく、食事も質素になりがちである。きつい訓練をやるからには楽しみも用意しておこうということで、デザートになるようなものまで無理を言って引っ張ってきたのだ。見るからに意欲的になったみんなの様子を見るに、これは大当たりだったと言えるだろう。

 

 喜色満面で想像を膨らませているみんなと対照的に、真面目な顔をした迫水中尉が手を挙げた。

 

「どうかしました?」

「模擬空戦はやりますか?」

「いや、その予定はないけど……やったほうがいいですか?」

 

 私が聞き返すと、彼女は力強くうなずいて力説した。

 

「もちろんです!私たちは航空ウィッチですよ?一緒に空を飛んでこそ!真に分かり合えるというものです!」

「そ、そういうものですか」

「確かに、サイレントウィッチーズという名前も連携力の高さが由来だし、一度うちとフリューゲルとで模擬空戦をするのはいいかもしれないね」

 

 せっかく訓練用の武器やペイント弾もあることだしね。とハッセも同意する。すると迫水中尉はなぜか驚いたように言った。

 

「そんなものまであるんですか?」

「?もちろんです。知ってて模擬空戦を提案したんじゃなかったんですか?」

「え?……いやだなぁ、もちろんそうですよ」

「抱き着くつもりだったんだろうなぁ」

「揉むつもりだったんでしょうねぇ」

「そこ!私を何だと思ってるんですか!」

 

 リー中尉とヴィスナ曹長が何やら小声でつぶやくと、すかさず迫水中尉がツッコミを入れた。何を言っていたのかはよく聞こえなかったが、まあ仲がいいのはいいことだ。昨日のパーティーのおかげもあって、私やほかのフリューゲルのみんなとも打ち解けて、昨日とは違いリラックスできている証拠でもある。

 

 そのままコソコソと作戦会議?を始めた3人に言った。

 

「一応言っておきますが、模擬空戦には私は参加しません」

「それはあの特技が理由ですか?団体戦でもダメですか」

「むしろ団体戦のほうがダメ。固有魔法まで使えちゃうしね」

 

 特技についてもパーティーの時に話したので、みんなは特に驚いたりすることなく受け入れた。のだが。

 

「けど、そうなると4対5でうちが一人多くなるね」

 

 そう。ハッセの言う通り人数に差が出来てしまう。彼女は「同じ隊長だし自分が抜ける」と言ったが、私はそれを押しとどめて提案した。

 

「それなら迫水中尉を抜いてくれない?」

「私ですか?」

「うん。ちょっと話したいこともあるし」

「話!?」

「出来れば二人きりで」

「二人きり!!??」

 

「「「・・・・・・」」」

 

「ダメです!絶対やめた方がいいです!」

「そうですよ!迫水中尉と二人きりなんて大型ネウロイに単騎で挑むより危ないよ!」

「ストライカーもパラシュートもつけずに空挺するようなものです!」

 

 私の提案に急に興奮しだす迫水中尉と全力で制止し始めた507の面々に思わず困惑していると、横からアンネが冷静に指摘した。

 

「隊長、模擬空戦を提案したのは迫水中尉ですよ?」

「あ……確かに。それじゃあ悪いか。ごめん、無かったことに―――」

「いえいえいえいえ!遠慮なさらず!」

「―――いいの?でも空戦やりたいんじゃ」

「いいですいいんです!むしろこっちからお願いしたいくらいで!!」

「そ、そう?それならいいけど……」

 

――――――

 

 おいしい食事に加えて、「10mは離れてください」「銃に弾を入れて向けておくべき」「今からでも考え直した方がいい」など数々の忠告をいただいたあと私は迫水中尉の私室にお邪魔していた。

 

「さて、空戦にどれだけ時間がかかるか分からないし、単刀直入に本題に入ろうと思うんだけど」

 

 空戦に行ったみんなは……というより507の3人はやけに張り切った様子だった。あの様子だと、どちらの勝ちかはともかく、決着はさっさと着きそうだ。そういう意味での発言だったのだが、迫水中尉はなぜか赤らんだ頬に手を当てて、腰をくねくねさせながら言った。

 

「そんな……いきなりだなんて、少佐って情熱的な方なんですね」

「?……話っていうのは、人型ネウロイについてのことなんだけど」

 

 人型ネウロイ、その単語が出た途端、これまでと空気が変わった。

 僅かに目を細め、やや声を低くして彼女は言った。

 

「それは軍機*1のはずですが、なぜご存じなんです?いくらあなたでも知ってるはずありません」

「501も、ブリタニアで人型ネウロイと接触した。その時、上から最低限の情報が降ってきたんだ」

「ブリタニアにも?……なるほど」

 

 迫水中尉は眉を顰めると、少しうつむいて考えてから話をつづけた。

 

「ですが501が解散したということは何とかなったのでしょう?なぜ今更知りたいのですか?」

「ブリタニアでの件を受けて、来年春にヴェネツィアでネウロイとの接触作戦が行われることになってね」

 

 トラヤヌス作戦。かつて存在したローマ帝国、その最大版図を築き上げたトラヤヌス帝の名前を借りたこの作戦は、史上初のネウロイとの接触、そして意思疎通を目的とした実験作戦である。

 

 宮藤に対して人型が明確な意図をもって何らかの情報を伝えようとしたこと、ヴェネツィアで新たに同型の人型ネウロイ(少なくとも外見は)が発見されたことから建てられた本作戦は、場合によっては戦争を一気に終結まで持っていける可能性すらある一方、反発する声も大きくなるであろうことから、極秘作戦として軍内でも知っているのはごく少数にとどまっていた。

 

「アレと接触……ですか」

「詳細は話せないけど、人型に関する情報が欲しいんだ」

「わざわざ私にですか?上に聞いてみたらいいじゃないですか、わざわざ極秘作戦について私に話さなくても」

「もちろん聞いたよ。人型ネウロイについて教えてほしいって。そしたら何て返ってきたと思う?『こっちが聞きたい』だってさ」

 

 本当に何も知らないのか、知っているけど黙っているのか。それは分からないが、上に聞いてもダメなら実際に接触したウィッチに聞くしかない。彼女も納得したようで、私たちはお互いの遭遇した人型について、情報交換を行った。

 

 一通りの話が終わった後、迫水中尉はこんなことを言い出した。

 

「ところで、トラヤヌス作戦のことも人型ネウロイのことも、どちらも機密ですし、危ない橋を渡ったからにはお礼がいただきたいのですけども」

「まあ、私にできる範囲であれば。上にばれるわけにもいかないし、大したことはできないと思うけど」

「いえいえ、体一つ貸していただければ大丈夫ですので……」

「はぁ……君がいいならいいけど」

 

 今日の夜に迫水中尉の部屋に行くことを約束して、話は終わった。

 

 その夜、約束に従って迫水中尉の部屋の扉を開けると、そこにはやたら薄着の……というかもはやスケスケのTシャツ一枚で待ち構えている中尉がいた。

 

 いや、これまで薄々感じてはいたのだ。中尉の妖しい態度というか、507の面々がやたらと中尉を取り押さえていたあたりというか、そもそも「背徳の地」とかいう別名がついている辞典で若干察してはいた。エース特有の勘の良さは貞操の危機にも発動するらしい。地味に「記憶」のおかげでそういうことに関する知識があったのも幸運だった。

 

 真夜中にこの格好で客人を招く時点で容疑は確定しただろうということで、私は思いっきり叫んだ。

 

「変態だー!!」

「させるかー!!」

 

 私が口を開くのとほぼ同時に、迫水中尉は両手を伸ばしてとびかかってきた。

 私はキャーなど適当に叫びながら迫水中尉がわざわざ突き出してくださった左腕をつかみ

 

「ん?」

 

 そのまま今度は左肩の肩甲骨のあたりの服もつかんで、くるりと体を回転させながら引き込み……

 

「へ?」

 

 とびかかってきた勢いそのまま投げ飛ばした。

 

「う゛!?……ぎゃぁ」

 

 悲鳴を聞いて駆け付けたみんなが思わず拍手するほどの完璧な背負い投げである。投げ飛ばされた迫水中尉は石造りの柱に背中を強打した後、そのまま床に頭を打ち、沈黙した。

 

 ウィッチは頑丈。石造りの柱や床に受け身を取れずにぶつかったとしても死にはしない。……多分。さすがに勢い良く投げすぎたかと心配である。まあ、伸びている迫水中尉を見て507のみんなは大喜びなので、たぶん大丈夫だろう。

 

――――――

 

 変態は生命力が強いらしい。

 

 翌日の朝には回復した迫水中尉を交えて、507から受けた説明はおおむね私の想像通りだった。

 

 ようは、心より先に体を堕とすタイプの同性愛者(ガチレズ)のド変態だったという話。うーん、酷い。正直、こんなのが戦闘隊長で、一時は中隊長代理だったというだけでいらん子中隊の蔑称も納得である。むしろウィッチの敵だろこれ。

 

 ちなみに問い詰められた迫水中尉の反論は

 

「だって!普段新聞でかっこよくしてる女の子がトロトロになってるところがみたいじゃないですか!!」

 

 だった。もう手遅れである。

 

 しかし困る。前まではばれないようにとある程度自制していただろうに、みんな知ってるとなれば遠慮がなくなるだろう。うちのメンバーを襲われたらもちろん困るし、507のみんなもかわいそうだ。むしろ今までよく大きな問題にならなかったもんだと感心する。歴代の義勇飛行中隊隊長、隊員たちの苦労が目に浮かぶようである。

 

 だがそうはいっても安易に禁止禁止というわけにもいかない。禁止したところで破るだろうし、禁止した結果むしろ悪化する可能性もある。というか、無理やり人を襲うなんて軍紀以前に法律で余裕でアウトなので、今更命令したってどうにかなるはずがない。

 

 悩んだ末、私はある名案を思いついた。

 

「ダメです」

「あっはっはっは」

「えぇ……」

「や!……や!」

 

 以上、私の案を聞いた4人の反応である。上からアンネ、フリーデ、キルシュナー、ヴィルマで有る。全会一致で賛成だな。早速迫水中尉に交渉するとしよう。

 

 私の案はこうだ。迫水中尉は我々がこのカウハバ基地にいる間、私のことをいつでも好きなだけ襲っていい。ただし私は全力で抵抗する。私の抵抗を打ち破ったら好きにすればいいし、打ち破れなかったら誰にも何もしない。真面目に訓練をこなすこと。期間は滞在予定の1週間、つまり、あと6日である。

 

「その言葉、忘れないでください」

「受けてくれるんだね?」

「もちろんです!穴拭中尉と磨き上げた体術!見せて差し上げましょう!」

「甘い!!」

「え?……ひでぶっ!?」

 

 いうが早いか飛びかかってきた迫水中尉を再放送のように投げ飛ばし、私は言った。

 

「扶桑の格闘術ならいい先生が501にいたからね。そもそも、対人戦で私に勝つなんてエーリカでも無理だよ」

 

 こうして、私の第三次オプファー(生贄)作戦が始まった。

 

*1
旧日本軍において、「軍機」とは軍事機密の中でも特に重要度の高いものが設定される最高機密のこと。





 情報少なくて書くのしんどかったです。やめとけばよかったかもしれん。でも必要っちゃ必要だし……筆が進まずお待たせいたしました。次はブレイブウィッチーズに触れてから、第二期へと続く感じになります。
 大学という新生活が始まったこともあり、更新が早まる気は全くしませんが、温かいご声援をお願いいたします。

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