ダックスフンドの首輪   作:転音

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第七話

 

「そのままベルリン防衛を続行・・・?」

「どういうことでしょうか」

 

 

 小ビフレスト作戦を何とか成功させ、ベルリン近郊からの避難を完了したのだが・・・後退する周囲の前線とちがい下がるわけにはいかなかったベルリン。その結果、現在ベルリンは突出しており包囲される危険性があった。

 

 しかし上からの命令はベルリンの防衛を継続すること。・・・なんでだ?ベルリンから下がって、エルベ川で防衛してはいけないのか?フィリップ大尉と頭をひねるが、理由は分からない。命令なので従わないわけにもいかず、ベルリンの防衛を続行することになった。

 

 

 今思えば、この時撤退していれば・・・と思うが、その後悔をする頃にはもう遅かった。

 

*****

1941年 1月

 

 カールスラント軍は全土で撤退戦を開始、大ビフレスト作戦の始動である。これまで肉壁をもって堅持してきた防衛線を放棄してガリア・ブリタニアに撤退する作戦だった。当然、前線はこれまで以上の速度で後退していき・・・SJB1や数名の原隊からはぐれたウィッチ。守備隊などを残して、ベルリンは包囲されることとなった。

 

「こちらSJB1大隊長クライン大尉!撤退の許可を!」

「だめだ。防衛をつづけろ」

「なぜです!今ならまだ前線に合流することも」

「守備隊はどうする?見捨てる気かね」

「・・・彼らを連れても、まだ間に合います」

「嘘をつくな。ベルリンの周りは平地だ。一歩出ればハチの巣になる事は分かっているだろう」

「それは・・・」

「改めて、命令だ。ベルリンを死守せよ。物資も人員もまだ戦える状態にあるだろう。敵前逃亡は重罪だ」

「そんな無茶苦茶な!・・・ではせめて、いつまで防衛すればよろしいのか、お教えいただきたい」

「・・・大ビフレスト作戦は、5月までを予定している」

「な!それまで耐えろと!?それは・・・」

 

 通信は切れた。

 

 

「今となっては遅いけど・・・どうしてベルリンを守ろうとするのか、これでわかった」

「どうしてです?」

「囮だよ。私のいた南部戦線では、オストマルク軍がトランシルバニアにこもっている間攻撃が弱かったんだ」

「なるほどな~俺たちはそのオストマルク軍にされたってことか」

「カールスラント軍は戦力を失いすぎた。まともに撤退することなんてできやしない。・・・必要な犠牲と割り切ったんだろうね」

「物資がのこってるのは、せめてものつぐない、ですか」

 

 冷静に考えて、5か月持たせるのは可能なのか・・・?だが前線に戻っても敵前逃亡で射殺されては意味がない。平時ならそんなことにならないだろうが、今はおそらく前線は混乱している。現地指揮官の判断次第ではまずい。

 

「ひとまず、守備隊の指揮官と話がしたい。フィリップ大尉、呼んできてくれ」

「あの、それが大隊長・・・どうやら守備隊に士官が一人も残っていないらしいのですが・・・」

「は!?」

「おそらく、貴重な人材をほとんど確実に戦死するようなところに送りたくなかったのではないかと」

「・・・上は何処までくそなんだ」

「おっ口が悪いぞ~」

 

 陸軍関係の知識なんてほとんどなし。だが何の知識も経験もない、なんなら一兵卒としての訓練すら満足に行われてるか怪しいような奴らに部隊を率いさせるというのも・・・

 

「ひとまずは私の指示に従ってもらって、才能がありそうなやつがいたら任せてみるか」

「才能なんて見ぬけんのか?お前」

「方針を決めないよりはまし・・・だと思う」

 

 空に関しては・・・現在ここにいるウィッチはSJB1の8名と原隊からはぐれた3名の計11名。戦闘機なんかはもちろんなし。対空砲は、外においてあるのが使えるか。ナイトウィッチはいないので、夜の間はどうにもならない。

 

「ベルリン全域を守るなんて到底無理だな。ある程度建物が残ってる場所でこそこそゲリラ戦をするしかないか」

「ネウロイ相手にゲリラですか・・・効果あるんでしょうかね?」

「真正面からぶつかってもどうにもならないからなぁ・・・ベルリン防衛の目的が囮なら、敵をひきつけられればいい。定期的に攻撃を加えてれば無視はできないし、それで目的を果たせるだろう」

「そ、そんなこと・・・できるんでしょうか・・・?」

「出来る出来ないじゃない!やらざるを得ないんだ。私は、生きて帰る」

 

 不安要素は何も物質的なものだけではない。兵士たちの精神もまた、問題になりうる要素だ。

 

 何せ彼らは男で、私たちはまだ子供とはいえ女。戦場でストレスのたまっている兵士たちが、自分たちをこんな状況に追いやった奴らと同じ上官である少女にどのような形で鬱憤を向けるのか・・・想像したくもない。

 

 だからこそ、私たちは一芝居打つことにした。

 

*****

 

 兵士たちの士気は下がっていた。だがそれも仕方がない。こんな状況に絶望するなというのが無理な話なのだ。彼らは現在自分たちがどのような状況に置かれているのか。司令部からどのような命令が出たのか・・・何一つわからず、ただ周囲を恐怖の象徴に囲まれていることだけがわかっていた。

 

 兵士たちの不満はたまる。統率など元からない赤の他人。辛うじて軍の形をした何かが、暴徒へと変貌しかかったその時だった。

 

 自分たちの半分くらいしか生きていないような少女たちが、ぼろぼろの軍服に身を包み、彼らの前にたっていた。その少女は、かわいらしい顔に覚悟を浮かべ、大声で演説を始めた。

 

「私たちには選択肢がある!逃げるか!耐えるか!今ならば前線からの距離はまだ近い。合流することもできるかもしれない」

 

 なら、逃げればいいじゃないか。少しの光に見えたそれに誰もが縋り付く。何をこんなところで死ななければならないのか。

 脳裏によぎった疑問を、しかし少女は分かっていた。

 

「しかし!我々がベルリンから逃げ!ネウロイを引き連れて前線へ向かえば!一つの命で一秒の時間を稼ぎ!その時間で多くの人々を逃がし、生かしている戦友を!戦う力を持たない家族!友人!恋人を!死へと向かわせることになるだろう!」

 

 それは・・・

 

「諸君は、大切な人を!ものを!ネウロイの手から守るために兵士になったのではないのか!?そのようなくそったれな運命を覆すために戦う力を望んだのではないのか!今、ここで私たちがネウロイと戦えば、それで救われる命がごまんとあるのだ!」

 

 そうだ。俺たちは守るために戦うことを決意したのだ。

 

 ならば

 

「ならば!」

 

「戦おうじゃないか!我々はまだ生きている!戦うための武器がある!力がある!守るためにできることが!私たちには!翼があるのだ!希望をつかむための翼が!まだ残されている!諸君らに・・・勇気はあるか?」

 

 

*****

 演説の練習なんてしてないが、重要なのは感情の種類とそれを向ける矛先だ。少なくとも、傷だらけの少女が年に似合わない自己犠牲じみた覚悟を決めている。私たちウィッチも被害者であり、仲間であるとアピールできれば問題ない。

 

 反応を見る限り、その芝居はひとまず成功したように見えたし、ひとまずはこれで様子を見よう。

 

 

 朝起きて出撃、ご飯食べて出撃、ちょっと休んで出撃・・・魔法力の限界まで毎日毎日出撃出撃・・・。それでも守り切ることはできずに犠牲が出る。疲労が積みあがっていくことも相まって、哨戒に出したウィッチが帰ってこなかったり、陸上型ネウロイによる攻撃で兵士が犠牲になったり・・・おいてあった補給物資も日に日に減っていき、怪我をした仲間を満足に治療することもできない。

 

 当初およそ200人いた守備隊は、最初の一月で50人もう一月で50人・・・毎日のように人が死んでいた。もちろん対策はした。戦車の装甲を無理やり引きはがし盾としたり、がれきをフィリップ大尉の魔法で動かしてバリケードを作ったり・・・だがそれらもネウロイの攻撃によってあっという間に壊されてしまい、大きな効果は挙げられていない。

 

 ウィッチもまた、死傷者が出ているだけでなくストライカーユニットの故障問題も出てきている。まあ二か月もまともに手入れできてないし壊れるのも仕方がないんだが・・・自分たちでできる範囲のことはするが、整備兵がいないとやはり厳しい。

 

「ユニットは温存するべきか・・・?」

「空からネウロイにばれてしまうのでは?」

「だよなぁ・・・対空砲の弾も有限。・・・箒使って飛ぶか」

「え~俺そんなのできないぞ」

「一応訓練はしてみよう。先人はそうしてたんだし、まったくできないことはないでしょう」

「あの・・・箒といっても空を飛ぶための特別製で、その辺にあるようなのでは飛べないんじゃないかと・・・」

 

・・・

 

「よし。別の手段を考えるか」

「どうしようもねえじゃねえか・・・」

 

 

 ユニットを履かなくても攻撃に魔力を込めることはできるから、地上から空中のネウロイに攻撃することはできなくもないが・・・ユニットがないと撤退戦の時に詰んでしまう。どうにかこうにか持たせるしかないな・・・

 

「地上からネウロイを撃ち落とすなら、拠点を変えるのはどうでしょうか?」

 

 地図をにらんでいたフィリップ大尉が言った。

 

「拠点を変えるといっても・・・どこに?」

 

 現在、私たちの拠点はベルリン中心部からほど近いテンペルホーフ空港である。空を飛ぶには滑走路が必要なため、空港を拠点としていたのだが・・・確かに空を飛ばないならここである意味は薄れる。

 

「ベルリンの東端にシュパンダウ要塞があります。周りを川で囲まれてますし、確か、対空陣地にもなってたはずなので・・・物資もあるかもしれません」

「た、確かにハ―フェル川とシュプレー川に囲まれて周りは水だらけですね」

「逃げ道がないじゃねえか。いざという時どうすんだ?」

「そんなもの元々ないでしょう?」

 

 全員が黙った。

 

「決まりですね。移動の準備にどれだけかかりますか?」

「2日もあれば十分かと思います」

「よし。では2日後の夜、シュパンダウ要塞に向けて出発しましょう」

「「「了解」」」

 

 ここからシュパンダウ要塞に向けては16キロほど。3~4時間程度でつく距離だ。夜の間に十分間に合う。

 

 物資があるといいなぁ・・・それがなくても近くに川があるなら水浴びができる。洗濯もできる。衛生問題も割と深刻だったのでそういう意味でもいいことだ。

 

 久しぶりに少しばかり気分が明るくなった。

 

*****

 

 私は使い魔がフクロウで夜目が利くため、ハックル曹長と視界を共有して夜間の索敵をしつつ、特に何事もなく要塞に到着。防衛体制を構築することが出来た。物資はわずかばかり砲弾なんかが残されているぐらいで期待していたほどではなかった。

 

「でもまあ、要塞というだけあって守りやすそうでよかったよ。建物も頑丈そうだし」

「そうですね。人的被害も少しは軽減できそうです」

「前にある大きな道路を整地すれば、滑走路代わりにもなりそうだし、もっと早くこっちに来るべきだったかも・・・」

「過ぎたことを言っても仕方ないですから。これから最善を尽くしましょう」

「あと、3か月・・・何とか持ってくれよ」

 

 その後の3か月、特に最初のころはネウロイにばれていなかったこともあって心身を休める時間が出来たこと。

 

 久しぶりの水浴びや洗濯、要塞への安心感・・・そして非常に遺憾だが、ウィッチへの覗きなどで士気が回復したこと。陸上ネウロイからの攻撃を受けづらい地形により純粋に防衛力が強化されたことで防衛の安定感が増し、これまでより犠牲を減らすことへつながった。

 

 

 そしてついに、待ちに待った1941年5月。カールスラント軍の撤退が完了したと判断したSJB1は、撤退戦へと移行することとなった。

 

「それで?撤退といっても俺たち何処へ逃げるんだ?」

「それは考えてあるというか、選択肢が北しかない」

「バルトランド・・・」

「北以外の三方は人類の勢力圏まで遠すぎますから、妥当ですね」

 

「そうなると、私たちは海を渡れませんから、一回ユトランド半島を少し北に進んでから橋を渡っていく必要があります」

「ベルリンからどうやって出るんだ?まさか、平地を進むのか?俺は嫌だぞ」

「・・・ネウロイに襲われる危険性を下げるために、エルベ川に沿って森の中を進むのはどうでしょうか・・・?」

 

「移動距離はおよそ600㎞ぐらいか・・・行軍速度なんて知らないけど、まあ1か月はかかると見た方がいいかな」

「しかしそれでもいったんは平地に出ざるを得ませんね・・・」

「そこは私に作戦がある。といってもとんでもない作戦だけどね」

「なんだよ水臭いな~今更大抵のことじゃ驚かないんだから、さっさと言えって」

「最初に精神感応魔法使った時ぐらいとんでもないよ?」

 

 いったん審議が入った。

 

「そ、その・・・どんな作戦ですか?」

「行動方針とか全く予想がつかないネウロイだけど・・・たった一つ、明確に意図をもって集団で行動する事例がある」

 

 私がそういうと、先に固有魔法の話をしていたこともあって全員ピンときたらしく

 

「おいおい」

「まさか・・・」

 

「そう!私たち4人でネウロイの巣を攻撃する!そうすれば周辺のネウロイは全部巣のほうへ集まるから、平地を進む陸上部隊は攻撃を受けないで済む」

 

 こうして、オプファー(生贄)作戦と名付けられた作戦が決定。私たちの撤退戦が始まることとなった。

 

 




 ベルリン防衛戦はもっと地獄にしようかとも思ったけど、手加減しておきました。

 というか、イメージはあってもそれを文字で表現するのが難しいんですよね。語彙力がないのが悪いのかもしれませんが・・・あるいは一般兵士とかの視点を入れて戦闘の様子なんかを書いてみるのもいいかもしれないですね。


 あと、今回の話に至るまでに一応伏線らしきものを書いてみたのですが・・・伏線になっていましたでしょうか?ほかにも今後につながる伏線を一応作っております。そこまできれいにできてるかは分からないのですが、少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。

2022/9/19 19:51 誤字修正
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