ダックスフンドの首輪 作:転音
出来れば昨日投稿したかったのですが・・・難産でした。書きたいことはあるんですけど、満足する内容にはならなかった。
一日粘っても結局あまりいい仕上がりにならず、これ以上引き延ばすとエターナルしてしまうと思ったので、無念の投稿です。書き直してぇ・・・
作者の後悔はともかく、次回かその次くらいにからは原作に入る予定でございます。エーリカとの絡みも復活!ついでに暗い雰囲気とか残酷な描写とかもおさらば!です。シリアスはあります。
そんな感じで、次回からもよろしくお願いします。
2022/9/21 6:01 誤字修正
「そんな・・・それでは我々は、あなた方を犠牲にして」
「犠牲になるつもりはありません。必ず、みなさんが森にたどり着き次第私たちも撤退します」
「我々も一緒に!」
「ダメです!・・・命令です。いいですか、私たちがネウロイをひきつけている間に、次の森まで可能な限り早く逃げてください」
「了解、しました・・・」
伝令役の兵士は、下唇を噛んで足早に去っていった。
「何か言いたげだったな」
「今更、ですけど」
「分かっていても分かりたくないんでしょう。良い人なんでしょうね」
「・・・出撃準備を。ユニットの確認は念入りに」
「「「了解」」」
今回の作戦はこうだ。
ネウロイの活動が弱まる夜間に砦を出発、南西の森に入り、その後は西へ・・・夜のうちにできるだけ進み、昼になったら巣への囮攻撃を開始。部隊が平原を突破する時間を稼ぐ。
囮攻撃は第1中隊が、第2中隊の4人は陸上部隊と一緒に動き護衛をする。平原の距離はおよそ20㎞・・・普通に歩いても5時間はかかる距離だ。全速力で急ぐにしても、荷物もあるしネウロイの攻撃もあり得る。5時間以上・・・最長で8時間はかかることを想定しておくべきだろう。
夜の間にどれだけ進めるかも分からないが、最長で8時間となると魔力的にはぎりぎりだ。そのため攻撃は可能な限り行わずに回避と防御に専念し、魔力の消費を少しでも抑えることにした。
「SJB1、出撃!」
空に飛び立ってすぐ、全員がそれぞれ私の手に順番に触れ魔法を発動。4人それぞれが別方向を警戒しながら、巣に接近。ネウロイの巣は、近づくだけで中からも外からもネウロイが群がってくる。だからこそ周囲の警戒を怠れば後ろからやられてしまう可能性がある。
散開、すぐ合流、ひねって宙返りしてクロスして・・・さながら曲芸飛行だが、一歩間違えれば背後に迫るネウロイの大群に飲み込まれてしまうだろう。死の鬼ごっこは始まったばかり、何としても逃げきって見せる。
*****
「・・・あの森までか」
「そうなるな。三十路のおっさんに全力疾走はきつい」
「言ってる場合じゃない。お前の半分しか生きてない少女が命かけてんだ」
「分かってるさ・・・全員、死ぬ気で走るぞ。誰が置いてかれても振り返るんじゃない」
「そうだな、最初についた奴は秘蔵のプロマイドでどうだ?」
「ははっ、良いな」
『SJB1、出撃!』
「いくぞ!」
通信が入った瞬間、80人余りの男たちが森から一斉に飛び出し、向かいの森へと必死の全力疾走が始まった。
ネウロイに見つからないうちはよかった。荷物は重いし緊張や溜まった疲労もあり到底早いと言える速度じゃなかった。それでも最初の1時間くらいは、一応はまともに走ることが出来た。
だが一度見つかってからは地獄だった。
「伏せろっ!」
誰かの叫びに合わせて前方へ身を投げ出す。視界の端でビームにあたった男の上半身が、光の中でみるみる小さくなっていくのが見えた。
吐き気を抑えて匍匐前進、たまたま近くにあった砲撃跡に何とか隠れ、あたりの様子をうかがう。護衛のウィッチたちだろう、反撃している音も聞こえる。はぐれが数匹やってきた程度だったのかすぐに戦闘音はやみ、再び穴から飛び出して走り出した。
転がっている頭の無い死体を見ないように、ただ前を向いて走り続け岩陰に。するとそこには隠れている男がいた。
「調子はどうだ?」
「悪いかな・・・さっき脇を撃たれたんだ」
見れば確かに、陰に隠れて分かりづらいが、どす黒い血が流れていた。
「それは・・・」
「分かってる。煙草をくれないか?好物なんだ」
言われた通りにくわえさせてやると火をつける前に死んだ。水を飲んで、再び走る。もちろん休まってなどいないが、休むという選択肢は頭になかった。
ただ一秒でも早く、走り抜ける。それ以外のすべてを意識の外においていた。
もう何人死んだのだろうか?隠れながらというのもあるだろうが、最初に走り出した時よりずいぶん減ったように感じた。彼女たちが囮になってもなお、これだけの犠牲が出てしまうのか。
森まではまだ遠い、恐らく半分も進んでいないだろう。再び銃撃の音がして、ネウロイの襲撃を知らせた。実弾を撃ってくるやつらはまだいい。だがレーザーはどうにもならない。そういう意味では、小型だらけのこの状態はまだ運がいいのだろうな。
だがその運すら尽きた。手に持った小銃の何と頼りないことか。悪あがきで撃ってみるがそもそも当たらなかった。散々「でかいだけ」とののしってきた
周囲に隠れるものはなかった。がむしゃらに走り続けると、視界が真っ白になり、一瞬背中が熱くなった・・・そして永遠の暗闇へと導かれた。
*****
通信兵から移動完了の連絡が届き、私たちはネウロイの巣から離脱。なおも追ってくるネウロイを撃ち落として地上部隊と合流した。
ウィッチは1人が死亡、兵士たちは20人余りが犠牲に。それでも最大の難関を乗り切り、帰還に大きく近づいた。ここからはなるべくネウロイに遭遇しないように森の中を進み、まずはハンブルクを目指す。
とはいえ、夜中から歩き続け全力疾走で平原を抜けたわけで、疲労でヘロヘロの私たちは地図にも載ってなかった小さな村で休息をとることにした。
「今日はひとまず森に入ることが出来たし、当分は歩くだけだね」
「そうですね。まあ歩くだけでも大変ですけど」
「・・・お風呂が恋しいです」
森の中は、虫もいるしすぐ体が汚れるし、歩きにくくて体力を奪われるし視界が悪い。ハックルの魔法がなければ危うかった場面がどれだけあったことか。それでもネウロイがうようよいたベルリンと違い、ネウロイとの遭遇頻度は低かった。
「川は近くにあるんだろ?」
「もう少し進めば、明日にはつけるんじゃないかな」
「別にきれいな川ってわけでもないですけどね・・・それでもないよりましですけど」
「ハンブルクまではある程度川沿いに進む予定だから、飲み水なんかもどうにかなりそう」
「食料のほうはどうですか?」
「ここは農村だったらしくて、ジャガイモなんかが見つかったから当分は平気かな」
「もともとあった分じゃ足りない・・・でしたっけ」
「見つけた村や町で探すしかないね。あとは狩りをしたり?」
「この辺りに食料になるような動物はいるんでしょうか?」
「す、すみません。動物には詳しくなくて」
「肉か~食いたいな~!魚ばっかじゃあきちまう」
「ぜいたくは敵、食べれるだけいいと思いましょう」
食料に関しては、意外と何とかなっていた。・・・防衛戦で当初より人数が減った結果消費が抑えられたのである。魚釣りや、鳥を撃ち落としたりして肉類も食べられた。まあみんなで分ければ一人の分は減ってしまうのだが、食べられないよりははるかに良い。
命の危機が常にあることを除けば、意外にも結構余裕がある撤退となった。
1941年 5月13日 ハンブルク南東の森
どうすればいいのか。誰も口を開かない。それくらい絶望的だった。
一日14時間歩き続け、苦労の末たどり着いたハンブルク。しかしそこにはネウロイの巣があった。もちろん迂回する必要があるのだが・・・そのためにはまたもや平原を通る必要が出てくる。
数十キロ後退すれば巣の影響を受けずに迂回できるだろうが・・・これまで進んできた道を数日掛けて戻るとなると士気に関わるし、食料にもそこまでの余裕はない。すでに人類が撤退してから5か月だ。途中の村などでの補給が期待していたほど出来なかった。
「平原を行くとしたら・・・今度は何キロ?」
「5~6キロくらいですかね」
「1、2時間くらいか。あの時よりみんな疲労がたまっているし・・・」
「休憩、ですか?」
「う~ん。まあ、夜まで休憩して移動かな」
囮作戦をもう一度やるほど余力はない。前回でも死者が多数出ているのだ。今回は全滅しかねない。夜のうちに平原を進むのがおそらく一番いいだろう。
「夜戦ですか・・・」
「巣から近いし、夜でも戦闘になるだろうね」
「雲の上まで行けば・・・だめか。それじゃ護衛になんないもんな」
夜目も聞かない真っ暗闇の中で空を飛んで戦うというのは正直かなりの無茶苦茶だ。それを避けるために前回は囮作戦をとったのだから、うまくいって最小限の被害で済むか、失敗して全滅するか。一種の博打である。
「・・・ごめん。みんな」
自分の判断ミスだった。本来はこんなことをするべきではない。見通しが甘かった。もっと情報を集めるべきだった。もっと、もっと・・・出来ることがあるはずだった。
思わず涙があふれる。強く、しっかりしなければと意識して抑えてきた感情があふれ出した。耐えて、耐えて・・・みんなを鼓舞して、先頭に立って導いて・・・その先は死だった。
みんなは優しかった。何も言わずにそばにいてくれた。
*****
「SJB1、出撃。・・・みなさん、お元気で」
空に上がっていつものように魔法をつなぐが、今日は連携が悪い。思考に体が追い付かないのだ。蓄積した疲労は半日程度ではどうにもならなかった。前回のように攻撃をかわし続けるのは・・・夜の闇も相まって、前回よりはるかに短い時間とはいえうまくいかないだろうことは明らかだった。
今回は魔法力の節約は意識する必要がないため、応戦して敵の数を減らすことが出来る。もっともそもそも弾が当たらないだろうが。
私の視界だけは夜目が利いてある程度見えるため、なるべく戦場全体を見渡せるようにやや後方から支援することになった。となれば必然、4人でまとまっての行動というわけにはいかない。それぞれで警戒する担当を分けて、基本は別行動となった。
経験も適性も乏しい夜戦、今まで取ったことの無い戦術・・・不安要素の塊といっていいこの作戦に私は嫌な予感が止まらなかった。そしてその予感は、最悪なことに的中してしまった。
私とフィリップはちょうど苦労してネウロイを撃破したところだった。作戦の終盤だったこともあり気のゆるみがあった。たまった疲労で集中力が切れていた。
フィリップが撃たれたその瞬間、私の脳に、痛みが・・・フィリップの感じている、考えているすべてが流れ込んできた。世界が、時間が引き延ばされているように感じた。
『痛い!落ちる?なんで私が。嫌だ!死にたくない!だれか!・・・』
だが彼女の絶叫に応じてはいられなかった。スローになった世界で、私もまた彼女から送られてきた痛みに叫ぶことしかできず・・・意識が暗転した。
暗い森の中、地面に少女が二人横たわっていた。近くに落ちた円筒形の機械・・・ストライカーユニットが、彼女たちが墜落したウィッチであることを示している。
しばらくして、黒髪の少女が僅かにうごめいた。木に手をついてゆっくりと立ち上がり・・・ハッと顔を上げ、血の流れている左腕を抑えながらフラフラと、もう一人の少女に近づく。
右足は骨が見えるほどえぐれ、腹部から血を流すその少女は、どう見ても助かりそうにない大けがだった。
黒髪の少女は、彼女を必死に揺さぶった。しかし動く様子はない。すると今度は涙を流し嗚咽をこぼしながら右腕を魔力で強化してストライカーを何とか身に着け、起動させた。森の中が僅かな青い光に照らされる。
森の中で飛び立つことなどできない。歩き始めたばかりの幼児のようになりながら、再び寝そべる少女に近づくと、その頬に手を添えた。
青い光が一層強まり・・・目を見開いて、いよいよこらえきれなくなった涙をぬぐうこともせず。ゆっくりと着ている軍服の中に手を入れ、拳銃を取り出す。血だまりに寝そべる彼女が笑った。それが気のせいでないことを、少女は知るすべがあった。
別れの音が響いた。
2週間後、全滅したと思われたベルリン守備隊およびSJB1はバルトランドに撤退を成功させたと大々的に報じられ、世界中で話題となった。