ダックスフンドの首輪 作:転音
1941年 12月
二週間ほど船に揺られて、たどり着いたのは南リベリオン大陸のノイエ・カールスラント。本土が陥落したカールスラントの避難先である。こんなところに来た理由としては私たちSJB1に勲章を授与する式典があるからだ。
私が貰うのは柏葉・剣付騎士鉄十字章というなんだかすごそうなやつ。撃墜数150機到達と最後までベルリンで敵をひきつけビフレスト作戦の成功に大きく貢献したことが理由らしい。まあ、十中八九プロパガンダのためだろうな。
軍上層部からしたら撤退作戦を完遂できた時点で上々なのだが、一般の市民からしたら本土を失い、撤退戦でも多くの犠牲を出し・・・圧倒的に負けていて希望が全くない状態なので、英雄を祭り上げるのは分かりやすく効果的なのだろう。
普段着ているフリーガーブルーゼではなくトゥーフロックで、
まさか空軍の大将にお目にかかることがあるとは思ってなかったし、慣れないことだらけでストレスがマッハである。勘弁してほしい。
そんなことを思っていたのがいけなかったのか、式典が終わってようやく肩の力が抜けるという時にその大将閣下に呼びつけられた。
「失礼します」
「おお、よく来てくれた。楽にしてくれ」
言われて、休めの体勢をとる。・・・常々思うのだが、この体勢とっても別に休まらない。特に今みたいな場面では。
「さて、わざわざ来てもらったのは君の昇進と、今後の配属先についてだ」
「・・・昇進ですか?」
「おめでとう。クライン少佐、若くして部隊を統率し撤退戦を見事に成功させたその手腕を、ぜひ今後とも国のために生かしてほしい」
「こ、光栄です。もちろん、最善を尽くさせていただきます」
返答がこれであってるのか分からないが、取り合えず閣下はうなずいているのでいいのだろう。或いはウィッチにそこまでの形式ばったやり取りを求めていないのかもしれない。
そんなことより少佐である。ついに佐官・・・そろそろ正式に航空団の司令になってもおかしくないような階級だ。全力で辞退したい。というか私まだ13歳だぞ。いくら実績あるウィッチといっても若すぎやしないか。
私の内心を全く無視して、大将は話を続ける。
「配属についてだが、SJB1はビフレスト作戦のための臨時部隊であるからして、通常なら原隊復帰となる」
「・・・のだがカールスラント軍は欧州各地へバラバラになってしまって何処にどの部隊がいるのか、部隊自体残っているのか、隊員の生死も行方も分からないことだらけでな。君の原隊であるJG52に関しても、把握しきれていない」
「・・・なるほど」
「少し話は変わるが、各国からエースパイロットを集めた精鋭部隊・・・第501統合戦闘航空団を知っているかね」
「噂程度であれば」
「訳あって現在501は人員が不足している。先ほどの事情も考慮して、君を501へ臨時補充員として配属する」
「了解しました」
「それから、君には1か月の休暇が認められている。いつとるかも自由だ、ただし再来年には持ち越せないので注意するように」
「1か月もですか!?」
「ウィッチはもともと、一般の軍人より多くの休暇が認められている。君の場合約半年の間、休暇が取れていないからな」
「なるほど、そういうことでしたか。ありがとうございます」
これで終わりかと、休暇に喜ぶ私に大将から一番うれしいプレゼントがあった。
「ハルトマン中尉とバルクホルン大尉も501に配属されている」
「!!・・・ありがとうございます!」
「なに、勲章を用意するよりはよほど簡単なことだ」
こうして、大将とのお話は終わった。
久しぶりに・・・本当に久しぶりにエーリカに会える。もう二度と会えないかと思っていたので小躍りしそうなほどうれしい。会える日が今から待ち遠しくて仕方がない。
すっかりはしゃいだ私はエーリカや配属となる501について情報を集めた。そうしたら
「は?いや、え?」
エーリカ・ハルトマン、まさかの1年で4回も謹慎処分を食らっていた。いや、そうはならんやろ。何があったらこんなことになるんだ。確かに割と問題児なところはあった、けどここまでではなかったと思うのだが・・・今年の6月にはストライカーユニットを無断使用して脱走までしようとしている。
「ん?6月?」
・・・いやいやいや。まさかとは思うが、原因私かこれ。それぞれの謹慎について日付を見てみればどれもベルリンが包囲された後のことである。ストライカーを盗んで脱走しようとした6月は、私がバルトランドへ到着したころのことだし・・・空飛んで会いに来ようとしたのか?
そうだとしたらうれしい。うれしいけど、どう考えてもやりすぎというか大問題。・・・まさか私が501に配属された理由ってエーリカの手綱を握ってほしいってことだろうか。この狂犬っぷりを見ると結構ありそうだ。
エーリカもトップエースとして有名人だし、問題ばかりで上の言うことを聞かないとなると相当手を焼いているのだろうな・・・
うん、一日も早くブリタニアへいこう。船旅は嫌だがこれ以上エーリカを待たせるといつの間にやら軍法会議に送られてそうで全く安心できない。休暇は、まあ向こうでエーリカと一緒に取ればいいだろう。
こうして私は疲れをいやす間もなく、再び2週間ほど船に揺られることになるのであった。
*****
さて、一応説明するが空軍大将というのは普通そうそうお目にかかるお方ではない。だからこそノイエ・カールスラントでお会いした時私はがちがちに緊張していたし、正直そう何度も会いたくはないと思った。
なのに、どうしたことだろう。今私の目の前には再び大将が・・・しかもブリタニアの空軍大将がいらっしゃるのである。長旅を終えてロンドンを観光していたところ、案内を申し出られて・・・数時間案内させたうえで職業聞いてみたら大将だった時の私の気持ちを誰か察してほしい。
死ぬかと思った。
おそらくあの瞬間の私の顔はさぞ愉快なことになっていただろう。少なくとも背中は冷や汗だらだらだった。
「そう緊張するな。私がしたくてしたことだ、君が謝る必要はない」
「そうは言われましても・・・」
「噂の英雄殿に一度お目にかかりたくてね。悪いことをした」
「いえ、そんなことは・・・」
そして現在、緊張と混乱で頭が真っ白になってる中気づいたら何やら応接室のような・・・全体的に高級感あふれる家具が並ぶ部屋にいた私は、大将と会話をしていた。はじめのうちは取り留めのない雑談だったが、にわかに大将が切り出した。
「ところでクライン少佐、現在の世界についておかしいとは思わないかね」
「と、言いますと?」
「10歳そこらの少女を当然のように軍人として動員し、戦争に参加させていることだ」
「・・・確かに、ですがネウロイへの対抗手段がほかにない以上どうしようもないことでは?」
「その通り、だが逆に言えば対抗手段を作れれば世界を変えることが出来る」
それはそうだ。この世界でも少女を戦争に送り出すことへの反発というのは存在するし、ウィッチを使わなくてもよくなるのであれば、簡単に今の世界は変わるだろう。だが
「対抗手段といいましても、ネウロイへの攻撃を行うのであれば魔法力はほぼ必須です。魔法力が20歳ごろまでの少女にしかない以上はどうにもならないのではないでしょうか」
そう、対抗手段を作るといってもそれが出来たら苦労はない。これまでも、今も、研究は行われているのだ。行ったうえで、人類は約2000年間ウィッチに全てを委ねている。
私は「記憶」がある、だから未来に作られるであろう強力な兵器を知っている。それこそ、核兵器などはネウロイすら吹き飛ばせるほどの威力があるかもしれないと知っている。だがブリタニアにはあれを作ることはおそらくできないだろうし、出来るとしても私に話す必要は全くない。
この大将・・・一体何を作ろうというんだ?
「私になら作ることが出来る。だが現時点で詳細を話すことはできない・・・君が私に協力するならば、教えよう」
「・・・具体的には?」
「ネウロイのコアだ」
「!?そ、そんなものを何に使おうというのですか!?」
「機密だ」
そういわれてしまうと、無理に聞き出すのは難しい。だが、ネウロイのコアなんて何の役に立つというんだ・・・?
「協力するなら話すとも。悪い話ではないだろう?家族や友人を、争いから遠ざけることが出来る」
「・・・」
「今の君は英雄だ。だが一年前の君は、作戦のためのいけにえとなった哀れな少女だった。・・・君のような犠牲者をなくしたいと思わないかね?」
確かにそうだ。私はたまたま運よく生き返ることが出来た。だが、普通はそうはならない。ネウロイに包囲されれば、死ぬだけ。まさしく生贄のように。
「一つ、聞きたいのですが」
「なんだね」
「なぜ私を?コアを指定するわけですから、一定以上の実力が必要なのは理解できますが・・・私よりも優れたウィッチはいるでしょう」
たとえば・・・ハルトマン、バルクホルン、マルセイユ。私は自分があったことのある、自分よりも強いウィッチを列挙した。
「もしかしたら、君はその三人より劣る四番手かもしれないが・・・ハルトマン中尉とマルセイユ中尉は命令違反が目立つ、バルクホルン大尉は逆に融通が利かない。ブリタニアには残念ながら彼女たちに並び立つようなウィッチはいない。納得したかね?」
「融通が利かない・・・?なにか問題になるようなことを?」
「質問は一つと聞いていたがね。まあなに、最後には世界が認めるだろう。その程度のことだ」
「・・・そうですか」
「どうする?協力するか」
私は一度目をつぶり、少し考えて、言った。
「名誉が欲しくて、軍隊に入ったわけではありませんから」
今まで、優し気な笑顔を浮かべていた大将・・・トレヴァー・マロニーの顔が、急に不気味に思えた。
*****
「・・・どう思う、美緒」
「何がだ?」
第501統合戦闘航空団基地の正門前、2人の少女・・・501司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐と戦闘隊長の坂本美緒少佐が会話を交わしていた。
「今回の臨時補充員について」
「実績、能力ともに申し分ない。501にふさわしい人材だと思うが?」
「そうじゃないわよ。ブリタニアがウィッチを脱退させてから、どの国も補充に乗り気でないのはあなたが一番分かってるでしょう?」
欧州最後の砦、などとも称されることもある第501統合戦闘航空団。しかし実際のところ現在の主任務がブリタニアの防衛であり、そのブリタニア空軍が統合戦闘航空団に乗り気でないことが理由で各国が戦力を出し渋っていた。
ブリタニアが二人、扶桑が一人、カールスラントが一人ウィッチを転属させることが決まっており、しかもそのうちの一人は、501唯一のナイトウィッチである。どこの国も、部隊として機能するかすら怪しくなってきた501にエースを出したがらないため、戦力補強は遅々として進まない。
「ああ、確かにカールスラントが送ってくるのは妙な話だな」
「わざわざ別の人を送るくらいなら、カルラさんを残してくれればいいのに・・・」
「そういうな。まだ転属まで猶予はある。それまでに、ナイトウィッチを確保すればいいだけだ」
「それが難しいから言ってるんでしょう?」
転属されるカールスラントのウィッチ、カルラ中尉は貴重なナイトウィッチであり、現在の501で夜間哨戒を一手に担う替えの利かない人材である。従って、ナイトウィッチの確保は急務なのだが・・・ただでさえ貴重なうえにこの状況、人材確保は難航していた。
「はぁ・・・まあ、エーリカはおとなしくなるでしょうから、それだけでもいいかしらね」
「ハルトマンにはもう伝えたのか?」
「いいえ、また暴れられても困るもの」
「そうか・・・来たな」
遠くからこちらに近づく車が見える。
間違いなく死んでいるだろうと、そう確信するほどの状況から生き返った英雄・・・普段何を考えているのか分からない友人がどんな反応で再会を迎えるのだろう。
撤退戦のころのエーリカはとんでもなく荒れていた。今は多少落ち着いたが、それでも彼女が生きていると知るや否や飛び出そうとするなど、いかにエーリカにとって大事な存在かは察するに余りある。
だからこそ、彼女が501に来るとなればきっと喜ぶ。その時のエーリカを想像すれば暖かな気持ちに・・・
(怒るかもしれないけれど。いい気味よ)
仕事を増やされた身として、ちょっとの私怨も混ぜて。ミーナはエーリカの反応を楽しみにしていた。
まずは通算10,000UAと総合評価1000Pt、本当にありがとうございます。
ここまで多くの人に見てもらうことになるなんて思ってもみませんでした・・・うれしいです。
さて、主人公の年齢を間違えていた件についてですが
現在は第1話の年齢関連の数字だけ修正してあります。内容には特に変化がないのでわざわざ確認していただく必要もないと思いますが、気になるようでしたら見てみてください。
今後一部の内容を変更したりすると思われますが、その場合はあとがきや活動報告などでお知らせするつもりです。
また、物語の根幹には影響はないと思われます。今後も更新は続けていくつもりですので、これからも応援お願いします。
2022/9/24 12:14 誤字修正
2023/2/24 15:19 加筆修正