ツバキくんは絵が得意   作:にえる

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「陰湿なアンバーエイトなんて放って一緒に本聖堂に行きましょう!!!」

 

「自棄になってたアンジーナインよりマシでしょ。あたしがいるのに一緒に行くわけないじゃん」

 

 互いにパンを押し付け合いながら睨み合う二人。

 タイトルを付けるなら「貧富の差」だろうか。

 食べ物を互いに分け与える慈愛と、胸の格差による社会の悲しみを描きたい。

 

「引きこもりといるよりも私といるほうが楽しいに決まってるでしょう!!!」

 

「なんでー。ツバキは胸が大きいほうが好き。アンジーナインちっさい。ツバキはあたしが好き、ね?」

 

 ファティの隣に座って見守ろうとしたが、雲行きが怪しくなってきた。

 お祈りに来た人たちもいなくなってしまった。

 わかるよ。

 女性の争いには困った物だ。

 

「はああああ!!? ファティエルに謝りなさいよ!!!」

 

 おっと怪しかった雲行きが急変してファティに豪雨が降ったぞ。

 私何かしちゃいましたかって顔してる。

 ファティ、キミは何もしてないから落ち着いてパンをお食べ。

 

「えっと、私何かしちゃいましたか……」

 

 ファティが困惑しながら言っちゃった。

 巻き込まれるぞ、気を付けろ!

 

「アンバーエイトはツバキ様がお胸を優先する人だって言い出しましたよ!!! そうなるとファティエルも下位になっちゃいます!!! さあ、この悪しき事実と戦うのです!!!」

 

「え、その、えっと……」

 

「ファティエルは知らないけどアンジーナインが最下位だから。あたしならそう思う。ツバキもそう言う」

 

「私のツバキ様が言うわけないでしょうが!!!」

 

「言うよ。あたしのツバキならそう言う」

 

 言わないが。

 三人の視線に晒されたモテモテ(死語)の俺が華麗に乗り切って見せよう。

 巻き込まれたファティの口にパンを突っ込み、笑顔を浮かべる。

 笑顔で相手の心に響く言葉を届ければいい。

 素直なのが一番だ。

 

「胸はもちろん好きだけど、俺は絵描きなので感覚的な物が好きなんだよ。名前の響きも重要だよね」

 

 「名前」と呟いて鎮火した三人。

 アンジーに付いてきていた騎士位の方と話していた神父様が呆れたように首を横に振った。

 あれ、俺何かやっちゃいました?

 

「……ツバキくん」

 

「神父様、お話は終わりましたか?」

 

「……ちゃんと優しくするんですよ」

 

「してます。それで手伝いは必要でしょうか」

 

「……天井の陽光石を交換したら私はすぐに街を出て死霊の軍勢(コープスパーティ)の汚染地区に向かいます」

 

「交換ですか。頑張ります!」

 

「ツバキくんはやれることがないので頑張らなくていいです。私は指示を出さなければならない」

 

「俺も覚えましょうか」

 

「アンバーエイトがいます。代わりにパンを配るついでに市井の人々に事情を説明してください」

 

 そんなー、と落ち込む。

 魔法を使って天窓に嵌め込まれている陽光石を外すので、俺が居たところで何が出来るかって話なのは確か。

 偉い人への根回しはすでに終わっているらしいので、俺が慰撫しに

 

「えー、あたしもパンのほうがいいなあ」

 

「アンバーエイトは教会から出られないでしょう。魔法によって補助しなさい。ファティエルはお風呂の準備ですね」

 

「ありがとうございます、神父様!!! 私、頑張ります!!!」

 

 嫌そうにのっそりと動くアンバー、お風呂の準備を伝えるためにきびきびと動き出したファティ。

 状態を確認するために陽光石を触媒とした奇跡を使う、という名目で教会ではお風呂に入る。

 どうするのかというと、アンデッドに対して特効となる陽の光を解き放つ奇跡でお風呂にする。

 倉庫の一角にある大きな風呂釜にみんなでバケツリレーもどきをするか、魔法で水を溜める必要が有る。

 水が十分に溜まったら、陽光石を使ったビームでお風呂を沸かせる。

 そう、ビームだ。

 俺も見たことあるけどあれは完全にビームだ。

 神父様が身を清めて、子供を入れて、シスターが入る。

 お湯もかなり冷めてしまうので俺は井戸だけど……。

 

「それではパンを配りましょう!!! 明日への糧のために!!!」

 

「アンジーは元気だね」

 

「それはもう!!! 一日中パンを焼いてますからね!!!」

 

 神父様に任された通り教会を出て通りの歩く道すがら出会う人々に片っ端からパンを押し付けていく。

 後ろをついてきて背負った大籠からパンをアンジーに供給する騎士位の方にはお疲れ様ですって気持ちだ。

 教会で作業を手伝っている騎士、パンを渡す騎士、パンをこねる騎士、パンを焼く騎士、パンを焼く騎士……。

 もはやパンの騎士ではないだろうか。

 

「もっとパンを配りますよ姉さん!!! アンジナです!!! アンジナのパンをどうぞ!!!」

 

「……アンジナ、無理やり詰めてはなりません」

 

「おまえたち、パン食べろ!!! 食べなさあい!!! 見てますかツバキ様!!! 私がパンを配る所を!!!」

 

 ごめん、あんまり見て無かった。

 ちなみに後ろからパンを供給している騎士はアンジーの姉らしい。

 姉妹仲も良くなったとかどうとか。

 別に銀髪でもないが胸は貧しいので確かに姉妹だとわかる。

 俺が見ている間にも人々にパンが振る舞われ、「うわあああああ!!! またパンだあああ!!!」「ここは俺に任せてパンを飲み込め!!! ぐわああああ!!!」「もうお腹いっぱいなんです勘弁……うわあああああ!!!」という喜びの声が聞こえた。

 いや、もうそれはパンを食べる声じゃないんだわ。

 

「みなさん、無理しないで持ち帰っても大丈夫ですので」

 

 俺がそう声を掛けるも、みんな必死な顔でパンを食べていた。

 教会への行き来でパンを食べさせてくるのは反則かもしれない。

 行きは喜んでみんな食べたのだろうが、教会への滞在時間は短かったので休憩なしのお代わりとなった。

 

「ほ、施しは正しく受けねば不作法と言うもの……うっぷ……」

 

 みんな何と戦ってるんだ。

 アンジーが食べさせているのはコッペパンくらいのパンだが、すぐに離れないと何度も食べさせてくる。

 食べさせられた側もさっさと離れればいいのに、食べきって飲み込むまで周りをうろちょろしている。

 限界だろうって人までお代わりする始末だ。

 聞くに、パンを食べておけばカルマが下がるらしい。

 そんなことで下がるカルマとかあるか?

 

「むっ、パンが切れそうです!!!」

 

 パンの行列を引き連れているとアンジーが叫んだ。

 狙いを定めずにパンのばら撒きすぎだよ。

 弾切れは当然だ。

 パン奴隷としか言えない人々がほっとした表情を浮かべたのを俺は見過ごさなかった。

 だがそれをわざわざ口にしようとは思わない。

 

「でも大丈夫です!!! みなさん安心してください!!! 焼けてますよ!!! 私の馬車はパン焼き専用なので!!!」

 

 パンが焼ける香ばしい匂いが大通りに漂い、パン奴隷を次々と生み出す巨大な馬車が見えた。

 そう、アンジーが使っている馬車はパン焼き窯が完備されていて、何処でもパンが焼けるのだ。

 馬車も一つや二つで収まらず、隊商もどきを形成している。

 これで街から街へとパンが焼けるから安心だ。

 教会ってなんなんだろうな。

 わかることは一つ。

 アンジーに付いてきたパン奴隷たちの戦いの幕が上がる。

 その前に、俺はアンジーと見つめ合っていた。

 

「ツバキ様。貴方はきっと気にしていないでしょう。でも私はあの日の事を忘れたことはありま……」

 

「アンジナ様! すぐにパンを焼いてください!」

 

「待ってください!!! ちょっと話させて!!! 私は貴方と出会ってからこうして名……」

 

「アンジナ様! パンが無くなりますよ!」

 

「んもおおおおおおお!!! ちょっとくらい聖女っぽくさせてくださいよおおおお!!!」

 

「自分のためのパンでしょうが!」

 

「それを言われたら何も言えませえええええん!!!」

 

 パンを焼いてる騎士位の人たちに急かされ、アンジーもパンを焼くだけの人に戻った。

 「俺も手伝うからさ」とアンジナパン号に乗り込めば「ツ、ツバキひゃま!!!」と喜ばれた。

 どっかの誰かに似た反応してくるのはちょっと困る。

 アンジーのパン祭りは一日目だけなので、この忙しさも今日までだ。

 明日はアンジーもゆっくりできると思う。

 

 と、思ったら神父様の準備が整い、街を管理している代官の方とも迅速に挨拶が出来たとのことで出立していった。

 挨拶もほどほどに連れ出されるアンジー。

 神父様はニコニコしていた。

 

「どうしてこうなるんですかあああ!!! 裏切りましたね神父様ああああ!!! ツバキ様あああ!!! 貴方のアンジーナインはアンデッドを滅ぼしてすぐ帰ってきますからねえええええ!!!」

 

 馬車から限界まで身を乗り出し、アンジーはその残響とともに離れていった。

 

「へっ、面白れぇ女」

 

 面白れぇ男の代表みたいな勇者がそう言ってパンを齧った。

 キミ居たんだな。

 

「あれが私のライバル……」

 

 中々できる女じゃないの、と冒険者さんもパンを齧りながら呟いた。

 決してライバルじゃないと思う。

 

「アンデッドの対処が終わったら他の街にお礼を言って回るからこの街にいられる余裕はないでしょうね」

 

 俺もパンを齧って言った。

 柔らかな白いパンはほんのりと甘い。

 水分が少ないぱさぱさしたパンも多いが、これは俺の好みに合っている。

 前はもっと下手だったのにな。

 

「へっ、可哀そうな女」

 

 勇者がそう言ってパンを齧った。

 

「あれが私の行く末……?」

 

 中々できない女じゃないの、と冒険者さんもパンを齧りながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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