ツバキくんは絵が得意   作:にえる

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「おばーちゃーん、ポーションまずいよー」

 

「飲まなきゃええが」

 

「腕治らないじゃん」

 

「じゃあ飲めばええが」

 

「でもまずいよ」

 

「そりゃそうだあ。草の煮汁がうまいわけあるまいが」

 

 ひひひ、と悪そうに笑う薬師の老婆。

 重ねた年齢によって皺の化身となっている。

 俺みたいに苦い苦いと文句を言うやつに言い返したり、我慢して飲んでる姿を見るのが生きがいらしい。

 悪い魔法使いみたいなとんでもないオババだ。

 

「痛み止めとかないの?」

 

「あるが」

 

「あるんだ?」

 

「治りが遅うなる。早く治さんとみな心配するが」

 

「ほんとにね。しょうがないから我慢する」

 

 俺はポーションの効きが悪いらしいので、痛み止めは使うと回復がもっと遅くなりそうだ。

 ぎりぎり耐えられる痛みに抑えながらも回復させてくれるから大げさに痛がることも出来てない。

 ひんひんと泣き喚きたい。

 結局折られた直後に叫んだっきりだ。

 それだって民家の壁を破壊しながら駆け付けて登場した勇者のせいでびっくりして引っ込んでしまった。

 ポーションオババはそれがわかってるのか我慢する俺を見て、ひひひ、と笑うのだ。

 

「死んだらそれっきりじゃが。煮汁でも魔法でも治せん。気を付けんよ」

 

「気を付けたらなんとかなるのかな」

 

「ならんなあ」

 

 ひひひ、と笑うオババからポーションを受け取る。

 草の煮汁、と称されたように森に生える数種類の葉っぱを煮詰めて抽出された汁だ。

 薄暗い店の中、煮詰まった緑の薬品をひと口で飲み込む俺。

 とても怪しい。

 味は……はい。

 俺が渋い顔をしながら飲み干した様子に、オババは楽しそうに笑う。

 

「おばーちゃーん、ポーション美味しかったら一番人気になれるよ。美味しくして?」

 

「ひひひ、安心しな。この街でワシが一番じゃあ。一番美味い煮汁が飲めて良かったが」

 

 オババのポーションが一番人気だから一番美味しいポーション理論だ。

 破綻していないか?

 もっと美味しいポーションを求め、ポーション探検隊は街の奥地へと進む決断を下した。

 

「ツバキさん、お待たせしました」

 

 ギルドに用事があると言って外していたファティが少し息を切らせながら戻ってきた。

 額が少し汗ばみ、前髪が数本張り付いている。

 柔らかめの綺麗な布で拭ってやれば、ファティは気持ちよさそうに目を細めてされるがままだった。

 綺麗な布は腕を折られてから持ち歩いている。

 出血とかしたら抑えないといけないからな。

 ひひひ、と笑いながら差し出された、夜に飲むためのポーションはファティに取られてしまった。

 かなり良くなって固定布も外しているのに、物は持たせてくれないし、教会から出るなら手を繋いで移動させられている。

 

「薬も魔法も奇跡には繋がらん。お月様にお祈りして生きるのが正しいんじゃ。奇跡は死をも克服する……かもしれんが儂にはわからん」

 

 楽しそうなオババの目力に、ファティが怖がって俺の後ろに隠れてしまった。

 人見知りだからな。

 アンバーよりは社交的だけど。

 

「俺にもわからないよ。ポーションありがとうございましたー」

 

「……えっと、ありがとうございました」

 

 ファティの肩に手を当てて、ぐいぐいと押しながら店を出る。

 電車ごっことかいつ以来だろうか。

 伝わる人はいないのだけど。

 外に出れば、すぐにファティが折れたほうの手を握る。

 最近まで布で固定されていたせいで、手を繋ぐと少しこそばゆく感じる。

 というかファティが物凄く繊細な物を扱うかのように優しく触っているせいだと思う。

 そのまま裏通りから出て、表通りの服飾店に入る。

 建物の中に陽の光を取り込みやすくなっていて、外からでも台座に飾られている服や装飾品を眺めることができる。

 明るい店内では壮年ほどの男性が、布を見比べていた。

 

「こんにちはー。おじさーん、服くださーい」

 

「はいはい、いつものやつでいいでしょうかね」

 

 声を掛ければ、少し神経質そうな表情で返される。

 いつものやつだと布の服なんだよなあ。

 異世界民って感じで好きだけど、俺はあれを引退する。

 自己防衛のためにアピールすることに決めたんだ。

 質素倹約からの卒業。

 

「神父様みたいなデザインのやつにしてください。予算はこれくらいで」

 

「ほう? ほうほうほう、そりゃよかった。あんなん着てるやつなんて物取りに襲われたやつしかおらんでしょうから」

 

「言いすぎなのでは? 教会の人がお金使うのってなんか、ほら」

 

 お金を受け取りながら、おじさんが「行き過ぎれば毒ですぜ」と言った。

 つまり俺の服装が毒ってことか?

 異世界ものっぽい上下土色でおばあちゃんに買ってもらったような素敵デザインの布の服なだけなのに。

 いやだせーわ。

 こっちの世界の美意識とかわからないけど、やっぱりダサかったのは認めよう。

 奢侈に流れないようにした努力も確かに毒だった。

 でも似たような服着てる人も多いし……。

 

「坊ちゃんも自分が何者か相手にわかる恰好をしなさいってこった。そんじゃあ三日後に取りに来なさいな」

 

 おじさんは用が済んだとばかりに目を逸らして布に向かった。

 採寸すら無いが、この世界はこういう所が多い。

 職人がスキルですべてを片づけてしまう。

 幼い頃から修行してスキルを研いているせいだ。

 それでも満足せずに技術を磨きながら毎日祈ってスキルを伸ばしている人がいるからやばい。

 個々人の技術力が極まっていて、一点物に関してはかなりの出来なのに比較的安価だったりする。

 その代わり機械化とか工場化とかには繋がらないのだろう。

 

「ファティも頼む?」

 

 なるべく肌の露出を抑えた黒い修道服を着ているファティを眺めながら聞いてみる。

 青いワンピースとか着せたくなる。

 大きいリボンを付けたり。

 ごてごてのロリータ服とか。

 この年だからこそ着てほしい気持ちはある。

 

「えっと、私は、いいです……」

 

「そうだよね。今よりももっと可愛くなられたらお兄さん困っちゃいます」

 

「ツバキさんも、その、もっと素敵になると思います。新しい服だと。私もきっと困っちゃいます」

 

 えへへー、と笑い合う。

 この世界で一番初めに描いた時はこんな風に笑っていなかったので、笑顔になってくれるだけで嬉しい。

 それだけでなく、色々と軽口を覚えたり、褒めてくれるようになった。

 この感動を発露したい。

 

「おじさん! 見てください。こんなに可愛い子がうちの教会にはいるんですよ。そりゃみんな毎日お祈りに来ちゃいますね。気付かなかったわー」

 

「はいはい、そういうのは教会でやってくれませんかね」

 

「教会ではいつもやってるので外でもやってみようかなって」

 

 俺の言葉に、おじさんは呆れたような視線を向けるだけだった。

 もっと飛び跳ねたりしながら話に乗って欲しかった。

 でもおじさんがそんな謎のテンションで動いたら怖いからやっぱり今のままでいいと思う。

 神経質っぽいところがきっと魅力なんだよね。

 

「それじゃあ帰ろうか」

 

 店を出て、ファティと手を繋ぎながら教会に向かって歩く。

 通りにいる人たちが腕は大丈夫かと声を掛けてくれる。

 もうすっかり治りましたー、と繋いでる手を見せながら返答する。

 実を言うと皆に心配されるのとか嫌いじゃないよ。

 普段からみんなが優しくしてくれてチヤホヤもしてくれるけど、甘えるのって難しいから。

 でも想像の百倍くらい過剰に心配されると流石に違うってなる。なった。

 俺の代わりに水瓶を運んでくれるファティもそっちに混ざるから収拾がつかなくなりそうで「転んで腕を折っちゃいましたよ、へへへ」で済ませた。

 俺が冒険者嫌いでチヤホヤされてなかったら大声で被害を訴えたかもしれないけど、冒険者のイメージが悪くなるのも嫌だし、心配してもらいたいわけでもなかった。

 もう十分心配されているんだ、俺の許容量を超えそう。やっぱすぐ超えた。

 

 思い返すとやっぱり自衛力が足りなかった。

 心配されたいとかそういう気持ちも無くなる。

 怪我しても「何でもないですよ、皆さんも平和に暮らしてくださいね、ほほほ」くらい言えないと聖職者として失格なのではないだろうか。

 例えば自分が相談に行ったとして、腕が折れた神父が「痛いよぉぉぉぉ!」って転がってたらどうだろうか。

 自分の用事を二の次にして病院行けって思うか連れて行くことになるだろう。

 俺の役割を正しく果たせていない気がしてきたな。

 

 俺がなんちゃって冒険者をやってるのが悪かったのかもしれない。

 考えてみるに、絵を描くお仕事に否定的でお金返せってことらしかったし。

 日本でもそういう人が居るって話は聞いたことがある。

 SNSなどで仕事を探すと、そういうトラブルが起きたりするとも聞いた。

 異世界だし、隣国では黒髪は差別対象のようなので技術料とかが理解されないのも仕方ないとは思う。

 むしろ今までが理解されすぎていた。

 

 俺みたいななんちゃって冒険者と違って、ちゃんとした冒険者は凄い。

 特に勇者は颯爽と現れて救助してくれた。

 民家の壁を破壊しながら駆け付けて荷物みたいに俺を肩に担ぐと、風のような速さでしかも全く揺らさずに教会前まで届けてくれた。

 冒険者としての格ってやつを見せつけられた気分だね。

 教会に入ったら俺の語彙では表現できない物凄い顔をしたアンバーに、教会に常備されているポーションを飲まされたけど。

 あんなに機敏に動くアンバーは初めて見た。

 

「俺も神父様みたいだったらな」

 

「なりたいんですか?」

 

 つい漏れた言葉にファティが反応する。

 儚げな水色の瞳は、少し心配そうだった。

 

「うーん。なりたいわけじゃないけど、みんなに心配掛けなかっただろうなって」

 

「……私は、えっと、たぶん良くないんですけど、お世話できてうれしいです。神父様はなんでもできてしまうので私はいてもいなくてもいいのかなって思っちゃいます。……ツバキさんとは、その、近くにいれて楽しいです」

 

 ファティは呟くような小さな声でそう言うと、少しだけ血色のよくなった顔を隠すように俯いてしまった。

 繋いでいる手もいつもより温かい。

 

「俺が思ってるよりもファティはずっと大人だよね」

 

「……ツバキさん?」

 

「うちのファティはこんなに可愛いですよって叫びたいよ。……だめかな?」

 

「ツバキさんっ」

 

 もっと幼いと思っていたが、ファティは成長しているのだと教えられた。

 昔は人間性が希薄で、人見知りも激しかった。

 そんなファティが順調に育ち、いつか一人立ちしたら感動のあまり泣いちゃうかもしれない。

 涙を堪えられるよう月にお祈りすべきだろうか……。

 

 

 

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