ツバキくんは絵が得意   作:にえる

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 勇者曰く軽めにギルドの床板を剥がしたらしい。

 板どころか基礎も砕いていたので、俺には思いっきり破壊したようにしか見えなかった。

 個々人の力加減の話はどうでもよくなった、というのも地下空間でブラックウーズが増殖していたためだ。

 俺が呆然としたまま床下を見つめていたら、ギルドの職員や冒険者たちが集まってきた。

 「声……」とか呟いて床下に行こうとする人が現れたので何とか押しとどめ、それでも進もうとする人は勇者が張り倒した。

 どうにかして騒ぎが収束しないかと思っていたところ、ダークエルフを名乗る魔法使いのアメリアさんが大笑いしながら床下のブラックウーズを燃やし始めた。

 勇者も燃えるブラックウーズの中に飛び込み、蹴散らしに行った。

 こ、こわい……。

 ブラックウーズと炎の二重奏で阿鼻叫喚の現場と化した。

 騒ぎを聞きつけて現れたギルドマスターのマッスルオーダーさんと酒場のマスターであるマッスルアルティメイトさんによって勇者とアメリアさんは連行されて行ったが、俺は神父様に話を通すように頼まれた。

 二階で講習を受けていたファティも連れて行こうかと思ったが、ぼんやりした様子の職員や冒険者たちを集めて話をしていて忙しそうだった。

 近くでバンバンと机を叩いていた冒険者さんに何かあれば手伝ってあげてほしいと伝えると「任せてくだひゃい! 命に代えてもこの音は止めません!」と力強く返事してくれた。

 机を叩くのに命を賭けなくても大丈夫なんだけど、使命感と責任感に溢れた力強い表情だったので任せることしかできなかった。

 

「やば……。おヤバいですよ神父様!」

 

 ギルドでの物事は一旦置いて急いで教会へと戻った俺はそう叫んだ。

 聞かれて困る人がいないかだけ確認したが、本堂内には神父様とアンバーしかいない様なので安心して焦ることができる。

 

「おや、ツバキくん。今日は早く戻ってきましたね」

 

 書き物をしていた神父様に声を掛ければ、のほほんとした調子で返してくれた。

 教会がパニックになってたら地獄だったからいつもの調子のほうが有難いんだけど、ちょっと拍子抜けしてしまった。

 ギルドではみんな好き勝手してるか、騒ぎになっていて焦れなかった。

 寝ているんだか起きてるんだかわからない状態のアンバーが「終わった? 終わりだから帰ってきたんでしょ? そうでしょ?」という言葉とともに近寄ってきた。

 アンバーの柔らかな体を抱えながら、近くの長椅子に座る、

 俺はここぞとばかりにテンパることで気持ちをちょっとすっきりさせたかったのだが、アンバーの傍で焦るのはなんだか恥ずかしかったので抑え込むことにした。

 抑え込むだけで落ち着けているわけではないので、アンバーの髪を手で梳いて意識を少しでも分散させようとしたが。

 

「実はギルドにブラックウーズが出まして。……誰かが捕獲した個体を持ち込んだとかではなくてですね、増殖したのか地下空間に大量発生していました」

 

「それはまた、突然……でもないですね」

 

 何とも気が早い、と神父様が呟いた。

 俺は言葉の意味がわからないので首を傾げながら事の経緯を説明した。勇者が床をぶっ壊した辺りで神父様は楽しそうに笑った。

 

「なるほど、なるほど。そこまで焦るほどの事態にはなっていませんよ。安心なさい」

 

「本当ですか?」

 

「本当ですとも。キミは少しばかり知識が先行しているようですね。書物の読み書きばかりしていたからでしょう」

 

「じゃあ街を吹っ飛ばしたりだとか無いですか?」

 

「ありませんよ。……まだ」

 

 まだって言った? 言ったよね???

 

「神父様?」

 

「まだまだ余裕ですとも。こんなことで街を吹っ飛ばしていたらヒトが住む場所が無くなってしまいますよ」

 

 俺が疑いの目を向ければ、ほほほ、と余裕たっぷりに神父様が笑う。

 確かに言われた通り写本ばかりしていたし、教会の資料を読むことも多かったので知識に偏りがあるのは否めない。

 

「……じゃあどうなったら街を吹っ飛ばすので?」

 

「もちろん街がダンジョン化して飲み込まれた時ですよ。さて、私たちもギルドに向かいましょうか。教会はアンバーエイトに任せれば大丈夫でしょうから」

 

 寝ているアンバーに任せて本当に大丈夫か心配ではあったが、他の棟には誰かしら控えているので何かあればそちらに声を掛けるだろう。

 通っている人には慣れた物だ。

 神父様が言うには、此処に教会があるという事実が最も人々にとって大事らしい。

 俺にはわからないし、わかるときも来ないのだろうが、知識として知っているだけでも大きく違うはずだった。

 

「アンバーエイトが少し前に奇跡を使用しましてね。その時にも地面の下からブラックウーズが発見されました」

 

 ギルドに向かう通りを歩きながら神父様が言う。

 足取りに焦りはなく、周囲の人にいつも通り挨拶している。

 俺は教会に戻る際に余裕なく走っていたので、周りに不安を振りまいたかもしれない。

 誤魔化すように愛想笑いを浮かべながら、神父様と同じように挨拶していく。

 

「ツバキくんも参加したサーモンラン、あのお祭り会場の傍にあった門の近くでしたね。変化した魔力の流れに沿って地下を少しずつ浸食してきたのでしょう。すぐに駆除も終わったようでしたので、街に広がっていないのは確かです」

 

「よくあることなんですか?」

 

「サーモンランの後は多いですね。稀によくあるといったところでしょうか。ブラックウーズは決まった形を持っていないので僅かな隙間に簡単に入り込めますし、集まるとくっついて塊になりやすいですからね。街くらい大きくなるとどれだけ注意しても入り込まれるので面倒ですね」

 

「頑固な汚れみたいですね」

 

「間違っていませんね。しかし、ギルドでブラックウーズの浸食が見られたとなると話は少し変わりますね。他の教会にも手紙を出しておいたほうが良さそうですね」

 

「ギルドも大変そうですし、俺が行きましょうか?」

 

「ツバキくんは街中にいたほうがいいでしょう。私もあまり外に出るべきではなさそうだ。……アンジーナインに任せます」

 

 神父様はアンジーがすぐにでも戻って来るとも続けたが、アンジーは今も死霊の軍勢(コープスパーティー)に駆り出されているはずだった。

 

「死人にアンジーナインのパンをご馳走するわけにもいかないでしょうからね。死人からしてもパンを求めていないでしょうし」

 

「なるほど?」

 

 冗談なのかもしれないが、俺にはよくわからなかった。

 ただ説明してもらうのは流石に違う気がしたのでそのまま流した。

 今の冗談わからなかったので何処が面白いのか教えてください、とか問いただす部下は絶対嫌だ。

 冒険者ギルドに着くと、外は冒険者たちやギルド職員でいっぱいになっていて、外で諸々の手続きをしていた。

 よく見るとエントランスにある丸テーブルや、酒場の机や椅子を運び出して使っているようだ。

 忙しそうな所に話しかけるのは難しいかと思ったが、神父様の姿を見た冒険者たちが順番を譲ってくれたので有難く話を進める。

 軽く挨拶がてらに話を聞くと、ブラックウーズが漏れ出している建物内で業務するのは問題があるとして、こうやって一時的に外で処理する形になったらしい。

 マッスルさんたちから話があるということで、ギルド内に入るよう言われた。

 中では冒険者たちが忙しそうに活動していた。

 パっと見ただけでもリズミカルに机を叩いたり、笑いながらブラックウーズを燃やしていたり、その近くでファティがぼんやりした人たちに何か話を聞かせていて、燃えている地下に出たり入ったりしている勇者も見えた。

 見知った顔ばっかだったわ。

 休みを取ったはずのミアーラさんに先導されてマッスルさんたちのいる部屋に向かう。

 

「ミアーラさん、お休みを貰ったのでは?」

 

「そのはずでしたが、問題が起きたということで休んでいられなくなりました。まあ、教会に行ったら頭がすっきりして休むのが心苦しかったのでちょうどよかったです」

 

 俺の問い掛けにミアーラさんが答えてくれた。

 ワーカホリックかと心配になったが、確かにさっき見た時よりも顔色がいいし、目に力が戻っているようだった。

 顔色に関してファティの青白さとか、アンバーの白さを見慣れているので正直俺には見る目が無いと思うけど。

 最上階にあるギルドマスター室に着くと、マッスル二人が待ち構えていた。

 ミアーラさんの役目は案内だけらしく、ギルドマスターのマッスルオーダーさんに挨拶して戻って行った。

 

「私から話をしよう。ギルドに併設されている酒場の裏には調理場があり、更に食糧庫も兼ねている。日持ちする食材に関しては近隣の建物に保存してある、等と話し始めると主題から逸れてしまうのでやめてこう。ここで重要なのは調理場と食糧庫に問題があったという話だ。司祭は知っているな? 神父君はどうだ?」

 

 ギルドマスターのマッスルオーダーさんの話を聞き、神父様が頷くのを横目にしながら俺は知らない旨を告げた。

 俺の答えに、マッスルオーダーさんが頷いた。

 いつもの穏やかさは鳴りを潜め、マッスルアルティメイトさんは難しい顔をしたままだった。

 

「酒場もそうだが、ギルドの施設には空間が拡張する技術が使われている。ブラックウーズ等の魔物の素材を利用した物だ。魔力によって疑似的なダンジョンとなる」

 

「つまり今回はそれが漏れた、と?」

 

「いや、それは無い。死んだ魔物から採取できる素材のみが使われている」

 

 俺の疑問に、マッスルオーダーさんが答えた。

 死んだ魔物が蘇ることはない。

 アンデッドでも無ければ。

 神父様が小声で、ギルドには他国の技術が使われていると教えてくれた。

 そもそも冒険者の発祥は外国だという話だった。

 

「では今回何が起きたかと言えば……」

 

「人為的に壊されていたのよ。そこにブラックウーズを放り込まれちゃったわ。まさかギルド内に漏れ出さず、地下で広がっているとは思わなかったけど」

 

 マッスルオーダーさんの言葉を引き継ぐように、マッスルアルティメイトさんが言った。

 言葉は軽いが、表情は深刻そうだった。

 俺は何を言えばいいのかわからなかった。

 そもそもなぜ俺がここにいるのかもよくわかっていない。

 

「いつ壊されたのか。あの時の調理対決としか思えないわ。部外者が入ったのはあの時だけだから」

 

「軽はずみなことをして……」

 

「ごめんなさいね、おにいちゃん。反省してるわ」

 

 まさか犯人として疑われているのは俺か勇者ってコト!?

 

「サーモンランの勇者ちゃんの時間奴隷が犯人ね。逃亡してしまったみたいだけど」

 

 ……?

 あっ。

 できらあさんか。

 時間を調べに教会に来なかったから記憶から飛んでた。

 料理対決で負けた手前気まずいのだろうと勝手に思っていたが、そんな事実が隠されていたとは。

 

「この場はダンジョン化が進まなくて良かった、と言っておこう。人為的な物ならば限界があるが、魔物や自然の物は際限が無いため危険度は跳ね上がっていただろう。この度の事件を解決するため、ギルドの威信を……」

 

「もうじきエルフが来ますよ!」

 

 ギルドマスターのマッスルオーダーさんが、その肉体に秘められた力強い筋肉に熱を通しながら宣言した。

 が、アメリアさんが突然勢いよく扉を開いてカットしてしまった。

 何が楽しいのか、めちゃくちゃ笑顔を浮かべている。

 

「……エルフが来るとどうなるんです?」

 

 静まり返った室内に居た堪れなくなり、俺は質問していた。

 神父様もなぜか笑顔だった。

 

「知らないんですか!? 手遅れになるとダンジョンが生まれます!!」

 

 

 

 

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