「ふ、ふふ、ふふふ。私の美しさに屈しないとはなんて面白い男なのでしょう。……これはつまり私の美しさが足りない、そう言いたいのだろう?」
「褒められるかもしれませんが、そもそも美しいだけで人に好かれるんですか?」
「なんでそんなこと言うの? 頭教会なの? 言葉で命を刈り取ろうとしてるの?」
生まれたての小鹿のような足で立ち上がったビューティーという名前のエルフが、再び地面に這い蹲った。
「私は緑の部族の首長なのに……。違う、私はまだ完璧じゃないから……。完全体に、完全体にさえなれれば……」
土を握りしめながら呟いていた。
完全体とは一体。
ビューティフルになるのだろうか。もしかするとモアビューティフルとかになるのかな。
あんまり変わらない気がする。
「美しい名前のビューティーともあろうエルフが無様ね!」
「なにっ! お、お前は!」
「そう! 黄緑の部族の首長! 世界一可愛いこのわたし、キュートちゃんよ!」
「キュートぉぉぉぉぉ! 何をしに来たぁぁぁぁぁぁ!」
「名前にかまけた雑魚エルフを笑いに来たのよ!」
黄緑色の髪をしているロリってるエルフが高笑いしながら現れた。
名前はキュートらしいがアンバーとかファティには負けてるからどうしたらいいのか。
その高笑いに、悔しそうにビューティーが髪を振り乱しながら叫ぶ。
緑の髪の毛が乱雑に地面へと叩きつけられていた。
「負けエルフはそこでキュートちゃんが彼ピッピと世界樹百年交尾するのを見てなさい! 一人寂しく世界樹を育てながらね!」
「やめろおおおおお!」
ビューティーが叫ぶ。
髪の毛で地面を箒のようにあれだけ掃いていたというのに汚れることがないようだった。凄い。
「あなた、世界一可愛いキュートちゃんに言いたいこと、あるよね?」
「ないです」
「……? キュートちゃん、世界一可愛いよ?」
「世界一じゃないです」
「?」
「そっちのビューティーのほうが可愛いかもしれない」
「???????」
何を言っているのかわからないという顔でビューティーとキュートが硬直した。
「やれやれ、若いエルフはこれだからいけないねぇ。私に任せな。そう、この深緑の部族の首長である愛らしい名前のラブリーさんに、ね」
硬直した二人を押しのけ、深い緑色をした髪のエルフが現れる。
背は俺と同じくらいで、その胸は豊かだった。
仮面を外すと、エルフの女王みたいなドヤ顔をかましたラブリー。
ラブリーではないと思う。
いや接したら多分ラブリーなのかもしれないけど、外見だけならビューティーだ。
「男には好みってもんがあるのよ。若いだけのエルフにはそれがわかってない。名前や外見は確かに重要だけど、一番大事なのは相性、そうだよねぇ?」
「はあ、確かに」
「男が言いたいことを受け入れる。それが良いエルフの条件ってやつよ。さあ、私に言いたいことを言ってみな。合わせてみせようじゃないか」
「可愛いのがビューティーで、愛らしいのがキュートで、美しいのがラブリーだと思います」
「???????」
可愛いビューティー、愛らしいキュート、美しいラブリー、と指をさしていく。
ちょっと自分でやってて良く分からなくなってきたな。
三人も硬直したようだった。
さっきまで笑っていたアメリアさんも「もっと手加減を……」と隣で言い始めた。
まだ何も始まってすらいないのにできる手加減とは一体。
「青の部族! 野良エルフ一名、参戦! ……え、なに、この空気。あーしの世界樹を見せつける前にもう婚活はじまっちゃった?」
静まり返ったこの場に、青い髪のエルフが高らかに宣言しながら登場した。
その長い髪はきらきらと輝いていた。
アメリアさんに知り合いか尋ねると、出身部族の首長らしい。
身長も高くないし、胸もそれほど大きくない。
「最弱! 婚活最弱の名前が来たわ! 名乗りなさい! 世界一を! 美しくない名前を!」
「可愛くない名前はやく! 困ってるキュートちゃんを助けてよ!!」
「出しな……テメ~の……愛らしくない……名前を……よ」
「え、なに? なんなの? 怖い怖い。近寄るなってば。婚活最弱ってあんたたちも成功してないから一緒じゃんよ」
三人の名前負けというか微妙に食い違ってるエルフに囲まれ、困惑する青い髪のエルフ。
ペンギンが囲んでヒナをいじめてるコラ画像を思い出した。
「エルフの首長になると名前を受け継げるんです。なので好きな、というか向いている部族に属するんですけどね。その中で最も名前が適している者が選ばれるので、その、思い入れが物凄いというか」
冒険者さんを羽交い締めにしたアメリアさんがぼそぼそと教えてくれる。
なるほど。
ちょっと悪いことをしちゃったな。
教会でも名前について触れるのは良くないという教えがある。
エルフだからと突っつくのはマナー違反だった。
言いたいことを言っていいというのも社交辞令だったかもしれない。
「これだけ期待されて名乗らないほど空気が読めないエルフになった覚えはないからね! 珍しく元気な男がいるのに逃げも隠れもしないよ!」
いえーい! と俺に向けて青髪のエルフがアピールしてくる。
外された仮面の下は、やっぱりエルフだった。
隙あれば燃やすって感じの鋭さを持つアメリアさんより、日向に木を植えてますって感じの顔だ。ちょっと緩い。
これまでの傾向からプリティーとか来ちゃうのだろうか。
もしくは変化させてきてチャーミングとか。
「あーしの名前は! ……キューティクルです」
??????
「キューティクルです」
「キューティクル」
「うん、キューティクル」
あれだけテンション上がってたのに名乗る瞬間にすん、となったが、それよりも名前にびっくりしてしまった。
予想を色んな意味で超えてきた。
虚を突かれた俺が面白かったのか、名前のずれているエルフ三人衆がゲラゲラと笑っていた。
でも確かに髪の毛は艶々だし、肌も綺麗だった。
名前の通りだ。
「確かにキューティクルですね。見事という他ない」
褒めておく。
俺は学んだんだ。
それに言っている言葉は本心なので有難い。
「えっ……? それって世界一じゃないって意味よね?」
「世界一って意味です」
ビューティーの言葉に返す。
世界一だと思う。
これは超えられない。
「よしんば世界一じゃないとしても?」
「世界一です」
キュートの言葉に返す。
世界一です。
「つまり世界一ってコト!?」
「そうですね。世界一のキューティクルです」
小さくないけど世界一じゃないくらい美しいラブリーにも返す。
キューティクルのキューティクルはアンバーを超えてると思う。
「ほんと? あーし、名前がキューティクルなだけだよ?」
「世界一キューティクルです」
「でも名前を受け継いでるだけだから名乗りとかできてないよ?」
「でも世界一キューティクルですよ?」
「やだ……。そんな褒められたらあーし一緒に世界樹育てたくなっちゃう……。ね、植樹しよ?」
視線を下に向けたキューティクルが言う。
髪を一房摘まむと、くるくると弄っている。
「ふざけるなああああ!」
雄叫びが上がる。
名前負けエルフの誰かが叫んだのかと思ったが違った。
「醜いエルフどもおおおおお! 根絶やしにしてやるううううう!」
アメリアさんの拘束を外し、地面を叩きながら叫ぶ冒険者さんの姿があった。
「抑えろ! 赤の部族だ!」「蛮族が混ざっているぞ!」「エイプ!? 魔物がなぜここに!?」「誰だ、赤エルフを呼んだのは!?」と次々とエルフたちが叫び始めた。
「三人に勝てるわけないだろ! おい! キューティクル、手伝いな!」
「あーし、この人と植樹するから忙しい……」
「頭世界樹になりやがって!」
名乗った三人のエルフに冒険者さんが抑え込まれる。
ラブリーに手伝えとキューティクルも言われるが、俺に熱っぽい視線を向けてくるだけだった。
妙なことになってしまった。
アメリアさんに助けを求めれば、頷いてくれた。
一息つけそうだ。
「彼は弱いです! ブラックウーズにも負けます!」
おやおや?
「それなのに外を歩きたがります! お花も大好きです!」
おやおやおやおや?
「そんな彼に求婚する機会をみなさんに与えます! 他のエルフの世界樹で独占される前にその手で掴め! 立てよエルフ!」
周りにいたエルフたちが騒ぎ始めた。
「おほー」「ブラックウーズに負けるとかたまんねえな!」「んほー」「虚弱彼ピッピちゅっちゅ」「弱いのに外出たがるとかお世話し甲斐しかねえよなあ!?」「世界樹に囲いてえなあ」「でもあーしが世界一……」と口々に話している。
大変なことになっちゃった……。