「ここに恋愛雑魚のエルフが五人集まりました! 彼から与えられる課題を解決することで植樹を誘う優先権を得られます!」
アメリアさんが集まっているエルフたちに宣言しながら、その恋愛雑魚エルフ五人を紹介していく。
名前がちぐはぐな三人とキューティクル、そして赤エルフと呼ばれた冒険者さんだ。
赤エルフは世界樹の生育に納得いかないと燃やすが、アメリアさんは特に関係ないらしい。
世界樹を燃やす時に周囲を巻き込もうとするが、アメリアさんは特に関係ないらしい。
そして世界樹が上手く育てばそのままにするからダークエルフでもないらしい。
「彼にも選ぶ権利があるので課題は個々人で違う物にします! 簡単なものほど脈ありってことですね! 世界樹を育てるのが下手な五人は飛び跳ねて喜んでいいですよ!」
アメリアさんが楽しそうに告げる。
エルフたちも盛り上がっていて楽しそうだが、俺は気持ちが乗り切れていない。
課題は俺が決めるようにと事前に言われているが、あまりひどいのは出さないようにしたほうがいいかもしれない。
そう思いつつ、無茶振りしたらどうなるのか興味がある。
あと画材を揃えて持ってきてほしい気持ちもある。
「では一人目! 緑の部族の首長の課題とは!」
「月の石を持ってきてください」
「これは実質お断りの言葉では!? さあ、二人目! 黄緑の部族の首長!」
「ダンジョン化しない世界樹の天辺の枝が欲しいです」
「これでは中で植樹できません! これも実質お断りの言葉では!? 三人目! 深緑の部族!」
「……決して燃えない世界樹」
「これは赤の部族を呼んで試行錯誤が重要ですね! 四人目は赤エルフ!」
「え、えっと……。龍の頸の玉?」
「ドラゴンの逆鱗を残したまま殺せるくらい強いエルフにしか興味ないという宣言でしょうか!? 最後は青の部族から参戦!」
「あ、最高級の絵筆が欲しいです。世界で一つしかない貴重なやつ」
「最後は現実的だが最も残酷です! 最高級の絵筆ともなればとんでもない金銭が必要になりますよ!」
アメリアさんが煽り、集まっていたエルフたちも囃し立てている。
なお五人はFXで有り金を溶かしたような顔をしていた。
思いつく限りの難題を振ったので、この話はここで終わりだろう。
ちなみに周りのエルフたちは世界樹を育てる腕があるので、このまま植樹していれば男のエルフが靡くから高みの見物を決め込んでいるようだとアメリアさんが教えてくれた。
世界樹は男のエルフにとって喉から手が出るくらい憧れている物だという。
中には世界樹が欲しすぎて夜眠れなくなる者もいるとか。
「彼が望む物を用意できるのか! 首長として部族を、名前を背負うエルフの意地を見せて下さい! 早い者勝ちですよ! さあ、植樹開始!」
アメリアさんの言葉とともに駆け出す五人、残される俺。そもそも冒険者さんはここで何を為すのだろうか。
「ツバキさん、完璧でしたね」
「完璧だった心当たりが全くないんですけど」
「心配しなくても森ならちゃんと焼けます。安心して構えていましょう」
「どこに安心する要素が?」
「燃やせば世界樹が外に出ないんですよ? 安心できるでしょう?」
俺がいる広場を囲むように巨大な木々が生えているが、これらはすべて世界樹の成り損ないだという。
そして世界樹もどきが溜め込んだ魔力によって、エルフの森という魔物がいないダンジョンを形成していると教えられた。
アメリアさんの先導でエルフの森を見て回れば、店や宿もあり、活気あるちょっとした村や町に近い物だとわかる。
狩猟するエルフもいるが、世界樹を育てる上で必要な種や道具が人気の商品らしい。
特に肥料はエルフによってこだわりがあり、売っている物や自分で育てた果実などを混ぜるのが定番のようだ。
「なんか魔物が売ってますけど」
「魔物に種を植えたり、木に混ぜ込むことで強い世界樹を育てるエルフもいますからね」
「えぇ……」
「木の中に入って自身の魔力で世界樹を育てようとする古式ゆかしいエルフは減りましたから」
とんでもない場所に来ちゃったかもしれない。
文化が違いすぎる。
「やっちゃいけないことをやってる雰囲気をとても感じられるんですけど。大丈夫ですか、エルフ」
「ダメに決まってます」
「えぇ……」
「エルフの規則からしたら別に問題ないでしょうけど、人間からしたら迷惑極まりないですから。私はみんなで燃やしたほうがいいと思っていますよ。世界樹を育てるのに失敗してフォージツリーみたいな植物系の魔物が生まれたらエルフの森の外に放り出しますからね」
セトリオードの街の外にある森のように、植物が生い茂っている場所から植物系の魔物が生まれることもあるが、エルフの森によって生まれることもあるらしい。というか植物系に関してはエルフの森が発祥の地みたいな状態が多いとか。
聞けば聞くほど、燃やすなと言えなくなるのなんなの……。
「あんまり変な世界樹に近づかないほうがいいですよ。周囲の魔力を取り込みながら成長する上で時間や空間がおかしなことになりますので。最終的にはエルフの森を食い破って飛び出していきます。そこまで行くと燃えにくいから最悪ですよ」
「飛び出すって……」
「世界樹自体がダンジョンを内包しますから。結局エルフたちはこの森があるから好き勝手やって、まずいことになったら外に捨てればいいので。……自分たちが何をしているのかわかってるんですよ。だからエルフは仮面無しじゃ安心できないし、外にも出られない」
にこやかにエルフたちが世界樹を植える場所について話し合っている。
これまで聞いた話から、魔物に種を植え付けたりするのかと思うと見る目が変わってしまう。
「エルフが世界樹を育てるのだって男のエルフが世界樹を求めるのと、過去の栄光に縋ってるだけなんですよ。昔は世界が荒廃していたから植樹するだけで持て囃されたとかどうとか。私の祖父母よりも上の世代の話ですけど。どんだけ前の話なんだか」
ぶつぶつとアメリアさんが文句を言いながら進んでいく。
そこに秘められた感情は俺にはわからないが、エルフを嫌っているわけではないのだろう。
やがてビューティーとその仲間たちが相談している場所に着いた。
確か課題は月の石だった気がする。
月の石かあ。
「お元気ですか、緑の部族のみなさん! 月の石は見つかりましたか?」
「……そもそも月の石とはなんだ?」
視線が俺に集まるが、知ってるわけがない。
ロケットを飛ばして月まで行って拾ってきて下さいとでも言えばいいのか。
そもそもこの世界の月は……あ、そうか。
「俺、今思ったんですけどね。最も大きな世界樹を育てて登れば月にたどり着けそうじゃないですか?」
「いや、月に石は……」
「私も今思ったんですけど、他の課題と複合したら良さそうじゃないですか。ドラゴンで世界樹を育てたら月まで行けそうですよ」
「いや、そもそも月……」
冒険者さんの所に行くぞ、おー、みたいなノリになったので緑の部族を引き連れて次の場所に向かう。
世界樹は練習として育てることもあるが、森から飛び出していくくらいのレベルは本番となるので数年に一度のペースでも早いらしい。
溜め込んだ魔力やリソースを使い切っての大仕事であり、失敗するとまた一からコツコツと溜め込む作業に戻る必要があるようだった。
燃えても全く可哀そうとは思えないけど、エルフにはエルフの苦労があるみたいだ。
「ドラゴンの居場所は何処なのよ! え!? まだ戦わないといけないの!?」
龍の頸の玉が課題となった冒険者さんのいる場所に着くと、そこは魔物の死体で溢れていた。
ドラゴンを催促する冒険者さんと、世界樹の苗床にしようとしていたエルフが解き放った魔物。
お酒や果実を片手に観戦しているエルフも多くいて、賭け事も行われているようだった。
エルフってもしかしてとんでもなく俗っぽい生き物なのでは。
「ルーシリア、ドラゴンが現れる場所に心当たりがありますけど来ますか」
「私をその名で呼ぶんじゃない!」
「なんだこいつ……」
「それはそれとして私も同行しよう! いつにする? 今でしょ? 魔物と戦うの飽きたのよ」
期待の目を向けられたアメリアさんが、渋々頷いた。
緑の部族のエルフたち、冒険者さんも連れて移動する。
ドラゴンが現れる場所に心当たりがあるらしいが、俺には無いのでどうするのだろうか。
「ドラゴンは財宝が大好きだったりするんですけどね。宝を愛でるための
「じゃあ世界樹を育てればドラゴンも来るの?」
「そうとも言い切れないんですよね。世界樹が飛び出すには森の境界が弱くなっている白夜の時期になりますが、ドラゴンが外を飛び回るはずもないですから。世界樹も枯れますし」
「はーつっかえ。魔物殺すのに戻るね」
「別に戻ってもいいですけど最後まで聞かなくていいんですか? ここで大事なのは世界樹じゃないんですよ。世界樹の燃え滓には魔力がたっぷり含まれているのが重要なんですよね」
「世界樹燃やすわ」
緑の部族に聞かせるようにアメリアさんが話す。
俺の傍でビューティーとその愉快な仲間たちが世界樹を燃やす方法を模索し始めていた。
なんだろう。
おかしな流れに乗っかりつつあるのを感じる。
「黄緑の部族の皆さん! お困りですか? ダンジョンにならない世界樹、難しいですよね?」
「……キュートちゃんが困るわけないじゃない」
「課題を出した彼が特別に黄緑の部族を有利にするためにこうして助言に来たのに要らないみたいですね。さ、みなさん。次に行きましょうか」
こちらにチラリと視線を向けられたので、何を期待されているのかわからないが手を振って誤魔化す。
今は仮面があるので愛想笑いで凌げないのが厳しい。
「待って! キュートちゃんは困ってないけど? 全く困ってないけど? 教えたいって言うなら聞いてあげてもいいよ?」
「とっても教えたいです!」
「じゃあ聞いてあげる!」
声が弾んでいるアメリアさんと、助言を貰えることに喜んだキュート。
利害の一致と考えていいのだろうか。
冒険者さんは「エルフ同士仲が良いんだなぁ」と呟いていた。
……そうだね!
「ダンジョンとなるには魔力核が必要ですよね?」
「それはそう。だから魔物とか魔力無しで世界樹を育てなきゃなって。キュートちゃんもやったことないけど、時間をかければ……」
「それだとかなりの時間が必要ですよね。その間彼が待ってくれるのか。他のエルフが課題を終わらせてしまわないか。その不安、解消しましょう! 育ってる世界樹から核を抜けばいいんですよ」
「核を?」
「そうです。ただ、どの世界樹がダンジョン化しないかわからないので、手当たり次第に抜いてもいいかもしれません。立派な世界樹から抜くのも良さそうですよね」
アメリアさんが囁くように告げる。
少しばかりキュートは思案していたが、俺の方をちらりと見て、近くの世界樹へと走って行った。
「……あの、核を抜くとダンジョン化しないんですか?」
「どうなんでしょうね。魔力による耐性が落ちるのでよく燃えるようになりますけど」
小声で俺が尋ねれば、返ってきたのはそんな言葉だった。
緑の部族のエルフたちも世界樹に向けて走って行った。
冒険者さんも行きそうだったが、アメリアさんに首根っこを掴まれて止められていた。
「さあ、最後は深緑の部族です。私が何かする必要も無さそうですけどね」
「アメリアさんって意外と力があるんですね」
「ん? ああ、ここはエルフの森ですから補正とか乗るんですよ」
冒険者さんを引きずって進むアメリアさんに付いて行けば、料理教室を開いている深緑の部族を発見した。
果実を使った料理というか、菓子がメインのようだ。
食べやすいように柔らかくした物が多く、ゼリーやスムージーを特に好んでいるのかもしれない。
「深緑の部族は何もしないのですか?」
「もうやれることは終わってるからね。知り合いの赤の部族を呼んだよ」
「もしかしてプロミネンスですか?」
「よく知ってるね? 燃える名前のプロミネンスだよ。あの子にここらを燃やしてもらって問題ない木を育てたらいいと思って」
「素晴らしいですね! ……これなら私たちができることは無さそうです」
仮面を外したアメリアさんがにっこりと笑い、プロミネンスとやらの到着予定日を聞き出した。
その後は特にやれることも無いからとエルフの森を後にした。
ダンジョンの外に出ると、一人で暇していたローレットさんが集めたという今をときめくブラックウーズの素材を貰った。
それから数日後、鼻歌まじりで外に向かうアメリアさんの姿を見つけた。
その姿に何をしに行くのか理解した。
「俺も行きます」
「……ツバキさん? 私は好きですけど、あんまり気持ちのいい物じゃないと思いますよ」
「それでもです。……どうしても邪魔になるなら止めますが」
「いや、来てもらった方がいいかもしれませんね。今回は燃えすぎて死人が出そうですし」
「……退去勧告とかは」
「ちょっと場所を移動させてまた世界樹を育てるだけですよ。ギルドマスターからも許可貰ってますから安心してください」
全く安心できないなあ。
俺の気持ちを他所にアメリアさんが森を進んでいく。
「プロミネンスは良い言葉ですよね。私も魔法の詠唱に加えますが、火力が跳ね上がります」
「あれ、世界樹を燃やしに来るエルフの名前って……」
「プロミネンスですね。彼女が使う炎魔法は凄まじいですよ。赤の部族は世界樹もどきを燃やすのが得意なんですよ。理由は自分たちが育てたい場所に他の世界樹が生えてて邪魔だとか、灰が土壌を良くするとか主張してますがそんなのはどうでもいいですね。世界樹を育てるのは下手くそなのでそこは魅力だと思います」
「なんか嫌な予感が……。あれ、エルフの森の入り口の場所が変わってますね」
名前からして燃えそうだな、と考えていると森への入り口が以前までの朽ちた大木ではなく、その根本にあることに気づいた。
「内部で結構魔力の動きがあるのでしょうね。……それにしてもよくわかりましたね。基本的に入り口はエルフにしかわからないんですけど」
「うーん……。何となく、ですかね」
「ツバキさん、エルフだったとか」
「全くそんな事実はないですね」
入ったことのある扉が変な位置に移動していたってくらいの感覚だった。
そんな話をしながらエルフの森に入る。
中では、やっぱりエルフたちが世界樹を育てていた。
妙な物が見えたので目を凝らすと、木の根が全身を覆っていて頭から枝を生やした生気の無い顔のゴブリンが見えた。
見なきゃよかった……。
「エルフのみなさん! 首長たちの婚活の中間報告を聞きましょう! お酒片手に集まって下さい!」
アメリアさんが叫ぶと、エルフたちが集まって来る。エルフたちの会話を聞くに、プロミネンスが到着するらしい。
「あ、何組か
「
アメリアさんが示した指先には、エルフが二人。
仲睦まじい様子だと思ったが、それにしては妙だった。
近づいて見ればはっきりとわかった。
女性のエルフは甲斐甲斐しく世話をしている。
男性のエルフは、中空に視線を向けたままうわ言のように「世界樹が欲しい……世界樹が欲しい……」と呟いている。
見覚えのある光景だった。
「男のエルフには『声』が聞こえるんですよ。『声』しか聞いてないんです」
「声……」
「女にも聞こえる時があります。それを占いとして世界樹を植える場所にします」
また声だ。
声、声、声。
俺には聞こえない声が周りには溢れている。
働きすぎや疲労による物ではないのだろう、それはわかりつつあった。
この世界特有の何かなのだろうか。
俺も聞こえたら理解してあげられるのか、悩みを解決できるのか。
無いと断言したら、彼らから声を取り除けないのか。
有ると断言したら、彼らは安心してくれるのか。
「男エルフは世界樹の核になりたがります。いや、なってしまう者が多い。女エルフはそれに付き従ってしまう。なんででしょうね。……たぶん、そういう生き物なのでしょうね」
熱が俺の頬を撫でた。
森が凄まじい勢いで燃え始めていた。
エルフの叫び声が聞こえ、プロミネンスが到着とともに炎の魔法を使ったことだけはわかった。
「こんな森は燃えたほうがいいでしょう? 私はこの瞬間が一番楽しいんです」
アメリアさんの表情は仮面で隠れてわからない。
声だけは楽しそうだったが、俺にはわからないことだった。
必死に逃げるエルフが叫んでいた。「森が切り離されるぞ!」と。
アメリアさんが舌打ちするのと同時に、視界が暗転した。
そして、俺とアメリアさんは森に入る前の場所に戻されていた。
「外、ですか……?」
「……ダンジョンから切り離されましたね。入って来た穴に弾き飛ばされました」
「あ~あ」とアメリアさんが呟いた。
俺たちがいる森には、きらきらと輝く灰が降り積もっていた。
ダンジョン「エルフの森」
基本的にエルフしかいない。
合同で何かする場合は仮面を着けるので髪の色などで判別する。
危ないゴミは外に捨てる。