激エロ架空競走馬伝説【イッテンコウセイ】   作:蒼井魚

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虐待オーナー

 その日、その男は夢を見ていた。

 春の心地のよい風が吹く河川敷、街路樹の桜の木が満開の花弁を風に流している風景。

 風で花が揺れ、雫のように静かに花弁が落ちる。だが、それは落下するのではなく、妖艶に揺れながら風に流されて川に着水していく。

 

 ――刹那、吹き飛ばされると言わんばかりの風、

 

 聞き慣れた馬が奏でる足音、後ろを振り返るとそこには自分の愛馬が歩いてくる。

 いや、愛馬だけじゃない? 隣にはとても小柄な牝馬と愛馬によく似た幼駒、三頭……いや、彼らは我が子とはぐれないように遅いんじゃない、優しい足取りで歩いている。

 彼はこの光景を絶対に忘れてはならないと決めた。

 

 クリーク、それは小川、最終的には大海に到達する。

 

 春の桜並木、桜の花が舞い踊るこの光景はまさしく春うらら。

 

 幼駒が私のことを横目に親に連れられていく。

 

 ――刹那、また風、

 

『下剋上かイッテンコウセイ! 両親の文句は俺に言え!! 圧倒的大差で!! 今、今ゴールです!!』

 

 新馬戦だろうか? クリークに比べると小さい牡馬が芝の舞台で多くの良血を跳ね除けて圧倒的大差で勝利を飾る。

 ――ありえない。

 そう思った。だが、彼の父親も最初はそうだった。

 長距離を絶対に勝つために生まれたスーパークリーク、だが、その子供達は彼を超えられなかった。

 高速ステイヤー

 小さな声で彼の父親の別名を呟く。

 

 ――光が点滅し、次の舞台へ、

 

イッテンコウセイ! その攻勢は止まない!! 誰も追いつかない!! また大差か!? 両親を笑う存在を許せないのか!? その足はゴールに向かって進撃を続ける!! イッテンコウセイ!! イッテンコウセイだ!! 二歳チャンピオンはイッテンコウセイで決まりだ!!』

 

 これは朝日杯だろうか? 高速ステイヤーの息子がマイルの朝日杯で大差勝ちをしている。

 両目から流れ出す雫、静かにそれを拭う。

 もし、これが現実ならどんなに素晴らしいか。自分の理想、それの息子がサンデーサイレンスという征夷大将軍のような種牡馬、それの子孫達を喰らう姿、それは攘夷志士……!

 ブラッドスポーツ(血統競技)を鼻で笑うその姿、まさしく――ブラッドイーター(良血喰らい)!!

 夢でいい! もっとこの子を見たい!! この子はどこまで歩みを進めるんだ!!

 

 ――吸い込まれるような感覚、

 

『各馬綺麗なスタート! 一番人気イッテンコウセイ大逃げの体制に入るか!? いや、大外枠が影響したか先頭に立つことができません!?』

 

 これは……ダービー? まさかクリークの子はダービーにも!?

 だが、この状況は不味い! 逃げどころか先行策もできない!! 他の馬もハイペースでレースを進めている……馬群に飲み込まれてしまう……!

 流石にダービーまで勝てるわけがない。欲張り過ぎだ。

 

イッテンコウセイが馬群の後方に付けた!? 大逃げとは真逆の追い込みの姿勢でレースを進めます!!』

 

 ――ッ!?

 そう、自分は諦めている。

 東京優駿という舞台で勝利を飾ることは競馬関係者(ホースマン)の夢、だからこそ実力だとか、運だとかと決めつけられる。

 でも、クリークの息子は一切諦めていない! だからこそ、だからこそ! だからこそ!! 運だとか、実力だとか、血統なんてものを捨てて――戦える!

 

『最終コーナー!! 鞍上福山誰よりも早く鞭がとぶ! イッテンコウセイ溜まりに溜まった末脚を爆発!! 後方にはオルフェーヴル!! 最後はこの二頭の争いだ!! 他馬を置物のようにごぼう抜き!! イッテンコウセイか!? オルフェーヴルか!? 残り200m!! イッテンコウセイだ!! イッテンコウセイまだ伸びる!! オルフェーヴル届きません!! イッテンコウセイ!! イッテンコウセイ一馬身差で躱しました!! 無敗の二冠馬ここに誕生!! イッテンコウセイ、見事に一番人気に答えました。親の文句は俺に言え、そして冠も置いていけ! 堂々たる姿はまさしく王道を征く!!』

 

 そうか、自分は諦めていたんだ。

 自分の愛馬は父親として成功できないと決めつけていたんだ。

 だからこそ、自分は可能性という大切な物から目を背けた。目を背け続けた!

 だからこそ、だからこそ! だからこそ!!

 

 ――神様がこの光景を見せてくれるんだ!

 

 後ろを振り向くと幼駒誕生の瞬間、とても小さい牝馬が苦しそうに我が子を産み落とそうと必死に、そして気高く――美しい。

 

「ウララ! ウララ頑張れ!!」

「おまえの子供は絶対に勝つ!! だから頑張れ!!」

「おまえを馬鹿にしてた奴らを見返す本物の名馬になる!! だから頑張れ!!」

 

 うらら? そうか、この子の母親はハルウララなのか!

 強い子を送り出せなかったスーパークリーク、

 一度の勝利もできなかったハルウララ、

 その子が日本競馬を……いや! 世界の競馬すら凌駕する!!

 

「生まれました! うらら……頑張ったな……」

 

 親の文句は俺に言え、本当に素晴らしい言葉だ。

 強い両親を持つ馬が最強とは限らない、されど、強い両親から生まれた子供は結果を残す。

 じゃあ、弱い親から生まれた子供はどうだ? そんなの関係ねぇ!! 強い馬はどんな生まれだろうと強いんだよ!!

 

 

 

【とある事務所】

 

「うーん、ハルウララ引退しちゃったわねぇ」

 

 ブランド物の服で武装するオバサンと呼べる女性、彼女は自分が所有している競走馬ハルウララの引退を無表情で呟いた。

 グッズ収益、現役続行の賄賂、ハルウララの出走手当、そのすべてを握りしめていた彼女は落胆のため息を吐き出す。

 最近はハルウララを繁殖牝馬入りさせるという触れ込みで募金活動をしていたが、その善意のお金をすべて散財して繁殖牝馬入りどころではない。

 彼女は思っていた、百数十回負けているハルウララの子供なんて誰も見たくないだろうと、確かにハルウララの子供が出てくれば地方競馬でまたお金が入ってくるかもしれないが、流行種牡馬は種付け料がムダに高い。ハルウララに強い馬を当てるつもりは微塵もないのだ。最初に戻るようにお金を稼げないハルウララにお金をかける気にもならない。

 

「ミィーちゃ~ん やっぱり殺処分するの?」

「うーん、最近は動物セラピーとかいう訳分かんないことが流行ってるからそこに預けようかしら? 前よりは少なくなるけど収入になるし」

「そりゃいいね! ハルウララは死ぬまで俺達の金づるだぜ」

 

 彼女の愛人が情熱的な接吻を何度も繰り返す。

 ホスト風の愛人は競馬のことなんて全然知らない、やっているギャンブルはパチンコだけ、競馬なんて偶に出てくる競馬系のパチンコで得た知識だけだ。

 ハルウララという競走馬になんの愛着もない。逆に負け続けてる存在は恥晒しとしか思わないのだ。

 

「オーナー……キクラという方が面会を所望しています……」

「今忙しいの! 帰ってもらって!!」

「そ、それが……このようなものを……」

 

 秘書が持ってきた分厚い茶封筒を見た瞬間に彼女の目の色が変わる。

 通してお茶の用意をしなさいと高圧的に指示し、お金を持ってきた面談相手に興味津々だ。

 ビシッとスーツを着込んだ紳士が事務所の扉を開けて一礼してから入室する。

 

「で、今日はどんな依頼で? ウララのグッズを販売したいのかしら!」

「ハルウララを買いたい。その茶封筒を除いて……前金で300万、引き渡し後に700万の合計一千万で譲ってもらいたい」

 

 オーナーは苦虫を噛み締めたような表情をするが、それを必死に隠してにこやかな表情に戻す。眼前にある封筒は非常に魅力的だ。だが、この男からはまだまだ金の香りが漂っている。

 あんな人気以外は取り柄のない駄馬に興味がある酔狂な人間、できる限り強請るに限る!

 

「うーん、流石にグッズ収益などもありますし、今後の事業も考えていますから」

「そうですか……なら、これでどうでしょう……?」

 

 男は静かに茶封筒を二つ追加する。

 募金で集めた金額の半分に近い数字、だが! まだ彼女はゴネる!!

 

「いえいえ、ハルウララは私の大切な愛馬ですから……」

「……それは心の奥底から言っていますか?」

「ええ! もちろんですよ!! あの子には本当に勇気づけられましたから!!」

 

 男は嘘をつくなという目を右手で隠して溜息を吐き出す。

 彼はどうしても夢の続きを見たい。

 スーパークリークとハルウララの息子が中央競馬を震撼させるあの夢を!

 

「いいでしょう、引き渡しの時の金額は一千万でどうでしょうか?」

 

 彼女の心がグラリと揺れる。募金で巻き上げた金額の半分! 確かに動物セラピーで収入はあるかもしれないが、一千五百万という数字を稼げるかどうかわからない。

 ――手の打ちどころ。

 

「じゃ、じゃあ! ハルウララグッズの権利はすべてうちで預からせてくれるなら大丈夫ですよ!」

「いいですよ、自分はハルウララを繁殖牝馬として魅力的だと思っていますから」

「交渉成立ですね!」

 

 男は事前に制作してきた契約書をテーブルに置き、その中のハルウララグッズは元のオーナーにすべて委託、収益もそちらの物だという契約書を取り出して互いにサインと判子を押した。

 契約が完了し、彼女は握手を求めてくる。男は嫌そうな顔を隠して握手に応じた。

 その後は事務所の空気に吐き気がしてそそくさと退室。

 秘書以外の全員が満面の笑みを浮かべていた。

 

「アハハ! あんな駄馬のどこがいいのかしら!? 本当に馬主って馬より低能ね!!」

「ミーちゃん! 凄い大金が手に入ったね!! グッズの権利もこっちのもの! 今日は美味しいの食べに行こうよ!!」

「いいわね! 秘書!! 銀座のお寿司屋さんを予約しなさい!」

「は、はい……」

 

 ハルウララはまた売られた。

 だが、生まれくる息子は絶対に彼女を裏切りはしない。

 

「どうせ捨てるつもりなら拾わせろよ! ふっかけてきやがって……」

 

 

 

【とある牧場】

 

「クリーク元気だったか?」

 

 あれ、馬主さんが来るなんて珍しいな……どうしたんだろ……?

 それにしても、やっぱり当て馬の仕事って辛いよ……眼の前で発情した牝馬が他の馬に跨がられる姿を間近で見ないといけないんだよ? 俺に発情してくれた牝馬がさぁ、他の牡馬に取られてるみたいで気分悪いよ。

 

「今日はおよm……お友達が隣にやってくるんだ……!」

 

 お友達? 正直、俺も年取ったからお友達って言われてもなぁ……。

 お友達とか言いながら、オグリやイナリみたいな変な奴連れてきそうで怖いなぁ……。

 正直、喧嘩とかしたら負けちゃいそうだし……。

 

「競馬場じゃないの? どうせまた走るのかと思ったけど」

「――ッ!?」

「ん? 隣は牡馬なの……ッ!?」

 

【回想】

 これは大昔の話だ。

 当時、競馬先進国であった大英帝国、そして競馬後進国であったイタリア。

 その時代のイタリア人馬主が英国人馬主に所有している馬を酷評され、嘲笑われた。そして誓ったのだ。自分はイギリス競馬に通用する競走馬を生み出して見せる!

 だが、彼の挑戦は波乱万丈だ。イギリスに拠点を移した彼だが、イギリス人達はイタリアから来た彼を嘲笑の対象にし、出るレースは殆どが大敗。

 諦めかけた。

 だが、その時に一頭の牝馬が誕生する。

 その牝馬はイギリスの重賞を荒らし周り、馬主の悲願が達成される!

 だが、その牝馬は極度の牡馬嫌い。辛うじて種付けが出来たとしても産駒は牝馬の成績を超えることはできない、それどころか最初の頃に戻ったかのような大敗を続ける。

 そして、牝馬も子を生むにはギリギリの年齢になっていた。

 馬主は諦めた気持ちでその牝馬を種牡馬の見本市に連れ出した。

 歴戦の名優達が紹介される中で一頭だけ場違いとも呼べる種牡馬が展示されていた。

 ――牝馬はその種牡馬にしか興味を示さない。まるで前世での最愛の夫を見つけたかのように彼女は愛しそうにその種牡馬を見る。そして、その種牡馬もまた、彼女を待ち続けたという表情で見つめ合う。

 馬主は運命の存在を信じた。

 二頭の子供はイギリス競馬を荒らし回り、そして伝説になった。

 ……次は全部逆かもしれない?

 

 

 

 種付けシーズン、当て馬の仕事を何度かこなしたけどさ、ウララさんはもう誰かに種付けされたのかな? でも、見ない方が精神的には楽だな……。

 

「ま、また会ったわね!」

「え!? ウララさん! ああ……そうなんだね……」

 

 ああ、ウララさんの種付けまで見ないといけないのか……。

 もう嫌だ! こんなにウララさんが好きなのに!!

 誰だよ! ウララさんを抱くのわ!? 地獄か天国かわからないけどそこに来た時には絶対にいじめてやる!!

 

「クリーク、おまえは種付け上手いんだから一発で決めろよ」

 

 え?

 他の種牡馬がやってくることはない、ウララさんの相手は俺!?

 動揺して少しガクガクしてしまう。

 

「あの、えっと……わたし、結構おばさんだけど……」

「う、うん」

「初めてだから優しくね……♡」

 

 その時、俺ははじめて思った。

 自分は世界で一番幸せだって……。

 

 ♡ウマぴょいウマぴょい♡

 

 

 

【数年後・決断の時】

 

「オーナー、どうしてニコニコ動画にウラクリ(幼名)を譲るんですか?」

「いや、私の予想だと……あの子はとんでもない名馬になる……」

「それだったら尚更手元に……」

「いや、このSSが台頭する時代にウラクリが活躍してしまったら、多分、〇〇が黙っていない。だからこそ、〇〇のことなんて名前しか聞いたことないような場所で育ててもらった方がいい」

「……そんなもんなんですかね?」

「昔の競馬業界はよかった。そんな頭が固い老人には、ウラクリはもったいない。ウラクリは若い世代の人間が『平成三強』を思い出してくれるだけでいい……名前しか聞いたことのない名馬の息子……」

「サンデーサイレンスがなんぼのもんじゃい! ってことですね」

「ふふっ、面白いだろ?」

「ええ、でも、ウラクリの兄弟が出ないのは悔しいですね」

「ああ、ウララの小さな体では母体に負荷がかかる。それに産後の消耗が激しくて、次の出産に耐えられるかどうかもわからない。ハルウララも名馬だ、それを人間のエゴで潰してしまってはいけない」

 

 

 

【次回予告】

 

 やっぱり夏は熱いなぁ、なんて思いながら後輩くんを拷問調教! 先輩の言う事を聞ける良い子にはもっと気持ちいい調教(処刑)をしてあげないとね♡

 そんな感じで後輩くんを育ててたら涼しくなっちゃったぜ!? 走りやすくて調教が捗るなりねぇ♪

 そして決まった菊花賞! なんか、これが無敗の三冠とかいうのの最後のレースみたいだ!

 え!? お父さんはこのレースに勝ってるの!?

 やべーぜ! お父さんが走ったレースに出れるなんてマジ狂い!! お父さんの息子なんだから絶対に勝たないといけないぜ! 親子で同じレースに勝つなんて「エロいぜ! 強いぜ! カッコイイぜ!」。

 でも、今回の気性難の栗毛ジャニ系競走馬くんは本気の本気だ! それに、他の競走馬達も徹底的に、オレの無敗の三冠を徹底的に邪魔するつもりだ!?

 ――その時、オレの隣に現れたのはあの『平成三強+タマモクロス』だ!?

 

 次回【平成三強は奥深い】




 回想の部分は何かの動画で見た記憶がある多分実話です! 実話じゃなかったらごめんなさい……。

 もしかしたら次回は日刊できないかもしれません! 許してください!! なんでもしますから!! (投稿スピード以外)

敗北について

  • 出来る限り早く負けて♡
  • 最高にカッコイイ負け方して♡
  • 生涯無敗! それしか認めん!!
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