Swoop Witches   作:Arc penguin

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第一話

「この国に巣食う害虫がさぁ、わかってんのかよ自分の立場を!」

 

 薄暗い部屋で一人が椅子に座り、もう一人がその周りを靴音をわざとらしく立てながら歩いている。さらにもう一人が壁に寄せた机の上の灰皿を山盛りにしている。椅子に座る人間はずぶ濡れな上に、正面から見える歯の殆どが折れたか、抜けているようだ。

 

「聞こえねぇ。盗品を売って稼いだ金払ってミドルスクールまでいって、こんなこともわかんねぇのか。話すときには相手に伝わるように話せってんだよ。」

 

 ワッペンの付いた作業着の上に、エプロンを重ねた男が正面から椅子に座る男を蹴り倒す。

 

「うがっ!」

 

 少々古びた木製の椅子の脚が木片となるが、背もたれはまだ無事なようだ。どうやら男は倒れた衝撃で頭や背中を軽く打ったことよりも、背もたれに後ろ手に縛られていた手の爪の殆どが剥がされたり、ライターで熱されて水脹れになったところをコンクリートの床にかなりの勢いでぶつけたことの方が痛かったらしい。

 起き上がることもできず、床に仰向けになったままの男の腹真上から勢い良く踏みつけ、作業着の男が上から話しかけた。尤も、踏みつけられた方は痛みで失神しかけているようだ。

 さらに男をひっくり返してうつ伏せにしてから手の拘束を解いた。そして男の手首と二の腕にベルトを通してズレないようにきつく締めてから、そこに支柱を通してさらにベルトを縛る。男の腕は真っ直ぐに伸ばされ、内側に曲げることはできなくなった。

 作業着の男が男の手を引っ張ったところに煙草をふかしていた男が、灰皿の山を少しだけ高くしてから、立ち上がって男に近づいた。

 

「ふむ。これをやるのは久し振りだな。」

 

 男の肘を外側から蹴ると、男の体が部屋に硬いものが砕けるような音と、悲鳴を響かせた。男の右肘は完全に逆向きに曲がって動かなくなった。これだけの苦痛を受けてもまだ口を開かない。

 

「頑張るなぁお前。定番はやり尽くしたしな…。次は…顔を平にでもするか。カッターナイフとヤスリ、どっちがいい?」

 

 作業着の男が部屋の横に寄せて、床に広げた道具に目をやる。煙草をふかしたまま黙っていた男が立ち上がり、道具の中からカッターとヤスリを探して仰向けになっている男に見えるように持ち上げて、作業着の男に手渡した。カッターナイフは鋸歯のタイプ、ヤスリは持ち手の付いた鉄工用のヤスリだ。それらを両手にもった作業着の男が返事を待たずに悩み始めた。

 

「むぅ…取り敢えずカッターにするか。」

 

 そう言って仰向けになった男の鼻に添わせてカッターナイフを前後させようとしたところで、男の意志がポキリと折れた。

 

「わかった!話す!全部話すから!潜伏場所もウィッチの数も!」 

 

「お、やっと話す気になったのか。手間かけさせやがってよ」

 

 もう一人の男がボイスレコーダーを机から持ってきて男に向けた。

 

「せ、潜伏場所は…Ards and North Down(アーズ・アンド・ノース・ダウン)Donaghadee(ドナガディー)の海沿いの倉庫とその近くの市街地のアパートが一つ。倉庫はあそこの一帯を貸し切ってる。」

 

「ウィッチもいるだろ?数は?」

 

「俺が知る限りは3人だ。」

 

「なるほどね。他には?」

 

「こ、これが全部だ。他には何も…」

 

「嘘だ。まだ知ってるはずだ。全て話せ!」

 

「本当だ!信じてくれ!」

 

「嘘をつくならまずは…耳だな。」

 

 冷やっとした感覚が顔の側面に触れてから彼の叫びはさらに大きくなった。

 

「やめてくれ!頼む!本当に…本当に知ってるのはこれだけだ。嘘じゃない!」

 

「ったく…育ちの悪い奴はうるさいな。嘘かどうかはお前の耳を切り取ってから俺が判断する。」

 

 カッターナイフの鋸歯がギリギリと耳の軟骨を食いちぎる。普通の刃物だったらどんなに楽だっただろう。殆ど千切るような形で男の右耳が切り落とされた。

 

「ゔゔゔ…ゔゔ…」

 

 唸り声を上げて既に殆どが欠損した歯を食いしばる。右耳が元々あったところにあった感覚はもうない。最後にぐいっと引っ張られた後に千切れたような感覚が最後だ。

 

「止めてくれ…止めてくれ…」

 

「次は左耳だ。動くと痛いからな。」

 

 人が動く度に様々な体液が混じった地面がぴちゃぴちゃと鳴る。またしてもギリギリと鋸歯が軟骨を削り落とした。

 

 切り取った二つの耳を元の持ち主に見えるようにブーツですり潰してから、机や道具の片付けが始まった。

 

「よし、今日はここまでだ。一週間ぐらいしたら、また会えるぜ。」

 

 扉が開いて薄暗い部屋に一瞬、廊下の光が流れ込んだがすぐに 元の暗さに戻った。

 

 一週間はあっという間に過ぎ去った。Donaghadee(ドナガディー)の倉庫が拠点にされていることが諜報員によって確認されて、襲撃の準備が進めらている。

 

「おはよう、ジェイド君。今日はいいお知らせがある。」

 

 久し振りに作業着にエプロンを重ねた男が部屋に入ってくるのを見て、ジェイドは顔を歪める。今日は手術用のベットみたいな台に拘束されての対面だ。そしてその後ろにスーツを着た男もついてきた。はじめて見る顔だ。作業着の男よりも先にスーツの男が口を開く。

 

「君に教えてもらった潜伏場所だが…ビンゴだった。確かにあった。でも…間取りがよくわからない。それでは突入に支障を来す。そこでまた君に聞きたいことがあってね。Donaghadee(ドナガディー)の潜伏場所に君は入ったことがあるのかね?」

 

「あぁ、何度か。でも間取りまでは…」

 

「いや、そこまで思い出してもらう必要はない。中に入ったことがあるんだね。それで十分。」

 

 ジェイドの話をスーツの男が遮って話終わってから、扉を開けて外に出た。すぐに戻ってきた。一人増えている。女だ。スケッチブックとペンを抱えている。

 

Sergeant Foster(フォスター巡査部長)、仕事だ。」

 

「はい、今日はコイツですか?」

 

「あぁ、今回はそのままスケッチブックに書き起こしてくれ。」

 

「わかりました。」

 

「では…君にも説明をしないとな。」

 

 スーツの男がこちらに話かけてきた。よく顔は見えない。暗い部屋と相まって声だけの存在にも思えてしまう。

 

「そして…これから君にすることについての説明だが…Sergeant Foster(フォスター巡査部長)はウィッチでね。彼女の固有魔法はMemory mining(記憶掘削)と言ってね、あらゆる記憶装置や記憶媒体から情報を他のものに移し替えることができる。その固有魔法を使って今から君の脳から記憶を抜き出す。君の組織について色々とね。」

 

 脳をこれからいじくられるのだからいい気分ではない。それでも拷問と比べれば何ともないようなものだ。

 

「あ、それとね。もう一つ大事な話が。彼女の固有魔法、何が不安定なのなが未だにわからないのだけれど、偶に情報を取り出したものが壊れてしまうことがあってね。取り出す情報が大きければ大きいほど壊れやすくて。で、今回君からはまぁまぁな量の記憶を取り出すので先に伝えとかないとと思ったわけだ。」

 

 冗談じゃない。死ねと言われたような、いや、今から殺すという宣告と同義だ。

 

「それでは始めようか。Sergeant Foster(フォスター巡査部長)、頼むよ。」

 

「おい!止めろ!話すことは話した!もういいだろ!解放してくれ!」

 

 喚くジェイドをよそに、フォスターが彼の側頭部の両側に手を当てた。部屋に一瞬だけ青白い光が灯った。フォスターの両手に小さな魔法陣が発現する。それと同時に彼の記憶が砕け始めた。猛烈な勢いだ。

 次に視界がぐにゃりとねじ曲がる。子供のときに祖母の家にあった扶桑の「金魚」という魚を入れてあった入れ物を横から覗いた時を思い出した。その記憶ですら今まさに「掘削」されつつある。残った記憶が整合性を何とかして保とうと、継ぎ接ぎの記憶が生成されていった。しかしそれらも次第にボロボロと崩れていく。わからない。わからない。???

 

「あ〜こりゃもう駄目っぽいですね。」

 

「どうです?記憶は。取れました?」

 

 目を大きく見開いたまま動かなくなり、そのうちに様々な体液を垂れ流し始めた男を一瞥してからフォスターが応じた。

 

「えぇ、問題無いです。記憶の取り出しには成功したので、それが薄れないうちにスケッチブックに書き起こすのが一苦労でしてね。」

 

「あぁ、それは大変でしょうな。」

 

「ではお先に。」

 

 スーツの男とフォスターを見送ってから二人が声を低くしてボソボソと話す。

 

「ウィッチごときが出しゃばりやがって。」

 

「間取りぐらいならもうちょっと詰めれば俺でも聞き出せたさ。まぁでも顔はよかったな。」

 

「俺は御免だな、あんな化け物みたいなやつ。」

 

 部屋を出て階段を上がり、外に出るとHumber Pig装甲車が待機していた。重々しい扉を開けて二人が後席に乗り込む。

 

「ようやく作戦の準備が済んだな。」

 

「えぇ、必要な情報は揃いましたしね。」

 

「後は…作戦の決行日を待つのみ。この国で火遊びしたことを後悔させてやる。」




ウィッチがそんなに活躍しない話でしたね。第2話の更新は未定です。
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