監督生がNRCで過ごす最期の日に密着!?
あれ?なんか誰もいなくね?見送ってくれる人は?ギリギリまでそばにいたの、学園長とグリムだけで草ァ!!!!でも、エースとの淡い思い出もあるもん!これを胸に盛大に逝くぜ!!!おらーーー!!!

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監督生がNRCで過ごす最期の日なのに学園に人がいない

 

 

 

異世界で過ごす自分にとって、最大限の豪華な夕食といえば、セールで買った特製ロースをトンカツにして食べる程度のものである。

 

自分やグリムにとって特別な日でも、予算を気にせず美味しい料理を食べ漁ることは決してなかった。この身一つで異世界に来て、学園長に養われている訳なので、その経済状況に不満はない。(食い意地の張った相棒は別かもしれない)

 

だからこそ、テレビでしか見たことのないような豪華な食事を目の前に、私は間抜けに口を開けるしかなかった。

高級レストランでしかみない煌びやかな盛り付けをされた料理が、大きなテーブル全体を彩っている。燭台のキャンドルに照らされたシチューの香ばしさが、鼻腔をくすぐった。すると自分の脳が自動的に空腹のスイッチを押す。隣に座るグリムも私と同じようで、大きく唾を飲み込んで声を上げた。

 

「ふな〜!!こんな大量の飯、よく飾りつけたな〜!食堂のとは全然違うんだゾ!なぁ!なぁ!もう食べてもいいのか〜?」

 

「えぇ、いいですとも!なんと言っても、今日はここで過ごす最期の日ですからね!張り切って奮発しちゃいましたよ〜!私、なんて優しいんでしょう!」

 

「………」

 

「おや?監督生さん、どうしたんですか?普段質素な…ゲフン、コスパ重視の食事をしてる君には嬉しいメニューでしょう。貴方が食べる最期のディナーとしては100点満点では?」

 

「いや…、それはそうですけど、まさに最期の晩餐って感じが強すぎて喜ぶに喜べないというか…」

 

「ハハハ!まさにとは!いや、何。その通りじゃありませんか。確かに今日でお別れですが、生きてる限りお腹は減るでしょう。だから、ちゃんと食べておきなさい。お腹が減ったままサヨナラなんて、貴方も嫌でしょう?」

 

「子分!このプリン美味しいんだゾ!食わないんならそっちのも食べていいか?」

 

食べる順番を一才考慮しないグリムを見て、肩の力がほんの少し抜ける。私のプリンを奪おうとした小さな手を払い、スプーンでデザートを口に入れた。

 

「これは私の!」

 

「ふな〜!俺様のプリンが〜!」

 

一瞬ガッカリした後、すぐに気を取り直して他の食事に手をつける様子を見て、ひどく安心した。

 

なぜなら、この小さな獣は昨日一晩中泣き暴れて、手のつけようがなかったのだ。一緒に過ごしてきた仲間に、突然永遠の別れを切り出されたのだからしょうがないといえばそうなのだが…。

今いる学園長の私室に引っ張ってきた時は、寝不足と体力の消耗で濡れ雑巾のように項垂れた状態だったことが記憶に新しい。

 

プリンを食べ終え、シチューに手を出したところで、学園長がワインを飲みながら取ってつけたように思い出話を始めた。

 

「それにしても、監督生くんがこの世界に来て1年、色々ありましたね〜。貴方を学園で拾った時は、異世界人の誘拐をどう揉み消そうか必死に頭を抱えてたんですけどね。意外と…というよりも想像以上に学園の面倒ごとを片付けてくれたので、結果的には良い拾い物でした。まさに棚からぼたもちってやつですねぇ」

 

「…いや、学園長。いくら最期の日だからってぶっちゃけすぎでしょう。思い出語るなら、もうちょっとオブラートに包んだり綺麗に補正つけたりしてくださいよ」

 

私の呆れた視線をものともせずに、仮面の奥の光がニヤリと弧を描く。

あ、これは面倒な事を言う前兆だ。

この男に無理難題を押し付けられてきた第六感が、警笛を鳴らす。

 

 

「最期だからこそ、ぶっちゃけるんでしょう!!ほら、貴方も包み隠さず話しちゃいなさい。例えば、ほら!…その胸のマジカルペン!持ち主の彼とはどんなお別れをしたんですか?」

 

 

あぁ、やっぱり。

絶対聞かれると思った。

魔法の使えない私の胸に、魔法石のついたマジカルペンが目立って仕方ないのだろう。カラスは光り物に目がないのだ。

学園長の視線から逃れるように、制服の胸ポケットからペンを取り出して見つめた。部屋の明かりを反射する真紅の魔法石は、昨日別れを済ませた持ち主の瞳を鮮明に思い出させる。

 

 

 

「最後の一人になっちゃったね」

 

デュースとの別れを終え、彼が鏡に吸い込まれて姿が見えなくなった後、私は横で寄り添うエースに独り言のような声をかける。

 

「それはある意味、お前も一緒じゃん。俺がいなくなったら、監督生は鏡の間に一人だし。あっ!でもまだグリムや学園長はいるのか」

 

「…ふふ、そうだよ」

 

「はぁ〜、それにしてもデュースのやつ、ひっでえ泣き顔だったな。俺の人生で最高の友達だのなんの…、鼻水垂らしながら握手と抱擁って…まあ、アイツらしいけど」

 

そう言って笑うエースの目が赤くなっている事に気づいて、私は胸の奥がズキリと痛むような心地に苛まれる。私も、彼も、デュースも、一緒に過ごした時間はたった一年だったが、友情の深さは期間だけで決まるわけではない。沢山の困難を共に乗り越え、喜びを分かち合い、10年を一年に凝縮したような、目まぐるしくて愛しい青春だった。

これから先も彼らと学園生活を送れたら…何度もそんな想像をした。

 

しかし、私は元々異世界から来た身だったし、この世界に突然現れたように、いきなりお別れが来ることも覚悟していた。

それが今日だった。それだけでなのに、こんなにも虚しくてやるせない気持ちになるのは、その別れの原因が受け入れ難いものだったから。

 

「…初めて会った時、お前のことすっげえダセェやつだと思ってたんだ。魔法も使えないくせに入学してきて、掃除させられてたじゃん?そのくせ、常識ないし、チビだし運動や勉強の成績も微妙だった。ぶっちゃけ、ぜってぇ仲良くなれねぇって思ってんだよ」

 

「突然私を罵り始めた。泣いていい?」

 

私の言葉を無視してエースは続けた。 その声は人を馬鹿にしてるとは思えないほど柔らかい。

 

「それでも、お前って諦めないじゃん?化け物が目の前にいても、オーバーブロットした相手に殺されかけても、絶対逃げなかった。…この学園には普通なら会えないような王族や富豪、信じられないような天才と努力家がいっぱいいたけどさ、俺はその中でもとびきりお前が輝いて見えてたよ。スッゲー地味なのに」

 

最後の言葉が余計だと思ったが、目の前の友人の本音を聞いて心の内に小さな波が立つ。

彼は私の視線から逃れるように、頭をかきながら背を向けた。普段人を褒めるのはゴマをする時くらいだから、自分でも柄じゃない自覚はあるらしい。

 

「…あーー!もう!俺、デュースの空気に当てられてテンションおかしくなってるかもな!!クソ…はっずいわ!これ!!」

 

「うふふ…ありがとう。そんな風に思われてて、純粋に嬉しいよ」

 

「…ちぇ!なんだよ、俺ばっかり本音ぶちまけて損じゃん!お前だって思ってたこと全部言えよな!最期なんだから、隠し事はなしだ」

 

エースはこちらに振り返って、口を尖らせる。耳が少し赤くなっていた。

表情豊かなこの顔を見れる時間が、残りわずかだと思うと名残惜しい。

 

「…エースと初めて会った時、すっごい性格悪いと思ったよ。最初の方はさ、よく常識知らずで魔法使えない私を馬鹿にしてきたじゃん?見下されてるのが気に食わなかったし、いつかギャフンと言わせてやるって思ってたんだ」

 

「……はぁ〜〜?!!なんだよそれ!俺、最初の頃すっげえお前のこと面倒見てやってたのに?!そう思ってたわけ?ショックなんですけど!!」

 

「…もう!これで終わりじゃないからちゃんと聞いて!」

 

「…は〜い。で、続きは?」

 

「一緒の時間を過ごすうちに、馬鹿にするような発言がなくなって、私のことを本気で助けてくれるようになったでしょ?実はね、マブの中で1番頼りになるなって思ってたよ。エースがいるとね、すっごく安心したんだ。ちょっと意地悪だけど、ここぞという時にはそばにいてくれる。…エースに会えてよかったよ。この学園で初めて、私に話しかけてくれた。私を見つけてくれて、ありがとう」

 

目の前のチェリーレッドを真っ直ぐ見つめて言い切った。

彼の瞳が揺れながら、少しずつ水の膜が張る。

しかし、なんとか踏みとどまって、決壊することはなかった。

 

エースは鼻水を啜った後、上機嫌に口を開いた。

 

「……ふうん、そんな風に思ってたんだ。実は…俺のこと好きだったりした訳?」

 

「うん、好きだったよ」

 

「…!!!」

 

「友達としてね」

 

「はぁ〜〜!!なんだよ…!期待させるような言い方すんなっつーの!!!バーカ!!」

 

「あはは!す〜ぐ早とちりする!バカはそっちだね!」

 

「……ぷッくく」

 

「…あはははは!!」

 

しばらく二人で腹を抱えて笑った。

会えない分を補うように。寂しさを振り払うように。

楽しい思い出と共に、お別れできたら良いな。

そんな願いを込めて。

 

 

二人の呼吸が落ち着くと、エースは胸のポケットに入っていたマジカルペンを私に差し出してきた。

首を傾げて真紅の魔法石を見つめる。

 

「これ、お前にやる。俺のことだと思って持っててよ」

 

「…え?でも、私魔法使えないし。エースが鏡に入った後困るんじゃない?向こうで何かあったらどうするの?ニュースで町が大変なことになってたじゃん」

 

「一応、家に予備の魔法石があるんだよ。向こうに到着するまでの間なら、なくても問題ない。最悪マジカルペンなしでも魔法は使えるし、実家付近はまだそこまで荒れてないから」

 

「そっか…。じゃあ、貰う。実は胸ポケットに入れるの憧れてたんだよね」

 

受け取ったペンをそっとポケットに差し入れる。非魔法使いの自分が持っていても役に立たないが、エースがいつでもそばにいるような安心感で胸が暖かくなる。

 

エースは私のポケットにマジカルペンが収まったのを見届けると、鏡に向かって一歩踏み出した。

 

もう、彼とはここで終わりだ。

 

自然と挨拶の言葉が溢れる。

 

「ばいばい、エース」

 

「じゃあな、監督生」

 

またね、が存在しない。一度きりのお別れ。

 

絶対に泣かないと決めていたのに、エースの後ろ姿が滲んで見えなくなってきた。いやだな、笑って終わりにしたいって決めたのに。

さあ、口角を上げて、とびきりの笑顔を見せて。

 

この顔が、エースの中の最期の私になるんだから。

 

泣くことも笑うこともできない酷い表情をしていると、鏡に吸い込まれる直前、エースがこちらを振り返った。

 

そこには学園で過ごしてきた時のような、悪戯っ子の笑みがある。

 

「俺も監督生のこと好きだったぜ!…異性としてだけど!」

 

涙も笑顔も引っ込んで目を見開いた私を確認し、エースはしてやったりという表情で鏡の中に消えていった。

 

最後まで人を振り回して、酷い友人だ。

終わりの時をエースと共にできないのが、少し惜しいと思う。

 

完全に彼の姿が見えなくなった事を確認し、私は鏡の間の扉に向かった。

 

 

 

この学園には、もう私とグリムと学園長しかいない。

最期はここで過ごすと決めたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜〜、そうですか。ずいぶん控えめなお別れをしたんですねぇ。最後くらい情熱的にKISSでもしたらよかったのに。エンターテイメントとして弱いですよ」

 

情緒のかけらもない感想に苦笑いをする。

学園長の感想を聞いたグリムが、満腹になったお腹をたたきながら舌を出した。

 

「うげ〜!もしそんなことをするなら、俺様のいないところでやるんだぞ」

 

「もうそんな未来は来ないから安心していいよ」

 

「それもそうです。この世界が滅びるまで、後10分を切った訳ですし。全員死にます」

 

「…………」

 

「…そうだったんだゾ」

 

先程まで上機嫌だったグリムが、みるみる萎んでいく。

 

目を背けるように、学園長の私室に置かれた古いブラウ管テレビに視線を移した。このテレビは昨日からなんの番組も映さない。

 

 

話は一週間前に遡る。

 

 

 

<巨大隕石の軌道を観測した学者によると、この惑星にぶつかるのは賢者の島の標準時間で19時51分とされており_____>

 

「うっげ〜!またやってるじゃん、このニュース。誰が信じるかっつーの!」

 

エースが呆れた声を出すと、ハーツラビュルの談話室にいた多くの生徒が部屋のテレビに注目した。確かこの時、私たちはクルーウェルの課題レポートを一緒に終わらせて、寛いでいるところだった。

 

「そうはいっても、有名な天文学者が言ってるようだし…少なくとも接近することは間違いないんじゃないか?隕石がぶつかるとは思えないが…」

 

「はぁ〜〜〜?デュース、お前マジでバカだな!絶対売名目的のデマだよ!こういう奴はなぁ、世間の慌てた姿を見て楽しむクソ野郎に違いないんだ。なぁ監督生、お前もそう思うだろ?」

 

 

「…えっ?!……う〜ん…そうだね…私にはテレビの人が嘘をついてるようには見えないけど…。解説してる学者本人が途中で泣き出してるし…人を騙すにしてはやりすぎな気がする」

 

突然話を振られてびくりと肩を鳴らし、膝で眠るグリムが起きないように小声で答える。しかし、その返答が気に食わなかったようで、エースは眠る獣への気遣いを無視して大声を上げた。

 

「じゃあ、一週間後に全員死ぬのを!!信じるのか?!!!」

 

「…ふなぁ!!!びっくりした!!飯の時間か〜〜?!」

 

「………」

 

「……?なんだぁ?お前ら、黙り込んで。腹が減って力が出ねえのか?」

 

「ちっ、気楽な狸だな。なんでもねえよ!」

 

間抜けなグリムの質問に、緊張した空気が一気に離散した。

 

しかし、談話室のハーツラビュル生たちは、ヒソヒソとテレビの内容について話し合っている。ここ最近SNSやネットニュースで流れていた噂が、国内のテレビ局でも放映されるようになったのだ。それは、私たちにとって受け入れ難く、恐ろしい未来の予測。

 

一週間後、巨大彗星が落下する。直径2.4キロの大きな星屑が、この地表の生命を焼き尽くすだろう。残されるのは、枯れた大地だけだ。

 

 

そんな話、誰が信じる?

 

 

 

 

 

世界滅亡予定日の3日前、王族、富豪、それらの側近が学園から姿を消した。

生徒だけでなく、天文学に詳しい教師まで何人か行方をくらましたことにより、授業が一時中止となった。

この辺りで生徒の不安はますます大きくなったが、まだ誰も自分が死ぬ事など信じなかった。

 

 

 

 

 

 

世界滅亡予定日2日前、行方をくらませていたマレウス・ドラコニアが学園に戻ってきた。見慣れた学生服ではなく、その身は茨の谷の王族にしか許されない衣装に包まれている。彼は学園に残された哀れな人々のために、真実を知らせにきたのだ。

 

「2日後、確かにこの世界は滅びる。逃げ場所はどこにもない。妖精も、人魚も、人間も等しく死ぬ。皆のもの、最期は親しき者と過ごすといい」

 

講堂の中は静まり返っていた。いつも騒がしいエースとデュースも、顔を白くして口を結ぶ。グリムは不安そうに私を見上げているが、安心させるような言葉が何も出てこない。

マレウスが舞台から降りて、私の元までゆったりと長い足を運ぶ。それは死を受け入れた静かな佇まいだった。

彼に質問を投げつけようとしていた生徒が何人かいたが、迷いのない歩みに押されて道を開ける。

マレウスが私の前に立ち、こちらを見下ろした。

 

「オンボロ寮の人の子よ。お前はどうする?行く当てがないのなら、茨の谷に来るといい。誰がなんと言おうと、僕のそばにいる事を許そう」

 

「……えっと、さっきのは本当なんだね…?正直、まだ混乱してて受け止めきれてないんだけど」

 

「それもそうだろう。僕も知ったのは昨日だ。受け入れようと、受け入れまいと、2日後には焼け野原なのは変わりない。さあ、人の子。僕と共に来るのか、答えを聞かせてくれ。」

 

下を向いて首を振ると、マレウスは差し出していた手をそのまま私の頭にのせた。

 

「この学園が…私にとっての家だから、最期はここがいい」

 

情けなく震える声を拾ったマレウスは、何度か優しく頭を撫でた。その後私の目元を濡らす雫を拭い、別れの言葉と共に姿を消した。

魔法の軌跡である緑の光が、名残惜しむように私の周りに漂っている。

 

 

世界滅亡の1日前、

まだ学園には隕石の落下を信じない者が三分の一ほど残っていたが、

その日の正午、目視で空を確認した全員が慌てて家族の元へ帰っていった。

月のすぐ横に、巨大な星が観測できた。昨日までは存在しなかったそれは、死への最終警告。本当に、この世界は滅びる。

 

人が、妖精が、人魚が、紡いできた文明も歴史も未来も、全部0になる。大いなる自然の力に、ちっぽけな我々はなすすべもない。

 

 

 

 

最期の時間を大切な人と過ごそうと、鏡の間は人が溢れかえっていた。

少しでも早く家に帰りたいのだろう。順番の奪い合いで怪我人もでたが、それを顧みる人もいない。

 

エースとデュースはそんな人々の喧騒を横目に、先を急ぐことはしなかった。一刻でも早く家族の元へ帰りたかったはずなのに、ギリギリまで私のそばにいてくれたのである。帰る場所も、家族もいない。私にくれた最後の優しさだった。

 

今頃、彼らはそれぞれの家族と共にいるだろう。

二人は一緒に薔薇の王国へ来ないかと誘ってくれたが、他人である自分が家族との時間を邪魔してしまうのは流石に気後れした。

だから、同じように家族のいないグリムと学園で過ごすことにしたのである。

 

そこにまさか学園長も加わるとは思わなかったが、彼曰く「一度拾った動物は最後まで面倒を見る主義」だそうだ。私たちはペット扱いされているらしい。

 

「…監督生くん。君を元の世界に帰らせてあげられなくて、申し訳ない。本当に、ちゃんと探していたんですよ。ただ、こんなタイムリミットがあるとは思わなかったんです」

 

「…元々帰れる確率が低いことは、わかってたんです。だから、もういいですよ。ここで私たちと一緒にいてくれるから、チャラにします」

 

「君は本当にお人好しですね」

 

学園長は薄く笑うと、懐中時計を手に持ったまま窓の外を見た。

私とグリムもつられて、同じ場所に視線を送る。

月よりも大きくなった彗星が、海の向こうの地平線に沈んでいくのが見えた。

 

「………もし、あれが落ちてこなかったら…俺様、大魔法士になれたと思うか?」

 

小さな相棒が、ぽとりと雫のように呟いた。

 

「なれたよ。絶対に」

 

柔な頭の毛並みを整えてあげながら、そう答えてやる。

あったかもしれない未来を想像するのは、現実逃避なのだろうか。

 

もしも、隕石が落ちなかったら、元の世界に帰れた?もしも、帰る方法が見つけられなかったら、この世界で根を張って生きる未来もあったのだろうか…?

 

もし隕石が落ちなかったら…

 

 

 

エースと一緒に過ごす未来もあったのかな?

 

 

彼の顔を思い浮かべた瞬間、

そんな妄想を嘲笑うように、窓の外から残酷な光が差し込む。

 

膝の上に小さな重みを感じた。

隣の椅子から、グリムが移動してきたようだ。

小さな頭を胸に擦り寄せてきたので、返事をするように片手をまわす。

 

震える私たちを光から守るように、クロウリーがマントを広げて丸ごと抱きしめてくれた。

 

何も見えなくなる。

 

 

 

最後に、胸ポケットの赤いマジカルペンを握った。

 


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