人妻シンボリルドルフNTR概念先進技術実証機   作:おお友よそのカップリングではないのだ…

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第2話

ただ自分の家に帰るだけだというのに私の足取りは重かった。

感覚的には雨の日の重バ場よりも険しく感じる。

久方芝も走ってはいないが…。

 

…取り返しのつかない事をしてしまった。

 

そんな暗い思考を携えながら最寄り駅の改札を降りる。

そして歩くこと数分。

昨日まではあんなにも帰りたかった愛する我が家の玄関が見えてきた。

トレーナー君と二人で間取りを考えたデザイナー住宅。

いつもは暖かく向かえてくれるモダニズム邸宅の、その黒を基調とした玄関扉は何だかいつもと違って見える。

 

カチャリ…。

 

私はポケットから鍵を取り出し恐る恐る、解錠した。

極力音の出ない様に。

私は只、自分の家に帰宅しただけ。

なのに、動きは盗人のそれだった。

 

チェーンはついていないか…?

 

我が家は就寝時チェーンを掛けて、通勤するその時まで外さないという決まりがある。

不用心だなと思ってしまう。

けれど、鎖が繋がれておらず、扉を普通に空ける事ができたのは唯一の救いか。

そのまま物音を立てぬ様に努めながら屋内へと侵入する。

慣れ親しんだ我が家だからこそ、音をたてる事なくするすると足を進める事ができてしまうのだ。

 

…このままでは本当に盗人だ。

 

そんな事を考えながらダイニングへと入る。

すると、テーブルの上でラップに包まれた料理が目に入った。

 

そう言えば、昨日の料理番はトレーナー君だったな。

 

私とした事が…急に飲みに行くと決めた物だったから連絡を失念してしまっていた。

食台にある料理はキッチリ二人分。

きっと彼は私の帰りを待っていて手を付けなかったに違いない。

頭の中に一人ポツンと私の帰りを待ち侘びるトレーナー君の姿が湧き出した。

 

彼がダイニングで一人私を待っている間、シンボリルドルフは後輩君と…。

 

そこまで想像し考えるのを辞めた。

トレーナー君に合わせる顔がない。

 

なんと言えばいいのか?

 

私の頭はズルズルと後悔と自責の念に飲み込まれる。

 

正直に話そう。

そして謝ろう、心の底から。

 

というか、元よりそれ以外の選択肢などありえない。

お酒が入っていたとはいえ、到底許されるコトでは…

 

「おかえり、ルドルフ。」

 

私の思考がそう纏まりかけていたその時。

寝室の方からトレーナー君の声が聞こえた。

見るとそこにはスーツに着換え出勤の準備を整えた愛しい人が立っている。

まさに今、自室で着換えこのダイニングへと入ってきたに違いなかった。

 

「っ!ただいまだ…トレーナー君。」

 

思わぬ不意打ちに私は思わず上擦った声をあげてしまう。

静かに入ってきたつもりだったが、彼には私の帰宅が解っていた様だ。

 

「…おはよう。心配したぞルドルフ。」

 

本当に心配そうにそう言う彼。

 

「すまない、少し職場で飲み会があったものだから終電を逃してしまったんだ。」

 

何を言ってるんだ?このバ鹿は?

 

口からぽろりと溢れた言い訳に、自分で自分に驚愕する。

さっきまで正直に話そうと思っていたのに。

いざ、トレーナー君を前にした瞬間。

まるで己の罪を隠すようにすんなりと嘘を吐いてしまったから。

 

「そうだったのか、何か連絡くれればクルマで迎えにいったのに。こっちから連絡しても全く出てくれないから、今朝になって戻ってこなかったらURAにでも確認しようと思ってたんだ。」

 

少し怒った口調でトレーナー君はそう言った。

だが、そこに疑いなど一切ない。

彼の言うとおり、確かに私のlaneには何件かのメッセージが昨晩受信されていた。

だけれども、昨夜の私はそれに既読すらつけていなかったし、今朝の私も自分の仕出かした事の大きさに耐えられず、逃げる様に携帯のメッセージを見て見ないフリをしていた。

要するに現実逃避していたのだ。

 

「本当にすまない。自分でも驚く位に飲んでいて…連絡できなかったんだと思う。」

 

疑問形なのは本当に記憶が無かったから。

そこに他意は…無い筈だ。

 

「いや、無事ならそれで良いんだよ。でも今度からは連絡位はしてくれよ?しっかりしてるルドルフの事だから何も心配する事は無いと思うが、でもやっぱり不安になってしまう。まさか何かあったんじゃないかって…。」

 

塩らしい私を見てか、トレーナー君はすぐに声音を優しい物へと変化させる。

 

「トレーナー君…。」

 

悪いけれど、キミの予想は的中している。

まさに昨日、そんな何かがあったから。

 

「…それにしても。」

 

そこまで言ってトレーナー君は唐突に私の方へ鼻を近づけて…

 

「トレーナー君?」

 

スンスンと私の体臭を嗅いだ

 

「────っ!!!!」

 

途端に私の心臓はその出力を増大させる。

焦りで胸がドキンと高鳴り、うっすらと顔が朱に染まる。

 

「確かに少しだけ酒臭いなぁ…。ってどうしたんだルドルフ?」

 

「いっいいや…なんでもない。」

 

動揺混じりにそう返答した。

私は気が気ではなかった。

人間の鼻の性能は知らないが、ウマ娘の鼻であればこんな至近距離で相手の臭いを嗅げば、その相手にこびり着いた他人の体臭を即座に理解できるから。

だから、もしもトレーナー君が女遊びでもしようものなら私はすぐにその事が解る。

 

「まぁ、お酒で失敗するなんてルドルフにもそういう所があったんだな。なんだろう…少し微笑ましいよ。久しぶりにキミの弱い所を見れた気がする。」

 

しかし、そんな私の愚かな心配を他所に彼は可愛らしい表情を見せてくる。

人間の鼻では私にこびり着いた後輩君の臭いは感知できなかった様だ。

 

そして…その事に少し安堵している自分がいた。

 

「…じゃあ行ってくるよ。昨日の夕飯は温めて朝ごはんにでもしてくれると嬉しい。まだだろう?朝は?」

 

そんな事を露程も知らないトレーナー君。

彼はそう言って私の事を軽く抱き締める。

ふわりと愛する夫がの匂いが私の鼻腔をくすぐった。

時間にして数十秒。

決して短くはない抱擁から私を解放すると、トレーナー君はくるりと背を向け玄関へと脚を進める。

 

今日は土曜日。

 

でも、彼には仕事がある。

トレーナー君は今でも現役トレーナー。

世間一般では土日は休みかもしれないが、彼には自身が担当するウマ娘のレースがある。

今週末の場所は小倉レース場。

レースがあるのは明日だが、土曜日の内に移動しなければ間に合わない。

だから彼の帰宅まで…明日の夕方までは私はこの家に一人きり…。

そこまで思考が追い付いた所で私はすぐに彼の背中を追いかける。

 

「待ってくれっ!トレーナー君!」

 

玄関の方へと向かうトレーナー君へとそう叫んだ。

 

まだだ、まだ私は本当の事を話してはいないっ!

 

「…ルドルフ?」

 

私の声に彼は首だけで振り返った。

その手はすでにドアノブを回し、玄関の扉を開きかけている。

 

「いっ…いや、その気を付けて行ってくれ。担当の子にもよろしく頼む。行ってらっしゃいだ。」

 

それを見て、先程迄言おうと決意していた言葉は霧散した。

 

「あぁ…?行ってきます!」

 

歯切れが悪い私を不思議そうに見る彼。

 

…なんて酷い女なのだろう。

 

トレーナー君がいなくなった後、ふと改めてlaneを確認した。

 

───今日は遅いのか?

 

───夕飯は作って置いてある。温めて食べて。

 

───玄関のチェーンは外しておく。これ読んだら連絡くれると嬉しい。

 

トレーナー君からの私を気遣うメッセージがあった。

一連の流れは昨日の12時過ぎ。

彼が眼前から過ぎ去った後。

大凡、8時間の時間を開けて私はメッセージを既読した事となる。

 

「…!」

 

その時だった。

私にある人物からのlaneが受信されたのは。

 

────

 

「ルドルフさんっ!来てくれたんですね!」

 

laneの送信相手。

後輩君から指定された場所は職場近くの喫茶店だった。

よくウチの職員が昼休みの息抜きや、軽い話合いなんかに利用する所だ。

 

「できればキミの顔はしばらくは見たくなかったよ。あぁ、ブラックとオレンジを一つ。」

 

前面に座る後輩君に軽く毒を付きながら、私はウェイトレスにコーヒーを注文した。

店員は私の事を覚えていたらしくやけに速くコーヒーと甘酸っぱいネーブルオレンジが提供される。

いつも同じ注文をしている物だから、私の入店直後に準備していたのだろう。

オレンジを食べてブラックコーヒーを一口飲む。

これが一番、気分転換に最適なのだ。

 

「…昨夜の事旦那さんには?」

 

モグモグと口を動かす私に向かって、青年は腫れ物に触れる様にその話題を切り出した。

 

「常識的に考えて言えると思うか?」

 

彼の質問に質問で返す。

 

いや違う…常識なんかではない。

私に勇気と覚悟が無くて言えなかっただけだ。

 

悪いのはシンボリルドルフ。

 

だが、やり場のない後悔の念を怒り混じりの言葉で彼へぶつける。

 

「昨日の事は一晩の間違いだったと思って欲しい。そしてすまないが、二度と私にプライベートで関わってくれるな。月曜日職場で合う頃には只の部下に戻っていてくれると有り難い。」

 

棘のある口調で、敵意を隠さず、感情を発露する。

解ってる。

八つ当たりだこれは。

 

「そっそんな…僕は只、二番目でもいいから貴女と一緒にいたいと!それを拒絶しなかったのは昨日のルドルフさんじゃないですかっ!」

 

「…なっ!?それはどういう…」

 

「言葉通りの意味ですっ!昨日ルドルフさんはっ…言っていた!僕が若い頃の旦那さんに似ているって!若かった頃の旦那さんを考えると寂しくなるって!だから僕は言ったんですよ!じゃあ二番目でもいいから貴女の傍にいさせて下さいって!それを貴女は…!貴女は拒絶はしてくれなかった…っ!!だからああなった昨日!あの場所で!貴女と!その話の続きをしますか!?ここで!!」

 

彼の口から私に負けない位の激白が飛び出した。

あまりの大声に周りの利用客が何事かと此方に視線を集中させる。

 

「…へ?」

 

私はそんな、普段大人しい彼の爆発に思わず圧倒されてしまった。

 

茫然自失。

 

そんな言葉が適確だろう。

 

「ばっ…場所を変えさせて欲しい…」

 

私達二人に注がれる視線と混乱する思考回路。

衆人環視の中、私はそう言う事しかできなかった。

 

──

 

後輩君と私が移動したのはカラオケボックス。

私は昔の人とはいえ知名度があるし、あそこは職場に近い。

変な噂になると困るので、周りに人目のない場所を選択。

すると必然的にここへとなってしまった。

奇しくもまだ学生の身分であった頃、トレーナー君と一緒によく歌の練習をしたチェーンであった。

 

「…さっ…さっきのはどういう意味なんだ…?」

 

未だに動揺する私は先程、青年の口から語られた話を理解できずにいた。

 

「言った通りの意味です。ルドルフさん。貴女は僕に話してくれたんだ、僕が昔の旦那さんに似てるって。それで…」

 

「昔のトレーナー君を思い出すと寂しくなる…本当にキミにそう言ったのか!?」

 

「はい、聞きましたこの耳で。」

 

「そっそんな…」

 

確かに昨日、そう思っていたのは記憶に残っている。

でも、まさかその考えを彼に喋っていたなんて。

そんな事は記憶になかった。

 

「そして貴女は僕の事を受け入れてくれた。少なくとも拒絶はしてくれなかった。抵抗してくれたのなら、まだ引き返せたかもしれない。あぁなったのはお酒だけのせいでは無いはずです。」

 

彼はそう言って狭い個室の中、私、シンボリルドルフに向かい合わせに詰め寄ってくる。

 

「…っ!」

 

酒に酔っていたとはいえ…記憶に無いとはいえ…言い訳できる事ではない。

にわかには信じ難いけれど、本当にすんなりと私は彼を受けいてれて、愛する人を裏切ってしまったのだろうか。

いやそうではない。

 

現に裏切ってしまったのだ私は。

 

そして、間近に迫る彼の顔。

それを観察し、裏切ってしまった理由を理解した。

彼はとてもそっくりだったのだ。

職場ではない。

薄暗いこの場所で、間近では初めて見る彼の顔。

 

それは…

 

「トレーナー君…。」

 

私が始めて出会った頃の、まだ青年だった頃の彼の顔に…とてもとてもそっくりだった。

 

あぁ、だからか…。

 

「ルドルフさん?」

 

後輩君は何故私がそこでその単語を呟いたのか理解できなかっただろう。

暫し…数瞬。

いや、一瞬。

二人の間を沈黙が支配した。

そして直後、私はうっかりと彼の接近を許してしまった事を、密談場所をカラオケボックスに選択した事を後悔した。

 

「…んぷっ!?」

 

唐突に彼はその距離を詰め、唇で持って私の口元を塞いだのだ。

 

「んんっ…!」

 

身を捩る私。

抵抗しようと思えば抵抗できた。

だってウマ娘だから。

男一人の力など如何様にでもできる。

 

だが、何故かそんな気がおきなかった。

 

二日酔いならとうに醒めてる筈なのに。

私の口腔は彼の舌をすんなりと受け入れてしまったのだ。

まるで既に一度、受け入れた事があるかの如く。

 

「…んっと…」

 

先に唇を離したのは彼の方だった。

 

「…すみません。今日はここまでにしておきます。」

 

そして一言そう言うと、袖で口を拭いながら彼はカラオケボックスを後にした。

周りの部屋の歌声が聞こえる喧騒の中。

私は狭い個室に取り残された。

 

───

 

「ルドルフ、ただいま〜。」

 

「トレーナー君っ!!」

 

翌日の夕方。

日曜日。

私は小倉レース場から我が夫が帰って来るや否や彼に抱き着いた。

彼の着ているスーツから、今の担当ウマ娘の残り香が香ってくる。

普段なら私はそれに対して大人気無い嫉妬の心を抱いてしまうが、今日は全くそんな気にはなら無かった。

 

彼の帰宅をこれほどまでに待ちわびたのはいつ以来か?

 

たった一日がとてつもなく長く感じられた。

 

「おいおい、ルドルフどうしたんだ!?そんなに寂しかったのか?」

 

彼は飛びついてきた私に若干驚きつつ、後ろ手に玄関の扉を閉めた。

頭一つ分小さい私は、父親に甘える娘の様に彼の胸板に顔を埋める。

そんな姿を見かねたらしくトレーナー君は、宥める様にその大きな手で私の頭を撫で始める。

彼の手の温もりが、酷く心地良かった。

 

「なぁ…トレーナー君。」

 

「…なんだ?」

 

「私にキスをしてくれないか?」

 

「えっ?」

 

上目遣いで懇願する。

自身の弱さと過ちによって汚れてしまった私の身体。

それをすぐにでもトレーナー君の身体で上書きして欲しかった。

 

「今?ここで?」

 

「あぁ…お願いだ。トレーナー君。」

 

「なんだか恥ずかしいなぁ。」

 

苦笑する彼。

そりゃそうだ。

帰ってきてこれでは普通誰でも驚くだろう。

 

「そんな事はないっ!誰も見ていないじゃないか!」

 

それでも必死に懇願した。

形振り構っていられない。

仮にもし、ここで拒絶でもされてしまったら。

自分がどうにかなってしまいそうだったから。

 

…だけれども。

 

「ちょっと今、帰りながら缶ビール飲んでたんだ。だから臭いと思うから…歯、磨いてから…というかシャワー浴びた後でも良い?」

 

「えっ…?」

 

そう言って申し訳無さそうに身体に回された私の両腕を解くと、彼は一人洗面所へと向かってしまう。

 

私の脚元には麦酒の空缶とお土産で買ってきたであろう九州名物の紙袋が残されていた。

 

 

 

 

 

 

ナリタトップロードは…

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