人妻シンボリルドルフNTR概念先進技術実証機   作:おお友よそのカップリングではないのだ…

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第3話

朝、顔を整える為に姿見に臨んでいた時。

鏡に映った自分自身を前に、私の手は自然と自身の口元へと伸びていた。

指に触れた唇は乾燥のせいかガサガサしていて、就寝中に冷房を強くしていた事が少し後悔される。

 

…昨日、結局トレーナー君と唇を交える事は遂になかった。

 

リップクリームを塗りながら昨夜の事を思い出す。

我が愛しいあの人はバスルームでシャワーを浴びると私の用意した夕飯を食しつつ、現在の教え子の勝利を嬉しそうに語っていた。

曰くその娘の初勝利であったと。

2着3着と今までギリギリの所で逃していたが努力実り、初めて勝利を得ることができたと。

我が事の様に喜んでいた。

それを見て私の彼と繋がりたいという欲求は萎えて減退してしまったのだ。

そして、私はそれに微笑みながら相槌を打って…

 

その内心、自分の中に名状し難き感情を育んでいた。

 

彼の教え子初の凱旋。

私にとっても勿論嬉しいが、こう思わずにはいられない。

 

あぁ、こんなにも、こんなにも温い勝利で君は喜んでくれるのだと。

 

考えてはいけない。

思ってもいけない。

それは理性では理解してるし、最近までは全く思ってはいなかった。

…だけれども。

彼の指導する教え子で私以上の勝利を得た者はいないのだ。

常勝無敗。

三度の敗北が語れる。

私が規格外だった。

そう言えばおしまい。

それに関してはおこがましいけれど、自覚もある。

 

しかしキミは…同じ様に笑ってしまうんだね。

 

私…シンボリルドルフが三冠を達成した時と同じ程度に、キミはあの娘の温い勝利を喜んでしまう。

あんなにも温い一着で。

これがもし赤の他人なら素直に可愛らしいと感じたかも。

でも駄目だ。

トレーナー君の指導するウマ娘だから。

それは優秀であるべき筈なんだ。

 

本当にいけない考え。

 

これで全てのウマ娘に幸福をと…語っていたなんて。

でもきっとこれは、君に会わなければ抱かなかった感情だ。

そこまで考えて私はリップクリームを置く。

さっきまで乾燥していた唇はすっかりと瑞々しさを取り戻してくれていた。

 

さぁ…今日も仕事へ…。

 

あれ?

 

鏡から離れようとした正にその瞬間。

私の身体はぐらりと揺れて…

 

…はて?何故、目の前にフローリングが迫っているのだろう?

 

 

───

 

「熱は37.5…少し高いな。」

 

「…むぅ、すまないトレーナー君。仕事は…」

 

「だめに決まっているだろ?ルドルフ。今日は休みだ。URAには俺から連絡しておくよ。」

 

「しかし…」

 

「ルドルフ、今のキミの職場は一日休むだけで回らなくなるそんな所かい?今は休むんだ。」

 

ベッドの上で喰い下がる私。

上半身を起こそうとするとトレーナー君は優しくそれを押し返す。

やはり調子が悪いのか只の人間である彼にいとも簡単に抑え込まれた。

全く、熱で寝込んでしまうとは何年ぶりだろう。

URA入公以来、有給休暇や長期休暇を除いては無遅刻無欠席を貫いてきた。

ワーカーホリックという訳ではないがこんな状況久方振りである。

 

「…むぅ。じゃあ、君も…君も一緒に仕事を休んでくれないか?」

 

不満気にそう私はそう唸った。

 

「え?」

 

私の我儘にトレーナー君は目を丸くする。

 

「妻が熱を出して横になっているんだ。弱っている身で一人だと心細い…トレーナー君。駄目だろうか?」

 

そして私の肩に置かれた彼の太く無骨な指に自分の指を絡めて見せる。

実際、熱を出して一人寝込んでいる時はとても心細い。

たいした発熱ではないが、できることなら彼に一緒にいて欲しかった。

そうしたら昨日できなかった事だって…。

でも、分かってる。

 

「ごめんなルドルフ。俺だってキミと一緒にいたいけど…昨日のレースを元に担当している子を調整しないといけない。だから…」

 

「…うん。解ってるよトレーナー君。解ってて我儘を言ったんだ。私にも覚えがある。勝利後の調整の大切さは身に染みる程に。」

 

勝った次の日の調整は負けた次の日の調整以上に重要な事。

それは現役時代、私や私以外のウマ娘を鑑みて嫌というほど理解している。

 

「ルドルフ…今日は速く帰ってくるし、お昼と夕飯も用意して置く。だからどうか…。」

 

絡めた指にかかる力が強くなる。

トレーナー君は本当に申し訳なさそうにその顔を歪めた。

 

「委細承知。謝らなくていいんだトレーナー君。キミがこういう反応をするのは予測していた。だけど少しだけキミを困らせてみたかっただけなんだ。」

 

彼が…トレーナー君がどういう性格か私は知っている。

もう連れ添って10年近くになるんだから。

トレーナー君が何よりも担当ウマ娘とその成長を第一に考えているという事は。

だから、知っていた筈なのに…。

 

「本当にごめん。ルドルフ…一日で引かない様なら明日は絶対に休むから。」

 

なんだか彼が仕事へと行ってしまう事がとてもとても辛かった。

 

「大丈夫だよ。トレーナー君。」

 

私はそう言って苦笑してみせる。

でも、私の絡めた指に加わる力は一層強くなっていった。

 

───

 

「…流石に応えるな。」

 

38.2℃

 

体温計に表示される数値を見てそう呟く。

時間は未だに午前10時。

トレーナー君が仕事に向かい3時間程度で私の体温は高熱と言われる部類にまで上がってしまった。

幸い彼が出勤前、用意してくれたスポーツドリンクやゼリー飲料、市販薬は充分過ぎる量はある。

でも、とてつもなく心細い。

彼の帰宅までまだまだ8時間以上。

 

それまで一人だと考えると…。

 

孤影悄然。

 

耐えられるだろうか?

あぁ、私はこんなにも弱かったのだな。

トレーナー君もトレーナー君だ。

かわいい妻がこんなになっているのに。

私を置いて出勤するなんて。

一度は納得していたが、今更になって沸々とそんな感情が湧き出てきてしまう。

そんなネガティブな感情を飲み込む様に私は解熱剤をスポーツドリンクで流し込む。

発熱は本来自然な体の抵抗反応。

あまりこういった物に頼りたくはなかったが、仕方あるまい。

パジャマの袖で口を拭った。

その時だった。

 

ガチャリと我が家の玄関扉が何者かに解錠される音が鼓膜を刺激した。

私の身体は身構え硬直する。

 

トレーナー君か?

 

一瞬、そう考えるもすぐにそれを選択肢から外す。

彼が私の事を思って速くトレセン学園の仕事を切り上げるにしてもお昼過ぎになる頃だろう。

何故なら昼の打ち合わせが担当の娘とあるから。

今日は調整の日と言っていたが、それならば昼の打ち合わせまでには絶対に席を外さない。

その事は確信を持って言える。

何故なら私のトレーナーだから。

 

では誰?

 

頭の中で選択肢が浮かんでは消える。

駄目だ皆目検討がつかない。

侵入者の足音が一直線にこの寝室へと向かってくる。

 

まさか泥棒だろうか?

だとしたら拙い。

 

普段の私ならいざ知らず。

こんな状態でもし泥棒なんかに入られたりでもしたら…。

今の私では為す術もない。

そんな焦る思考の中。

 

「よぉ、皇帝サマ。見舞いに来てやったぜ。」

 

寝室のドアが開かれた。

 

「…フフッ、それは昔の渾名だよ。」

 

開口一番、懐かしい二つ名を発する彼女。

 

一等星、シリウスシンボリ。

 

意外な訪問者の出現に、自然と微笑む私がいた。

 

───

 

「ほらよ、見舞いと言ったらこれだろ?」

 

「ありがとうシリウス。」

 

上半身を起こして、シリウスシンボリから摩り下ろされたリンゴ〜ハチミーを添えて〜というベタ過ぎる流動食を受け取る。

幸いにして食欲はあったので簡単にだべられる下ろしリンゴは有り難い。

急にやって来た彼女はリンゴ以外にも、濡れたシーツと寝間着の取替や、氷枕の用意などをしてくれた。

シリウスの面倒見の良さに、先程まで感じていた心細さはいつの間にか消えている。

 

「まさか君が来てくれるなんて思いもしなかったよ。」

 

「あぁ、トレーナー…アンタの旦那から連絡があってな。熱を出して寝込んでいるっていうから来てやった。良かっただろ?私がいて。」

 

「うん、だいぶ助かった。かたじけないな。」

 

「他に何かやって欲しい事はあるかい皇帝サマ?」

 

「ははっ、大丈夫だよ。ありがとう。それにしてもまたキミに皇帝サマと言われるとはね。少しむず痒いなぁ。久しぶりに言われた気がするよ。」

 

「いいじゃねぇか?アンタ程の成績残した奴は後にも先にもシンボリルドルフ位なもんだ。」

 

「よしてくれ、先人にも私より強かったウマ娘はいるし、最近では私の記録も更新されてしまったよ。」

 

「でも、言われるの嫌いじゃないのは知ってるぜ?」

 

「私にも人並みの奢りと自己顕示欲はあるさ。」

 

その時、ピピッと脇に挟んだ体温計が鳴った。

 

「おっと…すこし落ち着いたみたいだな。ほらっ…。」

 

シリウスは脇の間から体温計をとりあげると、液晶に表示された数値を見せてくれる。

見ると熱は37℃台に戻っていた。

解熱剤が効いたのかもしれない。

 

「でも良かった。電話越しのアイツの声、すごい慌てて心配そうだった。こんな仕事じゃなければ一緒にいるのにってな。愛されんのな、アンタは…。」

 

「シリウス?」

 

どこか遠くを見ながらそう言う幼馴染。

なぜだか私の紫色の瞳には、彼女がとても寂しそうに映った。

夫婦関係に何か引っ掛かる所があるみたいに。

 

「シリウス。キミの所だって夫君と上手くいってるって…」

 

「別れたよ。」

 

上手くいっていると言ってたじゃないか。

 

私はそう言おうとしたが言葉が続かなかった。

 

「シリウス、それはどういう?」

 

「…あぁ、言ってなかったか?離婚(わか)れたんだよ。少し前に。」

 

「は…初耳だ。え、本当に?」

 

シリウスの夫君。

彼はシリウスが海外遠征の際に一緒に同行していた元トレーナーだった。

元々私とシリウスは同じチームとしてトレーナー君の指導を受けていたチームメンバーであり、二人で海外遠征を計画していた。

だが、私の方が諸般の事情で海外行きを断念する事となり、シリウス単独での海外遠征となったのだ。

その時、シリウスの海外同行にトレーナー君はついていけないという事になったので代わりに新しい担当へと交替した。

それが今のシリウスの旦那君なのだが…。

 

前に二人揃っているのを見たときはいつだったか…?

 

かなり前であった気がするがその時は仲睦まじい様子であった。

そんな二人がまさか。

 

「あー変な空気にしちまったな…、まぁ、なんだ性格の不一致っていうか、その…あんなに一緒にいても一瞬でバイバイなんて事もあるんだよ。」

 

ばつの悪そうに語る彼女。

その目は今の私よりも寂しそうに見える。

 

「すまない、嫌な事を。」

 

「いいや、アンタのせいじゃない。私が勝手に自爆しただけさ。アンタ達はずっと昔から変わらないんだ。だから私みたいにはならないでくれ。」

 

シリウス。

輝く筈のその一等星は何だか、少し曇って見えた。

 

───

あの後、少し体調の回復した私はトレーナー君の用意してくれていたお昼ごはんをシリウスと一緒に取り、大丈夫だと判断したのか彼女は帰っていた。

 

「んん…また上がってきたな。」

 

一方の私はシリウスが去ってから体温が再び上昇し、38℃台へと戻っている。

時刻は午後3時。

今、トレーナー君は何をしているんだろう。

そろそろ担当の娘のトレーニングが始まっている頃合いだ。

あぁ、また寂しくなってきた。

シリウスがやって来た時は寂しさなど消し飛んだと思っていたが、一人になるとまた寂しさが込み上げる。

もっと居てくれても良かったのに。

 

───じゃあ、また来る…かは解らないがお大事に。

 

帰り際、シリウスはそう言って出ていってたけれど…。

あれはしばらく会ってくれない時の感じだった。

私とした事が、嫌な事をシリウスに思い出させてしまったらしい。

友人として失格だ。

彼女が何故、旦那君と別れてしまったのかは知らないが未だに信じられない。

式には私達夫婦も出席したがとてもとても幸せそうだった。

けれど、表面上は幸せに見えてその実裏では何かあったのかもしれない。

あまり、詮索するのは良くない。

…が今度、共通の友人に話でも聞いてみよう。

私が考えを張り巡らせたそんな時。

 

ガチャリ…と本日二度目の玄関扉の開く音が聞こえてきた。

 

「…シリウス!」

 

反射的にそう叫ぶ。

ちょっと大袈裟に。

が内心、私は細く微笑んでいた。

何故、引き返してきてくれたのか理由は解らない。

けれど、暫く会えないと覚悟していた時に再びやって来てくれるとは。

 

忘れ物でもしたのだろうか?

 

だが、今度はすぐには返さない。

何かしらの方法で引き留めて長居させよう。

そうだ…いっその事トレーナー君の帰宅まで居てもらうなんてどうだろう。

そうすれば今日一日、私は寂しさとは無縁になるし、シリウスもトレーナー君とは久方振りの再開となる筈である。

三人で夕食でも共にすれば会話も弾むだろう。

嫌な事を思い出させた埋め合わせにはなるかもしれない。

まぁ、それまでに私の体力が回復していればの話だけれども。

先程と同じ様に足音はまっすぐ寝室へと向かってくる。

やはり、シリウスだ。

間違いない。

 

キィ…と控え目に開かれるドア。

 

「やぁ、シリウス!30分振りだ…」

 

だけれども、寝室のドアを開いたのは私の予期した人物ではなかった。

 

「ルドルフさん…。本当に体調不良だったんですね。」

 

職場にいる筈の後輩君。

スーツ姿の彼がそこには立っていた。

 

 

 

ナリタトップロードは…

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