はじまりの風
何処かの海―――
サニー号の選手で昼寝をしていたルフィのもとへニュース・クーのカモメがやって来た。
「……んあ?」
「クー!」
「ああ新聞か? でもおれ読まねえしなー。要らねえ!」
「クー!?」
いつも新聞を買ってくれている船なのに要らないと言われショックを受けるカモメ。その様子がおかしいのかルフィは笑うとカモメに向かって手を差し出す。
「ししし! 冗談だって買ってやるから泣くなよ」
「クーッ!!!」
頭をくちばしで突かれながらルフィは首を傾げて唸る。
「んー、でもナミとロビンはいま風呂だしな……代わりに買っとくか?」
「クー! クー!」
「ほい。ごくろうさん」
ルフィはお金を用意するとそれで新聞を買う。仕事を無事に終えられて満足したのかカモメはそのまま空へと羽ばたいていく。
舞い降りる羽を少しばかり眺めてからルフィは特に興味も無いが新聞を斜め読みする。
「さーて手配書新しくなってたりするかなぁ。あ、でもあれって無料で配ってたっけ―――」
まさかそこに自分の興味を引く物が書いてあるとも知らずに。
「……エレジアでライブ?」
サニー号の浴室で風呂に浸かっているナミがロビンに話し掛ける。
「そういえば最近流行ってるわよね」
「何かしら?」
「あれよ、歌。私達もトーンダイアル買ったでしょ?」
「ああ、あの。素敵な歌よね」
「ええ本当に―――」
のんびり、まったり。体を清め濯ぐという行為に憩いを感じている2人はそうしていつも何気無い雑談しながら過ごしている。
そんな癒やしの時間をブッ飛ばすしたのが我らが船長であった。
「おいナミーーーーっ!!!」
「ぎゃああああ!!? なによ急に!!?」
バーンっとドアを壊さんばかりに突入してきたルフィはナミに向かって力強く言う。
「行くぞ!!! エレジア!!!」
「……は?」
「しししし!!! みんなにも言っとかねえとな!!!」
「…………」
色々と言いたいことは有るが、何から言うべきか直ぐ決められなかったナミは頭痛でも堪えるように額を押さえて俯く。そんな彼女に代わってかロビンがルフィに尋ねる。
「エレジア。確か音楽の都よね? どうして急にそこへ?」
ロビンの頭の中ではその国……かつて国だったその場所の歴史が思い浮かんでいたが、まさかルフィがそれに興味を持って行きたいなどと言っているとは考えていない。一体どんな理由が在ってそこを目指すのか?
「これ!!!」
「……これは」
満面の笑みでルフィが掲げたのは一枚のポスター。
「『歌姫ウタのライブ』?」
そのポスターが宣伝している内容は確かにロビンも興味が惹かれる物。それはナミや他の仲間達もきっと同様だろう。ロビンはそこにエレジアという土地の歴史に由来する知的好奇心も付随されるが……だからこそ解せない部分が在る。
(彼ってこういうの好きだったかしら?)
全く感心が無いとは言わない。仲間に音楽家を欲するような人間だ。基本的に楽しいことや元気一杯に騒げる催しは大好きなルフィ。
だがしかし、特定の人物が行うライブへ行きたいと発言する程かと問われれば首を傾げざるをえない。それにライブの開催時期だってまだ二ヶ月は先、今から行っても早過ぎる。
「いや~楽しみだな~!!!」
ロビンの疑問も知らずルフィはただワクワクと体を跳ねさせる。
そうして黙って考え込み始めたロビンと入れ替わるようにナミが顔を上げた。
「……それよりもあんた……」
「ん?」
ナミの目は完全に据わっていた。
切れていた。
「何でも良いからさっさと風呂から出てけぇええーーーー!!!!!!」
「ごぺぇええええッ!!?」
―――怒りの拳骨によって風呂場から叩き出されたルフィはその後ナミから罰金を科せられるのだが、それはまた別のお話。
音楽の都エレジア。かつてその国を治めていたゴードンは夕焼けに染まる丘で少女に語り掛ける。
「……私の持っているツテで可能な限り宣伝を行った。これで良かったのか、ウタ」
「うん。ありがとうゴードン」
ウタ。この大海賊時代において市民達から歌姫と称される今をときめく歌手。彼女は自分が今立って居る丘からこのエレジアを一望する。
「もうすぐだ。もうすぐ『新時代』が……そこに」
10年以上生きてきた土地。第二の故郷とも呼ぶべきエレジア。その風景を目に焼き付ける。
(この辛い世界から皆を救う。その為の新時代。だから―――)
目を背けたい。それは夕焼けの眩しさからか。
(私の心を……想いも……どうか救って)
新時代が始まる。
自分が始めるのだと、そう信じて彼女は進む。
「…………」
ライブが始まればもう止まらない。止められない。止まる気はない。
「……今日の夕焼けは、いつもより赤いね」
過去にはもう戻れないのだから。