ONEPIECE FILM N.G.   作:悠々―ゆうゆう―

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夜明けの王と風の歌姫
魔王―Tot Musica―


 現実世界、ウタは引き裂いたアームカバーで左手の傷を止血をしながら自分に必死で呼び掛けてくる声に耳を傾ける。そうしているからかウタは能力によって眠らせた者の操作を中断しており、彼の声以外は静寂が戻っている。ただ警戒は解いておらずロビン達が少しでも怪しい動きをすれば直ぐに操ったルフィ達によって攻撃を加えられる状態で取り押さえていた。

 

「―――頼むウタ!!! こんなことはもう止めてくれ!!!」

 

 声の主はゴードン。彼もまたウタウタの眠りから免れていた一人だった。彼はロビン達から隠れているよう言われていたが彼らが危険な状態に陥った為に意を決して飛び出してきたのだ。

 

「私が悪かったんだ!!! お前の孤独に気付いてやれなかった……寄り添ってあげることが出来なかった!!!」

「…………」

 

 ウタはゴードンの言葉を聞きながら左手の具合を確かめる。指先を少し動かすだけで声を上げそうになる痛み。それは眠気さえ一時的にだが追いやる程の苦痛。

 つまり絶好調(さいあく)だ。

 

「だからウタ!!! これ以上自分も友達も傷付けるような真似は止めてくれェ!!! そんなことを続けても自分を苦しめるだけだ!!!」

 

 反吐と流血で憔悴した姿のウタを見たゴードンは涙を流しながら訴え掛けた。幼少の頃から知る彼女の痛々しい様子に心が締め付けられるように痛む。ゴードンはそんな自分が感じている痛みなどウタが感じてきた痛みに比べれば小さいと振り切って説得を続ける。

 

「聞いてくれウタ!!! わたしは―――」

「もう良いよ。ゴードン」

 

 ウタは優しい声でゴードンの説得を止める。彼女は微笑むとゴードンと正面から向き合う。

 

「ゴードンが今まで真相を隠してきたのも、わたしを外の人と交流を持たせなかったのだって……全部わたしの為を思ってしてくれたことだって、ちゃんとわかってる」

 

 ウタは「でもね」と言葉を区切ると笑みを消す。その瞳には強い決意の火が灯っている。

 

「誰が何と言おうと私は計画を実行する。この辛く苦しい現実から皆を救う為に。その為ならわたしは―――」

 

 取り出す古びた羊皮紙。数枚からなる一つの楽曲。

 

「そ、それはッ!!?」

 

 それを目にしたゴードンから血の気が引き、青ざめる。ウタは手中で禍々しい気を放つそれを掲げて厳かに告げる。

 

「その為ならわたしは、邪魔する人全員……()()()

 

 冷たい言葉。無機質な、感情の籠もらない……否、押し殺した声でウタは殺すと告げる。

 忌まわしい力を使ってでも。

 

「そう……この“トットムジカ”を使ってでも」

 

 純粋なウタウタの能力とは違う、背筋も凍るような魔力が一帯に吹き荒れる。

 

「それを使っては駄目だァ!!? ウタァああああ!!?」

 

 “トットムジカ”。エレジアを滅ぼした魔王。それを降臨させる為の歌。

 優しい優しいウタが、どうしても直接ルフィ達を手に掛けることが出来なかった優しい彼女が最後に頼った手段。

 

「さようなら。皆と過ごしたこの数日……すっごく楽しかったよ」

 

 楽譜が宙に浮く。歌われることに歓喜するようにそれはウタの前に整然と並ぶ。別れを告げた彼女の口から―――

 

 破滅の歌がエレジアの地に再び響き渡る。

 

 

 

 

 ■■■

 

 ゆめゆめ わすれるなかれ

 

 

 人の恐れ 人の迷い

 

 “トットムジカ”の名のもとに

 

 怯えよ 逃げよ

 

 

 世界が ほろびる その日まで

 

 ■■■

 

 

 

 

「―――ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ―――!!!」

 

 その瞬間、世界は確かに震えた。

 魔王の顕現によって現実とウタワールドが繋がったことで空間が軋んだのだ。

 だが誰もこの異常事態を知ることは出来ない。配信で映される映像はウタの能力によって創造されたまったくの別物。

 

「―――雨打つ心―――」

 

 その恐怖と絶望によって形作られた魔王を目にしたのは、今この時エレジアに居る者達のみ。

 

「―――枯れ果てず―――」

 

 魔王の嗤い声が響く。吹き荒れた闇から生まれるように姿を現わす魔王“トットムジカ”。

 

「“ゴムゴムの”ォーーッ!!!」

 

 道化のような姿に巨大な威容。鍵盤のような長く太い腕が夜の空を撫でる。顕現したてで存在が未だ不安定なのか揺らめく下半身。

 そんな見る者に不気味さを感じさせる魔王にルフィは突貫する。

 

「“猿王回転銃(コングライフル)”ゥーーッ!!!」

 

 蓄積した力と回転によって威力を増した一撃がトットムジカへ放たれる。衝突、激音。

 

「―――死をも転がす救いの賛歌―――」

「ッ!!?」

 

 そして直ぐにルフィは違和感に気付く。

 

「効いてねェ―――うわっ!!?」

 

 ルフィの一撃は強力だった。今の攻撃を真面に受けて無事な者などそれこそ数えられる程度しか存在しない……だがトットムジカは無傷。逆に巨大な腕を振るって反撃してきた。それによって弾かれたルフィは城の一部を破壊しながら吹っ飛んでいく。

 

「―――(ただ)海の凪ぐ―――」

 

 魔王が猛威を振るう。ゾロ、サンジ、ジンベエが直ぐにトットムジカに対して攻撃を加えるも……無意味。

 

「―――その傲岸無礼な慟哭を―――!!!」

「んなっ!!?」

「クソッタレ!!」

「何じゃと!!?」

 

 此方の攻撃は通じず、逆に魔王からの攻撃は一方的に蹂躙してくる。

 トットムジカの口から放たれる怪光線、それによって他の仲間に被害が行かないように3人は攻撃によって軌道をズラす。そうして周囲に飛び散った怪光線はエレジアの地を抉って破壊、火の手が巻き起こる。

 

「―――いざ無碍に Blah blah blah―――!!!」

 

 ウタワールドの美しかった景色が崩れていく。魔王が立つ舞台に相応しい破壊によって彩られた地へと変貌していく。

 魔王は嗤う。哀れで無力な人間を嘲笑って。どれだけ足掻こうと自分に傷一つ付けられないちっぽけな虫ケラを見下して。

 

「ッ!!! ……舐めやがって」

 

 魔王の嘲りを直感で察したのかゾロ、サンジ、ジンベエに青筋が浮かぶ。トットムジカの()()()を事前に聞いて頭に入っていたが彼らの怒りを収める効果は無かった。

 馬鹿にされ良いようにされたまま大人しくしている者達では無いのだ。

 

「―――怒れ 集え 謳え 破滅の譜を―――!!!」

 

 黒刀と化した三刀流が斬り乱れ、炎を纏った蹴りが叩き込まれ、周囲の水分ごと物体を破壊する空手が弾ける―――だがやはりと言うべきか、そのどれもが有効打になっていない。だが効果が無い訳でも無いのか魔王の動きは鈍る。

 

「…………」

 

 しかしウタは揺るがない。魔王の力は彼女が一番理解している。トットムジカの頭頂部に立つ彼女は無駄な抵抗を続ける麦わらの一味を冷たい目で見下ろす。

 

「……シャンクス達だってトットムジカに傷一つ付けることは出来なかった。勝つなんて無理だよ」

 

 トットムジカが咆吼を上げ衝撃波を伴う音波が周囲へと撒き散らされる。ウタワールドの城が破壊の波に晒されて罅割れる。

 

 城が崩壊する。

 

「きゃあああああッ!!?」

「ナミさん!!!」

 

 サンジが“空中歩行(スカイウォーク)”で崩れる城からナミを救出する。

 

「おいおいおい!!? これ人間が戦えるような相手なのかァ!!?」

「ここもヤバイ!? 離れようウソップ!!!」

 

 ウソップを背に乗せてチョッパーが瓦礫を跳び移りながら地上を目指す。

 そうして危険な場所から退避しようとする者達に向かってトットムジカは容赦無く光線を放とうとする。笑うように大きく開かれた口腔に禍々しいエネルギーが収束していく。

 

「“三刀流奥義”―――」

「“魚人空手奥義”―――」

 

 それに真っ向から飛び込む二人。直後トットムジカから放たれる極太の光線。

 

「“六道の辻”ッ!!!」

「“武頼貫”ッ!!!」

 

 光線が六つに斬り裂かれ、その交差点である中心を拳が打ち抜く。

 

「ぐっ……!!! おおォああああああああッ!!!」

「ぬゥううううううああああああああああッ!!!」

 

 爆発するような光を放って光線が弾け飛ぶ。強力な攻撃を無力化したゾロとジンベエは余波で飛ばされながらも無事な姿で地面に降り立つ。

 

「―――チッ!!! ここまでやって手応えが無ェってのも……!」

「ああ! やはり()()に叩かねば通用せぬようじゃ!」

 

 自らの強さに自負が在るからこそ彼らは歯痒く思う。それだけ目の前にしている魔王が理不尽な存在の証明。尋常なる手段では魔王には傷一つ付けられないのだ。

 

 そう、“魔王トットムジカ”に攻撃を通すには特別な手段が必要なのである。

 

「だがどうする!!? 現実に居るのはロビンちゃん達3人だけだ!!! 寧ろおれ達の助けが必要かもしれねェんだぞ!!!」

 

 サンジがそう言うと、彼の手で優しく地面に立たされたナミは神妙な顔で同意する。

 

「状況は最悪よ! 今のわたし達がこの世界から開放されるにはあの子が眠るか……あれを倒すしかない……ッ!!」

 

 ナミが言ったのはウタワールドから開放される条件、3つ在る中の二つだった。

 

 一つはウタ自身の意志で開放すること。これは敵対した時点で選択肢から外されている。

 もう一つは能力使用で体力を消耗したウタが眠りに落ちること。持久戦に持ち込めばいずれ限界が来るだろが……最後の条件の所為でそれも困難になっている。その最後の条件とは―――

 

「こんな状況になった時点でおれ達に選択肢は無えェ!!!」

 

 ゾロはバンダナを頭に巻きながら怒鳴る。

 

「あいつを止めるにもこの世界から脱出するにも!!! あの“魔王”を倒せなきゃ話しにならねぇんだ!!! ならやることは一つだろうが!!!」

 

 刀の一本が凄まじい覇気を迸らせる。妖刀“閻魔(えんま)”がまるで己以外の魔を冠する存在を斬り伏せろと云うように力を誇示しゾロはそれを握り締めて己が戦意と呼応させて更なる力を引き出す。

 

 ウタワールド開放の最後の条件、それは―――“魔王の打倒”。

 

 トットムジカの出現によって現実とウタワールドは繋がり、そしてウタワールドの主導権が一時的に『能力者とトットムジカとで二分(にぶん)される』のだ。

 それによって能力者が眠りに落ちるのと同様にトットムジカが消滅することによってウタワールドから開放されるようになる。

 

「現実で攻撃が始まるまで、攻撃が始まってからも!!! おれ達も絶え間なく攻撃を浴びせ続ける!!! それだけだ!!!」

 

 そしてトットムジカに攻撃を通す為の手段が―――『ウタワールドと現実での同時・同箇所への攻撃』なのである。

 

 言葉にするは(やす)し。それがどれだけ困難なことかは今現在麦わらの一味が証明している。トットムジカは彼らの中でも特に戦闘力に秀でた者達でさえ攻めあぐねるような強大な存在、そんな戦力を両方で用意しなければ掠り傷ですら付けられるか怪しいのだ。

 状況は正に絶望的と言えよう。

 

「―――……()()()()

 

 そんな中で。

 

「もう少し……あとちょっとで……」

 

 瓦礫の山から身を起こしたルフィがブツブツと呟く。

 

「手が、届きそうな気がする……」

 

 強化されたゴムの弾性によってルフィはその場で弾みながら、足先から指先までの感覚を手繰り寄せるように集中する。

 

「あと、もう少しで!」

 

 ルフィは再びトットムジカへ挑む。

 殴り、蹴り、仲間と連携しながら猛攻を浴びせ掛ける。だがやはり魔王には全ての攻撃が通用しない。同じ事の繰り返し。攻めた直後に反撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「何度やったって無駄なのに」

 

 ウタからすれば無駄な抵抗。ただ殺されるまでの時間を先延ばしにしているようにしか見えない。

 

「おおおおおおおおおッ!!!」

 

 だが少なくとも一人だけ……ルフィだけは違った。彼は明確な意志を持ってトットムジカと拳を交わす。

 聞こえる、聞こえるのだ―――音が。トットムジカとぶつかる度に聞こえる。

 

 現実に居る()()()()が聞こえる。

 

 気の所為では無い。ルフィはこの鼓動の音が活路に繋がると直感する。

 しかし未だ“足りない”。だが何が足りてないのかがわからない。量なのか、距離なのか、はたまた別の何かか。わからないからこそルフィは何度もぶつかるのだ。

 

 ―――永遠に続く夜など、存在しないのだから。

 

 

 

 

 正義の印を帆に掲げた軍艦が海を征く。

 その艦に乗るのは大勢の海兵、そして海軍最高戦力“大将”の2人。

 

「う~ん。のどかな夜だねェ~」

 

 大将“黄猿”ボルサリーノ。

 

「……嵐の前の何とやら、ですかね」

 

 大将“藤虎”イッショウ。

 その2人によって率いられた海兵と軍艦は音楽の都エレジアに向かって昼夜問わず進んでいた。

 夜も深く、本来なら眠っている筈の時間に起きた2人は未だ目視すら出来ない目的地へ意識を向ける。

 

「いやだねェ。悪い予感ほど良く当たると言うしねェ~」

「航海は順調、予定通りライブ当日には間に合いそうですが……確かに、妙な胸騒ぎがしやすね」

 

 そんな2人の予感を肯定するように、ジリリリリと電伝虫が受信を知らせてくる。

 

「ん~? もしもォ~し? ……あれェ? おっかしいねェ~?」

 

 ボルサリーノは腕に装着した黒い小型電伝虫に声を掛けるが、しかし応答は返ってこず首を傾げる。受信を知らせる電伝虫の鳴き声はずっと続いている。

 

「……懐の電伝虫じゃありゃしませんかい?」

 

 イッショウの指摘でボルサリーノは気付く。

 

「あ。あ~~! ……こっちかァ! ……はいはい、もしもし、こちらボルサリーノ」

『おう、寝てたとこ悪いなオジキ。ちょっと緊急でな』

「おや戦桃丸」

 

 電伝虫の相手は戦桃丸という男だった。今は海軍に所属しているが2年前はベガパンクのボディーガードとして科学部隊の隊長を務めていた経験を持つ強者でもある。

 

「寝ては無いよォ~? 少し前から起きてて甲板に居たところだよォ~」

『じゃあ出るの遅ェよ!!? もしかしてまた盗聴用黒電伝虫に声掛けてやがったのか!!?』

 

 そう突っ込んで戦桃丸は「いやこのやり取り何度目だよ!!?」と若干キレ気味に叫ぶと、今の状況の緊急性を伝えるのが先決と無理矢理落ち着く。

 

『……ふー……おいオジキ。そっちに“セラフィム”は着いたか?』

「セラフィム。新兵器のかい? いやァ~? まだ合流出来ては無いねェ」

『……そうか』

 

 戦桃丸は僅かに逡巡すると言うべきことがまとまったのか用件を伝える。

 

『先ず一つ。歌姫のライブが始まった。“計画”の前倒しの可能性が高いとはパンク野郎の言だ』

「……おォーおォー……」

「それは本当の話ですかい? 随分と早い……いや早過ぎやしませんかい?」

『だが事実、大規模な念波を観測したらしいぜ』

 

 ボルサリーノは「これは参ったねェ~」とどうにも危機感が感じられない様子で呟く。逆にイッショウはわかりやすく眉間に皺を寄せて唸る。

 

「あっしらも急いでどうにかライブ当日に着く予定だった身……これはかなり拙い状況じゃありやしませんか?」

『別に責める為の連絡じゃねェ。出し抜かれた形になったのは全員同じだ』

 

 戦桃丸は『だから二つ目』と言って次の内容を伝える。

 

『“元帥”からの命令でセラフィムがオジキの軍艦を経由し、そのまま直接エレジアに向かう手筈になった』

 

 その伝令を大将が2人が脳内で処理しようとした―――その時だった。

 

「ッ!!!」

 

 甲板のど真ん中を突き破りそうな勢いで黒い影が落ちてきたのは。

 

「おやおやァ~? 艦に隕石を落としちゃ駄目だよォ~」

「いやこれはあっしの所為じゃ無く……(くだん)の“新兵器”でしょう」

 

 冗談か本気かわからないボルサリーノの言葉を適当に流しつつ、イッショウは軍艦に降り立った()()と向かい合う。

 

「はてさて……これから世界はどう動くんでしょうねェ」

「…………」

 

 大将と合流したセラフィムは消していた炎を再び背中に灯すと、感情を全く感じさせない無機質な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 現実世界でロビン達はひたすら逃げていた。駆け抜けた背後で光線が炸裂、爆音と共に石畳や建物が瓦礫と化す。

 

「おいおいおい!! 流石にこりゃ手が余るぜ!!?」

 

 フランキーはジンベエ、ゾロ、サンジを抱えて走る。

 

「あの“魔王”を相手取るには少々……!! 戦力が足りませんね!!」

 

 ブルックはゴードンを背いルフィを頭に乗せて走る。

 

「でも私達が何とかしなければ……皆はウタワールドに取り込まれたままよ」

 

 そしてロビンがナミ、ウソップ、チョッパーをハナハナの能力で流すように運搬する。戦況はそれ程までに一方的だった。

 現実世界にも顕現したトットムジカ。同時攻撃でしかダメージが入らない特性によってロビンとは能力相性が悪くフランキーとブルックの技ですら効果が無いとくれば逃げるしかなくなる。

 一つだけ、この状況になって良かった事と言えば―――

 

「だが何で突然ルフィ達が操られなくなったんだ!?」

 

 眠る仲間達。彼らは先程までと違って眠りながら襲い掛かってくることは無くなっていた。トットムジカが顕れるのと入れ替わるように倒れ伏したのだ。

 

「あくまで推測だけど、能力の大半をトットムジカの維持に回したんじゃないかしら?」

「つまり……ルフィさん達を操る余裕が無くなったと?」

 

 この面子で唯一、過去トットムジカについて体験しているゴードンが何か知ってはいないかと彼らは目向ける……が、彼は首を横に振る。

 

「すまないが、天井画に残された記録以外で知っていることは君達と大差無い。ウタが力尽きて眠るまで暴れる、それだけしか……」

「いえいえ。無いなら無いで問題ありません。我々だって何も知らないのですから。ヨホホホ!」

 

 トットムジカは謎に包まれた部分が多い。知っていれば褒められこそすれ知らなくて責められる謂われなど無いのだ。

 

「力尽きるまで待つならこのまま逃げ続けるのもアリだけど」

 

 ロビンは自分達に敵意と嗜虐を向けてくるトットムジカを横目で見ながら走る。そのタイミングを狙ったかのようにトットムジカに目で見える変化が起きる。

 

「……どうやらそんな余裕も無くなりそうね」

 

 額から汗が流れる。それは事態が悪化したことに対しての物。

 

「まさか冗談だろ!!?」

「ここに来て更に……魔王の“尖兵”と言った所でしょうか」

 

 トットムジカの周囲に小さな黒い(もや)が幾つも発生、そこから姿を現わすのは―――ウタワールド内でウタが生み出していたのと同様の“音符の戦士”。

 

「魔王だけでも手一杯だってのによォーー!!! ふざけんじゃねェぞコラ!!!」

「アレのように無敵という訳では無さそうですが……ッ! 厄介なことに変わりありませんね!!!」

 

 飛翔しながら襲い来る音符戦士をフランキーとブルックが迎撃する。人を抱えながらでも何とか倒せる強さの戦士……だが、生まれてくる“数”が拙かった。

 瞬く間に100を越える戦士が生まれ、しかも時間が経過すると共にその数は増していっている。

 

 本来なら“ウタワールド”内部でしか出来ない筈の創造の力。それがこうして現実でも可能になっている。

 これが現実とウタワールドが繋がると云うこと。12年振りに解き放たれた魔王はまるで神のような力を振るいながら高笑いする。

 

「ぐっ!? 魔王と同時にこれは……ッ!」

 

 ハナハナの能力で一気に数十単位で倒すロビン。トットムジカとは違って音符戦士との相性は良いのだが……当然ながら音符戦士が来る間もトットムジカは甚振るように攻撃を加えてくる。

 

 現実での状況は最悪へと近付いていた。

 

 

 

 

 ウタワールドでも大きな変化が起きていた。

 

「な、何だありゃァああ!!? “魔王”の形が!!」

 

 ウソップがその変化を見て共学の声を上げた。最前線で戦っていたルフィ達もその異変を感じ取ってトットムジカから距離を取る。

 

 そして……魔王の体から禍々しい力が瘴気の如く噴き上がった。

 鍵盤の腕が大きく地面を叩く。その直後に更に“2本”、鍵盤状の部位が突き出して強く地面を打った。

 それは脚、トットムジカに脚が生まれた。

 

「散歩でもする気か?」

「そりゃ無駄足ってやつだろ」

 

 ゾロとサンジは様子見を止めてトットムジカへと一息に詰め寄る。現実世界の状況がわからないからこそ攻撃の手を緩める訳にはいかない。

 同時攻撃を狙うにしろウタに負荷を掛けるにしろ、攻めて攻めて攻め続けるのが現状最善の手段なのだ。

 

「足引っ張るなよアホコック!!!」

「ぬかせクソマリモ!!!」

 

 音符戦士を薙ぎ倒しながらトットムジカへ肉薄した2人は渾身の技を叩き込む為に構える。

 

「“鬼気九刀流”……“阿修羅”!!! ―――“抜剣(ばっけい)”!!!」

「“悪魔風脚(ディアブルジャンブ)”!!!」

 

 そして炸裂する。

 

「“亡者戯(もうじゃのたわむれ)”!!!」

「“焼鉄鍋(ポアル・ア・フリール)”!!!」

 

 突進しながら斬り裂く斬撃と頭上からねじ伏せる蹴撃がトットムジカを攻めた。強敵との戦いを経て更に強くなった2人の攻撃が凄まじい衝撃を生む。

 

「ッ!!? うお!!?」

「おわァあああ!!?」

 

 ―――しかし変異したトットムジカは更なる難敵と化していた。

 回転しながら大きく振るわれる両腕がゾロとサンジを弾き飛ばす。そこへ更に新たに生まれていた脚による追撃が走る。巨体だけでは無い凄まじいパワーに2人は建築物を突き破りながら吹き飛んだ。

 

「2人とも!!?」

 

 ナミの悲鳴、だが心配は杞憂で2人は直ぐに戦線に復帰してくる。

 

「大丈夫だぜナミさん!!! ……しかしあれはかなりヤバイぜ」

「ここまで来ると怒りを越えて呆れてくる」

 

 特性は承知しているが、それでもここまで大技を立て続けに浴びても掠り傷一つ負わないトットムジカに一味は苦い顔をする。

 

「同時に攻撃って言っても外の皆じゃ手が足りない……!」

「何か! 何か状況を打開する何かは無いの!?」

 

 ウソップとナミが後方で援護しながらこの絶望的な状況に頭を抱える。現実世界の仲間達が心配なのだ。幾ら頼れる仲間とは言っても限界が在る。

 

 ―――そしてその心配は正しく……ロビン達は今、大きな危機に陥っていた。

 

 

 

 

 怪光線が大地を抉る。

 

「ああァ!!?」

「ロビンさん!!? ぐあああああーー!!?」

「危ねェお前ら!!!」

 

 光線の直撃は免れた……しかし近すぎた。ロビンが吹き飛ばされ次いでブルックが、そうして一番被害が薄かったフランキーが慌てて倒れる仲間達の前に飛び出す。

 放たれる2度目の怪光線。

 

「フランキ~~!!! “ラディカルビーム”!!!」

 

 迎え撃つフランキーのレーザー。この威力もかなりの物であったが……僅かな拮抗の後にレーザーは怪光線に蹴散らされ、フランキーに直撃する。

 

「~~~~ッ!!?」

 

 体を盾に後ろの仲間達を庇うフランキー。レーザーで怪光線の威力が減衰されていたお陰か後ろに被害が行くことは無かった。

 

「フランキー!!?」

「……ああ、クソっ……しくったぜ」

 

 だがやはり身を挺したフランキーは無事とは行かず、体表を焦げ付かせてその場に倒れ伏した。

 

「これは……万事休すですかね」

 

 倒れたフランキーの代わりにロビンの前へと出たブルック。しかし短くない時間大群相手に戦いながら走り回っていた影響かその動きにいつもの精彩さは無い

 “第2楽章”へと変化したトットムジカは最初よりも強大な圧力(プレッシャー)を周囲に与えながら嗤う。

 

 傷付き倒れる麦わらの一味。それを見てゴードンはウタに向かって叫ぶ。

 

「ウタァーー!!? こんなことは間違っている!!! これ以上酷いことはしないでくれェー!!!」

 

 魔王の力で人を傷付ける。それによってウタ自身の心も深く傷付いているのをゴードンは理解しているのだ。12年も一緒に居たのだ。彼女の優しさは彼がよく知っている。だから何度もゴードンはウタに呼び掛けるが、しかしその声を彼女は聞き届けてはくれない。

 

 そんな折に、一体の音符戦士が地面に転がるルフィへ槍の穂先を向けて突進してくる。意識の無い彼に避ける術は無い。

 突き出される凶器。

 

「―――ぐぅ!!?」

「ッ!!? いけません!!」

 

 それをゴードンは割って入るようにして槍を受け止めた。鋭い穂先がゴードンの脇腹を引き裂く。ブルックが慌ててその戦士を斬り倒す。

 

「だ、大丈夫……傷は浅い」

 

 内蔵は無事、しかしゴードン自身が言う程その傷は決して軽くは無い。手で患部を抑えるも出血はジワジワと服を赤く染めていく。

 

「ッ! 動かないで。今、手当てするわ」

 

 何とか起き上がったロビンがゴードンに応急手当を施す。その間も音符戦士の襲撃は絶え間なく続いており、ハナハナの能力が幾ら優秀と言えども仲間を守りながらでは分が悪かった。

 そんな奮闘虚しく力尽きようとする彼らにウタは冷たく声を掛ける。

 

「……随分頑張ったみたいだけど、もう終わりだね」

 

 血の滲む左手でウタは麦わらの一味を指し示すと、それに応えるようにトットムジカは大きく口を開き、口腔にこれまでで最大の力を集束させていく。

 

「この一撃で……()()()にしよう」

 

 トットムジカが両手両脚で地面を掴んで反動に備える。それだけの威力を秘めた怪光線が放たれようとしていた。

 

 絶体絶命。

 

 ロビン達は音符戦士を倒しながら最後まで諦めずに立ち向かおうとする。だが気持ち一つで状況が好転する訳も無く、皆覚悟を決めた顔になる。

 そして遂にその時は訪れて……恐るべき魔王の顎から怪光線が―――

 

 

「“ROOM(ルーム)”―――“シャンブルズ”!!!」

 

 

 放たれる直前、その声と共に摩訶不思議な結界が展開され―――次いで彼らの前に声の主とは違う別の男が転移してくる。

 

「“バリアボール”!!!」

 

 その男は現れるなり指を組んでその場に居る全員を包む球状のバリアを生成した。

 そこでトットムジカから極太の怪光線が放たれ、破壊の渦が周囲を砕きながら男と麦わらの一味を飲み込む。

 

 その怪光線が過ぎ去った跡を見て、ウタは眉根を寄せた。

 

「……何? 誰?」

 

 バリアが解除され、トットムジカの怪光線を防いだ男と彼を転移させた男の姿が月明かりに照らされ正体を露わにする。

 

「―――全く……こいつらが居る所はトラブルばかり起きやがる!」

 

 “死の外科医”トラファルガー・ロー。懸賞金30億ベリー。

 

「うぉおおおおおお!!? ルフィ先輩また会えて嬉しいべ~~!!! 寝てるけど!!!」

 

 “人喰いのバルトロメオ”。懸賞金2億ベリー

 

 そんな予期せぬ2人の登場にロビン達は目を見開き驚く。ウタはその様子を見て彼らが知己であると予想して次の行動に移る。

 

「……誰かは知らないけど……ルフィの知り合いで守る気なら容赦はしない」

 

 一度は防がれたが、二度は? それ以上は? そんな考えの元でウタはトットムジカに更なる怪光線の追撃をさせようとし―――

 

「この無礼者めがァあああああーーッ!!!」

「ッ!!?」

 

 その空を割らんばかりの怒声によって思考が一瞬白くなる。声の方へ目を向ければ此方に向かって疾走してくる1人の影。それも恐るべきスピードで。

 

「ルフィを傷付けるなど……このわらわが許さんッ!!!」

 

 大地を砕きながらの高速疾走でトットムジカに急接近、その影は一定の距離まで近付くと地面を蹴って跳び上がる。

 

 そして放たれる強力無比なる一撃の蹴り。

 

「頭が高い!!! 平伏せ!!! ―――“大芳香脚(パフューム・フェムル・マグナ)”!!!」

 

 炸裂。

 大砲のような爆音と衝撃波が発生する程の一撃によって発射直前だった怪光線が掻き消えた。それによって発生する突風に顔を顰めつつウタは3人目の闖入者を睨み付ける。

 大地に降り立ったその者は立ち位置など関係無いとばかりにふんぞり返る……ふんぞり返り過ぎてあらぬ方を見上げて声高々に告げる。

 

「よく聞け小娘!!! わらわは“麦わら大船団”所属、“女帝”―――!!!」

 

 そしてウタはその者の()()に目を奪われる。

 

「ボア・ハンコック!!! 愛しき者の窮地に馳せ参じた!!!」

 

 “海賊女帝”ボア・ハンコック。懸賞金16億5900万ベリー。

 

 トラファルガー・ロー、バルトロメオ、ボア・ハンコック。この3人の登場により絶望的と思われた状況が……今、はっきりと変わった。

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