ONEPIECE FILM N.G.   作:悠々―ゆうゆう―

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目指すはエレジア

 麦わらの一味船長モンキー・D・ルフィが放った一言は船員達に衝撃をもたらした。

 

「あの世界的歌姫!!!」

「ウタちゅわんと!!?」

「幼馴染ッ!!?」

「しかもあの四皇、赤髪のシャンクスの!!!」

「娘だってぇええええ~~~ッ!!!!!?」

 

 ウソップとサンジがルフィに詰め寄りチョッパーは頭によじ登るとガクガクと体を揺らす。ゾロは甲板の柵にもたれながら酒を飲みブルックはポスターを手に物思いに耽る。フランキーはポーズを決めジンベエはどっしり構えて静観していた。

 

 衝撃を受けていたのは一部だった。

 熱心なファンのウソップとチョッパー、あと単純に可愛いレディと知り合いだった事実にファイヤーしてるサンジの三名が派手に反応してる以外では他の面子は静かな物だった。

 チョッパーがルフィの顔をグニグニと伸ばす。

 

「どういうことだルフィ!!?」

「いやどうもこうも言った通りだぞ? こいつ、シャンクスの船に乗ってて小っさい頃におれと会ってんだ」

 

 しれっと答えるルフィにウソップは渋い表情をする。

 

「……親とか兄弟の件でも思ったが、一回こいつの人間関係根掘り葉掘り聞いた方が良いんじゃねえか?」

 

 絶対にまだまだ爆弾的事実を抱えてるぞと暗に言ったウソップにサンジは同調する。

 

「まったくだ。女ヶ島(にょうがしま)でのことも合わせてうちの船長は油断ならねえ。どこで素敵なレディと会ってるかわかったもんじゃない」

「いやそれはどうでもいい」

 

 女関係は別に興味無いとばっさり切ったウソップにサンジは「ああん!?」とガンを飛ばすが無視(スルー)して本題に進む。

 

「歌姫ウタのライブに行くのは賛成だけどさルフィ。それはそうとちょっと早過ぎじゃねーか?」

「あ? なんで?」

 

 本当にわからないと首を傾げるルフィ。チョッパーが重りになって首が伸び、そのままボテっと甲板にぶつかる。

 ルフィの頭と共に落下して「うべ」っと潰れた声を漏らしたチョッパーを傍に来ていたロビンが優しく抱き上げる。

 

「……ライブはあのポスターに描いてた通り二ヶ月は先。今から向かえば私達は半月近くも時間を持て余すことになるわ」

 

 ポスターの現物を手にしていたブルックが頷き、他の仲間にもよく見えるように持ち直す。

 

「確かに彼女のライブの予定はずっと先ですね。それなのにルフィさんはどうして直ぐに行きたいんですか?」

「そんなの決まってるだろ」

 

 ルフィは「しっしっし!!!」と笑うと麦わら帽子を手に持って言う。

 

「おれが会いたくなったから!!!」

 

 単純過ぎる答え。

 そんな理由で航路が決まるのかとこの船の航海士は頭を抱える。

 

「だってあいつ昔急にいなくなったんだ。だから会える時に会っとこうって思ってさ」

「…………」

 

 会える時に会う。それはルフィが兄だったエースと死別してると知っている船員達にとっては無視出来ぬ重さが在る言葉だった。同時に共感出来る言葉でもある。

 故に反対する者など誰もいない。仲間達は聞き慣れた船長の我儘に笑って付き合うことにし、音楽の都エレジアへと進路を取ることになった。その調整のために全員が船の中を動き回る。

 

 ナミの指示を受けて舵を握るジンベエが「ふむ」と頭に浮かんだ疑問を彼女に尋ねる。

 

「しかし歌姫か。わしは噂でしか聞いとらんが……それほどまで凄い歌手なのか?」

「そりゃすごいわよ。彼女の歌は今じゃ世界中で聴かれていると言っても過言じゃないもの」

「世界中か。どういった手段でそこまで広く歌声を届けられたのか」

 

 歌声を記録したトーンダイアルの販売だけでは到底不可能だと思ったジンベエ。そんな彼に自分が知っていることの一つを答えたのがフランキーであった。

 

「そりゃジンベエ、“電伝虫(でんでんむし)”よ!!! あれを通じて世界にス~パ~! 発信してたのさ!!!」

「電伝虫じゃと?」

「不思議なもんだぜ。ガレーラに居た頃にもよく電伝虫が勝手に歌いだす時があってな、仕事してる時に流れるのを楽しみしてる大工も多かったぜ。勿論おれの家族もな!!!」

「なるほど」

 

 不特定多数の電伝虫に向かって同時に電波を飛ばす。方法は不明だがジンベエはどうやって世界中にウタの歌が広まったのかだけは理解した。そんな彼の視界の端で、ウソップとチョッパーが自分達の持っていたトーンダイアルを置き殻頂(かくちょう)を押した。

 

 楽器の旋律(メロディ)がトーンダイアルから流れ出し、歌姫の(こえ)が船上に響く。

 題名(タイトル)『新時代』。歌姫ウタを代表するナンバー。

 

「……いい歌だな」

 

 ゾロが酒を傾けつつ笑う。普段ならあまり気にも留めない歌ではあるが、我らが船長(ルフィ)の幼馴染みだと知って聴けば感じる物が変わるように思えた。

 そんなゾロの隣りにロビンが立つ。彼女は『新時代』を歌うウタという人物の話を始める。

 

「『新時代』で大勢の人気を得たウタは次に出した曲、『逆光』でまた違う名声を得たわ」

「へー、どんな」

「“救世主”」

「…………」

 

 何故歌手が救世主に? そんな疑問がゾロの眉間に皺を刻む。

 

「彼女の歌で救われた人が多いのよ。辛い現実を癒やしてくれる歌、不満や怒りを力の限りぶつけてくれるその(こえ)に」

「……わからねえな」

「そうでしょうね、あなたは強いから。みんながみんな、現実に立ち向かえるわけではないもの」

 

 ロビンはクスクスと笑って大事な仲間達を見る。

 

「私はみんなが居たから強くなれた。ゾロはその点、どうかしら?」

「それはそうだな」

 

 強くなる。その為に越えるべき相手に頭を下げて頼み込んだ。己の敗北よりも仲間の力になれなかったことの方が腑甲斐なく、血が滲むほど悔しかったから。

 成る程、そう考えれば塞がった現状を打破するのに誰かの力を必要とするのもわからないでもない。ゾロは「修行での禁酒は辛かったな……」とあんまり思い出したくなかった期間に遠い目をする。

 

 トーンダイアルが奏でる『新世界』が終わるとウソップは次に別のトーンダイアル、『逆光』が収録されたトーンダイアルを再生した。

 荒々しくも聴く者を惹き付けるメッセージが込められた歌。『逆光』に耳を傾けるナミは神妙な顔で呟く。

 

「……時期が時期ならわたしもはまってたかも」

 

 ウタの歌は好きだ。しかし熱狂する程ではない。ただそれも今だからこそ言えるのだとナミは肩に彫った刺青をそっと撫でながら思う。

 それを横目に見たジンベエは自らが犯した過去の過ちを、その身に刻んだタイヨウの紋様に重ねる。

 

「……お前さんには助けてくれた者達がいたんじゃな」

「ええ。バカで向こう見ずなどうしようもない奴らだけどね」

 

 ナミは強く握った拳でジンベエの胸を叩くとニッと笑う。

 

「あんたも頼りにしてるわよ! ジンベエ!」

「……有り難い。存分に頼ってくれ。わしは喜んでこの一味の力になろう!」

 

 わだかまり無くそう言ってくれたナミに感謝しながらジンベエは舵を切る。

 この瞬間は人も魚人も関係無い。大海原を行くサニー号は今日も絶好調だ。

 

「よし野郎共!!! 景気付けにおれがうまい料理を作ってやるからリクエストしやがれ!!!」

 

 サンジがそう言うと仲間達は待ってましたと言わんばかりに各々が食いたい物を上げていく。

 

「肉肉肉ぅーー!!!」「おれ釣りたての魚で作ったムニエル!!!」「米と酒」「おれ甘いの!!! 甘いものが良い!!!」「わたしもお肉で……わたし体に肉無いんですけどー!!! ヨホホホホ!!!」「ん~~~ッ!!! オレぁハンバーガーとポテトにするぜー!!!」「わしはフルーツサラダで頼む」

 

「相変わらずまとまりのねえ野郎共だな!!? ナミさんとロビンちゃんはどうする~♡」

「わたしもフルーツサラダもらおうかしら」

「サンドイッチが良いわ」

「オッケー2人とも~!!!♡ 腕によりをかけて作るからね~!!!♡ ……野郎共は適当な」

「「「「はっ倒すぞッ!!!?」」」」

 

 いつも賑やかな皆にサニー号の船首も心なしかいつも以上の笑顔をしているような気がした。

 

 こうして麦わらの一味は行く。音楽の都エレジアに向かって。

 

 

 

 

 

 

 曇天の下。

 メインステージの上で歌姫が歌い、舞う。

 一心不乱に。

 

「―――私の夢は皆の願い」

 

 広げた両手で虚空を掴む。その掌の中には何も無い。

 

「―――アナタしか持ってない」

 

 胸が痛い。もうこの痛みに耐える日々はもう嫌だ。

 

「―――最愛の日々」

 

 逃げたい、“ここ”から。だから何度でも言うのだ。

 

「私は最強」

 

 言い聞かせる。

 

「アナタと最強」

 

 幻のごとく儚い言葉だとしても。皆がそう願うなら、信じてくれるのなら。

 自分は最強なのだと。

 

「……『新時代』はすぐそこなんだ」

 

 だから大丈夫、“アナタ”なんて人が居なくても……私は強くなれるのだから。

 彼女はそう心に決めながら来たるべき日に向けて歌う。

 

 遠く差し込んだ一筋の光にも気付かぬまま、彼女は歌い続ける。

 

 

 

 

 

 

 麦わらの一味が進路をエレジアに向けてから一ヶ月。その間にも世界は大きく動き出していた。

 

「―――ウタは危険だ!!!」

 

 新世界“旧G1”、現“海軍本部”。

 海軍元帥サカズキは呼び出した“黄猿”ボルサリーノと“藤虎”イッショウにそう告げる。眼前のテーブルにウタのライブを宣伝するポスターが叩き付けるようにして置かれた。

 

「お前達はライブ当日に間に合うよう準備を整えておけ!!! わしはそれと合わせて動員出来る海兵と軍艦の都合を付ける!!!」

「おや~? かわいい女の子一人に随分な用意じゃないかい?」

「女子一人と甘く見るな!!! あれは“ウタウタの実”の能力者!!!」

 

 藤虎は閉ざされた視界でポスターを視る。

 

「確か開催地はエレジアって話しでしたね」

「そうだ!!! あの地には“トットムジカ”が封じられている!!!」

 

 サカズキは忌々しそうにテーブルを叩く。

 

「ただでさえ四皇勢力が暴れて混迷しちょる時期に……このライブだッ!!! 本来なら今直ぐにでも捕らえたいところを……ッ!!!」

 

 サカズキの考えとしてはライブ自体開催させたくはない。しかしそうするには手が回らない現状に怒りを隠せていない。

 

「おっと、そうカッカするもんじゃないよ~? わっしに任せてドンと構えてください」

「あっしも居ます。大将二人……これで駄目なら仕方ないと思いましょうや」

「……ッ!!! 駄目で通せるならわしら海軍はいらんのじゃ!!!」

 

 サカズキの激昂に周囲の温度が上昇する。現場に出ることは減ったがロギアの強大な力は健在。機会さえあればその灼熱の溶岩が全て焼き尽くすことだろう。

 

「良いかッ!!? あれは世界を滅ぼす存在!!! 絶対に“世界転覆計画”は阻止せんといかんのだッ!!!」

 

 三大勢力の一角たる海軍、その最高戦力が動く。運命の日たるライブに向けて。

 

 

 

 

 

 

 “聖地マリージョア”。

 世界政府の最高権力者である五老星は自分達の手足である(サイファー)(ポール)、その中で最強の諜報機関“イージスゼロ”を呼び出していた。

 

「―――現在の任務が終わり次第エレジアに向かえ」

 

 指示を受けた仮面のエージェントはそれに対し無礼を承知で答える。

 

「……最も適任であった彼は未だワノ国での傷が癒えず眠ったまま、ゲルニカも音信不通……他の者もこの火の付いたような世界に対応せんと飛び回っています」

「何とかならんのか?」

 

 無理を言っている自覚がある五老星はそれでも何か手は打てないかと再度尋ねる。

 

「……ライブ当日になりますがブルーノ、そしてカリファの二名ならばどうにか……と言ったところでしょう」

 

 仮面のエージェントとしてはこの二名さえ現行の任務に当たらせたいのが本音だ。しかし彼も五老星の危惧とその緊急性は理解している。だからこそ絞り出した人選でもある。

 

「それで頼む。……ウタウタとトットムジカはあまりに危険。これ以上の後手は避けたい」

「厄介だ。本当に厄介だ」

 

 五老星の一人が苦々しげに言う。

 

「……殺すのは無理か?」

 

 物騒な、しかし最善でもある解決策を提示するが別の一人が首を横に振る。

 

()()と関係が在ると調べでわかっている……下手に動けばあれがどう出るかわからんぞ」

「あれの存在も頭痛のタネだな……」

 

 会議室に重苦しい空気が満ちる。エージェントは居心地の悪さは決して表には出さず待機している。結局五老星はこれ以上の指示は不可能とCP-0を下がらせることにし、彼はそそくさとこの場を後にした。

 

 世界の平和と均衡のために。五老星はそれを第一に今日も思考を巡らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 かつてエレジアの王だったゴードン。彼の心には常に深い哀しみと後悔が在った。

 ゴードンは一人城の地下にある広大な資料室に赴き、その天井の奥深くへと固く固く封じられた物品に顔を向ける。

 

「ウタ……まさか君は、本当にあの計画を……」

 

 あの少女の抱える痛みや悲しみは自分が一番知っているとゴードンは思っている。だからこそ彼女が行おうとしているライブがただのライブで終わる筈がないと確信に近い物を抱いていた。

 

「もう、これ以上……あの子を苦しめないでくれ……」

 

 その言葉は何に向けられたのか、()()が答えを返すことは無かった。厳重に封じられ声も届かないのだから。

 

 その筈だったのだ、()()()も。

 だが届くはずのない声が届き、それは応えてしまった。

 

「……救ってくれ、誰か……あの子を」

 

 ゴードンは祈る。

 もしこの世に本当に“神”がいるというなら。

 あの不憫な子を救ってくれと。

 その絶望を晴らしてくれと。

 

「あの子を縛る、全てから……解放してやってくれ……っ!!!」

 

 太陽のごとき輝きで、彼女を照らして欲しいと。

 

 ライブ開催まであと半月。運命の刻はもう直ぐそこに。

 

 

 

 

 

 

 ―――何処かの海。

 

「…………」

 

 海賊船レッド・フォース号の上で赤髪の男はその隻腕で一枚のポスターを持ち、そこに描かれた少女の絵をジッと見詰める。

 

「お頭ァー、最近いっつもそれ見てますねー」

「ん? ……ああ、そうだな」

 

 現四皇の一人。赤髪海賊団大頭。

 赤髪のシャンクス。

 彼は仲間から声を掛けられたことで自分が思っていた以上に感傷に耽っていたのだと知った。

 

「……なあ、お前ら」

 

 シャンクスは自分の様子を心配して集まってくれた仲間達に向かって聞く。

 

「娘に会いに行きたいって言ったら……迷惑か?」

 

 硬い笑顔だ。それは誰の目から見てもわかるほど情けない表情。

 船員一同呆れた顔になった。

 

「お頭は本当にバカだな」「しかも意気地無しときた」「ダセェな」「思春期のガキもった親かよ」「なっさけねーのー」「今日おやつ抜きだな」

 

 飛ぶは飛ぶは容赦無しの罵倒の雨。

 

「テメェら好き勝手言い過ぎだろ!!?」

「ウワー!? お頭がキれたー!!?」

 

 これには流石のシャンクスも切れた。

 上も下もない、仲間内で繰り広げられるしょうもない喧嘩が勃発。ワーワー騒ぎながら殴る蹴るの大乱闘。

 くだらない。くだらなさすぎて、殴って殴られても笑ってしまう。そんな喧嘩。

 

「―――なーにやってんだろうな……おれら」

「さあ?」「まだ若い証拠じゃね?」「いやそこは年考えろよ」「なんて不毛な喧嘩だったんだ」

 

 一通り全員と殴り合った赤髪海賊団は大の字に寝そべって揃って空を見上げる。

 

「お頭。難しく考えすぎだ」

「ベック」

 

 煙草の煙をふーっと空へ吐き出したベックはシャンクスに大事なことを伝える。

 

「あの子は“赤髪海賊団の娘”……だろ?」

「…………」

 

 それは知ってたはずのことで、だけど見えてなかったことでもあった。

 

「そうだな……確かにそうだ」

 

 シャンクスが笑顔を浮かべる。その表情にさっきまでの硬さは無く、この青空のように澄み渡っていた。

 そして直ぐに立ち上がるシャンクス。彼に続くように周りの仲間達も立ち上がる。

 

「じゃあ行こうか野郎共」

 

 迷いはもう無かった。

 

「おれ達の娘の新たな門出だ。―――邪魔する奴らは蹴散らして行こうぜッ!!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉッッ!!!」」」」

 

 船は波を越えて突き進む。エレジアへ向かって。

 

 大切な娘の笑顔を守るために。

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