ONEPIECE FILM N.G.   作:悠々―ゆうゆう―

5 / 18
孤独な歌姫
歌姫ウタ


 しかし当の睨まれている麦わらの一味はそれどころでは無い。

 

「おいあの子、もしかして……」

「ま、間違いねェ……ぷっ、プププリッ……プリンセッ!?」

 

 そう、彼らは彼女に会いに来るのが目的だったから。それに仲間の幾人かはファンでもあるのだ。本人を目の前にして平静ではいられない。

 そんな海賊を前に少女は警戒を解かない。だから必然的に語気は強くなる。

 

「ここに来た目的は? どうして街を撃ったの? まさかライブの日にも襲撃を掛ける気?」

「ちょ!? ちょっと待てよ誤解だ!? これはおれ達の仕業じゃないって!!」

 

 ウソップが慌てて無実を主張する。それにナミも賛同しながら説得を試みる。

 

「そうよ! これはさっきまで居た別の海賊の仕業……わたし達はそれを追っ払ったの! だから信じてほし―――」

「信じられない!!!」

「ッ!!?」

 

 拒絶の声。海賊であれば聞き慣れた物であるが、彼女の声によって放たれたその言葉は何故か()()

 少女の警戒が強まっていく。それは余裕が無く、焦っているようにも見えた。

 

「海賊なんて……信じられるわけ……」

 

 少女は深く息を吸う。それはまるで何か特別な言葉を発しようとするような、大きな声……否。

 ヘッドフォンからマイクが展開される。

 歌が。

 

「―――さあ、怖くは―――」

 

 歌われようとした時だった。

 

「なァおい!!! やっぱりそうだ!!!」

「……?」

 

 ルフィが満面の笑みで少女の前に立っていた。とても嬉しそうに……いや嬉しいのだ。会いたかった人に会えたから。

 ルフィは訝しそうに見てくる少女に自分の顔がよく見えるよう麦わら帽子を上げて晒してやる。

 

「おいウタ!! お前ウタだよな!? おれだよおれ!!」

「……え!? ルフィ!?」

 

 少女、ウタは目の前の相手がよく知った人物だと知って目を丸くした。

 

「……ぁ……ッ……!!!」

 

 胸の内から溢れ出す様々な感情。

 色んな、色んな言葉が浮かんできた。だがその全てが声に出すことは出来なかった。

 言葉に出来なかった様々な思いを押し退けて、ただ一つ表に出た感情。それは―――

 

「……ルフィーーッ!!!」

 

 幼馴染みと再会出来た喜びだった。

 ウタはルフィに向かって飛び込む。さっきまでの状況など忘れたように。

 ルフィも笑顔で抱き締め返し……その体が少し震えていることに気付いたが、敢えて触れるようなことはせずに自分も再開の喜びを露わにする。

 

「おう! 本当に久し振りだな~! 10年ぶりか?」

「バカ!! 12年振りだよルフィ!!」

「そうか? いや~まあどっちでも良いよ!! また会えて良かった!!!」

「私も!!」

 

 バッと抱き締め合ったかと思ったらパッと離れる二人。

 そうして互いに「あはははははは!!」と笑い合うもんだからルフィの仲間達はただ見ているしか出来ない。二人の仲は彼らが思っていた以上に親密そうだった。

 

「ル゛ブィ、ウ゛ダぢゃん゛ど会え゛で良がっだな゛……っ!!!」

「それには同感じゃが……なんでお主は血涙を流しておる?」

「放って置いて良いぞジンベエ。サンジは病気なんだ、心の」

「治せん病気か?」

「これはおれ治せねェ。筋金入りだ」

 

 ウソップやチョッパーが好き勝手言ってるがサンジは感情の整理が付かず聞いていない。その間もルフィとウタは旧交を温めていた。

 

「大きくなったんじゃない? ほら、もう私よりも背あるじゃん」

「当たり前だ! あの時からおれはめちゃくちゃ強くなってんだからな!!」

「本当に~? 勝負じゃわたしの方が183連勝中でしょう?」

「違う!! おれが183連勝中だ!!!」

 

 ロビンが不思議そうに言う。

 

「見解の相違が甚だしいわ」

「両極端過ぎるな。何がどうなってそうなってんだ?」

 

 フランキーもルフィとウタの謎戦績には髪型をハテナにする。

 

「12年前と言ってましたし、子供の頃の可愛らしい勝負だったんでしょう。ヨホホホ!」

 

 年長者らしい視点でブルックは微笑ましそうに二人のやり取りを見守る。

 

「―――へえ、じゃあ向こうの皆はルフィのお友だちなんだ」

「そうだ!! 全員おれの大事な仲間だ!!」

「そっか」

 

 ご機嫌そうなルフィ、だが逆にウタは目を細めて表情に一筋の冷たさを含ませる。

 

「ルフィはさ、もしかして今……海賊やってるの?」

「ああ。やってるぞ、海賊!!」

「……!」

 

 その答えを聞いてウタの表情が明らかに固くなる。

 

「そ、そっか……そうだよね。あれだけ海賊になりたいって……言ってた、し」

「……? おう」

「それはそうと帽子ッ!! ……それってシャンクスのだよね!? もしかして来てるの!?」

 

急に話題を変えたウタに目を向けつつもルフィは麦わら帽子を手に取って答える。

 

「シャンクスは居ねえ。帽子は預かってる……なんかお前息荒いぞ? しんどそうだな風邪か?」

「ッ!! ……別に。ちょっと急いで来たから疲れてるだけ!」

 

 ウタはアームカバーに包まれた自分の左手をぎゅっと握る。何かを誤魔化すように。

 

「ねえ、ルフィ」

 

 そしてその声は再会してから最も弱々しく。

 

「……やめられないの? 海賊」

 

 笑っているのに、まるで今にも泣き出してしまいそうな……そんな顔でウタは言った。

 

「何言ってんだ? お前」

「…………」

 

 ルフィはウタが何を言っているのか心底からわからないと首を傾げる。ウタは視線を彷徨わせて答えあぐねるようにする。

 

「なーあー? ウ~タ~? だから今のどういう意味だ? お前昔あれだけ『シャンクスと同じ海賊になるー』って言ってたじゃねェか」

「それは」

「自分は『赤髪海賊団の音楽家だ』ーっておれによく言ってきただろ?」

「ッ!!!」

 

 ウタは目を伏せる。

 

「……ルフィにはわかんなよ」

 

 その言葉はか細く耳を澄ましていなければ聞こえないような声。胸の奥から無理矢理絞り出したような、痛みを堪えるような声だった。

 

「……? なァお前、おれに何か隠して―――」

 

 ルフィがもう少し踏み込もうとした時だった。

 

「ウタ―!!! ウタ―!!!」

 

 ウタの名を呼びながらばたばたと走ってこちらに近付いてくる男。

 

「ゴードン!?」

 

 ゴードンだった。

 ゴードンが来たことでウタの意識は彼の方に向かい、ルフィとの会話はそこで切り上げられる形となった。

 

「…………」

 

 いや、これ幸いにとウタが望んで会話を打ち切ったという方が正しいか。ルフィはそんなウタをただじっと見つめるだけ、それ以上声は掛けなかった。

 

「そんなに急いでどうしたのゴードン?」

「ぜェっ、ぜェっ、ぜェっ……ウ、ウタ! 彼らは悪い海賊では無いんだ!! ……だから!!」

 

 息も絶え絶え。それほど慌てていたのだろうゴードンの必死さが伝わってくる。

 

「今も別に来ていた海賊を彼らが……ルフィ君達が……っ!!」

「……ああー、えっとさァ……ゴードン」

 

 ウタは気不味そうに頬を掻くとゴードンに言う。

 

「頑張って来てくれたとこ悪いけど……もう誤解は解けてるから」

「は? え?」

「ルフィとそのお友だちってもう知ってるから」

「…………」

 

 ゴードンは疲れ切ったように膝を着く。

 

「そうか……それなら、良かった……」

「あはは~……ごめんね、ゴードン。待ってるように言われたのに勝手に来ちゃって」

「ああ、構わないさ。君が無事なら……それで」

 

 ゴードンの気遣いにウタは気の抜けた笑みを見せる。

 

「……はぁ~……よしっ!」

 

 それは深い溜息。まるで心の中にあった鬱屈した何かを吐き出しているような。ウタはそうして表情をさっきまでとは一転、明るく元気な物に変えた。

 

「ごめんね!! ルフィのお友だちの皆!! ちょっと気が立ってひどいこと言っちゃった!! お詫びに皆のこと歓迎したいんだけど……良いかな?」

 

 ウタはルフィ達が街を襲撃していたと思っていた勘違いを謝罪し、その埋め合わせしたいと申し出た。

 それにルフィは「いや~おれは別にどっちでも」とその申し出を断りかねない態度を見せた物だから、これに待ったを掛けるのは仲間達。

 

「おいルフィお前!!? せっかくプリンセス・ウタがおれ達を歓迎してくれるって言ってんだぞ!!?」

「そうだぞコノヤローが~!!?」

「ウタちゃん♡の頼みを断ろうとするなんざお前ふざけんなよルフィ!!?」

「そうよ! せっかくタダで歓迎してくれるって言ってくれてるのよ!?」

「いやお前は何タダ前提で考えてんだ!?」

 

 仲間の一部から盛大に詰め寄られてさしものルフィも「わかったわかった!」と受け入れる方向で決めるしか無くなる。

 

「ん。じゃあウタ。おれら歓迎されるから」

「「「「いや態度っ!!?」」」」

 

 明らかに歓迎される側の振る舞いじゃないルフィにナミ、ウソップ、サンジ、チョッパーが一斉に突っ込んだ。

 

「あははは!! ルフィは本当に相変わらずだね!! ……うん。安心した」

 

 ウタは優しい目でルフィを見るとクルリと背を向けてエレジアの城を指差す。

 

「じゃあ行こっか! みんなを持て成せそうな場所ってお城だけだから……良いよねゴードン!」

「勿論だとも。ルフィ君に皆、我が家に案内させてもらおう」

 

 そうして歓迎の段取りを考えていたところ、ウタはたった今思い付いたことをルフィへ吹っかける。

 

「そうだルフィ!! どうせだったら久し振りに勝負しない?」

「あ~? ……お前が今のおれに勝てるわけねェだろ」

 

 ウタが持ち掛けてきた勝負。しかしルフィはしれっと流そうとする。だがウタはそう返されるのを想定していたように煽る。

 

「あぁ~~? 負けるのが怖いんだ~~?」

「何をゥ!!?」

「じゃあ勝負する?」

「望むところだ!!!」

 

 さっき流していたのは何だったのか。いとも簡単に勝負に乗ってしまったルフィに仲間達は呆れる。そんな彼らにゴードンは「ルフィ君はウタが案内するだろうから皆は私が案内しよう」と大人の対応を見せる。

 そうした間にルフィとウタは勝負内容を詰めていく。

 

「久し振りだから懐かしい“チキンレース”!! ……って言いたいけど丁度良いのは無いから……」

「何だろうとおれが勝つ!!!」

「ふふ~ん? 言ったね。じゃあ“チキンレース”ならぬ―――」

 

 空を指差すウタ。

 

「“バードレース”で勝負しよう!!!」

 

 “バードレース”。それを提案されたルフィは渋い顔になる。

 

「バ~ドレースゥ~? あれすっげェええ面倒くせェんだよなァ」

「なになに? やる前から負けを認める気?」

「んなわけねえだろ!!!」

「じゃあ決まりね」

 

 ウタはルールの確認と勝利条件を伝える。

 

「ゴールはあの城。それ以外は昔やったのと一緒ね」

「わかった!」

 

 そこで甦るのは幼少期の記憶。

 まだまだ子供だったルフィとウタが事あるごとにしていた勝負、その中の一つであった“バードレース”の記憶。

 

 

 

 

『―――お~いウター! 勝負だァ~! おれと勝負しろォ~!!』

『なーにまたー? あんた本当にこりないわねー』

 

 風車村から少し外れた場所、風が気持ち良い草原で二人は勝負を始める。

 

『勝負は“バードレース”!!!』

『ゴールは風車村な!!!』

 

 両者共やる気満々。それを離れた場所からハラハラ見守る今日は酒場がお休みのマキノとウタの保護者であり赤髪海賊団の大頭シャンクス。

 

『大丈夫かしら二人とも……』

『大丈夫さ。前やってた“チキンレース”みたいな危ない勝負じゃ無いだろう』

 

 大人二人が見守っているのを余所にルフィとウタは“バードレース”の準備を始める。

 

『鳥を見付けて!!』

『脚にくくりつけた紐を掴んで!!』

『ゴールにどっちが先に辿り着けるか競争!!』

『鳥がきちんと飛んでないと無効だからね!!』

『望むところだ!!』

 

 勝負内容の詳細を聞いたマキノとシャンクスは妙な表情になる。

 

『……本当に大丈夫かしら』

『……ちょっと仲間に声掛けてくる』

 

 絶対にスムーズに終わらないなこの勝負。マキノの心配は深まり、シャンクスは万が一を考えて人手を集めて見守ることにした。

 

 そして始まる勝負。

 

『―――よーい……』

『『ドン!!』』

 

 威勢の良い掛け声と共に走り出すルフィとウタ。

 

『わたしこの子にしよーと』

『チュンチュン!』

『おれこいつー!!』

『ポーッ!!』

 

 ウタはまん丸スズメに紐を結び、ルフィはメガネふくろうに紐を結んだ。勝負はここからである。

 

『あの村に行ったらこのおやつ、もっとたくさんあげちゃう♡』

『チューン!♡』

『あ~!!? “えづけ”はズルだろ!!?』

『だれもエサあげちゃいけないなんて言ってませーん』

『ぐぬぬぬ……こっちだって負けねえぞ!!! 行け“ふくろ”!!』

『ポー?』

 

 ゆっくりとだが風車村に向かって進むウタ。対照的にルフィの方は気ままに飛ぶふくろうのせいで一向に村へ近付かない。

 見当違いの方へ進むルフィにシャンクスは声を掛ける。

 

『おーいルフィ! そっちは森だぞー!』

『そんなのわかってるよ!!』

『ポッポッポー』

 

 シャンクスの心配を余所に森へと突っ込んで行くルフィ。

 

『……ちょっと見てくる』

『はい、お願いします』

 

 頭を抱えて溜息を吐きながらもルフィの後を追うシャンクスにマキノは苦笑しながら見送る。

 

『あ?』

 

 ルフィは直ぐ戻って来た。

 

『ぎゃああああああああああ!!?』

『ポォオオオオオオオオオオ!!?』

 

 メガネふくろうと共に勢いよく森から飛び出してきたルフィ。その後ろからは―――

 

『ブェエエエエエエエエエエエ!!!』

 

 頭にたんこぶを作った猪が怒り心頭で追い掛けて来ていた。

 全力疾走で逃げるルフィとふくろう。必死すぎてシャンクスにも気付かずそのまま脇を駆け抜けて行く。その行き先は奇しくも風車村であった。

 

『……ぷっ!! ……だっははははははは!!? 寝てる頭でも踏んづけたかあのバカ!!!』

 

 それが可笑しくて可笑しくてシャンクスは腹を抱えて笑う。

 

『……はぁ~……これはどっちが勝つかわからなくなったな』

『船長さん!? 言ってる場合ですか!? ルフィが危ないですよ!?』

『大丈夫さ』

 

 シャンクスは軽く手を出して猪の進路に割り込む。だが怒っている猪はそれを意に介さず、邪魔物は撥ねると言わんばかりに突っ込んで来て―――

 

『……止まれ』

『っ!!?』

 

 一瞥しただけ。マキノからはそうとしか見えなかったが……猪にとっては違う。

 シャンクスから放たれた圧力によって脚を前に出すことが出来なくなる。

 

『プ、プギィ……』

『よしよし良い子だ。そのまま森へ帰ると良い』

『ブー』

 

 そうして怒り狂っていたはずの猪は大人しく森へと引き返して行った。

 

『……さて。あいつらの決着でも見届けようじゃないか』

 

 ―――所変わり、風車村付近。

 

『ふふーん。これでわたしの連勝記録は更新ね』

『チュンチュン!』

 

 パン屑を使った誘導が上手くいって御満悦なウタ。そのまま余裕の足取りで風車村に辿り着こうとした、その時である。

 

『……何? ……悲鳴?』

 

 後ろから聞こえてくる悲鳴、振り返って見てみれば―――

 ルフィが超必死な形相で走って来ていた。

 

『―――ぁあああああああああ!~~ッ!!?』

『きゃあああああ!!?』

 

 勢いが勢いだったのでビックリしたウタは逃げるようにルフィの進路から避ける。

 

『な、何よあれ……』

 

 しかしその行動がルフィに先を行かせる物だと気付いてウタは『あー!?』っと己の失策に声を上げる。

 

『い、急ぐわよ!!』

『チュンチューン!!』

 

 急いで追い掛けるも時既に遅し、ルフィの方が早く風車村へと到着していた。ルフィは疲労困憊といった様子で仰向けに寝そべっている。

 

『ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……』

『……ル、ルフィ……あんた……』

『ど、どうだウタ~? おれの勝ちだろ~?』

 

 へろへろの勝利宣言。しかしウタはルフィが()()()()()したことに気付いていた。

 

『……あんた鳥は?』

『ほへ?』

 

 ルフィは自分の手に目をやる。そこにはしっかりと紐が握られていたが……

 

『ポッポ―。アホポッポー』

 

 結んでいた紐はほどけ、結ばれていたメガネふくろうは村外れの木に止まっていた。

 

『ああ~~!!? ふくろ!!?』

『は~い、一緒にゴールしてないからルフィの負け~!』

『ぇえええええええ!!?』

 

 ルフィは疲れを忘れたように飛び起きるとウタに食って掛かる。

 

『負けてねえ!!! おれはまだ負けてねえ!!!』

『なによ、どっからどう見てもわたしの勝ちでしょ?』

『違うもんね~!!! ウタはズルしてたからウタの負けェ~!!!』

『でた。負け惜しみ~♪』

『何をゥ!!?』

『何よ!!?』

 

 う~っと唸りながら睨み合うルフィとウタ。

 一触即発。勝敗に納得出来ない二人は次に拳で決着を求めようとした時、様子を伺っていたシャンクスが姿を表して間に割って入った。

 

『よう、どうだ二人とも! 勝負は着いたか?』

『あー! シャンクス―!』

 

 そうして二人の標的はシャンクスに向かった。

 

『な~な~、シャンクス~。おれの勝ちだよな~?』

『どう見ても私の勝ちよ。ねえ? シャンクス~♡』

『あー! わかったわかった! わかったからおれを登るな!!』

 

 シャンクスはよじよじと自分の体を登ってくる子供二人をあやしながら落ち着かせる。

 

『まったく。お前らは毎日毎日勝負勝負とよく飽きないな』

『何よその言い方。わたしだって好きで勝負してるんじゃないんだからね!』

『ウタが負けを認めねえからだ!!』

『うっさい! 今わたしはシャンクスと話してるの~!』

 

 シャンクスにべったりなウタ。シャンクスの頭に張り付いたルフィはぶう垂れながら幾度も気にはなっていたことをまた聞く。

 

『やっぱウタ変だよなァ……自分の父親のこと呼び捨てなんて』

『シャンクスはシャンクスだから良いの! だって私の父親であると同時に尊敬してる船長なんだから!! ……それよりあんたは何回それ聞くつもりよ』

『だって何回聞いても変だし』

『あんたのネーミングセンスの方がよっぽど変だと思うわ!』

 

 きゃんきゃんと騒いで耳が痛くなりそう。そんな風に思ったシャンクスだが、それと同時にこの光景がどれほど穏やかで心温まる掛け替えのない物なのか理解していた。

 

『なに笑ってんだシャンクス?』

『……いや。相変わらずバカやってんなと思ってな』

『あー! ルフィのせいでバカに思われちゃったじゃない!!』

『えええ!? おれのせいじゃねえよ!!』

 

 シャンクス、ルフィ、ウタ。その3人のやり取りを少し離れた場所から赤髪海賊団の仲間がマキノや村長と共に眺めていた。

 

『こんな日がずっと続けば良いのに』

 

 マキノが溢した言葉にベックマンは煙草を吹かしながら答える。

 

『……おれ達は海賊だ。辿り着く海ごとの生き方ってもんが有るのさ』

 

 ベックマンのその言葉に村長は「ふんっ」と鼻で息を吐く。

 

『それでも! 子供が笑っていられる方が良いに決まっておる!』

『……違いない』

 

 仰る通りとベックマンは村長の言葉に笑みを浮かべた。

 

『―――はいはいはい! みんな注目注目! ちゅ~もぉ~く!!』

 

 ぱんぱんぱんと手を叩く音が響く。それをしたのはウタ。彼女はそうして周りの注意を引くと告げる。

 

『赤髪海賊団音楽家ウタ!! 今日もみんなを楽しませるために歌うわ!!』

 

 それを聞いた全員が盛り上がる。

 

『良いぞ良いぞウタ!!』『よっ!! 待ってました!!』『酒開けちゃおう』『肉! おれ肉食いたい!』『うちの自慢の音楽家の舞台だ』『聴かなきゃ損だぜ』

 

 ウタはその歓声にドヤァと得意満面な顔をするとこれから歌う歌を決める。

 

『いつもの歌も良いけど、今日は賑やかにあれを歌うわ! だからもみんなも一緒に歌いましょう!』

 

 ウタが手を叩く。それは先程の注目を集めるための物とは違う、軽快なテンポを取って叩かれる手拍子。

 

『お、こいつは』『良いねえ』『おれらの定番だな』

 

 歌う前から盛り上がってくる。ウタはその空気を楽しみながら歌い出す。

 

『ヨホホホ~! ヨホホホ~!』

 

 曲名『ビンクスの酒』。

 

『―――ビンクスの酒を届けに行くよ―――』

 

 古くから海賊達に親しまれてきた舟唄。

 

『―――おれ達ゃゆくぞ海の限り―――』

 

 ウタの幼いながらも力強い声に乗ってその歌は風車村に響き渡る。

 

『―――ビンクスの酒を―――』

 

 赤髪海賊団の皆も一緒になって歌い出す。

 

『―――波がおどるよドラムならせ―――』

 

 ルフィも元気いっぱい歌う。

 

『―――ビンクスの酒を―――』

 

 シャンクスもウタを肩車して仲良く歌う。

 

『ヨホホホ~! ヨホホホ~!』

 

 風車村の皆も歌い出す。海賊達と肩を組んで楽しく笑って酒を飲む。

 日が暮れても、いつまでも。

 笑って楽しく彼らは過ごした。

 

 

 

 

 ―――そんな思い出を脳裏に浮かべながら、大人になったルフィとウタはスタート位置に着く。

 

「またズルすんじゃねえぞ?」

「あんたこそ。負けても言い訳しないでよね」

 

 両者スタート前から一歩も譲らず。そして―――

 

「よーい……」

「「ドン!!」」

 

 “バードレース”が始まった。ルフィはゴールまで力強く飛んでくれそうな鳥はいないか探し始める。

 

「強ェ鳥!!! 強ェ鳥はどこだ~!!?」

 

 勝負を受けたからには絶対に勝つ。そんな気概を持って挑んだ“バードレース”だが―――

 

「あっれ~~? ルフィってばまだ鳥を見つけれてないの~~?」

「ああ!!? なんだお前その鳥!!?」

 

 ウタは何処からともなく飛んできた巨大な鳥……人を丸呑み出来そうな怪鳥に掴まって空に羽ばたいていた。

 

「おいズリ―ぞ!!! おれもそれが良い!!!」

「残念早い物勝ち~! ……レースもね!!!」

 

 きちんと紐で繋いだ状態で怪鳥に掴まるウタはルフィの頭上から既に勝ち誇った顔で見下ろす。

 

「暗くなる前には城に来てよね~!! じゃあおっ先~~!!!」

 

 怪鳥が「ケケェエエ~~!!!」といななく。時折ぷく~と鼻ちょうちんを作ったり「すぴすぴ……ふがっ」とまるで寝ているような仕草をするが……何の問題も無く城に向けて飛行を開始する。

 

「くっそ~~!!! 負けねえ!!!」

 

 圧倒的不利。だがルフィには負ける気など微塵も存在しなかった。

 

「184連勝はおれのもんだ!!」

 

 ルフィは気合い十分「うぉおおおおおお!!」と吠えながら近くの森へと突貫していった。

 

 

 

 

 エレジアの空を飛ぶウタ。先程までルフィとあれだけ笑い合っていた彼女だが……今はその顔に楽しそうだった表情は一切無い。

 

「……海賊になったんだねルフィ。本当に……」

 

 左手に意識が向かい、強く拳を握る。

 

「海賊なんて……碌なもんじゃ無いのにさ」

 

 眼下に広がる荒廃したエレジアの街を見下ろしながら、ウタは“人々の嘆き”を思い出す。

 

『―――海賊が街を襲った!』『誰か助けて!!』『妻が殺された!!!』『海賊のせいだ……全部、全部!!!』『わたしの夫は海に沈められた!!!』『ああ……いつも泣いてばかりさ』『助けてくれない海軍も悪いよ……でも』『海賊が一番悪い!!!』『ウタちゃんの歌をずっと聴いていたいよ』『助けて、ウタ』『ウタちゃん!!!』『プリンセス・ウタは僕らを救ってくれる!!!』『ウタはわたし達民衆の救世主なのよ!!!』『おれを、家族を救ってくれ』『みんなが救われる世界はないのかな?』

 

 聞こえる聞こえる聞こえる。

 皆の声が。

 こんなにも世界は苦痛と悲哀に満ちている。身勝手な者達、海賊の手によって大事なものが奪われていく。

 

「……大丈夫。大丈夫だよみんな」

 

 怪鳥の影の下。光差さない瞳でウタは告げる。

 

「わたしが絶対に……海賊もいない、誰も苦しまなくてすむ“新時代”作るから……だから」

 

 だからお願い。

 

「この大海賊時代を終わらせる。私の手で」

 

 その笑顔で、声で……私を引き留めないで。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。