ONEPIECE FILM N.G.   作:悠々―ゆうゆう―

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変わるもの、変わらないもの

 ルフィとウタが各々スタートをしたのを見送った麦わらの一味はゴードンの案内によって城へと向かっていた。

 

「しかしルフィの奴は大丈夫かね」

 

 煙草の煙を吐きながらサンジはルフィが消えていった森を眺める。

 

「エレジアで危険な猛獣に遭うことは早々無いから……大丈夫だと思うが」

「ああ、違う違う。あいつが無茶苦茶やらかさねェか心配してるんだよ」

 

 サンジはゴードンに船長(ルフィ)の身は別に案じていないことを教え、寧ろ厄介事を引き起こさないか心配していると伝えた。それに他の仲間達も同意する。

 

「トラブルを引っ提げてくるのに関しては天才的だからな」

「一人でほっつき歩いて何事も無いなんて有り得ないわよね」

「退屈しないわ」

「ルフィさんはそういう星の下に生まれてますよね。ヨホホホホ!!」

 

 変な意味での信頼は凄く厚い船長だった。仲間達からのルフィの評価を聞いたゴードンは「そ、そうか」としか言えなかった。

 

「それよりもゴードンさん」

「何かね?」

 

 ロビンが気になったことを尋ねる。

 

「猛獣にそう出遭わないと言っていたけど……居るには居るのね?」

「ああ、勿論。ヌシと呼ばれるのは森の奥深くを縄張りにしてるから見掛ける機会はそう無いが」

「それは()かしら?」

「よくわかったね。確かにヌシはウタが呼んだあの怪鳥よりも更に大きい猛禽だが……」

 

 ゴードンは「急にどうしてそんな質問を?」と考えていると―――ルフィの仲間達は空を見ていた。正確に言えば森方面の空を。

 

「でっけェ~。なんじゃありゃ」

「ウタちゃんと一緒に飛んでった奴の軽く3倍はねえか?」

「トリノ王国に居た怪鳥たちぐらいでっけえ。懐かしいなァ」

「つーかルフィの奴、咥えられてるぞ」

「まあ大丈夫だろルフィだし」

「梟かしら? 遠目から見れば可愛いわね」

 

 森の上空、そこにはルフィの頭を咥えて飛翔する巨大な猛禽が。大きな翼だが静かな羽ばたき、だがそのスピードは恐ろしい程に速い。

 

「も、森のヌシ!!? 大変だルフィ君が!!?」

 

 ゴードンもそう光景を見て慌てるが、だがやっぱり他の皆は気にした様子も無く落ち着いている。

 

「大丈夫大丈夫いつものことだから。心配するだけ無駄よ、無駄」

 

 ナミがそう言っている後方ではルフィの「ぁあああああああ~~~~」という悲鳴のような声がコダマしていた。

 

「いや本当に大丈夫なのかアレは!!?」

 

 どう見ても生命の危機である。

 

「本気で危なかったら自分で何とかするだろ。おれ達は先に城で待ってりゃ良い」

「ゾロー。そっち逆だぞ?」

「何でお前は案内が居て迷子になりそうになるんだよ」

「…………」

 

 そんな風に仲間の誰からも心配されていないルフィ。そんな彼がどうしてあんな状態になってしまったのか、それには深い事情が―――

 

『あ!!! 居たー!!! でっけぇー鳥!!!』

『……ボー?』

『おれ今レースやってんだけどさー。お前手伝ってくれよ鳥!!!』

『ボー……』

『“ふくろ”思い出す鳥だな~。あいつの何倍もでけーけど』

『……くんくん……くんくん……ボー』

『あ? ……!!? おいダメだぞ!!? これはおれの弁当だ!!! 絶対にやらねえぞ!!!』

『……ボーボー。……!』

 

 カプ。

 

『え?』

『レディ、ボー』

『ぁあああああああああああ!!?』

 

 ―――深い事情は無かった。

 そうして森のヌシの機嫌をちょびっと損ねたルフィは頭を咥えられて絶賛お空の旅中なのである。それを彼の仲間達はただただ面白い見世物でも見るように眺める。

 

「速いな。あれもう追い付くんじゃねーか?」

「お、並ぶぞ」

 

 ルフィを連れて飛ぶヌシがウタの怪鳥に並ぼうとしていた。

 

 

 

 

 ウタは目前にまで迫る城を見ながら自分の勝利を確信していた。

 

「流石にこれはもう勝ったっしょ。ふふ~ん♪ 私の184連勝目~♪」

「ケケェ~~!! ……すぴすぴ……ふがっ」

 

 ご機嫌なままゴールへと向かうウタ……その時であった。

 

「―――ぁぁぁぁ―――」

「……? なに?」

 

 後ろから妙な声が聞こえた。不審に思って振り返るとそこには―――

 

「待てウタァああああ~~ッッ!!! 184連勝目はおれだァああああ~~ッッ!!!」

「キャアアアアアアアア!!? なにごと!!?」

 

 超巨大梟に頭を咥えられた状態で猛追してくるルフィが居た。ちょっと意味がわからなさ過ぎて恐怖すら感じる光景。

 

「なになになに!!? こわいこわいこわい!!? なにやってんのルフィ!!?」

「飛んでる!!!」

「食われてるのよ!!!」

 

 戦慄するウタ。

 

(子供の頃よりおかしさに磨きがかかってる!!?)

 

 幼少の頃からルフィは度胸試しで崖から飛び降りたり、近海の主が生息していると知りながらボートレースを挑んだりと頭のネジがちょっと緩かった。それが大人になって落ち着いているかと思えば()()である。

 

「ってヤバ!!? 抜かされた!!?」

 

 森のヌシは速かった。かなり遅れてのスタートだったのにも関わらずウタの怪鳥に追い付いてきたのだ。その速度を維持したまま森のヌシはルフィを咥えたまま颯爽と怪鳥を抜き去る。

 

「マズい!! このままじゃ負け……負け……?」

 

 急いで追い掛けようとするウタ。しかし直後に起きる出来事に目を丸くする。

 

「ボー。……ぺっ」

「おお?」

 

 城を目の前にしてルフィを吐き出す森のヌシ。本当ならそのまま落下するだろうがルフィの手には鳥の脚に括り付けようとした紐が握られており、森のヌシはその紐を大きな鉤爪で器用に掴むと―――

 

「おお? ぉおおおおおおおおお~~~~!!?」

 

 まるでハンマーでブン回すようにルフィを振り回し始めた。

 凄まじい高速回転。ウタの目の前でルフィがビュンビュン回る。そうして回転速度が最高潮に達した時、森のヌシは待っていたと言わんばかりに―――

 

「ボ~~……ボッ!!!」

「ぉおおああああああああああ!!?」

 

 城の一室目掛けてルフィを叩き込んだ。

 

「ルフィ~~~~ッ!!?」

 

 強固な外壁を容易く砕いて城内へと叩き込まれたルフィを見てウタは悲鳴を上げる。

 森のヌシはと言えば急に現れて面倒臭かった人間にお仕置き出来て満足したのか「ボ~」と一鳴きし、行きとは違って帰りはゆっくりと飛んで森へと戻っていった。

 

「ルフィ大丈夫!!? ねえちょっと!!?」

 

 ウタは怪鳥から手を離して飛び降りる。向かうのは外壁が砕けて出来た穴。土煙がモクモクと舞うそこへと降り立った彼女はルフィの安否確認を急ぐ。

 

「お願いルフィ返事をして!!?」

 

 泣きそうな顔で呼び掛けるウタ。彼女の頭の中には後悔の念が押し寄せてきていた。

 私が勝負なんて仕掛けなければこんな事にはならなかったのに。もしルフィの身に何かあったらどうしよう。そんな風に考えてウタは必死になってルフィを探す。だが城の外壁を砕く程の力で叩き込まれたのだ。ウタはもし自分だったら確実に大怪我、悪ければ死んでいると考える。

 頭の中がぐるぐるして気持ちが悪い。地面の感触が遠く感じて足取りが覚束ない。

 

「ヤダヤダヤダ……ッ!!? ルフィ!!? ルフ―――」

 

 泣きそうな声で、いやもう泣いていたのかもしれない。それ程ウタは必死になってルフィを探していた。

 

「おう、どうした?」

「……え?」

 

 だからウタはルフィがけろっと平気そうに応えたのを見つけて呆気に取られた。

 

「いや~びっくりしたな~。まさかブン投げられるとは思ってなくてよ。ししし!!!」

 

 瓦礫の上で胡座を掻くルフィ。服は土埃などで汚れてはいるがその身に傷は一切無し。

 

「え? え? あれ? 壁……ドカンって……え?」

 

 目の前の状況が上手く処理出来ないウタは「え? あれ~?」と戸惑うばかり。そんな彼女の様子を見てルフィは気付く。子供の時の自分と今の自分の()()を。

 

「ああ、そういえば知らねェよな? おれさ、悪魔の実食ってゴム人間になったんだよ。ほら」

 

 そう言ってルフィは自分の頬を左右に大きくびよ~んと伸ばした。ウタは驚いて目を丸くしたが、直ぐに合点がいって落ち着く。

 

「……そっか。ルフィ()能力者になってたんだね。でもとにかく無事で良かっ―――」

 

 色々と思う所は会ったが幼馴染みが無事だったことに喜ぼう。そう考えていたウタだったが、ルフィが“この部屋”でしていたことに気付いて再び冷静さを欠こうとしていた。

 

「……ル、ルルルル……ルフィ? いいいいいいったい何を見て……」

「お? ()()か? この部屋に突っ込んだ時にいっぱい降ってきてよー」

 

 そう言ったルフィの手に有る何枚のも用紙。五線譜が引かれた物から幾つかの言葉(フレーズ)が書かれた物まで様々。それと同様の物がこの部屋には大量に収められている。

 

「これって楽譜ってやつだろ? こっちは歌詞か? ウタが書いたのかこれ」

 

 ルフィの想像通りこの部屋はウタが歌う楽曲の製作場所、その保管場所であった。ルフィは面白そうに手に持ったそれに目を通していく。

 

「え~何々? 『わたしは鳥。どこまでも羽ばたいていく鳥。あの赤い太陽に向かっ―――」

「ギャァアアアアアアアアアア!!? なに勝手に読んでんの!!? バカ!!? アホ!!? 信じらんない!!?」

「ブッ!!?」

 

 乙女にあるまじき悲鳴と共にウタはルフィから用紙を取り上げ、ガンガンガンと顔へ蹴りを何度も叩き込む。

 

「なに怒ってんだよ? こんなの見たぐらいで」

「これ全部未完だったりボツにしたやつなの!!!」

「じゃあ別に見ても減るもんじゃねえだろ?」

「減るのよこっちはぁああ~!!? ほんと昔からデリカシーが無いよねルフィは!!?」

 

 ウタは書きかけだったりボツにした楽譜や歌詞を他人に見られるのが恥ずかしいタイプの音楽家だった。

 しかしルフィは取り上げられたことが不満らしく何とか隙を付いて他の紙を拾おうとする。だがウタはそれを目敏く見付けるとルフィが手を伸ばす度にスパーンと叩き落とす。そんなやり取りを繰り返しながらルフィは尋ねる。

 

「それよりさァ~ウタ。バードレースの勝敗だけど―――」

「私の部屋ぶっ壊しといて勝ちも負けもある!!? ちょっともう出て行ってよ!!?」

「あ! おいちょっと押すなって!」

「で~て~い~く~のォ~!!!」

 

 ウタはルフィを立たせるとぐいぐい押していく。そうして部屋の扉まで辿り着くとバンッと開けてルフィだけを追い出す。

 

「そこで待ってて! 穴に布被せて塞ぐから!」

「んん? おれも手伝うぞ?」

「ルフィはもう部屋に入って来ないで!! わかった!!?」

「おお。わかりました」

 

 怒った女は怖い。それを知ってるルフィは素直に頷くと閉め出された部屋の前で待つことにした。

 

 

 

 

 待つこと数分。

 

「終わったよ」

 

 わたし不機嫌ですけど? みたいな顔で部屋の応急処置を終わらせたウタが出て来た。そんな彼女を出迎えたルフィはと言えば―――

 

おう(モウ)おかえり(モマメリ)! おつかれさん(モフマレファン)!」

「ごはん食べてる!!?」

 

 頬をパンパンに膨らませながら弁当を食べていた。サンジの美味しい料理に彼はとってもご機嫌。

 

「何で今!!? 私が頑張って部屋直してる時に食べるとか何考えてんの!!?」

「ムマ~、ファファマッヘルノモフィファデ……」

「食べるか喋るかどっちかにして!!?」

 

 そう言われてルフィは1秒考えて。

 

「……モグモグモグモグパクパクパクパク」

「あ~……食べることにしたんだァ……そっかァ……」

 

 途轍もない疲労感に襲われたウタは遠い目になる。100%ルフィの所為だ。

 何だか文句を言うのも面倒になったウタはルフィの隣りに腰を落ち着ける。

 

「バクバクモグモグサクサクズルルル~ムシャムシャムシャ」

「……もう。バカバカしくて笑えてくるよ」

 

 微笑むその顔はこれまでの中で最も穏やかで、ウタはそんな張り詰めていた気を緩めた表情でルフィが弁当を食べる姿を静かに眺めていた。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 むかしむかし あるところに 

 へいわと 子どもたちの えがおが 大好きな 人が いました

 

 その人は ときに歌い ときにかなで ときにおどけ

 子どもたちを えがおに していました

 みんなが えがおに なれば その人も えがおになりました

 

『いつか 世界の みんなを えがおに したいな』

 

 その人は たくさんの 子どもに じぶんの 夢を かたります

 子どもたちの えがおを 見れば なんだって できると おもったのです

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 その後、ルフィとウタのゴールから遅れて麦わらの一味とゴードンが城に到着した。

 自分の目で確認するまでルフィの無事を信じきれてなかったゴードンはここでようやく安堵の息を漏らす。

 そうして全員集合してからこれからの歓迎会について話し合う。

 

「君達を歓迎する……と決めたは良いが如何せん準備などしてなくてね。夕食に合わせて始めようと思っている。だからそれまでどうか寛いでいてくれ。何も無い場所だが……」

「確かになんも無え島だよなここ」

 

 ゴードンの言葉にそんなことを言うルフィの頬をサンジは抓って伸ばしながら提案する。

 

「料理を作るなら手を貸そう。おれは料理人(コック)だ」

「それは助かるが、良いのか?」

「勿論だ。この辺で採れる食材にも興味があったしな」

 

 サンジは歓迎会の料理を手伝うことに決定。

 

「おうおうおう!? どこもかしこもボロボロじゃね~かこの城!! 自由にさせてくれるってんならこのおれがス~パ~暮らしやすく修繕してやるぜ~!!!」

 

 フランキーはウタ達が暮らす城の状態が気になったのか工具を取り出して修繕の許可を求める。

 

「特に酷えのは外壁の穴だ。まるで大砲でも撃ち込まれたような……誰がいったいあんな―――」

「ああ、それおれ突っ込んだ穴だ」

「お前ェかよ!!?」

 

 フランキー。ウタから許可を貰って外壁の修理をすることに決定。

 

「―――それにしてもルフィのお友達って個性的な人が多いね」

 

 フランキーと会話したウタはそんなことを言う。それにルフィは笑顔で「そうだろ!」と答える。

 

「全員すっげェおもしれェ自慢の仲間だ!」

「おもしろい……確かに」

 

 ウタは丁度近くに立っていたブルックに目を向ける。

 

「この人の仮装とかすごいよね。本物の骸骨みたい」

「ん? ブルックは本物の骨だぞ」

「あ、どうも。本物の骨です」

 

 ウタはよく見た。本物の骨だと理解した。

 

「……きゃあああああああ!!? お化け!!?」

「懐かしいこの反応、逆に新鮮! ……はっ」

 

 ブルック、ここで大事なことに気付く。

 

「……あの~、ウタさん」

「ひぇ……な、なんですか?」

 

 若干怯えるウタにブルックは尋ねる。

 

「パンツ、見せて貰ってもよろしいですか?」

 

 最低な質問だった。

 

「ウタちゃんになんてこと聞いてんのよアンタはぁーッ!!!」

「ヨホッ!!?」

 

 ナミに殴られるブルック。当然と言えば当然の対応。

 

「本っ……当にバカなんだから!!! ……ごめんね、この骨のことは別に気にしなくて良いか―――」

「アンダースコート履いてるから別に見て良いよ?」

「「ブーッ!!?」」

 

 まさかのスカートを捲って見せたウタと鼻血を吹き出し倒れるブルック、あとついでにサンジ。それを目撃したチョッパーは「ブルック―!!?」と叫んで慌てて駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっとウタちゃん!?」

「あはははは! 大丈夫大丈夫、わたしって踊ること多いから下着の上にはいっつもこれ着てるの!」

 

 言いながら踊りのステップを踏んでスカートをひらひらさせるウタ。ちらちらと見えるアンダースコート。

 見られても良い下着と言われても刺激が強いことに変わりなく。予期してなかった“幸せパンチ”に撃沈したブルック、あとついでにサンジ。

 

「……ヨホ、ホ……え? 天国?」

「ブルックー!!? いっ、医者~!!? ……っておれだよ!!!」

 

 一人でボケて一人で突っ込むチョッパー。

 

「……ジ、ジジィ……おれも今そこに……」

「バラティエのおっさんまだ生きてるだろ」

 

 サンジの発言に突っ込むルフィ。

 一瞬で騒がしくなる空間。その中でウタは―――

 

「……ぷっ」

 

 笑いが堪えきれなくなる。

 

「あはは、あっははははははは!!! あ~おかしい!! 本当におもしろい人ばっかりだねルフィのお友だち!!」

 

 目尻に浮かんだ涙を手で拭うウタ。それを見てルフィは「あ」と指差す。

 

「ウタ。そういえばお前()()

「え?」

 

 ルフィが指差したのはウタが上げていた左手、その腕に身に付けられたアームカバーだった。

 

「それだよそれ。その手の甲のマーク! 昔おれが描いたやつだろ! なっつかしいな~!!」

 

 そのマークとは頭が膨らんだ黄色い瓢箪のような物でそのくびれに赤いラインが引かれた物。そして頭部分の中に“UTA”と彼女の名が入れられている。

 

「……覚えてたんだ」

 

 ウタはマークはそっと撫でるとそう呟いた。思い出すのは幼い頃、ルフィと二人で絵を描いていた時の記憶。

 

 

 

 

 ―――それは海からの潮風が涼しく吹き抜けていく晴れの日。

 

『できた~!!』

 

 ルフィは画用紙に描いた絵をウタに見せる。

 

『……なにそれ』

 

 その絵がなんなのかウタにはわからなかった。ルフィに絵心は無かった。

 

『シャンクスの麦わらぼうし!!』

『帽子~?』

 

 ウタはその不細工な瓢箪みたいな絵をじーっと見てシャンクスがよく身に付けている麦わら帽子と連想させる。連想させるのに時間が掛かるレベルで似てない絵だった。

 

『下手クソ』

『なんだと~!?』

 

 やいやいと喧嘩と呼ぶには可愛いじゃれ合いを始めるルフィとウタ。それも直ぐに終わっていつもの調子に戻るのだから二人の親しさが見て取れる。

 そうしてルフィはさっき酷評されたのを忘れたようにその絵を再びウタに差し出して言うのだ。

 

『これやるよ! おれたちの“しんじだい”のマークにしようぜ!!』

 

 新時代。それはいつか語り合った二人の夢。どちらが先に新時代を作るのか、直ぐに勝敗が着くいつもの勝負とは違う。ずっとずっと先の夢。

 

『え~……これをマークにするの?』

『ししし!! 良いだろ!!』

『……ぷっ……まぁ良いけど?』

 

 あまりにもルフィが自信満々に言う物だからウタはおかしくてついつい頷いてしまう。

 

 不格好な麦わら帽子。

 幼い頃の二人の間で交わされた“新時代の誓い”。それがこのマークには込められていたのだ。

 

 

 

 

 ―――ルフィの真っ直ぐな目がウタの視界に入る。

 

「……せっかくルフィがくれた物だし、ありがたく使わせてもらってるよ」

 

 そう言ったウタは目を伏せて自分の視界からルフィを切った。

 今のウタはルフィと目を合わせるのが、その“麦わら帽子”を被った男と真っ直ぐ目を合わせることが出来なかったから。

 

「……?」

 

 楽しい思い出を語っていたはずなのに急に表情を暗くしたウタにルフィは首を傾げる。

 

「なぁ、ウタお前―――」

「さて!! せっかくルフィのお友だちが来てくれたんだし、私がこの城を案内してあげる!!」

 

 ルフィの言葉を遮るように、ウタは他の仲間へそう提案した。

 

「確かナミちゃんとロビンさん、だっけ? ここお風呂もあるし場所教えとくね♡」

「あらありがと♡」

「助かるわ」

 

 同性が居ることが嬉しいウタはにこやかにナミやロビンに話し掛ける。

 

「それにしても二人とも美人さんだね!! 初めて見た時ちょっとびっくりしちゃった!」

 

 ウタは上下に左右にと体を振ってナミとロビンの容姿を眺めて褒める。褒められて気を良くしたナミは「ウタちゃんも可愛いわよ♡」と親指を立ててグーサインをする。

 

「あはは! わたしが可愛いってそんな……それほどでも有るかな!!」

 

 得意満面(ドヤァアア)なウタ。自分の容姿に自信有り。

 調子が上がってきたウタはナミとロビンに尋ねる。

 

「ちなみに二人は歌とかダンスに興味は?」

「わたしは聴くの専門かなぁ」

「わたしも。見ている方が好きね」

「ありゃ、残念。キレイどころ三人でステージ立つのも面白そうって思ったんだけど……それだったらしょうがないね!」

 

 ウタは「無理強いは良くない良くない」とうんうん頷きながら、次は二人とは別に気になっていた相手に声を掛ける。

 

「それはそれとして~……君!! そこの君!!」

「え? ……おれ!?」

 

 ウタがビシッと指差したのはチョッパーだった。突然指名されるとは思っていなかったチョッパーは驚きながら自分を蹄で指差す。

 

「そうそう君!! うっわ~~~ッ!!?♡ やっぱり近くで見るとすっごく可愛い~~ッ!!!♡ ねえねえ抱っこさせて抱っこ!!!♡」

「うわわわわわ!?」

 

 チョッパーを抱き上げてそのふわふわとした毛並みを堪能するウタ。チョッパーはと言えば彼女のファンなので半分パニック状態だ。

 

「彼はうちの船医さんなの。あと甘い物が好きよ」

「そうなんだ~! きゃ~~!!!♡ 動物のお医者さんってうらやましぃ~~!!!♡」

「どんな状況!!? おれ今どんな状況!!? ……飴うまっ」

 

 ロビンから受け取った飴玉をチョッパーに与えて御満悦のウタ。彼女は可愛い物が大好きなのだ。

 

「ふぅ……さて、と……じゃあみんな。わたし部屋に帰るから」

「「「「持ってくな持ってくな」」」」

 

 チョッパーを抱えて立ち去ろうとするウタを引き留める一同。

 

「あはははは!! 冗談冗談!! ごめんねチョッパー君、連れて行かないから」

 

 そう言ってウタはチョッパーをロビンに手渡し、そうして改めて一味を見渡す。

 

「うんうん。ロボットに骨にチョッパー君、可愛い子に美人なお姉さんに魚人のおじさん……本当に色んな人が―――」

 

 ウタの視線がウソップで止まる。

 

「……?」

 

 何故自分で視点が止まったのかわからないウソップ。ウタは少しばかり彼を観察するようにジッと見詰めると、ポンと何かに気付いたように手を叩く。

 

「ああ、わかった! 君は“天狗”だね?」

「おれも人間だよ!!?」

 

 まさかの妖怪扱い。いくらファンと言えど流石にこれは異議を申し立てるウソップだった。

 そんな風なやり取りをしていると、そこにルフィが来てウソップの肩を叩く。

 

「なあ、ウタ。実はこいつヤソップの息子なんだ」

「……え?」

 

 笑顔でルフィがそう教えると、ウタは目を丸くしてウソップを見る。

 

「確かに、ちょっと名前が似てると思ったけど……」

「狙撃の腕だって負けちゃいねえぞ!! うちの自慢の狙撃手だからな!!」

「おいおいそう褒めんなよルフィ!! 照れるだろうが~!!」

 

 肩を組んで踊り出すルフィとウソップ。同年代の男同士だからこその仲の良さ、直ぐに盛り上がって騒がしくなるのが二人のいつもの姿である。

 そんな二人を見つつもどこか遠い目で、ウタは口元に手をやり誰にも聞こえないような声で独り言ちる。

 

「……そういえば飽きるぐらい聞いたな~、ヤソップの子供話。わたしと年が近い、ルフィと同じくらいの息子が居るって……そっか、ウソップ君がそうだったんだ」

 

 僅かに浮かぶ微笑み。懐かしくも温かい過去の思い出。そして―――

 

「―――赤髪海賊団の……シャンクスの、仲間」

 

 ズキリと、胸が痛んだ。

 

「…………」

 

 ウタはその痛みから目を背けるように顔に笑みを貼り付けて声を上げる。

 

「……よし! じゃあ早速城の中を案内しよっか!!! 城だから広いけど使ってない場所が殆どだから直ぐに案内終わっちゃうと思うけどね!!!」

 

 ニコニコと。笑いながら。ウタはルフィとその仲間達に城の中を案内する。

 彼らの仲の良さにズキズキと痛みを発する自身の心から目を逸らして。

 

 ウタは見ない振りをする。達成すると決めた“目的”が、叶えると誓ったが“夢”が霞んで消えてしまはないように。

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