ONEPIECE FILM N.G.   作:悠々―ゆうゆう―

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歌姫、笑顔、そして―――

 ■■■

 

 

 その人は 世界へ たびだちました

 ふるさとの 子どもたちに 行ってきますと 言って

 

 その人は 行くさきざきで 歌をうたい おどり かなで

 おおくの 子どもたちを えがおにしました

 

『えがおで 世界を 平和に するんだ』

 

 きのう いっしょに わらった子が しんでしまう

 そんな 世界を すくいたいから

 

 その人は あしたも あさっても そのつぎの日も

 であう 人を えがおに するのです

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 夕暮れ。エレジアの街が茜色に染まった頃、ルフィとその仲間達を歓迎するパーティーが開かれた。

 

「ゥオッホン! それでは~! 我らが船長ルフィとその幼馴染みであるプリンセス・ウタとの再会を祝いましてェ~~……カンパ~~イ!!!」

「何でお前ェが仕切ってんだよ」

 

 杯を掲げてしれっと音頭を取るウソップにゾロは冷ややかな目を向けるが直ぐに目の前の酒に機嫌を良くする。そうしてテーブルを囲んだ全員が杯を掲げる。

 

「「「「カンパーイ!!!」」」」

 

 キンと小気味良い音がそこかしこで打ち鳴らされる。

 

「うまそ~!! いただきま~す!!!」

 

 ルフィは目をキラキラさせてテーブルの上に所狭しと並べられた料理に手を伸ばす。

 

「おいルフィてめェ!! それはおれがウタちゃんの為に特別に作った料理だぞ!!?」

「ブフォッ!!?」

 

 大皿ごと料理を抱え込もうとしたルフィに折檻するサンジ。それを見て笑う仲間達。

 そんないつも通りの感じで始まった歓迎会は賑やかで楽しい物となった。

 

「……やあルフィ君。君のところのコックと比べるとかなり見劣りしてしまうがどうかね、私の料理は……」

「ング? ……ゴックン! おう美味ェぞ!! おっさん料理も作れるんだな!!!」

「そう言ってもらえると嬉しいな。頑張ってきた甲斐があるというもの」

 

 ゴードンがルフィの隣りの席に座る。既に最初の位置は意味を成しておらず、皆が皆思い思いに席を移動して料理と会話を楽しんでいる。

 

「…………」

 

 ルフィに話し掛けて来たゴードン、だが彼の視線はウタの方へと向けられている。ルフィもそれに倣うようにそちらへ目を向けて彼女の様子を見た。

 

「―――じゃあ君達もわたしのファンなんだ!! 嬉しいなぁ、ありがとう!!」

「ほら! ウタちゃんの歌だってちゃ~んとこうして買ってるのよ」

「へぇ~……じゃあサインでも書いちゃおうかな~、なんて!!」

「サイン! 是非!」

「売るなよ? ナミ」

「誰が売るかァ!!!」

「じゃあそのベリーになってる目をやめろお前……」

「ウ~タッちゅわ~~ん!!♡ 君の為のスペシャルパンケーキを作ってきたよ~ン!!♡」

「わっ!! 可愛い♡ 美味しそ~!!♡」

「おい酒もってこい色惚けコック」

「お前は水でも飲んでろ飲んだくれ野郎!!」

「ああン!? うるせェぞこの気圧眉毛が!!!」

 

 ルフィの戦場の如き食事風景もそうだがウタ周りの賑やかさも負けていなかった。彼女はルフィの仲間達に囲まれて楽しそうに笑っていた。

 

「……いつ振りだろうか、あんな風に大勢に囲まれて笑っているあの子を見るのは」

「モグモグパクパク」

「この12年、他者との交流の殆どが()()()()()だったから……」

「ザクッザクッムシャムシャ」

「こうして直接誰かと笑い合うウタを見られて、私は嬉しいんだ」

「ゴクゴクゴク、プハァ~」

「……聞いてるかい?」

「ん? ああ……ぼちぼち?」

「……そうか。どうぞ食事を楽しんでくれ」

そーだな(ン~ババ)

 

 ゴードンの話しを聞いているのかいないのか。ルフィはひたすら料理を食べ続けていた。

 

 

 

 

 何処を見ても笑顔が溢れる歓迎会。

 

「あははははは!!!」

 

 ウタは笑う。

 

「あー……」

 

 楽しい楽しい。ああ、なんて楽しいのだろう。

 

「本当に、楽しいなァ」

 

 12年前の、“あの日の夜”だってこんなに楽しかったのに。

 

(思い出すのはいつだって―――)

 

 楽しければ楽しい程に、ウタの心に浮かび上がるのはあの日の光景。

 

 

 

 

『―――どうしてェ!!?』

 

 炎に呑まれるエレジアの街。悲鳴さえ絶えてしまった死人の山。 

 

『―――置いて行かないでッ!!?』

 

 少女を置き去りにして海の向こうへと消えていく海賊船。

 

『―――何でだよォオおおおお!!? シャンクスゥーーッ!!?』

 

 どうして、どうして、どうして……どんなに追い縋ろうと待ってはくれない(いと)しかった日々。誰一人振り返ってはくれない。

 

 私は捨てられたのだ。

 

 その悲しみが、その怒りが、その恨みが。幼かった少女の心に絶望を刻んだ。

 獣の爪痕のような、赤い傷を。

 

 

 

 

「―――ウタちゃん?」

「え?」

 

 ウタはナミの声によって過去の記憶に飛んでいた意識が現実に引き戻された。

 

「大丈夫? もしかして疲れちゃった? まあルフィに付き合ってたら体力がどんだけ有っても足りなくなるわよね~」

「……あはは。そうかも。ちょっと眠たくなってきた気がする」

 

 ウタがそう言えば自然と歓迎会もお開きの空気になっていった。旧交を温められるのは今日だけでは無い。時間なら幾らでも有るのだから。

 

 ―――歓迎会が終わって、各々が用意してもらった部屋に行く前だった。ルフィは満面の笑顔でウタに伝える。

 

「じゃあなウタ!! また明日!!」

 

 そう、また明日。

 

「……うん。また明日ね。ルフィ」

 

 風車村に居た時は幾度も聞いたであろうその言葉が、どうして今はこんなにも―――

 

(……ライブ。ライブの日が来れば……私は……皆を“新時代”に)

 

 そうして麦わらの一味がエレジアに来て最初の夜が更けていく。

 幼い少女の心を軋ませながら。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 えがおより 泣いている人が おおくなってきました

 それだけ 平和は とおいばしょに あるのでしょう

 

『それでも わらって ほしいから』

 

 さあ 歌を うたいましょう

 ことばを しらずとも

 音を あわせて うたえば だいじょうぶ

 

 これは その人が つくった とくべつな歌

 世界の 平和を ねがって つくった たいせつな歌

 

 子どもたちの歌

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 厨房で歓迎会の後始末をするサンジ。そんな彼にゴードンは手伝いながら礼を言う。

 

「ありがとう。あれほど素晴らしい料理を振る舞ってくれただけでなく後片付けまで……」

「構わねェよ。包丁一本、皿の一枚に至るまでこだわってこそ一流の料理人(コック)だからな」

 

 サンジはニッと笑いながら「あんたの料理も中々のもんだったぜ」とゴードンが作ってくれた料理も参考に出来る部分が有ったと褒める。

 食卓から回収した食器類の洗浄を終わらせると次に生ゴミの処理に移る。可能な限り食材の廃棄を抑えるよう調理するサンジの手腕により、あれだけの人数での宴会だったというのに驚く程その量は少ない。手早くそれらをまとめると二人でゴミ捨て場に運ぶ。

 

「普段は食材の買い出しはどうやって?」

「基本は自給自足、後は有志による定期便が有ってね。この島に思い入れを持つ人が届けてくれている……有り難い話しだ」

「へぇ~、なるほど。……ん? それだと今回の宴会でかなり食材を使い込んじまったんじゃねェか? 次の便まで期間が空くならこっちの船の分を持ち出すが」

「それは、助かるが……そちらに迷惑が」

「気にすんな。腐らせるよりよっぽど良い。それに元はと言えばうちの船長がここに来たいって言ったから始まった話しだしな」

 

 ゴミ捨てが終わり、次にサンジはゴードンに案内されて食料貯蔵庫に来た。

 

「ここに有る物は自由に使ってもらって構わない」

「ほぉ、城だけあってしっかりした貯蔵庫だ。ちょっとゆっくり見て行っても?」

「大丈夫だとも。では私は他の用事が有るからここで」

「ああ、お疲れさん」

 

 別れたサンジとゴードン。

 

「さ~て……足の早そうな食材は、っと」

 

 自由に使って良いと言われれば腕を振るいたくなるのが一流の料理人というもの。サンジは貯蔵庫の食材を物色しながら滞在期間の献立を組み立てていく。

 

「……ん? やけに厳重に封をした箱だな」

 

 それは一抱え程の大きさをした箱。貯蔵庫の奥深くにひっそりと隠すように置かれたそれをサンジは手に取り、ゴードンから手渡されていた目録に目を通す。だがそれを見ても該当しそうな物品は無かった。

 

「何だ? ウタちゃんが個人的に買ったもんか?」

 

 プライバシーという物も有るが貯蔵庫内での食材管理を考えれば中を確認しないわけにもいかない。サンジは箱の封を外して蓋を開ける。

 

「中身は……チョコレートやドライフルーツ、菓子類か。やっぱりウタちゃんのかねェ」

 

 箱の中身は甘味だった。今回の歓迎会で料理を作るにあたりサンジはゴードンからウタの好みを聞いてパンケーキを用意したから彼女が甘い物が好きなのは知っている。だからこれもそうなのだろうと再び蓋を閉めて―――

 

「……箱の大きさのわりに浅くねェか?」

 

 サンジは箱の外観と容量が合わないことに不審な目を向ける。

 外板を軽く叩いて音を反響させる。

 

「二重底?」

 

 菓子類の底、板で仕切られたさらに下に、何かが在る。

 サンジは眉を顰めて僅かに逡巡する。

 

「……レディの秘密を勝手に曝くのは趣味じゃ無いんだが……」

 

 甘い香りの下に隠されたそれを確かめる為に、サンジは箱の中身を空けて底板に手を伸ばす。意に反することをしてまで彼がそうしたのは嫌な予感がしたからだ。料理人として嗅覚が働いたのか、サンジは己の直感に従い板を外した。

 そこに有った物とは―――

 

「おいおい……! マジかよ、これは」

 

 ()()は、ここに有ることがあまりに不自然であり異常だった。サンジは顔色を悪くしながら手に取ってそれを検分する。

 

「……まさかそんな……だが何で?」

 

 サンジは貯蔵庫で一人、これからどう行動すべきか考えるのであった。

 

 

 

 

 ウタは作業部屋のテーブルに着き、真新しい壁の窓から見える月を見上げながら歌を口ずさむ。

 

「―――どうして、あの日遊んだ―――」

 

 机の上に置いたランプが照らす譜面。まだ音符が書き入れられていない紙に彼女は指を這わせる。そうして歌いながら思い出すのは今日の出来事。その全てに在った自分自身の笑顔。

 

「―――どうして、すぎる季節に―――」

 

 民衆の期待、ファンなら誰もが知る『海賊嫌いのウタ』。しかし今日の姿からはそれを連想することは難しかっただろう。

 それが辛かった。まるで彼らを裏切っているようで胸が痛かった。

 

「―――またおんなじ歌を―――」

 

 だからウタは歌う。

 自分が歩んで来た人生には常に歌が在った。どんな気持ちであろうと歌えば落ち着くことが出来た。ウタにとって歌うことは生きていることと同じなのだ。

 だから彼女は歌をのこす。

 

「―――信じられる?―――」

 

 どれだけ辛くとも、揺るがぬ決意を抱く為に。

 

「―――海の広さを―――」

 

 ウタには在るのだ。“新時代”の夢が。それはもう一人だけの願いじゃない。世界中に居る大勢のファンが彼女に托した想いなのだ。

 

「―――信じられる?―――」

 

 揺らめく火の赤色に懐かしい影が映る。

 どれだけ会いたくとも。その声、その姿、その笑顔で、また自分の手を取って歩いて欲しくとも……もう振り返ってはいけないのだ。

 

「―――追い風の―――」

 

 過去に戻ることなど出来はしないのだから。

 

「―――いざなう空を―――」

 

 ランプの火を消す。室内に夜が流れ込み、思い出の影は押し流される。

 椅子から立ち上がってテーブルから離れる際にウタは白紙の譜面にペンを走らせる。

 

「そう。夢の続きで……皆と生きるんだ」

 

 描く“新時代のマーク”に思いを乗せて、ウタは部屋から立ち去るのであった。

 

 

 

 

 ―――新世界“カライバリ島”。

 その島に存在するサーカス劇場的外観をした奇抜な建物には今最も世間を賑わせていると言っても過言では無い男が居た。

 

「やべェやべェやべェ!!? どうするどうする考えろおれェーーー!!?」

 

 “四皇”“千両道化のバギー”。懸賞金31億8900万ベリー。

 元海賊派遣組織“バギーズデリバリー”、現“CROSS(クロス)GUILD(ギルド)”の座長にして社長でもあるバギーは途轍もない窮地(ピンチ)に陥っていた。

 

「とにかくてめェら!! 電伝虫が鳴っても出るんじゃねえぞ!!? わかったかァ!!?」

「「へーい」」

 

 バギーは部屋に居る幹部のモージ、カバジ、アルビダにそう指示を出す。グランドライン活動初期から行動を共にしている彼らはしかしバギーの焦りようとは裏腹にのんびりとしていた。

 

「まあヤバイのは座長だけだしな」

「最悪でも上の首がすげ変わるだけだし」

「アタシらに影響は無いからね」

 

 完全に他人事だった。

 

「派手にふざけんじゃねェぞてめェら~~!!? おれ様の命がかかってんだぞォ!!?」

 

 バギーは薄情な幹部達に「くらァ~!!?」と罵倒して額に脂汗を滲ませつつ自身の置かれた現状を振り返る。

 

「良いか!? この“クロスギルド”は生まれたばかりの組織!!! それなのにここに属する海賊がいきなり負けておめおめと逃げ帰ってきただとォ~~!!? ()()()()()()()とはこのこと―――」

 

 それはヌイセマカが率いたアンダードッグ海賊団の一件。

 

「って誰の『デカ鼻がくどい』だこのすっとこどっこい!!?」

「誰も言ってねェ」

「今日も座長は絶好調だな」

 

 バギーはこの“クロスギルド”が擁する海賊団が返り討ちにあった事件によって窮地に立たされていた……否、これから立ってしまうと言い換えても良い。

 

「ジリリリリリリリ!!!」

 

 その時だった。部屋の電伝虫が着信を知らせてきたのは。

 

「ひぇ」

 

 バギーの顔が絶望に染まる。

 

「い、良いか!!? 出るなよ!!? 絶対に出るんじゃねェぞ!!?」

 

 必死に電伝虫に出るなと言い聞かせるバギー。それだけ電伝虫の向こうに居る者に対しての恐怖が窺えると言えよう。

 

「これは死神からの死の宣告と同じ!!! 出ればおれ様の命は―――」

「ガルルル」

 

 ガチャ。電伝虫の受話器をライオンのリッチーが取った。

 

「……?」

「ガル?」

 

 飼い主(モージ)共々食っちゃ寝生活が祟っておでぶライオンと化していたリッチーだが、逆にお行儀は良くなったのか電伝虫が鳴れば受話器を取るなんてお利口な行動を取れていた。

 ただまあ、それをボスであるバギーが喜んでくれるかは別として。

 

「てめェえええ~~~~ッ!!? 派手になにしてくれてんだコラァあああああああああ!!?」

 

 絶叫するバギー。しかし状況が変わるわけも無く。

 受話器の向こうから発信者である男の低い声が響いてくる。

 

『……よォ、バギー。随分と楽しそうじゃねェか』

 

 受話器の向こうの男は煙草を吸っているらしく言葉の合間に喫する様子が耳に入る。声や仕草以前に誰から連絡が来るか予想していたバギーは冷や汗だらけの硬い笑顔で応答する。

 

「い、いやァ~……でへへ♡ ()()()()()もお元気そうで~……♡」

『聞いたぞ。うちの奴らが情けねえ様を晒したらしいな』

「うっ!!?」

 

 露骨に媚びを売ってはぐらかそうとしても無駄だった。電伝虫の向こうからはコツコツとテーブルを鉤爪で叩く音が聞こえる。それだけでバギーはもう泣きながら逃げ出したかった。出来る訳も無いが。

 

 連絡相手……サー・クロコダイルは受話器越しですら背筋を冷たくさせる声でバギーに告げる。

 

『わかっているとは思うが……おれと“鷹の目”まで舐められるような、ふざけた対応なんか……しねえよなァ? ……クロスギルドの社長さんよォ』

 

 “砂漠の王”サー・クロコダイル。懸賞金19億6500万ベリー。

 

「とっ!! 当然じゃねェかもう!!? このおれがこの組織のボスらしくビシッと決めてやるってんだ!!? ギャハハハハハハハハ!!?」

 

 泣いた。バギーはもう泣いた。電伝虫が繋がった時点でもう逃げることは許されなくなったのだから。そもそもクロスギルドの長という立場もバギーが望んで得た立場では無いのだ。

 建前上ではあるが配下扱いになったクロコダイルと“鷹の目のミホーク”から不満と怒りを向けられ、その建前を信じてる部下からは過大な信奉、海軍からは世界を脅かす脅威と見なされ四皇扱い。

 

 確かにバギーは“七武海”や“四皇”と云う巨大な名声を持つ海賊に成りたいと思っていた。だが彼が望んだそれはこんな常に命の危機と隣り合わせ名胃が痛くなる日々では無かったはずだ。

 

(違う……おれが望んだ“四皇バギー”はもっと、こう……キラびやかな存在だったのに)

 

 妄想世界のバギーはそれはもう偉大な海賊だった。それこそ憧れの船長でもあった“海賊王”ゴールド・ロジャーとさえ肩を並べるような偉大な海賊。

 ―――ただ妄想は妄想、現実は非情である。

 

『期待してるぜ社長? 次に顔を合わせた時に鰐用の“ドライフード”が増えねェことを祈ってる』

「オウとも!!? 大船に乗った気で吉報を待っててくれやァ!!?」

 

 ブツッと通話が切れる。もう声も届かないのにバギーは自分の首にあの恐ろしい右手が掛けられている光景が目に浮かんだ。それは気の所為、しかしこれからの自分の行動次第では現実に成り得る“死神の鎌”だった。

 

「―――ぅううおおおおおおおおお!!? 聞こえるか野郎共ォおおおおおおお!!?」

 

 テラスへと躍り出たバギー。彼はこの街に居る配下へ宣言する。

 

「おれ様はこれから“音楽の都エレジア”へ向かう!!! 理由は言わなくてもわかってるな!!?」

 

 どよめく配下。その目には期待の色が有り、バギーはそれを見て余計に自分は逃げられないのだと突き付けられる。

 

「本来ならおれ様が出ることは無ェが……今回は話しが別だァー!!? 相手が相手ッ!!! “クロスギルド”の……おれ様のかわいいかわいい部下がそいつらにやられたとあっちゃァ!!! このおれ様が直々にケジメ付けに行かねェわけにはいかねえだろォ!!?」

 

 バギーが言葉を口にする度に部下達の熱気(ボルテージ)が上がっていく。

 

「相手は“四皇”麦わらのルフィ!!! 相手にとって不足無し!!!」

 

 バギーはもうヤケクソだった。

 

「行くぜてめェらァあああああああ!!? 派手に出航だァああああああああ!!?」

「「「「ぅおおおお!!! キャプテン・バギー!!! キャプテン・バギー!!! おれ達の座長!!!」」」」

 

 もうどうにでもな~れ。バギーは半分諦めの境地でエレジアに向かうことに決めた。

 この一件が終わって彼の命が無事なのかどうかは、誰にもわからない。

 

 

 

 

 ルフィ達がエレジアに辿り着いてから一週間経っていた。それまでの彼らの様子はと言えば――― 

 

「ライブ会場を整備したい?」

「アゥ!!! チラッと見たがあんまり良い状態じゃ無かったからなァ! 折角“良い席”用意してくれたんだ、おれがスーパー修繕してやるよ!!!」

 

 ウタは幼馴染みの(よしみ)でルフィ達に()()()()()()()枡席(ますせき)……センターステージを近くで見られる特等席を用意した。それに喜んだ麦わらの一味。彼らはそのお返しに何か出来ないかを考え各々のやり方でライブ開催までの手が回っていない準備を手伝うことにしたのだ。

 これがエレジアに着いてから二日目の話。

 

「何でおれまで……まあ筋トレだと思えば良いか」

「ワハハハハ! ここまで大規模な祭りは滅多にないから楽しみじゃな!」

 

 フランキーがメインステージを改装するのに使う材料などを、ゾロを初めとしたジンベエなどの力自慢達がどんどん運ぶ。人力とは思えない運搬能力である。

 

「人がいっぱい集まるなら怪我する人も出るだろうし、おれ救護場所考えとくよ」

「チョッパー、おれも手伝う。少し相談したいことも有るしな」

 

 チョッパーはライブ当日の医療体制の見直し、それに付き合うサンジは並行して突発的に発生する傷病者用の栄養剤などを作れないか相談、その他諸々。

 

 他の者達も忙しく動き回ることとなった。

 

「―――……何か色々とありがとうね? 色々手伝ってもらって」

 

 ウタはルフィにそう言った。ゾロに負けじと巨大な石材を運んでいたルフィは立ち止まると笑みを浮かべる。

 

「気にすんな! おれ達がやりてェからやってることだしな!」

「そう? でも本当に感謝してるんだよ、わたし。だって皆のお陰でもっと素敵なライブに出来そうだから」

 

 ウタはどんどん綺麗に整えられてくステージを感慨深げに見詰める。そうしていると先程の石材を手早く運び終えたルフィが別の石材を担いでもう一往復してくる。

 

「ライブかァ、そういうの見るの初めてだからな~……楽しみだなウタ!!」

「うん。その言い方だと一緒に観るみたいな感じだけど、ライブの主役わたしだからね?」

「まあ良いじゃねェか細けェことは」

「全然細かくない!!? ……あと石材運ぶの妙に様になってるのは何故?」

「修行の成果だな!!」

「何の修行!!?」

 

 修行というか強制労働というか……ワノ国での経験が活きていたルフィだった。

 

 別の場所ではウソップやブルック達がゴードンから話しを聞いて感心していた。

 

「へぇ~~! ライブグッズの手配なんかもプリンセス・ウタが!? スッゲ~~!!!」

「彼女の多才さには舌を巻きますね……私、舌無いんですけどォ~~!!」

 

 ライブ当日に会場で販売する予定のグッズなどの準備もウタ自身が主導でしていたのだと聞いたのだから驚きである。元々ウタのファンであったウソップは感動して手伝いにもより熱が入るという物。

 

「ああ、ウタは本当にすごい子なんだ。だがこうしてライブがより良い物に成ろうとしているのは確かに君達のお陰でもある。私からも感謝を伝えよう」

 

 ゴードンは本来なら無関係だったルフィ達がここまで手を貸してくれていることに心から感謝して頭を下げる。

 

「いや~おれらもライブ楽しみにしてたからさ~。あんな特等席用意してくれたし何か力になりてェって思うわけよ!!」

 

 ウソップは照れて鼻の下を擦りながら自分の作業を続ける。ちなみにウソップがしているのは『UTAシンボルマーク』を大きな無地の帆に描くことで、ブルックはウタの楽曲を彼女と相談した上で児童向けに簡略化した楽譜を作成していた。どちらも数量限定抽選形式でファンに提供する予定の物である。

 そうして熱心に手伝ってくれる彼らにゴードンは微笑む。

 

「……本当にありがとう、君達なら……あの子を……」

 

 彼のその目に何が見えたのか。ただゴードンはルフィやその仲間達に囲まれて楽しそうに笑うウタをただ静かに見守るのであった。

 

 

 

 

 ―――そうして彼らはエレジアで一週間という時間を過ごした。

 それは長くもあり短くもあった。毎日が慌ただしく気が付けばこれだけの日数が経っていたのだ。時間の流れとはかくも早い物。

 

「……本当に楽しいなー。ルフィ達が来てから」

 

 ウタはこれまでの一週間を振り返り、そのどれもが笑顔無しでは思い出せない楽しく素敵な物であったと胸を温かくする。

 

「会えて良かった」

 

 左手のアームカバーに描かれた誓いの印を撫でる。

 良かったと言ったウタ。しかしその彼女の表情には―――

 

「……でもね?」

 

 笑顔は無く。

 

「私の“邪魔”をするのは」

 

 城の貯蔵庫、菓子類を収めていた箱を蹴り飛ばしてウタは鋭い視線を彼方へ向ける。その視線の先に居るのはいったい誰なのか。

 

「皆と“新世界”を迎える邪魔をするのは」

 

 引っ繰り返る箱。外れる二重底。そこに隠されていた筈の()()が空っぽになっていたのを一瞥もせず、ウタは冷たく告げる。

 

「―――ゆるさない」

 

 その言葉は誰にも届かず、されど一人の少女の覚悟を世界に知らしめる物だった。

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