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うたっても うたっても えがおに なれません
『また いっしょに わらいましょう』
したいは わらってくれません
『歌を つくりました あたらしい みんなに きいて ほしくて』
がらがら がらがら ほねが ばらばら くずれます
『平和 みんなを だから 笑顔に したくて だけど なんで』
ふるさとは しずかになった しずかになったのに
とても うるさい
その人 いがい だれも いないのに
とても うるさかった
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どうしてウタは今日麦わらの一味全員を眠らせたのか、どうして今日ルフィが自分を説得しに来ると知っていたのか―――どうして“作戦”に引っ掛かることになったのか。その理由は昨日の夜にまで遡る。
(捨てたのは確実にルフィの仲間の誰か。それはつまりライブの“計画”を知られたということ……わたしの邪魔をするために!)
険しい表情で歯軋りする。
『絶対にゆるせない!』
強くそう思う。ただ同時に解せないことも有った。
『でもどうして……それ以外に何も動きが無いの?』
ウタの主観だが
(ルフィは嘘が下手。それとなく話しを振ってみたけど知ってる様子は無かった。ならゴードンが? ……いや、ゴードンが隠し事したとしても
そこまで考えてウタは渋い顔をする。
『でも船長に重要なことを報告しない船員って居る? 友達みたいな距離感だけどルフィ達はれっきとした海賊だし……』
うんうんと悩みながら城の通路を歩く。静かにゆっくりと、ただし足取りは軽快に。それはルフィ達に見付からず、尚且つ彼らの情報を隠れて集める為の行動。
(何か一つでも情報を……彼らの目的を知らないと)
そうして物音に耳を
『―――その話しホントかサンジ!?』
『バカ、声がでけェ! もっと静かに喋ろッ』
『……!』
急いで壁際に寄るウタ。
(この声は……ウソップとサンジ?)
会話の出所は城内の一室。過去には使用人の私室としても使われていた現在は使う者など誰も居ない寂れた部屋。
ウタは僅かに隙間が空いている扉から中を窺うと声から予想していた二人が中に居た。
怪しい。こんな場所に二人きりで一体どんな話しをするというのだ。そう訝しんだウタはそこで息を潜めて会話を盗み聞きする。
『―――良いか? ウソップ。この計画は当日に……明日の夜、ルフィに伝える』
『いやでも直ぐ伝えた方が……』
新しい煙草に火を点けたサンジはウソップにはっきりと言う。
『ルフィはバカだ。この話しを聞けば一にも二にも無く飛び出して行く。それじゃおれ達にとって都合が悪い』
『都合が悪いってお前……』
『悪いさ。おれ達がウタちゃんを
『――――――』
その言葉を聞いたウタから表情がスッと消える。
『準備には一日居る。なーに、うちの船長だって事情を知ったら許してくれるさ』
『……そりゃそうだけど、騙してるみたいで気が引けるな……』
ウソップは自分達の船長に嘘を吐くことになるのが気不味いようで困ったように眉を下げる。
『そう言うなウソップ。この計画はおれ達の腕に掛かってる。その前準備としてウタちゃんが持ってた
『……ああ、アレな。故郷の部下もよく集めてたからおれがよく捨ててやったもんさ。懐かしい』
『…………』
サンジは俯いて煙草を深く吸う。
ここまでの会話を聞いたウタは彼らが普段の陽気さからは考えられない裏の顔を持っているのだと理解する。
(計画? わたしを捕まえる? ……そっか。
ウタの目に敵意の色が宿る。自分の目的を阻もうとする彼等に対して。
『わかったかウソップ。計画は明日の夜、ルフィに伝えた後で、仲間の全員でウタちゃんを捕まえるんだ。絶対に逃がさないようにな』
『……うっし、わかった! おれ様にど~んと任せておけ!』
『だから声がでけェんだってこのアホ!!!』
重要そうな部分は聞いた。そう判断したウタは来た時と同じように静かにこの場を後にする。
(明日の夜、ね。みんながその気なら……良いよ。迎え撃ってあげる)
彼らが一体何を企んでいようと“ウタウタの実”の力が有れば絶対に負けることは無いのだから。そうしてウタが使用人室から離れて行き―――
『……行ったか』
『行ったな』
それを“見聞色の覇気”によって把握していたサンジとウソップは自分達の
『ふぅ~……どォーよサンジ! このおれの見事な演技力!!』
『まあ嘘吐き慣れてるお前だから頼んだが……変なアドリブ入れやがって。ウタちゃんが不審に思ったらどうするつもりだ』
サンジはやれやれと煙を深く吐き出す。
『だが狙ってやったとはいえ……レディに嫌われるのはちょっと堪えるな』
『よくやったよお前は』
『まあ一人で嫌われるのがイヤでお前を巻き込んだわけだが』
『はっ倒すぞてめェ!!?』
こうしてサンジ達は明日の夜に決行する“作戦”の仕込みを終わらせたのだった。
『……さて、残りの仕込みも終わったし……あとは当日に全て賭けるだけか』
これがウタがこの夜にルフィ達を迎え撃とうと待ち構えていた理由であり、ウタウタの力で逆に彼らを一網打尽にしようと画策したのだが―――
「……一杯食わされた、ってわけ?」
「ん~!! スーパー!! その通りだ歌姫ェ!!」
「私達も手荒なことはしたくありません」
ウタが足を踏み入れたルフィ達が眠っている筈の部屋。そこで待っていたのは眠りに落ちた無力な一味では無く。
「ウタ。大人しく話し合いに応じてくれないかしら?」
フランキーとブルック、そしてロビンが部屋の中でウタを待ち構えていた。それ以外でこの場に誰もいない。落ち着いた声色で対話を求めるロビンにウタは目を鋭く細める。
「……どうやってわたしの歌を」
彼ら3人が眠っていないということはつまり歌を聞いていなかったということ。だがどれだけ作戦を練ろうと歌うタイミング自体はウタの胸三寸、しかも城全体に響き渡る歌を防ぐ術は限られる。
「その答えはシンプル!!!」
フランキーが大きな掌から小さなマジックハンドを出すとその指の間に挟んでいる小さな物体を見せ付ける。
「これこそが歌姫のスーパーな歌声をシャットアウトしたスーパー秘密兵器!!! その名も~~……“インヴィジブル・シンフォニアシステム”!!!」
「ただの耳栓!!」
ただの耳栓だった。この秘密兵器の元祖を使ったことがあるブルックからの情報提供によってフランキーが新たに作った特別製耳栓である。それを見たウタは頭痛でも堪えるように頭を抱える。
「そ、そんな古典的な手で……すっごい悔しいんだけど」
もう一度この場で歌ってやろうかと考えたが、ウタは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
(今ここで歌えば3曲目……体力的にギリギリ。クソッ! 完全に嵌められた!!)
もしこの場で歌ったとしてそれで3人全員を確実に眠らせられる保証は無い。つまり後に残るのは3曲を歌って睡魔でフラフラになったウタと万全な状態の誰か。
耳栓一つで窮地に追い詰められたウタ。悔しいと冗談で言ったがここに来て本気でそう思い始める。
「どうかしら? 私達は傷付け合って血塗れになるようなことは望んでいないわ」
「ロビンさん物騒!! あ、でも私骨なんで血は―――」
「そういえばチョッパーが血は骨から作られると言っていたわ」
「ッ!!?」
スカルジョークを潰されて愕然とするブルックを尻目にロビンは根気強くウタと話し合おうと行動する。
「ウタ。うちの船長さんはあなたが
「…………」
「その先に待っているのは“死”よ。だからどうか考え直して―――」
「…………」
ウタは俯き覆って黙りこくっていた。追い詰められて諦めた、そんな様子にも見えたが―――
「……ウタ?」
「くっ……ふ……!」
声が漏れそれは直後……哄笑へと変わる。
「くふ……っ! あは! あははっははははははははは!!」
笑う笑う笑う。
「ははははははは!! あっはははははは―――……ふぅ」
そして一頻り笑うと疲れたように溜息を吐いた。
「あ~あ~……もう、いっか……わたしだって手荒なことはしたくなかったけど」
ウタが目を細める。
「しかたないよね?」
「!!?」
ロビン達の背筋にぞわりと冷たい感覚が走った。
「“
「うぐ!?」
ウタの体から咲く6本の腕が彼女の肉体を拘束しながら口元を塞ぐ。ヘッドフォンからはいつの間にかマイクが展開されており、それはつまり彼女が自分の負担を度外視してウタウタの能力を使用しようとした証。間一髪でウタが能力を使うことを阻止したロビンは油断無く立つ。
「歌わせないし、何より声が聞こえる前に耳を塞げるわ」
視界内で有れば無類の制圧力を発揮するハナハナの能力。それを受けてウタは悔しがる―――
「ふっ」
ことは無かった。
拘束されながらも彼女は笑った。まるで……自らの勝利を確信しているかのように。
「……ウタ、あなた―――」
「危ないロビンさん!!?」
ロビンがウタに向かって歩み寄ろうとした時、横からブルックが飛び出してきてそのままロビンを抱えて駆け抜ける。
「ッ!!?」
それは一瞬の出来事。
ロビンが直前まで立っていた場所が―――壁を突き破り“伸びてきた腕”によって粉砕されたのだ。ドゴンと重い音と共に砕け散った壁と床の欠片が室内に舞う。もしブルックの俊足での救助が無ければ今の拳によってロビンは打ち倒されていただろう。
「わあー、ブルック速いね! ロビンも怪我が無くて良かった!」
土煙が視界を遮る中でウタの影はそう言う。先の衝撃によってロビンの集中が途切れハナハナが解除されたのだ。自由の身になったウタの影は愉快そうに話す。
「まさかこんなに追い詰められるなんて思っても無かったよ! ルフィもみんなもとってもスゴいんだね!! だから―――」
影が二人になる。ウタの隣りに誰かが降り立った。
砕けた壁の穴から吹き込む風で土煙が晴れていく。そこで露わになったもう一人の影の正体。
「容赦しないからね? 悪い海賊さん」
ウタは自分の隣りに立つ者から“麦わら帽子”を取り上げると大事そうに胸へ抱く。
そう、この場に現れた者とは―――
「――――――」
ルフィだった。
麦わらの一味の船長であるルフィが、仲間に向かって拳を構え、ウタを守るように立っていたのだ。それを見たフランキーが驚きながら叫ぶ。
「オウオウ!? マジかよ!! マジで来やがったぜ!!」
「これは確かに……少々
ブルックはロビンを丁寧に床へ下ろすと剣を抜く。その彼の背後でロビンは視線を鋭くして自分達の前に立ち塞がってきたルフィを見る。
「……ゴードンが教えてくれた通りね。ウタウタの能力、眠らせるだけじゃない。もう一つの力」
この場に来たのはルフィだけでは無かった。
ある者は扉を蹴破り、ある者は壁を斬り裂いて―――そうして集まる“眠らされし者達”。
「これがウタウタの……眠った者の肉体を操る力」
事前に違う部屋で集まり眠っていた筈の、麦わらの一味。その全員がこの部屋を包囲するように姿を現わしたのである。
ウタはロビン達にとって最大の味方であるルフィ達を最大の敵として従えて悠然と立つ。
「形勢逆転だね。わたしの歌を防ごうとしたのは悪くなかったけど、こうしたら歌う歌わない関係無いよね? ……まあこれはこれで結構疲れるんだけど」
顎に伝う汗を腕で拭う。息も心なしか安定を欠いている。しかし彼女はしっかりとその足で立って挑発的な目を向ける。
「それに動かすだけならまだしも戦わせるとなるとねェ……実力を発揮させるなら結局歌わないといけないし」
「っ!!!」
ロビン達は直ぐに耳栓を付けられるよう準備する。仲間を操られながら更に歌まで来ると思ったからだ。しかしその様子を見たウタが「あははは、そんな身構えてももう無駄だって」と小馬鹿にしたように言うとニヤっと口角を上げる。
「眠ってるルフィ達を本気で戦わせるには歌が必要……でもね」
ウタは指を立てて自分の口元に添えると告げる。
「必ずしも“
直後。
「耳栓なんか有るなら初めから眠らなきゃ良かったのに。だからこんな風に―――」
ルフィが自分の腕に歯を立てて筋肉に空気を吹き込み、ゾロは構える三刀を黒く染め、サンジの脚からは火焔が発生する。他の仲間達も次々に戦闘体勢に入っていく。
「……!!!」
歌姫は不敵に笑う。
「こんな風に、絶体絶命のピンチになるんだよ♡」
“ウタワールド”では音符戦士の軍とルフィ達の戦いが激化していた。
「―――直に脳揺らすベース―――!!!」
「“ゴムゴムの”ォオオッ!!!」
ルフィの巨大化した両腕が武装硬化で黒く染まり大気を突き破る高速連打で放たれる。
「“
「―――心の臓撫でるブラス―――!!!」
津波のように押し寄せる軍勢を無数に放った破壊の拳が押し返す。凄まじい衝突に地鳴りのような音が周囲に響き渡る。
“ウタワールド”各地で激しく起こる戦闘音、その全てを合わせも届かない圧倒的声量で歌姫は自身の歌声によりエレジアを席捲する。彼女の歌によって増強された音符戦士の苛烈さは増していく。
終わること無き戦士の進撃。それを指揮する歌姫の
「―――欺きや洗脳お呼びじゃない―――!!!」
魂ごと震わせ奏でるような声で歌姫は歌う。何が彼女をそうまでさせるのか。尋常ならざる気迫でウタは歌う。
「―――耳を離さないで―――」
それでもただ一つ、
「―――Hear my true voice―――」
彼女の歌には、強い意志が、熱い
“ウタワールド”での歌唱が現実にも影響を及ぼす。眠った者を操る力が強化されてロビン達に牙を剥こうとしている。
「ッ!!!」
ルフィは猛攻を続けながら少しずつウタの方へと歩を進める。だがそれは遅々とした歩みで彼は苛立ちに血管を額に浮き上がらせる。
「「ルフィ!!!」」
そこに駆け付けたのがゾロとサンジだった。
「「おれが道を切り拓く―――」」
言葉が被った二人は睨み合う。
「邪魔すんじゃねえアホコック!! ここはおれがヤる!!」
「邪魔そっちだクソマリモ!! あっちでチマチマ雑魚掃除でもしてやがれ!!」
音符の戦士を斬り捨て蹴り砕きながらゾロとサンジはどっちがルフィのサポートをするかで言い争う。こんな時でも相変わらず犬猿の仲、これが2人の平常運転とも言えるが……状況を考えて欲しい。
「バカやってんじゃないわよ二人ともォッ!!!」
「「ぶへ!?」」
だから当然怒られた。ナミの鉄拳がゾロとサンジの顔面に炸裂する。
「このクソ忙しい時まで下らない喧嘩してんじゃないの!!! そんな暇があるなら2人でやりなさい!!!」
「て、てめェナミ」
「厳しいナミさんも素敵だァ♡」
叱咤を受けた2人は渋々ながら協力することに決めてルフィの前へと躍り出る。
「まったく世話の焼ける―――」
見送るナミ。その背後から音符戦士の集団が襲い来る。
「“魚人空手奥義”!!!」
その直前、両者の間に割り込んだ巨体の闘士が覇気を纏わせた拳を放つ。
「“鬼瓦正拳”!!!」
一体の音符戦士に直撃する正拳。魚人空手の真髄たる水の制圧が衝撃波となり覇気と合わさって周囲へ迸る。まるで爆発のような衝撃によって大量の音符戦士が弾け飛んだ。
「ジンベエ!!!」
「うむ! 頼られたからには相応の働きはせんとな!」
ジンベエが前衛に回り、ナミが後衛で
「必殺“緑星”―――“竹ジャベ林”!!!」
後方足下へ撃ち込んだ種子が急成長、槍のような竹が幾本も生えて突き上がる。
「おいウソップ!! あいつら飛んでるから効果薄いぞ!?」
チョッパーが飛行で回避してくる戦士を見てウソップにそう言う。だがウソップは慌てない。敵に追われる緊張感は有るがこの状況は意図して作った物。
「飛ばしたのさ!!! 何故なら
浮かぶ音符戦士達に向かってウソップがカブトに番えた種子を放つ。
「喰らえ必殺“緑星”―――“
遮蔽物の無い空中で発動した“
「うォおお~~!!? スゲェぞウソップ!!!」
「どんなもんだ!!! 行くぜチョッパー、おれ達のコンビネーションを見せてやれ!!!」
圧倒的機動力を得た狙撃手は誰にも止められないのだ。
夢の世界で麦わらの一味の奮闘。一つの目的を持って動く彼らの働きが、遂に血路を作り上げる。
「おおおおォーーーーッッ!!!」
仲間達が切り拓いた道を真っ直ぐに、疑うこと無く彼は駆け抜ける。
「―――!!!」
ウタの目の前へと降り立ったルフィ。まさかあれだけの軍勢を潜り抜けて辿り着くとは予想していなかった彼女は動揺によって一瞬だが判断に遅れてしまう。
手を伸ばせば届く距離。ウタは直ぐにルフィからの攻撃に対処する為、能力を行使しようとするが―――
「―――……ん!」
何が起こったのか理解出来なかった。
「……は?」
ルフィがウタの目の前で胡座を掻いて
戦いの最中、無防備に。
「……何……やってんの?」
「…………」
理解出来ない。ウタは先程よりも大きな動揺に思考がまとまらなくなる。
「……ね、ねえルフィ。わたし達……今戦ってるんだよ?」
「…………」
「そんな……ふざけてるの? ……座り込んで……」
2人の周囲では今も激しい戦いが繰り広げられている。ルフィが戦線から抜けた分より状況が悪くなっている……だが彼らは全く気にする素振りを見せない。
ただ托す。自分達の船長に。この戦いの行方を。
「いったい何を考えて―――」
「ウタ」
先までの激昂が嘘だったかのように、彼はとても静かな口調で彼女に伝える。
大事なことを。
昨日、彼女の“過去の全て”を聞いて、ずっとずっと思っていたことを。
「悪くない」
ルフィはウタに伝える。
「お前は悪くない」
「――――――」
音符の戦士達が止まった。
“ウタワールド”から―――音が止まった。
その影響は現実世界にも。
「……間に合ったようね」
ロビンはハナハナの能力で取り抑えていたナミとウソップ、そして噴水跡に溜まった水に半身を沈めたチョッパーから抵抗する力が抜けたことでそれを察する。
「首の皮一枚繋がりましたね……私、皮膚無いですけどォ!!!」
ゾロとジンベエに対して防御と撹乱に専念していたブルックが安堵のジョークを漏らす。ゾロとは偶に立ち会いを行う経験、ジンベエの水の制圧も“黄泉の冷気”で効果を半減させられるので、この2人との相性はそこまで悪く無かった。
「スーパー……!!! 疲れたぜこの野郎ォ~~!!! 痔になったらどうする気だァ!!?」
ルフィとサンジを相手取って大活躍したフランキー。空気の大砲を放つ“
操られていた仲間達が動かず眠りに付いたのを確認した3人は合流し、ウタの動向を警戒する。
「……どう思います? 何でしたら今のうちに拘束しますか」
「少し様子を見ましょう」
「おう、ロビン。もしルフィ達がまた操られたら流石にキツイぜ。おれァブルックに賛成だ」
ルフィ達同様、ウタもまた動きを止めていた。目の焦点が合っておらず呆然と立ち竦んでいる彼女を差してブルックとフランキーは拘束を提案するが……ロビンは首を横に振る。
「後は任せましょう。ルフィに」
水から引き上げたチョッパーを胸に抱いてロビンはそう言った。
全てはこの瞬間の為に行われた作戦。ただ言葉を交わすだけでは駄目なのだ。それでは足りない。
「私達の船長は……私達が思う以上に“先”を見てくれているわ」
本気でぶつかり合わなければ、孤独な歌姫はその胸の内を明かしてくれないから。
「だから私達は信じて待ちましょう」
少女の心に隠された―――“地獄”を。
顔は青褪め体は震え。ウタは瞳孔の開いた目でルフィを見る。
「……わ、わたしが……悪く無い?」
「…………」
「何を言ってるのルフィ」
「…………」
座り込み目を瞑ったルフィ。
「答えてよッ!!?」
ウタの吐き出すそれは怒声と呼ぶにはあまりに痛々しく……まるで幼子が恐怖で泣き喚く様に似ていた。
「ウタ」
「ッ!!?」
だから彼女は後退る。自分から口を開けと言ったのに、その言葉の先を聞くことを怖れて。
「おれさ、ずっと変だと思ってた」
座り込んだままルフィは話し出す。もう近付く必要は無い。ここまで来れば実際の距離は関係無い。
ようやくだ。ようやく、彼女がずっと被っていた“歌姫の仮面”に罅が入ったのだから。
「エレジア滅亡? お前を捨てた? ……どっちもするわけ無ェだろ」
ルフィの脳裏によみがえるシャンクス達との思い出。
ガキだった自分達をいつだって見守ってくれていた優しい目。酒を頭から掛けられようと笑って流せる誇り高さ。仲間や友達の為ならどんな相手だろうと戦う強さ。そして―――
「シャンクスはお前のこと、大好きだったから」
愛すべき者達の“未来”の為に、自らが傷付くことを厭わない偉大な男だった。
「……ッ!!!」
ウタは泣きそうな顔で唇を噛む。溢れ出しそうな自分の感情を無理矢理抑え付けるように。そんな彼女をルフィは真っ直ぐ見る。
「そっか……そうだよな。やっぱお前も知ってたんだな。だから
左手に有る“新時代”のマークに縋るように立つ彼女へ、ルフィは静かに語り掛ける。
「昨日ゴードンのおっさんから事情聞いたけど……全然ピンとこなかったからさ」
ゴードンの口から語られる12年前の出来事。
音楽家なら誰もが訪れることを望む“音楽の都エレジア”。そこへやって来た赤髪海賊団とまだ幼かったウタ。
『―――なんと素晴らしい歌だ!!! 私は君が来てくれたことをとても喜ばしく思う! どうか我々に君達を歓迎させてほしい!!』
ウタの歌声はエレジアの人々を大いに感動させた。類い希なる才能だと。どうかこの地で存分にその才を伸ばしてほしいと滞在を勧めた。
エレジアの人々はそれはそれはウタを可愛がった。彼らは音楽を愛し、何より音楽を愛する者達を愛せる人達だったから。
『とっても素敵!もっと聴かせて貴女の歌!』『ウタちゃんこの曲も歌ってよ!』『楽器に興味は?』『食事中に音楽は有り派?無し派?私は無し派が無し派』『君の才能はきっと神様からの贈り物だね』『今度ホールで少年合唱団の大会が―――』
楽しい日々だった。ウタにとって自分と同じかそれ以上に音楽を歌い奏でられる大勢の人達との出会いは貴重だったから。毎日が発見と驚きの連続で、彼女もこの国が大好きになった。
『ぐえ~!! 負けた~!!?』
『へへーん。わたしの勝ち~』
『ついにウタちゃんが“歌勝負”で同年代を全滅させたぞォ!!?』
年の近い子がこんなにも大勢居るのも新鮮だった。流石にルフィのような負けん気の強さとハチャメチャさを持った子は居なかったが……
そうした日々が続く内に、エレジアの人々はウタがこの国に住んでくれるように望み始めた。だが彼女はそれを望まなかった。
『わたしは赤髪海賊団の音楽家ウタだから』
エレジアの人々は落ち込んだが……直ぐに笑顔で彼女達を送り出すことを決める。
離れていようと自分達は音楽を愛する同志なのだと。この世界に音楽が在るかぎり、風はどこまでもその音色を乗せて運んでくれる。だから寂しくても悲しいことでは無い。
少女の心に楽しく美しい思い出が満ちますように。そうして赤髪海賊団とウタを招いての最後のパーティーが企画されることとなったのだ。
パーティーはとても楽しい物となった。エレジアの人々はウタとの別れを惜しみながらも船出の安全と幸福を願って精一杯祝った。
今日が最後だからと、ウタに歌って欲しい楽曲を持ち寄って。
そうした会場の空気が―――地獄に繋がるとも知らず。
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うたっても うたっても えがおに なれません
子どもたちを ころした人を ころしても
えがおに なれませんでした
『でも すこし しずかになった』
あたまが われそうなほど うるさかったけど
だれかを ころしたときは すこし しずかになりました
『ぜんぶ しずかに なれば 世界は 平和に なるかな』
そうして その人は 歌を うたいながら
世界を しずかに することに きめました
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