僕は脇目も振らず駆け出した。
以前くすねた屋上の鍵。悪いことだと分かっている。
しかしこれを「悪いこと」と言うのならば、何故奴らは見て見ぬふりをする。放置する。巻き込まれたくないのだろう。存じていますとも。
もし問いつめたなら、仕事が忙しいから、認識していなかった、色んな言い訳が口々に吐き出されるのであろう。
僕はどうしてこうして走らねばならない。お前らのせいだ、こうするしか手段を選ばせなかった、無視し続けた、お前らの。
扉にぶつかるように鍵を開け、まるでびっくり箱のように飛び出した屋上の空には、自由が、あった。涼しい夏の終わりの風が雲ひとつないとは言わないが、潤んだ瞳に澄み切った青と僅かな白が輝いて見える。
「きれい」
口からこぼれてしまったそれは紛い物か。否本心なのだろう。そんなもの反吐が出る。思いたくないのに。涙を拭い、それはそれは高い柵の間を抜けた。こんなに高くしても、柵とのあいだは僕が通れるような空間があることから分かる。こんな柵なんてなんの意味もない。すぐ通り抜けられる。
僕は少し乗り出して、下を覗き込んだ。足がすくむ。先人達はこの地面を見てどう思ったろう。怖かったのだろうか。無我夢中だったのだろうか。
僕は、怖かった。美しかった。というだろう。
生き方が分からない僕に餞の引導を。選択肢がない自分に別れの花束を。
最初から決めていた一歩を、大きく空に踏み入れた。
⑦
少しだけ眠い。しかし、けたたましい機械音が彼の2度寝を許さなかった。なにか、とても嫌な夢を見ていた気がする。
目を開いても暗い。これはまたおかしいと思う話だが、順応していく明るさは心做しか早く感じた。
無機質な部屋、無機質なベッド、ほんのりと薬品の匂いがする。魁夢が寝ていたベッドの周りには、その無機質な壁が間近で感じられるような冷えた空気があった。乱雑に敷かれた毛布を剥がしてみると彼は裸だった。
「え…?ど、どういうこと…?なんで…?」
なるほど冷えるのも当たり前だ。彼の華奢な体が顕になっていたのだ。
「ええ…?こ、これ……」
魁夢は頬を染める。隠しきれない局部を隠した。自分は何をしたというのだろう。眠る前の記憶が思い出せない。恥ずかしいことをしていなければいいが。しかし、同時に訪れた鋭い痛みが彼の疑問を更新させた。遠くで鳴っている機械音も気になるし、ここはどこなのか、何故ここにいるのか。
閑話休題。この背中の割れるような痛みは何なのだ。まるで工具で殴られたような痛み。
完全に晴れた目で自身をまさぐる。おかしい。何度見てもおかしい。傷が、増えている。
今までで忘れたことがない。打撲痕、熱傷痕、裂傷痕。全部で32箇所の傷があるはず。しかし2箇所ほど増えている。
しかし、今度は手術痕である。ドレッシング材のみで縫ったあとが見える。丁寧な縫合だ。しかしまだ痛みがある。
痛みは慣れている。でもこんなの一瞬。慣れているといったら慣れているんだ。疑問に思うことは多々あるが、こんな暗がりにいてもしょうがないと感じ重苦しい足取りで、ベッドのシーツを体に巻き、一つだけある扉を開けてみる。
「わっ…!」
思わず声が出た。扉を開けた先の廊下は大きく崩れ、晴れ渡る外の景色が見渡せるほどの大穴があいていたのだ。その穴からとめどなく風が吹き込んでおり、「廊下」と言うにはかけ離れた場所だった。
下を見てはいけない、と本能の奥底で思った。
魁夢は何とかドアから壁伝いに進んでいき、何とか楽に勧める道を見つけ、その場で倒れ込んだ。
顔を上げた時、暗がりに蠢く何かがいた。嫌という程嗅いだ腐臭。冷たい風がよりいっそう冷たく感じ、鼓動と呼吸の回数が早くなっているのをひしひしと感じた。身震いをした魁夢の見た光景は、遠目で見てもわかる存在感を醸し出しながら、廊下の階段付近で徘徊していた。
屍だ。
なんとも中途半端な終わり方で申し訳ありません。次話はもっとはっきりとした終わり方にできるように心がけます。
「イオは長い夢をみている」についてどう思われますか?
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とても読みやすい
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読みやすい
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どちらかと言えば読みやすい
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どちらかと言えば読みにくい
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読みにくい
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とても読みにくい