大惨事スーパーロボット大戦α 作:猫者
とりいそぎ。
誤字はまぁ、余裕ある時に確認します
■間■
「兄さん、雪だよ。珍しいね」
フリット・アスノがコロニーの天井を指さす。
天候が管理されているスペース・コロニーでは通常、雪は降らない。しかし、このコロニーではMS鍛冶……その中でも特に異質な存在である救世主「ガンダム」の製造を継承したアスノ家を筆頭として、
様々な実験が行われている。この”雪”すらもそうであった。
「お、本当だ。いいねぇ~!」
シンも続いて天井を見上げ、歓喜の声を上げ手を伸ばす。降り積もらない様に調整された人工物故にか、に冷たさはない。
元現代人としては雪が降るとテンションが上がってしまう。まぁ、交通は死ぬほど不便になるのだが、それはそれとして関東圏に住んでいるものの多くは根っこの部分で興奮を覚える。
シンはふと、なぜなのだろうと考えた。
アスファルトとビルに囲まれた場所で育った故の雪への憧れという奴なのかもしれない。
あるいは、人間は大体の場合の幼少期は明日を夢想して生きるもの。だが、成長し日々を生きる中で月とか年とかの間隔は曖昧になり、その1日をどう生きるかという生き方にシフトしていく。
それを一言でいえば「当たり前の日々に退屈を覚えている」という事だ。
だからこそ、1日の中で例外ともいうべきイベントが起きると感情が波打つのかもしれない。
だが、当たり前の生活に落とし込むことで心に余裕を持たせているのも事実な訳で。
「生前の現実を思い出して吐きそうだ……」
「ん? 兄さん、どうしたの?」
「……いや、白いだろ。白といえばこの辺ではお前の家のアレを思い出すなって」
「あ、そっか。そうだね、あれも空から落ちてきたらしいし……」
7歳という年に似合わぬ、怪訝な顔を浮かべてフリットはそう言う。
MS鍛冶として様々な英才教育を受けているであろう、彼はそれが妙な事だと理解しているのだ。
アスノ家の記述によれば、それは漂流してきた訳でもない。
ある日、天井外壁を破り突然落ちてきたという。
レーダーに引っかからず、まるで急にそこに宇宙空間に現れたかの様に落ちてきたそれは、
救世主ガンダムと呼ばれ、アスノ家の技術の基礎となった。そして、その機体の名をシンは知っている。
(νガンダム……)
1度だけ見た、量産型でもない、紛れもないオリジナル。アムロ・レイの最高にして最後の愛機。
ガンダムなどの種別、所謂『リアルロボット』に愛着を持てなかった自分でも知っているほど、ロボットものを少し齧れば話が耳に入る有名な機体。
虹の彼方に消え、二度と戻る事のなかった。それが、アスノ家にはある。
宇宙世紀もない、ジオンもない。新西暦というどこかで聞いたことのあるが思い出せないそんな世界にあるのだ。まぁ、そんな特別なものを抱える以上、どう考えてもフリットが主人公なのだろう。
なら、自分は添え物のミックスビーンズでしかないのだとシンは悟っていた。
神様が何かしろといっても、何かをくれた訳でもなく。なんも上げられないので死ぬ方が多いという説明まであった。そんなの逃げるわ、となるのが当たり前だがその気はもうすでにない。
年下に全てぶん投げるのは凄まじく後味が悪いのもそうだが、愛着が湧く程度には今の人生が好きになった。だから、できる事はしようと思っていた。
それがどの程度かは分からないが……少なくともやるつもりではある。
その時、シンの耳元で懐かしい声が囁く。
「シン、覚えてるわね。あまり使わないけど
あなたのフットペダルにショートカットが設定されている。緊急回避は真下に蹴るのよ」
「母さん……?」
声の方に顔を向けると首から上がない母親が、気道から朗々とシンに語り掛ける。
「起きろ、シン。さもなきゃ死ぬぞ」
沸々と沸騰し今にも弾けそうな父が、朝寝坊を叱るように声をかけてくる。
「…………っ!!」
覚醒へと向かう意識の中に痛みが流れ込んでくる。
あぁ、そうだ、もう。平和など、自分には戻ってこない―――
夢想の中のささやかな幸せを歯ぎしりと共に、足元を蹴り飛ばす。
同時に、世界が回転した。
否、視界が回転したが正しい。
設定されたショットカットに従い機体は半円を描き、一瞬前までライブレードがいたそこに襲い掛かったものを置き去りにする。
(わかんねぇ! 分かるのは多分、気絶してたって事。くそ、思い出せ! 何があった!)
■弐・1■
「スロットルレバーとフットペダルの両方があるのか……お主、どういう経歴なんじゃ?」
「宇宙戦闘機からジェノアスに乗り換えたよ。でも、別にそのころの経歴の問題でこういうコックピットになってる訳じゃないからな。思考制御だからって全部考えながら動かすのは無理ってだけで……」
身体感覚と同期し動かす魔装機に限りなく近い機体であるライブレードは、本来は全ての操作を行える。
しかし、同時にシステムの意地と戦闘に精神のエネルギーとなるプラーナを使用することもあり、精神的損耗が激しい。いわば、手足の様に扱う事ができ、機体が感じる事、見た物が操者に伝わる。
だが、それは即ち通常のパイロットより限りなく実戦に近い……
そう、銃弾が飛び交う中を駆ける歩兵の様な過酷な状況に置かれる事になる。
それを理解していたのか、ライブレードは初期より外部映像の表示はアイカメラを経由したモニターであったし、飛行速度の設定もある程度であれば自動設定ができた。
現在はその自動部分を広げ、スロットルレバーによる翼部分のメインバーニアの推力の調整し、フットペダルにより戦闘用に増設された各部の補助バーニアの操作を行える様になった。
ライブレードの負担が減ったのはそういった操縦者の事を考えたエンジニアたちの努力の結果でもある。
「ジュノアス……む、そうか。コールドスリープをしていたのじゃったな。銀の杯条*1の影響で防衛用の兵器が配備できず、エンジェルは無抵抗のまま破壊された《/ref》と天使の落日*2の世代じゃったな」
「え、あっ、うん。そうだけど……?」
思いもよらぬ所で聞き覚えのある単語が出てきて、キョトンとした顔を浮かべた。
キサブロー・アズマ博士は太筆の様な顎髭を撫でると空を仰ぎ、昔を懐かしむ様に口を開く。
「あの頃のMSは今の技術の元とはいえひどい。AMBAC*3の性能も低い。若い頃に鹵獲、移送された当時のヴェイガンの機体も触ったこともあるが、技術差はひどいものじゃった。お主は自分を能力のない様に言うがの。生き残れただけでも十分な能力じゃ」
「ん……? あっ! 博士70歳とかだっけ!?
生まれた時代は同じぐらいか! うわ! なんだろ。急に親近感が……複雑すぎる」
「ふっ……といっても、ワシは当時、地球から出なかった。
あの頃の宇宙の事を考えると胸を張って同年代とはいえん……見捨てられたようなものじゃった」
「ま、でもさ。敗戦が濃厚だったんだから、できるだけ被害を減らそうとするのは当たり前だし。
そんなもんじゃないか? いや、理屈としての話であって許しては居ないけどな」
「条約により力を削がれていたことを理由に支援を絞り、半ばコロニーを相手の戦力分析のための捨て札にしていた地球連邦を許していないのに、地球の為に戦うのかの?」
「戦う理由があるからな。今はこの星にも。そして、宇宙にも」
例えば、多くの人を救うために引き金を引きころした少数の人たちへの贖罪とか、単にヴェイガンの恨みだとか自分の都合でしかないものもある。
でも結局、大部分を占めるのはそれが”間違い”であるか、否かなのだ。
そして、間違いとは……正義だとか、それに対しての悪だとか、そんな大したものではない。
多くの人を泣かせる結果につながる事、傷つける事。そんな曖昧なものに肉付けするなら、
ただ、自分の利益だけを追求し、他者を貶める事を許す事ができないという根底にあるもの。
しかし、それは同時に自分の行動に対するダブルスタンダートといえるものでもある。
理解はしている。だが、解決はできない。故に死ぬまで悩み続ける。
他者からすればそれは、壊れかけて
そう、確かなものが自分の中にあるのだから、シンはそれでいいと思えている。
「ま、爺さん同士の懐かしい話は此処までにしよう。それで、博士。ライブレードは?」
「コンパチブルカイザーと違い、GGGの共通パーツが多く備蓄されていたものでギリギリなんとかなった。残念ながら兵装の類は全滅じゃがな。それと……故障ではないが副機のリチュオルコンバーターが数時間前から妙な稼働をしており機体が自動でホットスタートの状態にある……お主、どう思う?」
リチュオルコンバーターは周囲の死者の思念(邪霊や死霊) つまり、負念と呼ぶべきものを吸収し、それをエネルギーに換えることができる動力炉。そして、ライブレードに元々搭載されている補助動力もまたそれに近い。つまり、霊的な何かに強い反応を示しているのは明らかだ。それも、負の側面に関わるものに。そう結論を出したシンは険しい顔を浮かべて機体に乗り込んだ。
「博士と同じだ。敵が来る可能性が高い。コンパチブルカイザーは?」
「特殊なパーツが多くすぐには手が付けられん……
一応、代わりに別の機体の修理を急いではいるがすまんが単騎で出てくれ」
「了解。単騎で哨戒に出る。エデルリッゾちゃんを……」
『それではダメだ、間に合わんぞ?』
「シロッ、お前まだ……いや、いい! 博士、出撃だ!! 今すぐに」
肩に手を置く悪念を根こそぎはぎ取られて浄化された、シロッコならぬ白ッコの言葉にせかれたシンはそう言うとコックピットを閉鎖する。
「了解じゃ、出すぞ! 真上のハッチはまだ瓦礫でふさがれている! 強制排除しろ!! 出撃」
機体が固定されたハンガーが高速で射出される。同時に背中の翼に格納された砲台、ゼイフォニック・ブラドラーが光弾を射出する。
「修理の為に外されているキャノンがない分、背中の稼働がスムーズだ。いくぞ!!」
瓦礫が破壊され、曇った空が直上に迫る。すぐにロックボルトを解除、外に出ると同時に飛翔するべくスロットルレバーに手を置いた。
「3,2,1!」
全開を数秒。サイバスターに届かないとはいえ改造されたライブレードの機動力なら町全体を見下ろすまでの高度までならそれで足りる。
上空から街を見下ろす。表面上は何かがあるようには見えない。
(あれは……物理的現象じゃない)
何かが渦巻いている。まるでハリケーンの様なそれに黒い霧が吸い寄せられていく。
『あれは、悪意』
いつのまにかシンの肩に座っていたライブレードに宿る精霊、キャロルが口を開く。
「それは分かる。だが、なんでそれがこんな所で集まってるのかって事だ。まさかお前の食事か?」
『違うわよ。成長した今となっては、そんな強引に集める必要もないわ。
ただ、偶然でああなる気はしないわね。そう、あれは言うなれば……穴、かしら』
「竜巻じゃなくて……うっ。あああああああああああ!?」
機体に巻き付いた何かがライブレードを地面に叩きつけた。
同時に激しく揺れるコックピットの中でシンは、身構えることもできず衝撃を受け気を失った。
■弐・2■
「そうだ、そう……俺はお前に叩きつけられた。だが、何だ……! お前はなんだ!」
目の前の影を睨みつける。それは大きく、翼のある獣のような。
しかし、はっきりと形を成す事がない。ただ、闇の中を映すかのようだ。それが、穴と言われたそれから尾を引くように佇んでいる。
機体がうなりを上げる。ライブレードが猛っている。
あれが、敵だということだけが今、はっきりしている事だった。
『シン!! まともな武装もなくたった1人の今は勝ち目がないわよ!!』
「知るか!! 後先考えて退ける状況じゃねぇ! 見ろ!!」
街中を指さす。影のすぐそばで人々が暴れている。
急に始まった戦闘のパニックも無論、あるがそれだけではない。
まるで、理性が消えて動物に戻ったかのように暴れているものたちが散見される。
「明らかにあの化けものの影響だ。あれが広がっていく可能性が高い」
『じゃあ、どうすんのよ!!』
「完全に実体化できていない負念の塊である今なら……吸収できる筈だろ!!」
『な!? あんなのを!?』
「高級なディナーつうより焦げたホットケーキって所だろうが我慢しろ! 行くぞ!」
―――おいおい、勢いだけじゃどうにもならねぇ。それじゃあ、ダメだぜ兄ちゃん
体が動かない、いや時間すら止まっているかのように感じる。
『まず観察。次は思考だ。兄ちゃん、お前は生まれた時から走れたか? 這いずって、歩くようになって、そっからだろ? 勢いがあるのは結構だがそれじゃあダメだ』
「アンタは……?」
目の前に軍服を着た男がいる。老齢でメガネをかけたその男は、笑顔を浮かべていて温厚な雰囲気を纏っている。だが隙を感じない。
『ただのおせっかいな爺さんの幽霊だ。さぁ、兄ちゃん。どうすればいい?」
「……穴から出てきてまだそこに体が繋がってるなら……そこを閉じればアイツは霧散するかも」
にかぁ、と効果音がつきそうなほど口角をあげた老人は嬉しそうに肩をばんばんと叩く。
『それでいい。お前とその機体ならできる。さぁ、いきな!』
その言葉と共に、体に熱が戻ってくる。
フットペダルを真下に蹴る。相手の動きを先ほど避けたのと同じショートカットだ。
飛び上がり、上空で半円を描くように着地する緊急回避。
挙動を見ていた影の化け物が飛び上がり、ライブレードの前に割り込もうとする。
(さっきの動きを覚えていて考えて動いたな……くそ、賢い!
だが、別に逃げた訳でもねぇし、同じ動きじゃないぞ! 変形、変形、変形、変形!)
ライブレードを変形させ、速度を上げる。すぐに再変形し道路をはぎ取りながら着地し穴の前に立つ。
「今日は好きなだけ食っていいぞ! おかわりもだ!!」
『いやあああ! 今はそんなにいらない! 太っちゃうーー!』
急速に負念を吸い込むライブレード。だが、負念は枯れる事無く穴の奥からあふれだし、だんだんとキャパシティの限界に迫っていく。その中でシンは探していた。この穴の原因を。
(穴を生みだしたものは穴の近くにある筈だ。上空なら上に上がった時に見えた筈。でもそんなものは見当たらなかった。なら、下だ! 根拠としちゃ間違ってない筈。頼むぞ!)
すぐ背後に迫る影の化け物の威圧を感じながらも、砲台を露出させた翼を真下に向ける。
「ゼイフォニック・ブラドラー、全開だぁ!!!」
瞬間、轟音と閃光が周囲を満たした。
■後■
「残念ながら多少の被害はあれど、状態は落ち着いたようじゃ」
「巻き込まれた奴はいたか……」
「相手がライブレードを一撃で倒す存在じゃ、無傷とはいかん。しかし、急に現れたあの影は……」
「急に、ってわけでも……いや、見えてなかったんだろうな。それはまあ、いい。
博士、あれの回収は?」
「うむ、先んじて回収しておいたが詳しくは分からん。だが、お主のプラーナコンバータなどの機械に似たものを感じる……そこから推測するなら霊的なエネルギーを集めていたもの。という所か。大分古いがな」
「霊的なエネルギー、か……」
ソファーに座って、状況を思いだす。地面に攻撃を放って、すぐに穴は消えた。
そして、そこから負念を得られなくなった影は苦しみながら霧散した。
結果だけ考えれば、成功だったといえる。人的被害を考えなければ、だが。
『怪しい奴はいなかったわ。他の変な気配も』
「ならば、見つけたものを実験的に動かした。と考えるべきじゃ」
「同時に、その技術がそいつの手に渡った。という事もか……」
「霊的エネルギーの関連施設は各地にあったのは間違いない。
この地域にもここ以外にもあったのじゃろうな。見逃していたようじゃ……」
頭をがりがりと掻きながらいら立ちを見せる、アズマ博士。
『ねぇ、なんだったと思う?』
「わかんねぇ。でも、もしかするとそれがかつて人類が戦っていて封印した何かなのかもしれない。
そして、それは……より強大な力を得てよみがえろうとしている……のは間違いないだろうな。そして……いや、なんでもねぇ」
口に出すことはなかった。弱気になりたくなかったし、周りを弱気にもさせたくなかった。
だが、押しとどめたその言葉は自分の中で反響している。
―――そして、ライブレードと同じか、それ以上に強いかもしれない
(不意を打たれた、2人乗りじゃなくてまともな武器もない。万全じゃなかったと言い訳をするには十分だ。だが……だが、万全なら勝てたという確信も持てない……それに、あの声がなけりゃ……)
「……俺の役目は終わった筈。世界はあるべき形に戻ったんじゃないのか……?
どうなってるんだ。状況は悪くなるばかりじゃねぇか。何が……何が起きてる」
「破界……とディナミスは言っていた」
「アンタは……」
「フェルナンド、今はそれだけでいい。慣れ合うわけでもない」
「おぬし、一応、閉じ込めておいた筈じゃが……」
「修羅の前にあんなもの塵に等しい」
「いや、それよりも……なんだって?」
「破界だ」
フェルナンドは部屋の中に入ってくると、2人の前で腕を組む。
「簡単に言えば、この世界を消すつもりなのだ。丸ごとな……」