前回のあらすじ
小物臭
私は今、マックイーンさんの実家に匿われており…その大黒柱であるマックイーンさんの『おばあさまとおじいさま』と一緒に大画面テレビの前で天皇賞春が始まるのを待っている。
「…緊張しなくていいですのよ。何も、取って食おう…なんて考えてませんので」
「……。」
「は、はひっ……。」
緊張をしているのではない、とても怖いのだ。
特にマックイーンさんのおじいさまの顔がとても怖い!
周りのメイドさんや執事さんに助けを求めてみようと目線を送ってみても冷や汗をかきながら顔をそらされてしまう。
「…なるほど、アナタ。マックイーンの晴れ舞台とはいえ、顔を緩めてくださる?お客様がおびえていますわ。」
「…む……すまない。癖でやってしまっていた。」
マックイーンさんのおばあさまの言葉のおかげでマックイーン祖父の顔が柔らかいものへと変わる。よっ、よかった…私に怒ってるとかじゃなかったんだ…
「アナタ、今回の天皇賞春。元トレーナーの貴方から見てどう思います?」
「……そうだな。まずマックイーンだが、完璧な仕上がりだろう。ワシから見ても完璧をつけざるを得ない。だが油断ならないのがライアンだ。あっちもかなり仕上げてきている。マックイーンとは激闘を繰り広げるだろうが、問題は……」
「あのウマ娘、ですか?」
私がそういう相手は、栗毛縦ロールのウマ娘。
裏でやっていることを除けば、間違いなくG1を勝てる最有力候補とも言われている。
実際、重賞レースやオープン、プレオープンをまんべんなく走っているらしく…とても素晴らしい成績を残しているらしい。
そして、私が言ったウマ娘はマックイーンのおじいさまが言っていた相手で嬉しそうにうなづいた。
「脚質は逃げだが。このウマ娘の仕上がりから見て、この長距離を逃げで走り切れるとは思わない。だがら策があるのだろう…なぜか知らんが、そう感じる。」
「で、でもマックイーンさんは春の天皇賞のためにこれまで頑張ってきました……だから―――
―――マックイーンさんは勝ちます。必ず。」
「…レースに絶対はない。だが、マックイーンの隣で見てきたキミが言うんだ。間違いはないのだろう。」
「では、春の天皇賞を勝利したのならめいっぱい甘やかすことにしましょう。」
「……そういうことを言ってる割に、本人を目の前にするとポンコツになるのはどこの誰だ。」
「アナタ?何か言いましたか?」
「…別に。」
~~~~~
side:マックイーン
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…観客の声援が、控室まで届いている。
トレーナーさんは、わたくしの実家に匿っているメグルさんの代わりにわたくしのシューズの蹄鉄を調整してくださっている。
「マックイーン。」
シューズの調整が終わったのか、シューズを整えて私が履きやすいようにしてくれる。
そのシューズに足を通して、シューズの紐を結ぶ。
「作戦はいつも通りの先行だ。序盤、中盤で様子見をしつつ終盤で一気にぶち抜く。」
「もちろんでしてよ。この日のために練習してきたんですもの。」
「そうか、頼りにしている。そして、まず注意すべき相手だが…ライアンだ。あの仕上がり、ライアンのトレーナーめ、猿山の野郎からアドバイスもらいやがったな…」
「…貴方にそこまで言わせるなんて…ええ、しっかりと注意いたします。」
ともなれば、間違いなくライアンはわたくしに食らいついてくるでしょう。
学園では見かけませんでしたが、先ほど見かけたとき明らかに気迫が違いましたもの。
えぇ、ですがわたくしは価値を譲るわけにはまいりませんわ。
「その次に、例のウマ娘だ。」
「…あの栗毛縦ロールですの。」
「ああ、今までのレースを映像で見てきたが、どれも逃げばかりだ。だが、今回のレースは長距離……しかも3200mの春の天皇賞だ、どんな作戦で来るかはわからんが序盤で引き離し、中盤はキープ、終盤で再加速する走り方だ。タイミングを間違えると大変なことになる、それだけは留意してくれ。」
…メグルさんを、そしてそのご友人を傷つけた張本人。
確実に勝てる相手ならば、酉川トレーナーは何も言わないのですが、ここまで言わせるということはそれほどの実力者、ということなのでしょうか。
まあ、関係ありませんわ。
「ふふっ、けれど勝つのはわたくしです…何か疑問があります?」
「自信満々で結構、そろそろパドックだ。ファンに景気のいいサービスでも頼むよ。」
「ええ。」
~~~~~
「一番人気はこの子!やはり外せません、6番メジロマックイーン!!」
パドックは順番通りに進み、ライアンと栗毛縦ロールの番も終わりわたくしの番となる。
センターに立ち、来ていたコートを脱ぎすてて…いつも通りのポーズを…
ではなく―――
今日は、特別サービスとしましょうか。
「おぉっと、メジロマックイーン!ブイサインを空に掲げた!!」
「これは勝利宣言でしょうか。少し早すぎる気がしますが、彼女から感じる気迫を見ると納得です。」
「解説の
「そうですね、まず使用によれば彼女の仕上がりは完璧といっても過言ではないとのこと。調子も悪くなさそうなので、レースに絶対はありませんが宣言通り勝利する可能性は大いにあるかと思います。そして注目するべきは、同じメジロ家から出走するメジロライアンとの争いでしょう。」
「はい、ありがとうございます!続いて―――」
わたくしのアピールは終わったので7番のウマ娘とすれ違う。
わたくしの大胆なアピールを見てからか、少し控えめなアピールをしている。
実況の女性と解説の男性は、ペース重視だが丁寧な進行で少しずつ春の天皇賞に出走するウマ娘たちを紹介していく。
しかし、とあるウマ娘だけは…栗毛縦ロールのウマ娘だけはわたくしをにらみつけていた。
「…フフッ。」
「…チッ」
わたくしが挑発代わりに鼻で笑うと、小さくだが舌打ちをしている。
周りのウマ娘たちはそれに気づくと、冷や汗を流し…ライアンだけは目をつむって、何も見ていないふりをしてくれている。
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パドックも終わり、コースへと向かう地下通路。
そこでわたくしは、トレーナーさんとレース前の最後のやりとりを行っていた。
「はぁ~…さすがに、緊張してきましたわ。」
「そりゃそうだろう。キミにとっても俺にとっても、何度か立ったとはいえ大舞台の場なんだ。緊張してもらわないと、むしろ俺が困るんだがな。でも、負けられない。そうだろう?」
「ええ、メグルさんのためにも…それ以上に、わたくしたちの誓い…そして、おばあさまのためにも!」
「その意気だマックイーン!さあ、勝って来い!!」
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春の天皇賞のファンファーレが鳴り響き、誘導のスタッフさんの指示に従い、割り当てられているゲートへと入っていく。
いつもは…暗くて、少しだけ恐ろしいゲート。ですが、今日のゲートはずいぶんと心地がいいもののように感じる。
「暖かな春の陽気の中、始まりますは『春の天皇賞』。残念ながら18人のフルゲートとはなりませんでしたが、それでも16人のウマ娘がこの会場のターフを走ります。一番人気は6番メジロマックイーン、勝利宣言の通り勝利できるのか!二番人気は4番メジロライアン、いつもよりキレが増しています!三番人気は13番エースムーブ、このG1でもエースらしい動きが期待されます!!全ウマ娘がゲートに入り、体制整いました!!」
走り出す構えをし、意識を研ぎ澄ます。
この何とも言えない、絶妙な空気…これからレースだという意識に切り替えるのに丁度いい雰囲気だ。
ガッコン!!
「春の天皇賞、今スタートしました!!」
ライアンはどうやらわたくしをマークする作戦に出たらしい、わたくしの左斜め後ろをぴったりとついてくる。
「スルスルと前に出てハナを進むのは1番”――――”!」
「彼女の脚質にはあっていますが、この長距離をどう走り切るかが気になります。」
栗毛縦ロールはやはり逃げを選択している。
最初からハイペースだが、かかっている様子は見えない。
「それを追います2番スイートリボンと5番ラッキージュエル、ハイペースですがどうでしょう?」
「かかってはいないようですね、ハイペースながらも自分のペースをしっかりと守っています。ですが、やはり1番の彼女と同様、この長距離を逃げ切れるかが心配ですね。」
「その後ろに、6番メジロマックイーン。その背後をぴったりとマークしています4番メジロライアン。」
「いい位置取りですね、逃げ集団から付かず離れずの位置にとどまり冷静に状況を判断しているみたいです。」
第1コーナーへ差し掛かる前にそれぞれのウマ娘の位置が実況と解説により把握できる。
縦長の展開でハナを走るは栗毛縦ロール、その後を追う2番と5番のウマ娘…それを見るようにわたくしとライアン。
後ろの状況こそ気になるけれど、見るべきは前だけ…雑念を振り払い第1コーナーへと突入する。
「さあ、先頭集団が第1コーナー抜けて第2コーナーをカーブ、一周目のスタンド前直線、ウマ娘たちが歓声とともに駆け抜けていきます。現在、先頭集団は変わらず…ですが中団から後方集団にかけて激しい順位の奪い合いが起きていますが…この展開どう見るべきでしょうか。」
「14番ナニヤッテンダヨと12番ツナイダキヅナガの激しい争いにつられてかかってしまっているようです。序盤ですが、ここで体力を消費してしまうと後が厳しくなるでしょう…早めに冷静さを取り戻せるといいですが…」
「おぉっと、ここで先頭が入れ替わった!4番”――――”からハナを奪ったのは5番ラッキージュエル!!これは、早めに勝負に仕掛けたのでしょうか!?」
「いえ、スイートリボンとラッキージュエルのペースは慎重に少しづつ上がっていますが、むしろ1番”―――――”の方がペースを抑えているとみるべきでしょう。」
やはり、トレーナーさんが言っていた通り中盤はペースを抑えだした。
…しかし、今はそこまで留意するべきではないだろう。むしろ、気にかけるべきはピッタリとつけてくるライアンのほうだ。
(…ピッタリとくっついて離れませんわね。)
トレーナーさんとの成果でハイペースを繰り出し続けられているわたくしに対し、それに一歩も遅れずに引っ付いてくるライアン。プレッシャーをかけられているわけではないのだが、それでもじわじわと焦りを感じさせるレースをされている。
(けれど、いつ仕掛けてくるかはわかって……
普段のライアンならば、ここで少しだけリードするためにわたくしを追い抜かすはず。
しかし、そのライアンは仕掛けてこずにむしろ
(ッ!?なんて
そこで、わたくしは焦りを感じてしまう。
「後方から上がってくるのは、14番ナニヤッテンダヨと12番ツナイダキヅナガ!!お互いに一歩も譲らず、6番メジロマックイーンと4番メジロライアンに並んで…追い抜かしました!!」
「負けるかぁああああっ!!」
「こっちのセリフだあああっ!!」
「あのペースだとおそらく後半は根性で走り切るしかないでしょう。ですが、あの二人のライバル関係は見ものですね。」
…あのお二方のおかげで冷静さを何とか取り戻す。
いくらライアンが仕掛けてこないといっても、いまだ中盤は始まったばかり……だからこそ…
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「いよいよレースも終盤!あれから膠着した状態で各ウマ娘が第3コーナーへと差し掛かります!!盾の栄誉を手にするのは一番人気メジロマックイーンか、はたまたほかのウマ娘か!?」
「ここからが仕掛けどころですね、どのウマ娘がラッキージュエルからハナを奪い取るのか。」
結局、あのまま混戦状態となり膠着してしまった。
幸い、わたくしの体力の消耗は想定内で…脚の方もまだ残っている状態。
……来た、ライアンが…来るっ!!
「メジロライアンがペースを上げてきた!前を行くマックイーンとの差が徐々に縮まっていきます!!
最終コーナー!残り600のところで後続も次々と差を詰めてきた!!スイートリボンとラッキージュエルは厳しいか!?」
「ラストスパート、勝負どころです!どのウマ娘が抜け出してくるのでしょうか!!」
「囲まれ始めるメジロマックイーン!メジロマックイーンはここまでかー!?」
……ここまで、ですって?
冗談じゃ…冗談じゃありませんわ!!
(ここまでのはずありませんわッ!!勝利に向けて、二人三脚で…いえ……
そう、強く意識を持ち…スパートのため強く一歩を踏み出す。
……その途端―――
視界に映る景色を、塗りつぶした。
【貴顕の使命を果たすべくLv.2】
「ここでメジロマックイーン、囲いから抜け出し一気にスパートをかけハナを奪い取ったー!!」
「冷静な判断でしたね!これは勝負が決まりましたでしょうか!?」
脚が軽い、けれど苦しい…
けれども、わたくしは…勝―――
「無駄な努力、ご苦労様ですわ。」
(なっ!?)
「内から1番”エヴィルクロー”があがってきた!メジロマックイーンからハナを奪う!いったいどこから飛んできた!?」
「あぁ!?内側です!最内を無理やり通ってきました!?」
「後ろからメジロライアンも上がってくる!ものすごい末脚で前へ迫る!!しかし、エヴィルクローもメジロマックイーンのスピードも落ちない!!」
なぜ、どうして…?
わたくしは、わたくしは……ここで、まけるんですの?
…負けたくない、わたくしは…わたくしは……
「負け、られない!!」
脚が、重い。息も、苦しい。
しかいが、はいいろ…に……
『…託しましたわ、わたくし。』
(―――えっ?)
【最強の名を懸けてLv.■■■】
うつむきそうな顔をあげる。
いまはただ、前に走るだけ。
「やあああああああああああ―――――――っ!!!!」
「マックイーンが再び加速!!エヴィルクローを抜き去った!!」
「に、二段加速ですか!?し、しかもなんて加速力だ!?」
「マックイーン先頭!ライアンもエヴィルクローも必死に追い上げるがその差は広がっていく…いや、
「先頭は、メジロマックイーン!!メジロマックイーン優勝ー!!」
ゴール板を全力で駆け抜け…ゆっくりとスピードを落とす。
息を整え、汗をぬぐい…観客席に向けて手を振る。
「やりましたメジロマックイーン!見事、春の天皇賞を制しましたーっ!!」
「大荒れだった天皇賞でしたが最後まで冷静を保ち、最後は自身の思いを全力でぶつけていましたね。私も思わず、解説そっちのけで叫んでしまいました。ともあれ、優勝おめでとうございます!!」
~~~~~
「うそ…よ。このわたくしが、負けるなんて……」
「こんにちは、エヴィルクローさん。」
ファンへのサービスも終わり、トレーナーさんと喜びを分かち合った後…控室へと向かう地下通路。
そこでたった一人だけ、残っていた彼女に声をかける。もちろん、トレーナーも同伴してだ。
「め、メジロ…マックイーン。あの時の、あの時のお前が!?」
「ええ、
随分とうろたえている様子。
どうやら、わたくしの名前は知っていても容姿を知らなかったみたいだ。
…どうしてわたくしの名前は知っているくせに容姿は知らないのか問いただしたいところだが…
いうべきことは、そこではない。
「どうして、どうして冷静なレースができる!?アイツを陥れたはずなのに!!」
「ええ、メグルさんは確かに陥れられましたわ。ですが、残念でしたわね。最初に向かわせたウマ娘がわたくしで。」
随分と焦った様子で息を整えるエヴィルクロー。
わざと足音が鳴るように近づけば、しりもちをついて後ずさりしてまで逃げようとする。
「さて、エヴィルクロー。」
「ヒィッ」
「メグルさんたちにしたこと、これから先…きっちりとお返しさせていただきますわ。」
「(ブクブクブクブク……)」
…軽くプレッシャーをかけただけでエヴィルクローは泡を吹いて倒れてしまう。
どうやら極度の緊張と恐怖で意識を失ってしまったみたいだ。
「トレーナーさん。」
「…はいはい。とりあえず、スタッフには連絡しといたよ。」
おそらくこれでエヴィルクローはおとなしくなるだろう。
次、またメグルさんたちに何かをするというのなら…それ相応の対応をするだけのことだ。
「さて、マックイーン。ライブだが…出れるか?」
「もちろんですわ!メジロ家たるもの、ライブも完璧にこなして見せますわー!!」
「……まあ、今のマックイーンのふんわりした方がいいか。」
長かった…(6751文字)
予定のなかった栗毛縦ロールの名前ですが、途中でつけました。
やっぱり名前がないと、お話の展開がなにかシュールになってしまうので仕方なく。
(※ エヴィルクローはオリジナルウマ娘です)
ちなみにマックイーンのキャラが安定しないのはご愛嬌として受け止めてくれるとありがたいです。