前回のあらすじ
メグリメグルのできる事
あれから一週間の日にちが流れた。幸い、その一週間の間でマックイーンさんの様子は少しだけでも元に戻った…とは、言えない。
…その一週間の間で、マックイーンさんはみんなに依存するようになり始めていた。あの時の私がループ現象に巻き込まれ始めた時の、ゴルシのように。
みんな、ダメなことは理解しているのだ…だけど、ボロボロなマックイーンさんを見て誰も咎めることができていない。むしろ、あのマックイーンさんを誰が咎められるというのだろうか。
「マックイーン君たち、どうだい?私の淹れたコーヒーは。」
「と、とても苦いですわ……」
「に、苦すぎて目が回るよ…」
「か、カフェインをいれるのにはいいかもね…」
「むぅ…この苦みが良いんだがねぇ……」
「…では、マックイーンさん。私のコーヒーはどうでしょうか。」
「……こちらのコーヒーは甘さは控えめですが後味がすっきりとして飲みやすい……わたくしはこちらの方が好きですわ。」
「うん、それに香りもとてもいいね。」
「あ、このコーヒーの味…私知ってるかも。」
「…ふふん。(どや顔カフェ)」
「むぅ…。(ぐぬぬ顔タキオン)」
みんなは、曇る心を何とか隠しいつもの日常を続けようとしている。
そうでもしないと、マックイーンさんに何かあったと悟られてしまうからだ。
酉川トレーナーさんも切り傷こそ増えているが、いつも嘘とはばれないような嘘をついて小鳥遊トレーナーもそれに合わせているためマックイーンさんはまだ気づいていない…かも。
小鳥遊トレーナーは酉川トレーナーのように切り傷こそないが日に日にその疲労度は増している。あのデジタルさんがウマ娘のことを放っておいても小鳥遊トレーナーの仕事の手伝いをする程度には…だ。
だけど、それよりも心配なのはゴルシだ。いつも通りの調子のように見えて…かなり曇っている。
私が疑われ、マックイーンさんが社会的に殺されかけていて…なおかつみんな偽りの笑顔でその場をしのいでいる現状を何とかしたいとは思っているのだろう。だけれど、それ以上にマックイーンさんがボロボロで依存までし始めて…それを理解できているのはゴルシだけだから…なおさらだ。
(でも、それも…今日で終わりだ。)
「[ドアをノックする音]…失礼する。メグリメグルはいるだろうか。」
扉の向こうからエアグルーヴさんの声が聞こえる。
それだけでもマックイーンさんがビクッと震えて、ゴルシに助けを求めるように視線を送る。
「…メグル、何かしたのか?」
「………大丈夫です。すぐに戻りますから。」
「おい、今の沈黙はなんだ?おいッ!」
酉川トレーナーの声を振り切り、すぐさま廊下に飛び出てエアグルーヴさんの手を引いて足早にそのトレーナー室から遠ざかる。
グルーヴさんも意図を察してか途中から速足で動いてくれていた…
「…いいのか?」
「……これが、私の戦い…私のできる事なんです。」
「……わかった。」
~~~~~
しばらくして、私は秋川理事長と話をしていた。
これからすることは、私にとって精一杯で一度しかできないこと。
「疑問、本当に…良いんだな?君がやろうとしていることは―――」
「―――わかっています、許されないということは。でも、私が…私だけがやれることなんです。」
「……わかった。私は…いやここで何を言っても君の決意は変わらないのだろう。なら、私は…君を見守ることにする。」
「…ありがとうございます、秋川理事長。」
「理事長、メグルさん。お時間です。」
たづなさんが腕時計を確認した後、そう声をかけてくれる。
……これから、私がすべきこと…それは
―――事実をすべて話すことだけだろう。
=====
外で、雷鳴が鳴り響くトレセン学園の体育館。
その壇上で、私は秋川理事長からマイクを渡されるのを待っている。
…私のことを心配してくれているルドルフさんたちがチラチラと不安そうな視線を私に向けている。
大丈夫だ。私は、大丈夫。
「…では、これよりチーム『シリウス』の代表としてここに居るメグリメグルに対する問答を開始する。」
秋川理事長が、マイクを渡してくれる。私は、そのマイクを受け取り、座っていた椅子から立ち上がる。
その途端、体育館に居る記者たちの視線だけではなく…抽選から選ばれた普通の人たちの憎悪が混じった視線もむけられた。
「ご紹介にあずかりました、私がメグリメグルです。チーム『シリウス』を代表してこの場に居ます。」
「メジロマックイーンが妨害するように工作したというのは事実でしょうか!?」「マックイーンさんがURAの規定を違反する薬物を使用したのは事実なんですか!?」
「もしくは、アナタがマックイーンさんに対して違法薬物を使ったとの情報もありますが!」「そもそもアナタではなく『シリウスのトレーナー』がその場に立つべきではないのか!?」
「質問をする場合は、挙手をして選ばれた方のみがして下さい!!」
すぐさま騒ぎ出した記者に対してたづなさんが注意するが、私はたづなさんに視線を送って…注意をしないようにお願いをした。
たづなさんもそれに気づいたのだろう、悔しそうに顔を俯かせてしまう。ごめんなさい、たづなさん。
「まず、一つずつお答えしていきます。マックイーンさんが妨害するように工作したということ、そしてマックイーンさんが違法薬物を使用したということは事実無根です…いえ、URAから押し付けられた冤罪と言ってもいいでしょう。」
「では、アナタがマックイーンさんに対し違法薬物を使用したというのは事実だと認めるんですか!?」
「いいえ、それもまた…事実とはかけ離れたことです。確かに私は、容疑をかけられ警察に任意同行という形でついていきましたが私は、マックイーンさんに対してそのようなことは一切行っておりません」
「貴様では話にならない!『シリウスのトレーナー』を出せ!!」
「私たちのトレーナーは、不慮の事故と最近の騒動による後始末で倒れてしまいこの場に立つことはできません、ですので私がここに居ます。」
私が淡々と説明や回答をしても記者や、その返答を聞きに来た人たちは全く信じてはくれない。
当たり前だろう、私が事実を述べたとしても結局は『シリウスに所属してる』子供に過ぎないのだ。そんな子供が事実を述べたところで、大きな組織であるURAの偽造した答えを信じたほうが楽なのだろう。
…そう考えていると、私の頭に何かがぶつかり…遅れて痛みがやってくる。
「っ……(これは、卵?)」
「お前のせいだ!お前のせいでマックイーンが負けたんだ!!死ね、死んじまえ!!」
「……たづな。」
「はい。」
私に卵を投げたであろう男の人が、警察の手によってすぐさま取り押さえられて連れ去られていく。
一度、会見をたづなさんが止めようとするが私は構わず手で制す。
「…ダメですよメグルさん、だって…血が。」
「私より、マックイーンさんの方が苦しくて辛いんです。そんなことに比べればこの程度なんてことはないです。それに、ウマ娘は頑丈なんですよ?心も体も、特に私は。」
「………っ[たづなさんの歯軋りの音]、分かりました。では、続けて質問を――――――」
「―――失礼いたしますわぁ。」
…会見を続けようとしたところで、たづなさんからマイクを奪うウマ娘がいた。
「この会見において、
「……エヴィル、クロー?どうしてここに?」
「…汚名を雪ごう、なぁんてわたくしはこれっぽっちも思ってもいませんわよ?今でも、アナタが憎らしいですもの。ただ…
悪い笑みを浮かべた後、エヴィルクローは軽快に手をたたく。
すると、彼女の手下の黒服がそそくさとプロジェクターを用意する。
会見中に起きた出来事に記者や会見を見に来た人だけでなく秋川理事長やたづなさん、ルドルフ会長たちも目を丸くして驚いている。
「おほん、失礼いたしましたわぁ。わたくし、エヴィルクローと申しますわぁ。今回、彼女の
ざわざわ…
「え、エヴィルクローって確か、トレセン学園初の素行不良で謹慎処分になった生徒じゃぁ」「しかもあの悪名高いエヴィル家の令嬢…何をしにここへ?」「というか、くだらないだと?大人をなめてんのかアイツ。」「こちとら仕事で聞きたくもねぇガキの戯言を聞いてんだぞ?とっとと追い出せよ……」
「おほほほ、ウマ娘をなめていますわね。確か、〇〇社の
「「「「ッ!?」」」」
「もちろん、エヴィル家の者がよく知っている…ということは逃げ足の速いあなた方なら嫌でも分かりますわよねぇ?」
エヴィルクローが悪い顔でそういえば、先ほど小声で話し合っていた記者たちが荷物をまとめてそそくさと逃げ出していく。
……ど、どういうことなの?
「あぁ、言っていませんでしたわね。エヴィル家は代々、ハッキ・・・情報関係の仕事が得意な家でして…まあ『そういうこと』ですわぁ。さて、準備が整いましたので、質問の前にみなさま、こちらの映像をご覧くださいませ?あぁ、そちらのテレビ局の方?この映像からカメラを離さないようにお願いしますわぁ?」
「「は、はいぃいいいっ!」」
そして、エヴィルクローがパソコンを操作し映像が流れだす。
流れ始めるのは、あの時の秋の天皇賞の映像だ。
「こちらの映像、わたくしの家が撮っていた映像でして…こちら、赤線に囲まれたウマ娘をご注目ください。」
エヴィルクローが注目させた途端、その赤線に囲まれたウマ娘…”インクィティー”が”スニーキートラップ”さんにバランスを崩したように見せかけて体当たりをし、そしてスニーキートラップさんが転倒した。
しかし、それを見た記者たちだけでなく秋川理事長もたづなさんも、この会場にいる全員が驚いている。
「そしてこちらのウマ娘、何とURA上級役員取締役…
映像が切り替われば、”インクィティー”がメディアにもよく顔を出している伏島氏と取引を行いその伏島氏にキスをした映像が流れだす。
そういえば、伏島氏には売春疑惑がかけられてたって噂で聞いたことがあるけれど…まさか、これの事なの?
もう、記者会見の会場は騒然としており見に来た人たちは大混乱に陥っている。記者たちもエヴィルクローが落とした爆弾にてんやわんやテレビ局も報道はしているもののどうすればいいのか混乱を極めている。
「そ、そんな映像…でっちあげや嘘っぱちじゃないのか!?」
「あらあら、これを見てもなおまだ噛みついてくるアナタ…たしか、伏島氏に賄賂を渡されている記者ではありませんの~!」
「ぐぅっ!?ふ、ふざけるな、そ…そんな証拠がどこに!!」
「証拠でしたらぁ…この通り♡」
またエヴィルクローがパソコンを操作すれば、映像の代わりに写真が映し出される。先ほど叫んだ記者が伏島氏と握手をして現金を受け取っている、決定的な写真が。
「おほほほほっ!このエヴィルクローは何から何まで計算済みですわぁ!!」
~~~~~~~
騒然となった記者会見も終わり、マスコミは逃げるように散って暴れそうになっていたファンたちも嵐のようにトレセン学園から去っていった。
とっさのことに騒然となったが、スマートフォンから情報を集めてみればマックイーンさんや私、酉川トレーナーにメジロ家に向けられていた批判は、URA運営…特に上級役員取締役の”伏島氏”へと向けられている。
…それでも
「どういうつもり?こんなことで、私が許すとでも?」
私は、エヴィルクローを睨みながらそう聞く、私が怒っていることが珍しいのだろうルドルフ会長たちは固唾をのんで見守っている。
「もちろん、許されるなんて思ってもいませんわぁ。最初に言ったじゃありませんの…あくまで”わたくしの為”にやったことだと。わたくし、確かに成績操作も教職員への癒着もトレセン学園のデータベースのハッキングだってやりましたわぁ。あくまで、腐敗を利用したにすぎませんが…それでもそれは悪いことであることは分かってますもの。」
「…それで、どうしてナラクさんを?」
「…本来なら、わたくしがサポート科主席の座に就き…アナタには2位の座で終わるべき問題を……あの方が聞いたからですわぁ。それに、それを利用して脅したのはアチラが先でしてよ?こちらが握った弱みをつついてやれば逆上して襲い掛かってきたので身の程を分からせてやっただけですもの。」
「口では何とでも言える。お前がやったことは結局わ―――」
「―――『毒を以て毒を制す』。その言葉も知りませんこと?学がありませんわねぇ。」
悪いことじゃないか、と言おうとして…言葉を遮られ、私が閉口したのを見ればエヴィルクローはここぞとばかりに畳みかける。
「わたくしがやったことは腐敗を利用しただけ、人には必ず弱みや腐敗がある。わたくしはそれを利用して自分の立場を確固たるものにしようとしただけですわぁ?それを咎めることはできても止めることはできませんもの、人間やウマ娘には必ず闇がある。それを、努々忘れないことですわねぇ?」
……
バチン!!
そこまで言い切ったエヴィルクローの頬を、私は平手でひっぱたく。
エヴィルクローもそれが飛んでくることを理解していたのだろう、何もせずにただ引っ叩かれた。
私の行動に驚いたルドルフ会長たちが目を見開いているが、今は気にしない。
「……これで貸し借りナシだ。次、私の前で姑息で卑怯なことをしてみろ。貴様をすりつぶす。」
「…おぉ、怖い怖い。なら、汚いものが大っ嫌いなアナタの目の届かないところでコソコソとやらせていただきますわぁ?」
威圧と共に言葉をぶつけてやれば、エヴィルクローはそそくさと逃げるように離れていく。
「あぁ、そうだ。」
と、何かを思い出したように私の方向に振り向くエヴィルクロー。
「わたくし、有馬記念に出走しますの。ですので、メジロマックイーンにこう伝えてくださいまし?『今度は追い抜かさせない』と」
「……。」
「おほほほほほっ!」
高笑いをしながら去っていくエヴィルクロー。
……しかし、しばらくして頭の痛みを思い出して冷静になる。
「…ごめんなさい、変なことに巻き込んでしまって。」
……って
「えっと…なぜ距離を取るんですか?」
「「「「「いや、(豹変して)怖いから!!」」」」」
「えぇー!?」
……なんだか、締まらない形になってしまった…かな?
真・激おこメグメグ
普段は聖女だがマジギレすると暴君になる。
少なくともこの後『シリウス』のみんなに怒られるのは確定している。
エヴィルクロー
どう捉えるかは読者次第。
秋川理事長
何気に初登場。メインストーリーには滅多に出てこないのなんで?
たづなさん
今回一番悔しかった人。もし暴動が起きていたら身を挺してメグメグをかばっていた。
カイチョー
メグメグがマジギレしている姿が誰かに似ている気がした。
たわけメーカー
今度からメグメグの仕事を少なくしようと思った。
野菜嫌い
下手に機嫌を損ねないようにしようと思った。