とあるモブウマ娘が、ループするお話。   作:ライドウ

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前回のあらすじ

ゴルシの本音




Re:メジロマックイーン 11R

 

[観客の声援]

 

有馬記念の日がやってきた。

私は…ううん、シリウスの(予定で来られない人を除く)メンバーは観客席のゴールがよく見える位置に陣取り、マックイーンさんの応援をするべきみんなワクワクしている。

URA運営に問題が発覚したとはいえ、予定されているレースは取り消されるわけではなくレース場に所属する職員さんたちが率先してレースの準備を進めている。

 

「うぅ~…心配だよ~。」

「もう、リリスったらここに来てからそればっかりじゃん!」

「だ、だってぇ~。」

「心配すんなよ~、そんな顔だとマックちゃんも不安で倒れちまうぜ~?」

「は、はぅ~…」

「ゴルシ…それ逆効果になってるよ。まあ気持ちはわかるけどね。」

 

リリスさんが心配するのも無理はない、何せマックイーンさんは『秋の天皇賞』以来レースには出ていなかったのだ。

本来のシリウスシナリオ(メインストーリー)で出走するはずだった『ジャパンカップ』でさえマックイーンさんのメンタル面の不安もあり辞退。回復してからも、『極限の境地』を手に入れるべくトレーニング漬け。

だけど、有馬記念でファンたちの投票もあり出走することとなったのでぶっつけ本番となっている。

ブラストさんとパンプキンさんは気付いてはいないけれど、実際今のマックイーンさんが無事にこの長距離を走れるかどうか不安な状態なのだ。

もうすでにパドックは無事に終わっており、あとはレース前のファンファーレ待ちなのだが…その時間がやけに長く感じる。

 

「は、早く始まってぇ~」

 

…とりあえず、まずはリリスちゃんを落ち着かせることからかな。

 

~~~~~

side:マックイーン

~~~~~

 

[観客の声援]

 

同じレースを走るウマ娘にちょっとしたアクシデントが起きたらしく、先ほどスタッフの方が少しだけ時間をずらすとの連絡が来たのがほんの3分前。

その間に(わたくし)は、メグルさんに(なぜかボロボロになっていたので)仕立て直してもらった勝負服を着たまま椅子に座り深呼吸をする。

酉川トレーナーも、堂々としており…タブレットを操作しては何かの情報を整理していた。

 

「気合も覚悟も十分、パドックも上々、シューズの微調整良し。後は、本番のレース次第だな。」

「…ふぅ、さすがに息が詰まりますわ。やはり、久々のレース…それもG1となると震えが止まりません。」

「さすがに、一回だけレースを挟みたかったが…さすがに無理だ。12月は長距離のレースはほとんどない…ステイヤーズカップでさえ、あの絶不調の時期だ。」

「…そう考えると、(わたくし)は10月後半からレースやトレーニングをしていなかったのでかなり不利。ということですわね。これをどうするんですの?」

 

(わたくし)がそう聞けば、酉川トレーナーは呆れたという表情と一緒にため息をこぼす。

 

「…さっきも説明した通りギリギリの戦いになるが序盤と中盤は抑えて、終盤で『極限の境地』と『領域(ゾーン)』でひっくり返すって言っただろう。」

「それで、警戒するべきお相手は?」

「それもさっき言ったが…まさかおさらいのつもりか?一番注意してほしいのはライアン…いや、エヴィルクローだ。アイツ、マックイーンに春の天皇賞で敗れた後…走り方と戦い方を変えてきた。」

 

すると、酉川トレーナーはタブレットを操作し複数枚の画像を見せてくれる。

そこに映っているのは先頭ではなく、(わたくし)と同じく先頭集団の4番目で何かを狙うエヴィルクロー…しかもそれだけではない、春の天皇賞では見られなかった部分が随分と多く見れる。

これは確かに、ライアンよりも脅威が高いと言えるでしょう。

 

「油断すれば喉元に噛みついてくるワニだ…十分、警戒してくれ。その次点でライアンだ。宝塚記念のような執念こそないが、それでもそのレース能力は脅威と言える。」

「ふふっ…むしろ燃えるシチュエーション…とゴールドシップは言うでしょうね。」

「…いつの間にゴールドシップのマネなんて始めたんだよ。」

「ゴールドシップは元気が売りですから、参考にさせてもらっただけですわ。」

 

そう冗談を言えば酉川トレーナーは笑い出す。

 

[ドアのノック音]

 

「そろそろ始まりまーす!準備お願いします!!」

「わかりましたわ!」

「…マックイーン。」

「…なんですの?」

「勝っても負けても、あのトレーナー室でパーティしないか?」

「なら、勝利のお祝いにしましょう。」

 

「…行ってこい、マックイーン。」

「ええ、もちろんでしてよ。」

 

~~~~~~

 

[観客の声援]

 

「冬風吹き荒ぶ中山レース場、幸いなことにバ場は良バ場でカラッとした快晴。年々寒くなる冬の日にも拘らず、本日ファン投票により選ばれた16名のウマ娘が今年最後のG1レースを駆け抜けます!本日実況席には、毎度おなじみの葉矢車さんにお越しいただきました!」

「今年最後のG1、そしてメジロマックイーンのいきなりの復帰宣言からの参戦予告でこの中山レース場には人があふれていますね!」

「はい、なにせ中山レース場の職員が集計したところ今年の地方・中央を含めたすべてのレースの中でもトップクラスの人数が駆け付けているとのこと!さて小話はここまでにさせていただきまして…これよりファンファーレの演奏が始まります!!」

 

実況の方と解説の葉矢車さんの話が終わり、遠いところでファンファーレが鳴り響く。

私はゲートを目の前にしながら、深呼吸を行い…エヴィルクローに視線を向ける。

 

「…メグルさんの件は、感謝いたします。しかし、レースは全力で挑ませてもらうためそのつもりで。」

「何かと思えば、そんな事ですのぉ?あれはわたくしの為ですのでアナタなんかに感謝される筋合いはないですわ~?それはそれとして…アナタがわたくしに負けて地べたに這いつくばるのを楽しみにさせていただきますわ~?」

 

売り言葉に買い言葉。

軽く牽制のつもりで領域(ゾーン)のエネルギーをぶつけると、エヴィルクローも負けじと領域(ゾーン)のエネルギーを(わたくし)に向けてくる。

周りのウマ娘が震え、スタッフさんからゲート入りの掛け声がかかり、(わたくし)とエヴィルクローはそれぞれゲートに入る。

 

―――今のアナタでは、確実に負けるでしょう。

(それがどうしたというんですの?)

 

一人、また一人とウマ娘がゲート入りを完了し、会場のざわめきが少しずつ小さくなっていく。

 

―――負け恥をさらすことをするのはなぜなのです?

(負けるなんて、だれが決めたことなのですか?)

 

最後のウマ娘がゲートに入る前に、目をつぶり…意識を鎮めて深呼吸をする。

 

(無意味かどうか…そんな道理は、(わたくし)が決める事ですわ。)

 

「さあ、各ウマ娘がゲートイン完了…スタッフがゲートから離れまして……[ガコン!]有馬記念、今スタートしました!!」

 

完璧なスタート(コンセントレーション)をきることができ、早々に先頭集団に紛れ込み、走りやすい場所を取る(注目の踊り子)

ライアンが左後ろに陣取り、エヴィルクローはライアンの右後ろ…つまり、(わたくし)の後ろに陣取っている。

 

「さあ、ハナを進むのは16番ミームモンスーンと14番モノウリコンザツ!少し後ろに4番サムライデン、3番メジロマックイーン、6番メジロライアン、9番エヴィルクロー。中団先頭は泣きながら11番チクショボウ!そのすぐ後ろにモザイク案件13番ブチギレポプコ、以下ひと塊となって観客席前を駆け抜けていきます!」

 

久々のレース、そしてターフの感覚にすぐさま余裕を失いそうになってしまうが……チームのみんながわたくしを応援してくれていることに気づいて落ち着きを取り戻す。

まだ、まだレースは始まったばかりだ…心を落ち着けて…冷静に……

 

「レースはほぼ膠着状態のまま中盤に差し掛かる!順位は変わらず、だがペースは段々と上がってきた!しかしメジロマックイーンがだんだんと追い詰められていく!!」

「やはり、いきなりの復帰宣言…ギリギリまでトレーニングしてきたのでしょうけれどもこれは…」

 

まだ…まだキリどころではない。こんなところで使ってしまえば捕まるのはこっちだ。

まだ…まだまだ・・・…

 

「さあ、各ウマ娘が各々のペースで最終コーナーに差し掛かる!おぉっとミームモンスーンとモノウリコンザツがライアンに追いつかれた!」

 

ここじゃない…落ち着け…ギリギリまで……わずかな隙を……勝利への道を

 

「メジロライアン先頭、メジロライアン先頭!残り600mを切った!メジロマックイーンは落ちていく!!」

 

ライアンが(わたくし)を置いてきぼりにして先頭を駆け抜ける。

その表情には、曇りもなく…また油断もない。しかし…

 

ゾワッ…

 

(…来た!)

 

【孤高ナル悪 Lv.1】

 

目の前に広がるのは、エヴィルクローの領域(ゾーン)

イメージが(わたくし)にも襲い掛かり、暗闇が(わたくし)たちを覆い隠す。

最後に、カードとなった(わたくし)へと妖艶な笑みを浮かべ…一枚のカードを落とす彼女が…

 

 

「エヴィルクローだ!エヴィルクローがライアンを差した!!どこにいた、どこに隠れていた!!悪役令嬢の脅威が今メジロライアンの首元に添えられたぁッ!!」

 

 

実況さんの熱のある言葉で、現実へと引き戻される。幸い、まだチャンスはある。

 

(・・・…今が、使い時。仕掛けるなら…今。)

 

意識を切り替える。

 

周りの景色が、ゆっくりと流れていく。

 

自分の呼吸の音、心臓の音、脚に響く地面をける衝撃。

 

周りのウマ娘たちの思いや、願い、闘志が感じ取れる。

 

……ッ!!(極限の境地)

 

「こ、これは…春の天皇賞の時の!?」

「め、メジロマックイーンが上がってきた!メジロマックイーンが復活したッ!!ものすごい勢いでエヴィルクローを猛追するマックイーン!!だが追いつけない!これでは絶対に追いつけない!!」

 

「わたくしは…(わたくし)はッ、シリウスのッ…新しいエースだああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

【導きの一等星(シリウス) Lv.2】

 

 

 

 

「追いついた!メジロマックイーンが追いついた!!エヴィルクローと並んだままゴールイン!!エヴィルクロー、わずかに体勢有利か!?」

 

 

 

~~~~~~

 

「…ふふ、アナタの覚悟しっかり見させていただきましたわぁ~?」

「はぁ…はぁ……まだ、勝敗も決まっていませんわよ。」

「……わたくしの…負けですわぁ~。」

 

大の字になって倒れるエヴィルクロー、膝をついて肩で息を吸うわたくし…

しかし、エヴィルクローは清々しい表情で空を見上げていた。

 

「けれど…こういう負け方も、悪くないですわね~。」

 

「勝ったのは、メジロマックイーン!!わずか1㎝の差でメジロマックイーンの勝利です!!」

 

ワァア~~~~~~~~~ッ!!

 

「…へ?」

「ほら、勝者のマックイーンさん?ファンの皆様がお待ちですわよ?」

 

何が何だかわからずだけれども…わたくしはエヴィルクローの後押しもあり…脚の負担にならないように軽く走りながら、観客席に向けて手を振る。

 

「おめでとう!マックイーン!!」

 「あなたなら勝てると信じていました!!」

「マックイーンばんさーい!ばんざーい!!」

 「きゃー!マックイーンさーん!!」

 

ファンの皆さんの歓声が、あふれんばかりに降り注ぐ。

ファンの信頼に答えられたことがうれしいんだろうか…わたくしは……晴れ晴れとした気分で、シリウスのみんなの元へ駆け寄った。

 
























プルルルル…プルルルル……[ガチャッ]

『――――、――――――――――。』
「えぇ、わたくしはこれで引退ですわぁ~?」
『――――――?』
「とても、とても心地の良いレースでしたわ。もう、悔しさも吹き飛ぶぐらいの。」
『―――――――――。』
「……その節はどうも、払った報酬も無駄にならないことを祈りますわ?





――――()()()さん?」
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