前回のあらすじ
掲示板!
ゴルシとライスさんが、プレッシャー…正確には大きな足音を立てつつスピードを落とさない方法を模索したあの日から、ほんの数週間。
日本ダービーの日がやってきた。
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東京レース場『ライスシャワー控え室』
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[ブルボン!ブルボン!!]
[ライス!ライス!!]
観客席で行われているブルボンさんとライスさんに対する期待の呼び声が控え室にまで聞こえている最中……ライスさんは―――
「ら、ライスは大丈夫。ら、ライスは大丈夫!ら、ライしゅはらいじょうび!かっ、かんじゃったぁ〜!うぇ〜ん……」
―――あっ(察し)、ダメそうですね。
いくらブルボンさんに勝算を見出したと言っても、ライスさんはライスさん。自信が無いらしく、先程からあわあわと慌ただしくしている。
「ライス、深呼吸だ。吸ってー?」
「すぅー……はぁー……すぅー……はぁー……。う、うん。ちょっとだけ…お、落ち着けたよ?」
「よし、レースプランを再確認するがいいか?」
酉川トレーナーの言葉にライスさんは頷く。
私はその間にライスさんが履く靴にくっついている蹄鉄を確認しておく。
「まずは、先頭集団の後ろにつくのがいいんだよね?」
「ああ、幸いなことに今回の日本ダービーにはライスを含め先行策が5、逃げがミホノブルボンのシンプルな構成だ。よほど変則的な戦法をするようなウマ娘はいないはずだ。」
「ふぇ?」
「あくまで、さっき言ったことを前提として考えてくれ。んで、中盤の最後の方にあのプレッシャーを使用。最終局面は溜めてた脚でぶっちぎる。そういう作戦で行く。ちょっとわかりにくいだろうが…本番はライスにお任せだ。」
「わ、分かった…頑張ってみるよ!」
ライスさんは足を小鹿のように震えさせつつも、酉川トレーナーにそういう。
まだ怖いのだろう。けれど、酉川トレーナーの為…ひいてはマックイーンさんやゴルシの為に頑張ってみることを選んだみたいだ。
[ドアのノック音]「ライスシャワーさん!本バ場入場準備お願いしまーす!!」
「ひゃい!い、いますぐいきましゅっ!!」
「…勝っても負けても、シリウスはライスの居場所だ。存分に走って来い!」
「!……うん、頑張るよっ!」
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東京レース場 観客席
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「うー…そろそろだぁ。」
「じ、自分のことのように心配するのぉ~…」
「大丈夫だよ。きっとライスちゃんは上手くやれるって!」
「そうです、応援しに来た私たちが不安がっているとライスさんがもっと不安がってしまいますわ!」
私と酉川トレーナーが観客席のみんながいる場所に戻ってくると、ブラストさんとリリスさんが不安がり、逆にパンプキンさんとマックイーンさんはそんな二人を励まし応援に専念するよう声掛けする。
そこへ、どこかに行っていたゴルシが戻ってきてみんなに声を―――
「そーだそーだ!それにこのゴールドシップ様が直々に教えたんだぜ?だいじょーぶだって安心しろよな~!」
「「「「一番の不安要素なんだけど!?」」」」
チーム内の一番のいい意味でも悪い意味でも問題児であるゴルシのせいで四人の心が一つにまとまった瞬間を見た。
「メグメグ~、酉川トレーナー!ゴルシちゃんの信頼度どうなってるのぉ~!?」
「ごめん、庇いきれない。」
「日頃の行いだろ…?
「ぴえん。」
耳を動かさずにウソ泣きを始めるゴルシ。多分そこまで気にしてないし、自覚してると思うから放っておいても大丈夫だろう。
やがて音楽が鳴り響き、地下通路から18人のウマ娘がそれぞれ出てきて…ターフを軽く走り始めた。
「さあ、始まります!この世代の最も運がいいウマ娘を決めるレース、『日本ダービー』!!皐月賞は二代目努力王、または『サイボーグ』との異名が付いた”ミホノブルボン”が制しましたが、解説の葉矢車さん、今回の日本ダービーは誰が取ると思いますか?」
「解説の葉矢車です。そうですねー、今年は大豊作…特に、努力で短距離から長距離すべてを1着で走破したサクラバクシンオーさんの後継者であるミホノブルボンさんは最も有力ではありますが、奇跡の体現者であり天才レースメーカーであるメジロマックイーンさんの後継者とも噂されているライスシャワーさんも見ものですよ。そして、実力のあるその二人に加えて今年の日本ダービーは出走するウマ娘も軒並みならぬ実力者です。この日本ダービー…何があってもおかしくはないでしょうね。」
「はい、ありがとうございます!ではそろそろ、ゲート入りです!」
実況の人と解説の葉矢車さんの放送された会話が終わると、ファンファーレが鳴り響く。
レース場にいるすべての人がファンファーレに合わせて手をたたいて歓声をあげ、そのファンファーレが終わると同時に緊張した空間が完成される。
正直、今この時点でライスさんがブルボンさんに勝てる可能性は、かなりと言っていいほど小さい。でも、適正と言う面ではライスさんの方が分があるし、ゴルシとの共同トレーニングのおかげでライスさんの走りはある程度定まっている。それがうまくブルボンさんに与えられれば、ライスさんにも十分な勝機はある。だけど…
「…ゴルシ、どう?」
「……厳しいかもしれねぇ、ブルボンの奴なんてアタシでもさすがに緊張する張り詰めた空間の中で耳一つ動かしてない。むしろ、リラックスすらしてる…そう考えた方が高いかもな。」
「…じゃあ、ライスさんは?」
「いや、ライスは負けねぇ。アタシも教えて、シリウスのみんなが応援したんだ。まずは信じるってのが師匠ってもんだろ?」
「そうだね。うん、信じよう。」
私は、ゲートの中で目をつむるライスさんを見つめた。
頑張って、ライスさん!
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side:ライスシャワー
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ゲートの中に入った後、目をつむって右手を胸元にあてる。とくん、とくん…とライスの心臓の鼓動を感じれて…どこか安心する。
ゴールドシップさんとの特訓は、無駄じゃなかった。あのトレーニングの最中ずっと向けられていたゴールドシップさんのプレッシャー。それと比べて、この程度のプレッシャーは本当に…気が楽になる。
「うん…ライスは大丈夫。」
最後に、自分に向けたおまじない。酉川トレーナーさんが教えてくれた、魔法の言葉。
それを唱えるだけでライスはこのレースに勝ちたいっていう思いが強くなって、少しづつ勝てるかもという確信が強くなる。
「が、がんばるぞー、おー!」
小さな声で、小さなポーズでライス自信を応援し走り出すために体勢を整える。
「さあ、最後のウマ娘がゲートに入りまして…今スタートが切られました!おぉーっと!?ミホノブルボン勢いよく飛び出したっ!ミホノブルボンがハナを取り、レースが開始されました!!」
…酉川トレーナーが予想した通り、ライスを含めて先行をする人が5人。逃げがブルボンさん一人。差しと追い込みの人がたくさん…
まずは、一番近くにいる4番のウマ娘の背後を取り、風除けに使ってできるだけ体力を温存する。つかず離れず、慎重に距離を測り足音は
「さあ、レースの展開を見ていきましょう!先頭は1番ミホノブルボン、続いて15番コンバットヘブン、その右後ろに11番グローグルーム、その次6番ノーカウント、そして9番ライスシャワーこ―――ここに居た!?」
「じ、実況解説席でも注目するまで気づきませんでしたね…」
「ッ?!んなアホなっ!」
―――
ゴールドシップさんとのトレーニングでは、できるだけ足音を大きくしつつ、走る速さを落とさないトレーニングをしていたけれど、途中からそれを逆にして自分の情報を隠す技術を見つけて頑張って使い続けて、あのゴールドシップさんとマックイーンさんを驚かせたライスが思いついた技…実戦でも十分に使えるみたいだ。心の中で嬉しさをかみしめていると、前を走るえっと…ノーカウントさんは慌てて加速し始める。
どうやら、少しでもライスを引き離したいみたいだけれど…ライスだって黙って置いて行かれるほど弱くはない。あのマックイーンさんを驚かせたライスは、ダメな子じゃないんだ。
「クソっ、最悪だ…。ついてねぇ!ついてねぇよッ!!」
それでも、ライスは静かにノーカウントさんについていく。できるだけ、風除けになるように。できるだけ、前に行くように…。
「…おい、嘘だろ!?夢なら覚め―――っ!スタミナが、くそぉ…」
「おーっと!ノーカウントが
「かかってしまったようですね。冷静さを取り戻せなかったのが痛手ですが、ここからの巻き返しに期待しましょう!」
解説の人はああいってはいるけれど、ノーカウントさんが巻き返せることはない…と、思う。
自信はないが、デタラメなマックイーンさんの実力を肌と音で感じて、情報として扱えることができたのだ。
そしてそれがわかった時、ライスはマックイーンさんのレースの仕方を頭ではなく心で理解でき、試すことができた。
「さあ、波乱のあった序盤が終わりレースは中盤へ!」
「各ウマ娘の動きがどう動くか、正直私でも予想が付きませんね。」
中盤に入ったけれど、ライスはあの走法を使わない。ここだとまだ効果が薄い、そんな気がする。酉川トレーナーも、本番はライスにお任せって言っていたから問題はないと思うな…。
「ミホノブルボンが加速した!勝負を仕掛けたのでしょうか!?」
「いえ、どうやら
「さあ、そんなミホノブルボンに待ったをかける2人のウマ娘が加速する!ライスシャワーはグローグルームをマークしつつ追いかけています!!」
グローグルームさんがライスを一瞬だけ認識したらしく、メンコに覆い隠された耳が少しだけ動いて、ライスを置き去りにするようにスピードを上げた。
どうやら、ライスを認知したうえでライスを置き去りにしてブルボンさんに勝負を挑むみたいだ。それなら、勝負の席に無理やり座ってもらうしかない、よね。
[ドスッ]『魔法の招待状』
「「ッ!?」」
「…!」
「なっ、きゅ…急にコンバットヘブンとグローグルームが減速していく!!何があったのでしょうか!!」
「こ、故障…ではないようですが、何か軒並みならない表情ですね。」
…グローグルームさんだけじゃなく、コンバットヘブンさんもライスを
気持ちを切り替えて、ライスは笑顔を作ってみる。マックイーンさんについていったことでライスが見つけた一つの技。
「ッ、くそっ…振り払えないっ……負けてたまる―――なっ、脚がもう!?そんな、どうして!?」
「クソっ…なんなんだアイツ!?皐月賞で8着の落ちこぼれのはずなのにッ!!くそぉぅ…動けよアタシの脚ぃいいいッ!!」
「減速していく、コンバットヘブンとグローグルームを差し置いて、ライスシャワーがミホノブルボンに食らいつく!!」
もうすぐ第4コーナーだけど、ライスは落ち着いてブルボンさんをマークする。
できるだけ大きな足音を出しつつ、だんだんスピードを上げていく。大丈夫、あと少しで影を踏める。
「ライスシャワーさんの脅威度を修正。現在距離と自身の余力を再計算……このままでは追いつかれる?それなら…」
「嘘っ…?!」
だけど、だけどブルボンさんは再び加速する。招待状すら受け取らず、勝負をせずに走り抜けようとする。
こ、このままだと負け……そ、そんなの、認めたくない!
「しかし、知ったことかとミホノブルボンが加速する!さあ、レースは終盤、第4コーナーをカーブしてミホノブルボンがスタンド前に飛び込んできた!!ライスシャワーは遅れて飛び込んでくる!!」
「まだ、ついてきますか。なら―――
―――突き放します。」【G00 1st.F∞; mark.Ⅱ Lv.10】
はやっ―――
「ミホノブルボンがまた加速する!後方集団が第4コーナーを抜け、ライスシャワーは400mの位置!悠々自適な一人旅!!ミホノブルボン圧倒的な走りでいま、日本ダービーを勝利しました!昨年のトウカイテイオーと同じ無敗二冠!もはや、ミホノブルボンは止められない!!」
気付けば、ブルボンさんはゆっくり減速して観客席に向けて手を振っている。
丁寧に詰めても、あんなことをされたら……勝て―――
「大きく遅れてライスシャワーが2着、3着キマグレタビ、4着モコモコワンコ、5着イアイアセイラムの順番となりました確定までお待ちください!」
[ブルボン!ブルボン!!]
…遅れて聞こえてくるブルボンさんへのエール。ライスを応援してくれていた人たちですら、ブルボンさんの名前を呼んでいる。
「うっ…ううっ……」
「ちょっ…はぁ、はぁ…ちょっとあんた!なんなのあれ―――」
「そうだ!あれがなければアタシがブルボンを―――」
「うぇ~~~~ん!」
「「が、ガチ泣き!?」」
「ほ、ほら泣かないで!?あなたも十分頑張ったから!!」
「菊花賞!菊花賞があるからな!?おーよしよし、大丈夫だ大丈夫!!」
いつの間にか、ライスはコンバットヘブンさんとグローグルームさんに慰められていた。
「み つ け た 。」
観客席から向けられる、一つの感情に気付かないまま。
ちなみにこのお話の最終直線のミホブルのスピードは、
メグメグ>ゴルシ>[越られない壁]>(このループの)サクラバクシンオー>ミホノブルボン>メジロマックイーン(覚醒後)>ライスシャワー
の順になっております。
レースの上手さ順では
メジロマックイーン(天才レースメーカー)>ゴルシ(やる気がある日)>ライスシャワー(見習いレースメーカー)>メグメグ(慎重に計画したうえで試して経験を積む派)>[
です!
ちなみにライスちゃんの性格を十分表現できているのか不安です。